スカーレット、君は絶対に僕のもの
第103話 スカーレット
グレースさんに要らないショートブーツを貰った私は、家森先生に支えられながらベラ先生とタライさんと一緒に職員寮へとやってきた。今日からここで暮らすのか、ちょっと不思議な感じがする。
雪道をゆっくりと歩いて行き、屋根にこんもりと雪の積もっている桃色の建物の中に入ると、1階の通路でシュリントン先生一家が待ち構えていて、皆が私に熱いハグをしてくれた。マーガレットさんとソフィーは分かる。でもシュリントン先生までがそんなにも心配しててくれたんだとちょっと笑いをこらえた。
2階の家森先生の部屋の玄関にやっと着いたところで私と家森先生が振り返ると、ベラ先生とタライさんが手を繋いで立っているのを発見した。
ん?
「ん?」
「何や?どうしたん?」
何か変なことでもある?と言わんばかりにタライさんもベラ先生も首を傾げている。いやいやいや、ちょっと待ってよ。私は聞いた。
「手を繋いでる!仲良いじゃないですか!どうしたのタライさん……」
それを聞いた二人がバッと手を離してしまった。別にいいのに、私だって嬉しいのに。タライさんが照れ隠しなのか私の肩をベシッと叩いてきた。
「べ、別にいいやん!まああのイスレ山の一件からちょっとだけ仲良くなったよ。でも勘違いせんといてね、そういう関係ではないから。まあでも俺は別にベラ先生が望むのなら何だって「そうなのよ。そういう関係ではないけれど仲がいいだけ。人として仲がいいだけなの。高崎くんには悪いけれどそれしか私には出来なくて。」
ああ、ベラ先生が悲しげな目をしてしまった。それを見たタライさんは慌てながら彼女の背中をさすった。
「もう冗談やて!俺はそれでいいって言ったやんか。老夫婦みたいにのんびりした感じで過ごそ。」
ふふっとベラ先生が笑った。ああ、仲がよろしいようで。ふとどんな表情をしているのか気になって家森先生の方を見ると彼もニヤリとしながらベラ先生を見ていた。それに気づいたベラ先生が家森先生をどついた。
「ちょっと何ニヤニヤしてるのよ!全く、でも今日は本当にヒイロが帰ってきてくれて良かった。家森くん、ちゃんとヒイロを休ませなさいよ?」
「勿論ですとも。さあ帰りましょうか。ヒーたん」
「はい」
家森先生が玄関のドアを開けてくれて私は中に入った。
久しぶりに見るリビング……って言っても、私の中だと時の架け橋に溶け込んでから生還するまでの記憶が無いからサバイバルした3日間ぶりだったけど、それでも懐かしく感じた。
窓の外は雪が降っている。いつもと違う光景にまた時の流れを感じて少し切なくなった。
前と変わらないテーブルに椅子、でもその椅子には私が使ってた赤いリュックが置かれていた。そこはいつも私が座っていた席だった。いない間、ずっとこうしていてくれたんだ。
「すみません、少し散らかっていますね。」
確かに辺りを見渡せば珍しくも、リビングの床には脱ぎっぱなしのシャツやペンが散らばっていた。綺麗好きな家森先生が珍しい。
「ふふ、確かにちょっと散らかっている。それでも綺麗ですけど。」
「ふふ……あなたがいなくなって、僕はおかしくなりました。もう勝手に居なくならないで。例え世界が崩壊しようと構いません。」
振り返り家森先生の表情を見ると、眼鏡の奥の瞳に薄っすらと涙の膜が張っていた。
もしかしたらもう二度と会えないままだった。もしかしたらもう二度とこの声だって聞けないまま永久の無に飲まれていた。ああ、もう一度彼と会えて良かった。その奇跡が私には大きすぎる幸せで、私の目からも涙が溢れた。
私をきつく抱きしめてくれる温かさが、もっともっと欲しくて彼にしがみついた。
「スカーレット……愛してる。」
コク、コク、と頷くことしか出来ない。
「ずっとそばに居たい。そばに居て、愛情を注ぎたい。それであなたも幸せと感じてくれるのなら、これ以上の喜びは僕にはありません。」
そんなの幸せに決まっている。私だってそばに居たい。
「僕と………もう邪魔されませんね。ふふ。」
涙を流しながら私も少し笑って、何度も頷いた。
「あなたを全てのことから守ります。あなたを永久に想い続け、最期の時はあなたが怖くないように僕がずっと手を握ります……。」
想いの強すぎる言葉に、私は頬を伝う涙をそのままに、耳をすますことしか出来なかった。
「どうか、僕と結婚を……前提にお付き合いして頂けませんか?」
ふふっ、嬉しいからなのか笑ってしまった。でも目からはまた違う涙が出てきた。
彼が答えを待っている、ぎゅうとさらに強く抱きしめられて、私は涙声で答えた。
「……私も、クリードも……欧介さんを愛しています。だから、そばに置いて下さい。」
「ああ、僕だってあなたを愛している。クリードも大切に想っている。ずっとそばに居て下さい。いえ、もう離すものか。」
その言葉で、この体を奪ってやはり罪悪の心が残る私の重荷が少し軽くなった気がした。いつも私を大きな優しさで包んでくれる彼の胸に頬を寄せた。
そして家森先生が眼鏡を取って床に放り投げて、私の頭を両手で包んで、優しくキスをしてくれた。何度も、何度も。
おでこをくっつけたまま、彼のダークブラウンの瞳と目が合った。
「お腹空きました?」
「え?」
急に放たれた意外な方向の質問に私の頭は一瞬思考が停止した。
しかし彼はいたって真剣な表情だった。応える為に、私は首を振った。
「い、いえ……保存してたイノシシモンスターの肉を今日もたらふく食べて来たので。」
「では一緒にお風呂に入りましょう。」
え?
「いや……ちょっとそれは。え?でもこんなに汚れているし。」
彼がちょっと離れて、ムッとした表情で見てきた。
「洗って差し上げます。それに僕たちは恋人同士ですよ?それぐらいします。」
そ、そうなんだ……まあそういう知識は私にはないので従うしかない。それよりも聞きたいことがある。
「良いですけど……それって元カノさんともしたの?」
「してません。僕、実は潔癖なので。でもあなたは別です。もう片時も離れたくない。ですから一緒にお風呂に入りましょう。それにその脚です、不便でしょうから僕が体を洗います。」
それはありがたいお話だ。でももう一点気になることがある。
「一緒に入るんですよね?ってことはいいんですか?欧介さんもその……お裸になるのですぞ?」
家森先生は、ふふと笑いながら私の背中を押してお風呂場の方へ向かい始めた。
「何ですかその口調は。ふふ、僕の裸を見たくはありませんか?」
それは見たい。
「見たい、見たい。」
「ふふ……さあ入りましょう。そして愛し合いたい。」
後半ボソッと囁くように彼が話したので聞き取れなかった私は首を傾げた。
「え?何か言いました?」
「いえ。特に。」
雪道をゆっくりと歩いて行き、屋根にこんもりと雪の積もっている桃色の建物の中に入ると、1階の通路でシュリントン先生一家が待ち構えていて、皆が私に熱いハグをしてくれた。マーガレットさんとソフィーは分かる。でもシュリントン先生までがそんなにも心配しててくれたんだとちょっと笑いをこらえた。
2階の家森先生の部屋の玄関にやっと着いたところで私と家森先生が振り返ると、ベラ先生とタライさんが手を繋いで立っているのを発見した。
ん?
「ん?」
「何や?どうしたん?」
何か変なことでもある?と言わんばかりにタライさんもベラ先生も首を傾げている。いやいやいや、ちょっと待ってよ。私は聞いた。
「手を繋いでる!仲良いじゃないですか!どうしたのタライさん……」
それを聞いた二人がバッと手を離してしまった。別にいいのに、私だって嬉しいのに。タライさんが照れ隠しなのか私の肩をベシッと叩いてきた。
「べ、別にいいやん!まああのイスレ山の一件からちょっとだけ仲良くなったよ。でも勘違いせんといてね、そういう関係ではないから。まあでも俺は別にベラ先生が望むのなら何だって「そうなのよ。そういう関係ではないけれど仲がいいだけ。人として仲がいいだけなの。高崎くんには悪いけれどそれしか私には出来なくて。」
ああ、ベラ先生が悲しげな目をしてしまった。それを見たタライさんは慌てながら彼女の背中をさすった。
「もう冗談やて!俺はそれでいいって言ったやんか。老夫婦みたいにのんびりした感じで過ごそ。」
ふふっとベラ先生が笑った。ああ、仲がよろしいようで。ふとどんな表情をしているのか気になって家森先生の方を見ると彼もニヤリとしながらベラ先生を見ていた。それに気づいたベラ先生が家森先生をどついた。
「ちょっと何ニヤニヤしてるのよ!全く、でも今日は本当にヒイロが帰ってきてくれて良かった。家森くん、ちゃんとヒイロを休ませなさいよ?」
「勿論ですとも。さあ帰りましょうか。ヒーたん」
「はい」
家森先生が玄関のドアを開けてくれて私は中に入った。
久しぶりに見るリビング……って言っても、私の中だと時の架け橋に溶け込んでから生還するまでの記憶が無いからサバイバルした3日間ぶりだったけど、それでも懐かしく感じた。
窓の外は雪が降っている。いつもと違う光景にまた時の流れを感じて少し切なくなった。
前と変わらないテーブルに椅子、でもその椅子には私が使ってた赤いリュックが置かれていた。そこはいつも私が座っていた席だった。いない間、ずっとこうしていてくれたんだ。
「すみません、少し散らかっていますね。」
確かに辺りを見渡せば珍しくも、リビングの床には脱ぎっぱなしのシャツやペンが散らばっていた。綺麗好きな家森先生が珍しい。
「ふふ、確かにちょっと散らかっている。それでも綺麗ですけど。」
「ふふ……あなたがいなくなって、僕はおかしくなりました。もう勝手に居なくならないで。例え世界が崩壊しようと構いません。」
振り返り家森先生の表情を見ると、眼鏡の奥の瞳に薄っすらと涙の膜が張っていた。
もしかしたらもう二度と会えないままだった。もしかしたらもう二度とこの声だって聞けないまま永久の無に飲まれていた。ああ、もう一度彼と会えて良かった。その奇跡が私には大きすぎる幸せで、私の目からも涙が溢れた。
私をきつく抱きしめてくれる温かさが、もっともっと欲しくて彼にしがみついた。
「スカーレット……愛してる。」
コク、コク、と頷くことしか出来ない。
「ずっとそばに居たい。そばに居て、愛情を注ぎたい。それであなたも幸せと感じてくれるのなら、これ以上の喜びは僕にはありません。」
そんなの幸せに決まっている。私だってそばに居たい。
「僕と………もう邪魔されませんね。ふふ。」
涙を流しながら私も少し笑って、何度も頷いた。
「あなたを全てのことから守ります。あなたを永久に想い続け、最期の時はあなたが怖くないように僕がずっと手を握ります……。」
想いの強すぎる言葉に、私は頬を伝う涙をそのままに、耳をすますことしか出来なかった。
「どうか、僕と結婚を……前提にお付き合いして頂けませんか?」
ふふっ、嬉しいからなのか笑ってしまった。でも目からはまた違う涙が出てきた。
彼が答えを待っている、ぎゅうとさらに強く抱きしめられて、私は涙声で答えた。
「……私も、クリードも……欧介さんを愛しています。だから、そばに置いて下さい。」
「ああ、僕だってあなたを愛している。クリードも大切に想っている。ずっとそばに居て下さい。いえ、もう離すものか。」
その言葉で、この体を奪ってやはり罪悪の心が残る私の重荷が少し軽くなった気がした。いつも私を大きな優しさで包んでくれる彼の胸に頬を寄せた。
そして家森先生が眼鏡を取って床に放り投げて、私の頭を両手で包んで、優しくキスをしてくれた。何度も、何度も。
おでこをくっつけたまま、彼のダークブラウンの瞳と目が合った。
「お腹空きました?」
「え?」
急に放たれた意外な方向の質問に私の頭は一瞬思考が停止した。
しかし彼はいたって真剣な表情だった。応える為に、私は首を振った。
「い、いえ……保存してたイノシシモンスターの肉を今日もたらふく食べて来たので。」
「では一緒にお風呂に入りましょう。」
え?
「いや……ちょっとそれは。え?でもこんなに汚れているし。」
彼がちょっと離れて、ムッとした表情で見てきた。
「洗って差し上げます。それに僕たちは恋人同士ですよ?それぐらいします。」
そ、そうなんだ……まあそういう知識は私にはないので従うしかない。それよりも聞きたいことがある。
「良いですけど……それって元カノさんともしたの?」
「してません。僕、実は潔癖なので。でもあなたは別です。もう片時も離れたくない。ですから一緒にお風呂に入りましょう。それにその脚です、不便でしょうから僕が体を洗います。」
それはありがたいお話だ。でももう一点気になることがある。
「一緒に入るんですよね?ってことはいいんですか?欧介さんもその……お裸になるのですぞ?」
家森先生は、ふふと笑いながら私の背中を押してお風呂場の方へ向かい始めた。
「何ですかその口調は。ふふ、僕の裸を見たくはありませんか?」
それは見たい。
「見たい、見たい。」
「ふふ……さあ入りましょう。そして愛し合いたい。」
後半ボソッと囁くように彼が話したので聞き取れなかった私は首を傾げた。
「え?何か言いました?」
「いえ。特に。」
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