スカーレット、君は絶対に僕のもの
第102話 懐かしい
窓の外にはさっきよりも多く雪が降り始めている。椅子に座る家森先生の膝の上に彼と向かい合った姿勢で座りながら、ひらひらと舞い散る綺麗なものを眺めていた。そしてその体勢のまま、ウェイン先生とグレースさんが私の足の擦り傷に包帯を巻いてくれていて、家森先生はただ私を抱きしめている。
知らない間にこんなにも時が流れていたとは。
どれほどの思いを家森先生はしたのだろうか、もし私が家森先生の立場だったらこの約半年間どう生きてきただろうか、想像することすら怖くてぎゅうと家森先生の背中に力を入れた。
懐かしい彼の甘い匂い、私に着せてくれたウールのコートからは彼の部屋の匂いがした。それは彼がいつも使っている洗剤の匂いで、これもまた心地いい匂いだ。
「それで、ヒイロはいつ生還したの?」
ウェイン先生の机に寄りかかって携帯を操作していたベラ先生が、その携帯を黒いコートのポケットに入れながら聞いてきた。家森先生も私の話を聞こうとハグを少しやめた。私は天井を見上げ、思い出しながら答えた。
「3日前です。」
「え!?それでどこにいたのですか!?」
モンスターの血で固まっている私の髪の毛を撫でてくれながら家森先生が聞いてきた。もう肌も髪も汚いからあまり触らないでほしい……出来ればひとシャワー浴びてからこうしたかった。
「……分からないです。でもイスレ山ではなかった。ふと気づけば雪が積もる森の中にいたのですけど、全裸だし何も持っていなくて。でも、どうにか生きていかないとと思って……森の中、冷たい雪の上を歩いているとイノシシっぽいモンスターが居たので、挑発しました。」
「寒かったでしょうに……でもなぜ挑発?」
ベラ先生の質問に答えた。
「遠くからじゃ炎の球だとコントロール悪くて当たらない。でもドロシーさんが言う通り私は爆発タイプだから、こっちまで来てくれれば一気にかたつけられると思って。それでイノシシモンスターがこっちに向かって来た時にタイミングよく爆発してやっつけて……皮を奪って被ってきた。」
「すご……ワイルドだな。ヒイロ。はは。」
ウェイン先生が引いてる。ついでにグレースさんも引いてる。でも仕方ないじゃん!寒かったしお腹だって空いてた。私は続きを話した。
「……それから半日ぐらいかけてその森を抜けると、今度は真っ白な雪景色のブラウンプラントが見えた。勿論その高台には学園が見えたので、まっすぐ向かって歩いてきたけど……ブラウンプラントって結構広かった。」
「当たり前です。となるとヒイロは渓谷近くの森に何らかの影響で生還したのでしょう。ああ……空に大きな炎の球でも放ってくれれば、すぐに迎えに行ったと言うのに!」
家森先生がまたギュって抱きしめてきた。まあ確かにそうだったねその手があったよ……辿り着く事しか考えられずにひたすら歩いて来ちゃったけど。
そして足元で作業しているウェイン先生が顔をしかめながら言った。
「ちょ、ちょっと家森先輩、包帯巻いてるんで、もう少しヒイロから離れてくださいよ。」
「……このままでも出来るでしょう?僕だったら出来ますよ。」
下唇を突き出したウェイン先生が作業を続行したのを見て、ベラ先生とグレースさんが笑った。
その時、医務室の扉ががらっと開いてタライさんとリュウが入って来たのだった。タライさんは私を見ると目を見開いて突撃して来た。私も目を見開いて立ち上がった。
だってタライさん生きてる!
「タライさん!生きてる!!」
タライさんは私のことをハグしてきた。その後ろからリュウもハグしてきた。
「当たり前やろが!俺は不死身じゃ!あんたも不死身だったみたいやけどね……あああ!もう、もうあかんぞ?もう自分の身を犠牲にする真似などすんなよ!?」
ああ懐かしいこのタバコの匂い。私は笑顔で何度も頷いた。涙目のリュウと目が合った。
「……寂しかった。でも今この瞬間まで、俺はこの世界の何処かにヒイロがいるってずっと信じてた。また会えてよかったよ、ヒイロ。」
「なんやイケメンみたいなセリフやな!」
タライさんのツッコミが面白くて皆で笑った。ゲフンと咳払いしたウェイン先生の方を見ると、私が立ち上がったことが原因で作業が進んでいなかったらしく、また座るように指を下に向けたので、私はまた家森先生のお膝に座った。
「でもどうしてヒイロはいきなりその森に現れたのかしら?」
「クイーンに何が起きたのか聞いてみます。」
ベラ先生の問いを聞いた家森先生が携帯を触り始め、私はその画面を覗いた。
家森先生の携帯の待ち受け画面がお揃いの無属性の写真のままだった。私が居なくなったのにずっとその待受を使っててくれたんだと胸がキュンと痛む感じがした。
ん?あれ?ちょっと待って。秋穂さんは地上で暮らしているからこの携帯からでは連絡付かないのでは?
「え?地上で暮らしているのではないの?」
「いえ、父が健康になったのと時の架け橋の件もあり、今は街で暮らしています。」
そうだったんだ、和豊さん健康になったんだ。良かった。それにしても皆がじっと私を見つめてくる。包帯巻き終わったウェイン先生も立ち上がって見てくる。
「な、なに……?」
戸惑う私に、ベラ先生が微笑みながら言った。
「お帰りなさいと思っていたのよ。皆もそうでしょう?」
皆がウンウン頷いている中、タライさんだけは首を振った。
「俺は違う。何で全裸で家森先生のコート着てるんやろと思ってた。あとヒーたん、ちょっと獣くさいぞ。」
「しょうがないじゃないですか!サバイバル生活開始してから、あれしか着るのなかったんですよ!」
私は叫びながら医務室の端っこにグチャと置かれているイノシシモンスターの毛皮を指差した。タライさん達はそれを見ると理由が分かったようで何度も頷いた。
「ああ、どうやら」
携帯の画面を見ながら家森先生が話し始めたので、皆と一緒に家森先生を見た。
「時の架け橋のストッパーを再合成したらしいです。」
「ええ!?そんなこと出来るのかしら!?」
ベラ先生が激しく反応して家森先生の携帯画面を覗いてきた。そっか、魔工学の先生だからかなり興味あるらしい。
「ええ。深淵の地にある時の回廊のストッパーと差し替えたようです。しかしまあ難しい作業だったようでこれだけ時間がかかったとの事です。再合成したのものの、時の架け橋にはヒイロは現れなかった。もしや何処か別の場所に落ちたのか、イスレ山付近を衛兵達と探したようですが見つからなかった。そして、実験は失敗に終わったんだと思っていたようです。しかしあなたが生還したことを知り、彼女も喜んでいます。ヒーたん、良ければ彼女に返してあげて。」
「え?あ、はい……。」
私は家森先生の携帯を手に取った。
____________
ヒイロです!
ありがとうございます。
秋穂さんとみなさんの
おかげです。
家森
____________
送信するとすぐに返事がきた。
____________
お帰りなさいヒイロ。
遅れてごめんなさい。
早く会いたい。
家森秋穂
____________
なんかちょっと家森先生に似てる……にやけながら家森先生に携帯を返すと、家森先生はその文面を見てちょっと恥ずかしそうな苦い顔をした。それが面白くて皆で笑っているとタライさんが大きな声で言った。
「そういやずっと歩いてきたんやろ?もう体もぐちゃぐちゃやし、一回シャワーでも浴びたらどう?」
「確かにそうしたいです!包帯巻いちゃったけど。」
ウェイン先生が頭をガシガシかきながら言った。
「ああまあ、シャワーだったらいいさ。これ明日までそのままにしといてくれよな。明日になったらまた俺が「僕が診ます。」
……平常運転の家森先生に少し安心した。そして一旦自分の部屋に戻ろ……あ。
「私の部屋ってまだありますか?」
その言葉を聞いたベラ先生が苦い顔をした。
「ない……ごめんなさい、もうクリーニングかけてしまったわ。でもあなたが持ってた私物は家森くんが持ってる、のよね?」
「ええ。全て保管してあります。それにもういいでしょう、僕の部屋に来ればいい。毎日お湯にだって浸かれます。」
確かにそれはいい!私がテンション上がって両手の拳を天に突き上げると、家森先生も皆も微笑んでくれた。
知らない間にこんなにも時が流れていたとは。
どれほどの思いを家森先生はしたのだろうか、もし私が家森先生の立場だったらこの約半年間どう生きてきただろうか、想像することすら怖くてぎゅうと家森先生の背中に力を入れた。
懐かしい彼の甘い匂い、私に着せてくれたウールのコートからは彼の部屋の匂いがした。それは彼がいつも使っている洗剤の匂いで、これもまた心地いい匂いだ。
「それで、ヒイロはいつ生還したの?」
ウェイン先生の机に寄りかかって携帯を操作していたベラ先生が、その携帯を黒いコートのポケットに入れながら聞いてきた。家森先生も私の話を聞こうとハグを少しやめた。私は天井を見上げ、思い出しながら答えた。
「3日前です。」
「え!?それでどこにいたのですか!?」
モンスターの血で固まっている私の髪の毛を撫でてくれながら家森先生が聞いてきた。もう肌も髪も汚いからあまり触らないでほしい……出来ればひとシャワー浴びてからこうしたかった。
「……分からないです。でもイスレ山ではなかった。ふと気づけば雪が積もる森の中にいたのですけど、全裸だし何も持っていなくて。でも、どうにか生きていかないとと思って……森の中、冷たい雪の上を歩いているとイノシシっぽいモンスターが居たので、挑発しました。」
「寒かったでしょうに……でもなぜ挑発?」
ベラ先生の質問に答えた。
「遠くからじゃ炎の球だとコントロール悪くて当たらない。でもドロシーさんが言う通り私は爆発タイプだから、こっちまで来てくれれば一気にかたつけられると思って。それでイノシシモンスターがこっちに向かって来た時にタイミングよく爆発してやっつけて……皮を奪って被ってきた。」
「すご……ワイルドだな。ヒイロ。はは。」
ウェイン先生が引いてる。ついでにグレースさんも引いてる。でも仕方ないじゃん!寒かったしお腹だって空いてた。私は続きを話した。
「……それから半日ぐらいかけてその森を抜けると、今度は真っ白な雪景色のブラウンプラントが見えた。勿論その高台には学園が見えたので、まっすぐ向かって歩いてきたけど……ブラウンプラントって結構広かった。」
「当たり前です。となるとヒイロは渓谷近くの森に何らかの影響で生還したのでしょう。ああ……空に大きな炎の球でも放ってくれれば、すぐに迎えに行ったと言うのに!」
家森先生がまたギュって抱きしめてきた。まあ確かにそうだったねその手があったよ……辿り着く事しか考えられずにひたすら歩いて来ちゃったけど。
そして足元で作業しているウェイン先生が顔をしかめながら言った。
「ちょ、ちょっと家森先輩、包帯巻いてるんで、もう少しヒイロから離れてくださいよ。」
「……このままでも出来るでしょう?僕だったら出来ますよ。」
下唇を突き出したウェイン先生が作業を続行したのを見て、ベラ先生とグレースさんが笑った。
その時、医務室の扉ががらっと開いてタライさんとリュウが入って来たのだった。タライさんは私を見ると目を見開いて突撃して来た。私も目を見開いて立ち上がった。
だってタライさん生きてる!
「タライさん!生きてる!!」
タライさんは私のことをハグしてきた。その後ろからリュウもハグしてきた。
「当たり前やろが!俺は不死身じゃ!あんたも不死身だったみたいやけどね……あああ!もう、もうあかんぞ?もう自分の身を犠牲にする真似などすんなよ!?」
ああ懐かしいこのタバコの匂い。私は笑顔で何度も頷いた。涙目のリュウと目が合った。
「……寂しかった。でも今この瞬間まで、俺はこの世界の何処かにヒイロがいるってずっと信じてた。また会えてよかったよ、ヒイロ。」
「なんやイケメンみたいなセリフやな!」
タライさんのツッコミが面白くて皆で笑った。ゲフンと咳払いしたウェイン先生の方を見ると、私が立ち上がったことが原因で作業が進んでいなかったらしく、また座るように指を下に向けたので、私はまた家森先生のお膝に座った。
「でもどうしてヒイロはいきなりその森に現れたのかしら?」
「クイーンに何が起きたのか聞いてみます。」
ベラ先生の問いを聞いた家森先生が携帯を触り始め、私はその画面を覗いた。
家森先生の携帯の待ち受け画面がお揃いの無属性の写真のままだった。私が居なくなったのにずっとその待受を使っててくれたんだと胸がキュンと痛む感じがした。
ん?あれ?ちょっと待って。秋穂さんは地上で暮らしているからこの携帯からでは連絡付かないのでは?
「え?地上で暮らしているのではないの?」
「いえ、父が健康になったのと時の架け橋の件もあり、今は街で暮らしています。」
そうだったんだ、和豊さん健康になったんだ。良かった。それにしても皆がじっと私を見つめてくる。包帯巻き終わったウェイン先生も立ち上がって見てくる。
「な、なに……?」
戸惑う私に、ベラ先生が微笑みながら言った。
「お帰りなさいと思っていたのよ。皆もそうでしょう?」
皆がウンウン頷いている中、タライさんだけは首を振った。
「俺は違う。何で全裸で家森先生のコート着てるんやろと思ってた。あとヒーたん、ちょっと獣くさいぞ。」
「しょうがないじゃないですか!サバイバル生活開始してから、あれしか着るのなかったんですよ!」
私は叫びながら医務室の端っこにグチャと置かれているイノシシモンスターの毛皮を指差した。タライさん達はそれを見ると理由が分かったようで何度も頷いた。
「ああ、どうやら」
携帯の画面を見ながら家森先生が話し始めたので、皆と一緒に家森先生を見た。
「時の架け橋のストッパーを再合成したらしいです。」
「ええ!?そんなこと出来るのかしら!?」
ベラ先生が激しく反応して家森先生の携帯画面を覗いてきた。そっか、魔工学の先生だからかなり興味あるらしい。
「ええ。深淵の地にある時の回廊のストッパーと差し替えたようです。しかしまあ難しい作業だったようでこれだけ時間がかかったとの事です。再合成したのものの、時の架け橋にはヒイロは現れなかった。もしや何処か別の場所に落ちたのか、イスレ山付近を衛兵達と探したようですが見つからなかった。そして、実験は失敗に終わったんだと思っていたようです。しかしあなたが生還したことを知り、彼女も喜んでいます。ヒーたん、良ければ彼女に返してあげて。」
「え?あ、はい……。」
私は家森先生の携帯を手に取った。
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ヒイロです!
ありがとうございます。
秋穂さんとみなさんの
おかげです。
家森
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送信するとすぐに返事がきた。
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お帰りなさいヒイロ。
遅れてごめんなさい。
早く会いたい。
家森秋穂
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なんかちょっと家森先生に似てる……にやけながら家森先生に携帯を返すと、家森先生はその文面を見てちょっと恥ずかしそうな苦い顔をした。それが面白くて皆で笑っているとタライさんが大きな声で言った。
「そういやずっと歩いてきたんやろ?もう体もぐちゃぐちゃやし、一回シャワーでも浴びたらどう?」
「確かにそうしたいです!包帯巻いちゃったけど。」
ウェイン先生が頭をガシガシかきながら言った。
「ああまあ、シャワーだったらいいさ。これ明日までそのままにしといてくれよな。明日になったらまた俺が「僕が診ます。」
……平常運転の家森先生に少し安心した。そして一旦自分の部屋に戻ろ……あ。
「私の部屋ってまだありますか?」
その言葉を聞いたベラ先生が苦い顔をした。
「ない……ごめんなさい、もうクリーニングかけてしまったわ。でもあなたが持ってた私物は家森くんが持ってる、のよね?」
「ええ。全て保管してあります。それにもういいでしょう、僕の部屋に来ればいい。毎日お湯にだって浸かれます。」
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