スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

第89話 怒る人

明日から夏休みだ。今週に入ってからの授業はテストが終わったからか自由な雰囲気が漂い始め、自習が多くなっていった。

そして今日は前期最終日で金曜なので実戦の授業なのだけど、胃が痛い。

そうなのだ、この授業はいつも同じグループで行動しなければいけない。私のグループと言えば、ジョンとエレンと……マリーなのだ。家森先生の一件があってからと言うものの、彼女は私と少しも話そうとしてくれなくなった。ああ、胃が痛い。

別にマリーは何もしてこないけれど、ただ胃が痛い。この金曜が一番辛い。相変わらず家森先生は女子に囲まれてるし、私はマリーにずっと親の仇の如く睨まれるし……。

そんな彼女に、昨日も木曜だったから家森先生の部屋にお泊りしましたなんて言えるだろうか。むしろこの場で言ってみたらどうなるかやってみようか、なんて投げやりなこと考えたらダメだ。まだ生きたい。

そして最悪のチームワークで何とか前期最後の授業を乗り切った。その授業が終わり、その場で全体集会を開いてシュリントン先生の挨拶を聞き終わるともう、夏休みが始まった。

生徒の皆はワイワイ騒ぎながらその場でサッカーして遊ぶ者や、一目散に寮へ帰っていく者もいた。ベラ先生はグリーンクラスの皆にはしゃぎすぎて怪我しない様にね、とそれだけ言うと足早に校舎の方へ消えて行ってしまった。

ああ……人生初の夏休みだ。この胃の痛い授業から解放された喜びと、夏休みが始まった喜びとが一気に襲ってきて私はご機嫌全開のモードで青空に向かってんー!と体を伸ばした。

寮へ戻る前に少し家森先生の姿が見たくなって校庭を見渡すと、離れたところで女生徒に囲まれてまた質問責めにあっていたのが見えた。するとその中の一人の女性がぐるりと体を回してこちらに振り返った。それはマリーだった。

目が合ってしまった。更にマリーはまるで未来から襲ってきたサイボーグの様に威厳のある佇まいでまっすぐに私の方へ向かって歩いてきたのだ。私は気づかないふりしてグリーン寮へ逃げようと小走で寮へ向かった。

早くしないと追いつかれる!早く動け!わが足よ!

「ねえヒイロ」

「ウワアア!」

ビクッとしちゃった。私の腕をガシッと掴んだマリーが超睨んでくる。意外にも彼女の足が速かった。これはミスった……もう少し本気で逃げればよかった。

マリーは気になったのか一度家森先生の方を振り返ってから、家森先生が女生徒と話し込んでいてこちらを見ていない事が分かると、口元に手を当てて小声で話し始めた。ジリジリと焼き付けるような日差しの下で何を話すのだろうか。

「ちょっと、前々から言いたかったんだけれど、どうして私との約束を家森先生に話したのよ!卑怯じゃないの!」

「そ、そうは言われても……なんていうか。グレッグ達もタライさんも……みんな私の部屋に来てさ、なんていうか……言わないと分かってもらえない状況だったから。私だって内緒にしようと思ってたけど……ごめん。」

マリーはふん!とため息をついてその辺の石ころを思いっきり蹴った。こわっ。

「家森先生はあなたに気があるようだけれど、大体あなたはどうなのよ。家森先生のこと好きなの!?」

どうしよう……何度もその辺の石ころを蹴っているマリーが超怖いけど、ちゃんと言わないと仕方ない気もする。彼女にはライバルだと思われたくないけど、事実は伝えておいたほうが後々ゴタゴタしないと思った……もう遅いかもしれないけどね。

「……はい。実は家森先生が好きです。」

「ええ?それはいつからなの?それとどれくらい彼を想っているの?」

「どれくらい?……うーん。難しいけど、たくさん好き。ちょっと前から好き。」

「はあ……これは先月の話だけど、私の部屋に家森先生が来たの。」

ああ、それは知ってるよ……。そのことを話すのかなやっぱり。暑いし胃が痛いからもう帰りたいんですけども。

「急に来て、あなたのことが好きだと行って帰ったわ。でも聞いてヒイロ、これは酷かなと思って言ってなかったけれど、あなた顔や品性以外にも、彼と釣り合わない部分があるのよ?」

「そうなの?」

品性はわかるけど……顔も分かるけど。他に何が釣り合わないの?マリーは私を睨んだまま言った。

「彼はこの世界の次期最高責任者よ。分かる?」

……ああ、へえそうなんだ。まあ秋穂さんの息子さんなのだからそうなのかな?でもだからって何なの?あまり興味ない話題に、ちょっと鼻くそでもほじりたくなったが我慢した。やっぱ品性は釣り合ってないわ。

「……へえ、それは今知ったよ。でも私はそれで彼が好きなんじゃないよ?」

「私だってそうよ!?勘違いしないでちょうだい!?」

マリーの怒声が校庭に響いた。それに気づいたのか、家森先生と取り巻き達もこちらをじっと見ている……それに気づいたマリーは少し恥ずかしそうな表情をしてから私の方を再び向いて、声控えめに話し始めた。

「……とにかく、プリンスである彼があなたと街を歩くとイメージが悪いのよ?」

「どうして?」

「だってこんな妙な髪色してる人いないもの。」

ぎゅっと髪の毛を引っ張られた。

「イッテェ!」

何しやがる!私はマリーを少し睨んだ。

「ほらその反応、まさしくグリーンクラスの人間ね!記憶喪失って言うけれど、まだ家族のことすらも思い出せないんでしょう?」

「まあそうだけど?」

「その家族にもしも犯罪者がいたらどうするの?それでも彼と一緒にいれる?そんなこと無理でしょう……あなたといると彼のイメージが悪くなるの。だから彼の為にも諦めて。」

そんなこと言われても……もう大切な人だって言われたもん。でもマリーの言いたいことは分かる。彼がこの世界のプリンスだってことは事実なんだろうけど、家森先生はもっとお嬢様のような人といたほうがいいのかもしれないけど、でも……秋穂さんだって応援してくれてるはずだし。一緒にいても、今のとこは別に何も問題無いと思うんだけど。

「諦めてって言われても……別に、結婚するわけじゃないんだから一緒にいるぐらいはいいんじゃないの?」

マリーがはぁ!?という表情をした。あ、火にガソリン注いじゃったかも。

「あなた本当にばかね!よくこんな人間を好きになれるものだわ!いい?私は家森先生のことを別になんとも思ってないので、もう私のことを考えないでちょうだいって彼に言って!」

「ええ!?なんで!?」

はあ!とイライラした様子でマリーがため息をついた。

「とにかく!そう言ってちょうだい!今すぐ!ほら!」

「え!?今!?え!?」

マリーが私の腕を引っ張って取り巻き達と家森先生の方へ向かって歩き始めた。え?まじでこの場でもう絶交しないといけないの?……嫌だ!そんなのヤダ!家森先生の甘い表情もっと見たい!家森先生にもっと甘えられたい!家森先生のお仕置きだって受けたいんだ!変態でいいから!

バッと私はマリーの腕を振り払った。私のプチ反抗が予想外だったのか、彼女は私の事を驚いた表情で見てきた。

「ヤダ!家森先生にバイバイなんか言わないもん!」

私の叫びが校庭に響き渡った。

「何を!子どもみたいなこと言わないでちょうだい!くるのよ!」

「ヤダー!」

掴もうとしてくるマリーを必死に避けて、私はグリーン寮へ向かって走り逃げ始めた。

ウワアア!後ろから追ってくる足音がする!やばい!でもグリーン寮は校庭のすぐ近く。入り口にはグレッグとかリュウとかその辺がたむろっててきっと助けてくれる!そこまで走れば

ガシッ

「わああああ!」

「うるさいわね!」

足はやっ!いや私が遅いんだ……それは知ってる。いつも転ぶし、運動神経は最悪なの知ってる。もうどんだけ腕を動かしてもマリーの手が取れない。このサイコめ!

「わああああ!わああああ!」

「うるっさいわね!事実を受け入れなさい!家森先生とバイバイするのよ!」

私の言葉に合わせて言ってくれるところに多少マリーの優しさを感じるが、それを差し引いてもまだ彼女のことをサイコだと思う。もう顔が鬼のように歪んでいるし、怒りで目がギラギラしてて怖い。もうこの命令を受けないといけないのか、いや、受けたら受けたで家森先生が怖い!もう彼とは一緒にいると約束したのだから……あああ!

そうだ、そうだ!確認しよう。

「ま、マリーはどうして家森先生のことが好きなの?それだけ教えてよ!」

「ええ?そんなのこの世界で私に釣り合う男は彼しかいないからに決まってるでしょう!?おバカさんね!」

すげぇ……もう想像の斜め上をいく発言ばかりするわこの人。腕を掴む彼女の手を痛くならないように優しめに掴んで私から離そうとしたが、彼女は更に力を入れて私を引きずり始めた。ああ、もう手加減なんかしなきゃ良かった。

「誰が僕とバイバイすると?」

あああ!?来た!来た!お助けあれ〜〜!

すぐ近くに来ていた家森先生にマリーが驚いて怯んでいる隙に、私はちょっと彼女から距離を置いた。取り巻き達も来ているし、ふと周りを見るとタライさんをはじめとした連中がサッカーするのをやめて、なんだなんだとこちらを見ているのがわかった。

「家森先生……!」

「マリー、ヒイロに何か言いましたね?」

ギュンとマリーと家森先生が同時に私を見た。マリーは何も言うなという視線を向けていて、家森先生は本当のことを言えという視線を向けている。この二人のうち、どちらの命令を聞くかと言えば答えは明確。私のご主人様のいうことを聞くに決まってる。

「言われました。マリーが家森先生とバイバイしろって言いました。」

「はあっ!?何デタラメ言ってるのよ!」

マリーの怒号に取り巻き達が怯えたのか、少し離れた場所へ移動し始めた。きっとマリーが怖いんだろうね。その気持ち超わかるよ。

「それが本当ならマリーは僕の言ったことを守らなかったということになります。どうなのですマリー、本当は先程ヒイロに僕とバイバイしろと言ったのでしょう?先から僕が少しづつ近づいていたのを分かっていないようですが、実はあなた達が時折大声で叫ぶのでチラチラと話の内容が聞こえていました。」

なんで、聞かれたくない話を本人がいる場所でするのか……って同じ校庭でも、さっき家森先生がいた場所から我々が居た場所までは結構距離あったので、叫び声だったとしても普通はあまり聞こえないはずだけど。

「家森先生、本当に聞いていたのでしょうか?」

疑うマリーの質問に家森先生は頷いた。

「実は僕、耳はいいのでチラリと聞こえました。あとそうですね、ヒイロの表情で大体分かります。」

え!?まあ確かにかなり困惑した表情をマリーに向けていたのかもしれないけど……。黙っているマリーのそばにリサが心配な様子で近寄ってきて、彼女はすぐに私のことを睨んでくれた。もうみんな私を睨むのね。

そして観念したのか、マリーは大きなため息を吐いてから自分の考えを述べ始めた。

「もう本心をお伝えします。皆さんが知っている通りに私は家森先生のことを慕っております。だからと言ってヒイロのことを邪魔していい理由にはならないのことは十分存じていますわ。もし……家森先生のお相手がリサであれば私は何も言いませんの。」

は?何で?何それ。

それが意外だったのかリサも、いつもの無表情のまま首を傾げている。それを聞いた家森先生が腕を組んで、厳しい表情をしながらマリーに聞いた。

「ならば何故、ヒイロではいけないのです?」

「ヒイロは……素性の知れない、何処の馬の骨かも分からない人間です。髪の毛も真っ赤で人間離れしていますし、背だって女性の中では大きい方、まるでうどの大木です。」

そんなに言う!?めっちゃディスってくるんですけど……逆にここまで言われると面白くてニヤリと笑いを漏らすとマリーにちょっと引かれた。

「ほら今だって自分の悪口を言われているのにも関わらず、にやけたりして全くとち狂っていますわ。こんな女性のどこがいいのです?ならばリサの様に、実家がセレブ街にあって教養もある女性が、私の代わりに家森先生のパートナーになると言うことでしたら納得出来ると思ったまでです。ヒイロ、あなたは私たちよりもどこが優れてるの?魔法だってろくにコントロール出来ないじゃないの。それを出来損ないって言うのよ?恥ずかしくないの?」

「おい!さっきから何や!あまり調子乗んなやゴラ!」

聞いていたのかそばに立って居たタライさんがマリーを睨んで大きな声で言った。彼の周りにはタライフレンズも居て、可哀想な目で私のことを見てきてくれた。あまり皆を巻き込みたくないのにもう……どうしよ。

「ほうら、お友達だって野蛮じゃないの!まあ彼は私の専攻の先輩でもありますけれど。兎に角、私が言いたいのは家森先生はもっと華やかで可憐な女性と付き合うべきだと言うことですわ!こんな……シークレットブーツを履いた赤毛のゴブリンの様なへんちくりんを相手にしないで頂きたいのです。クイーンだってそうお望みだわ!」

ゴブリンに例えられた。しかもシークレットブーツを履いたゴブリンだって。何そのパワーワード。もう帰りたい。

それにあんたにクイーンの何が分かるのよ……あんたに彼女のポニョの対戦相手役が務まるのか。そう言う私も務まってないけれど。

マリーはため息をついてから、リサと腕を組んで仲良さげに私のことをまた睨んできた。

「ここまで話したついでに言わせて頂くわ。あなた、ピアノのコンテストで受賞したらしいけれど、本当は関係者に……特別な働きかけでもしたのでしょう?」

「特別な働きかけって何?」

私の素朴な疑問に何故かタライさんは笑いを堪える仕草のまま何処かへ行ってしまい、家森先生は苦笑いした。

マリーはイライラした様子ではあ!ともう一度大きなため息をつき、私に向かって言った。

「特別な働きかけって言えば分かるでしょう!?枕営……もういいわ。おばかな子とまともに話そうとする事自体がいけなかったのよ。兎に角ヒイロ、私の言いたいことは分かったでしょう?」

「……僕から一言。」

今まで静かに話を聞いていた家森先生がポツリと言ったのでマリーも私も皆も彼に視線を向けた。家森先生は腕を組んだまま、私の隣に大きな1歩で移動してきて、私とくっつきながらマリーに言った。

「僕を置いてきぼりにして話すべき話題でもないでしょう……それに先日もお伝えした通り、僕の幸せを考えて欲しいと貴方にはお願いしましたが、今日の様子を見る限りでは残念なことに僕のお願いは聞いてもらえなかったようですね。」

その言葉にマリーがハッとした表情をしてから応えた。

「で、でもそれは……家森先生のことを考えてこうしてヒイロに言ってしまったと言うこともありますし、お願いを聞きたくない訳ではありません。私はただ家森先生が心配なのです。こんな……ゴブリン」

また私のことゴブリンって言ってきた。もう帰りたいよ。ちょっと遠くの方でタライさんが笑いこらえてるし。

「ヒイロをゴブリンと称するのはおやめ下さい……大体あなた、以前レッド寮の通路でヒイロに酷似した人物がリュウ仲良さげにしているのを見かけましたが、それもマリーが用意したのでしょう?」

何それ。初耳なんですけど。私はじっと、目が泳いでいるマリーを見つめた。その隣には俯いているリサがいる。図星っぽい彼女らの様子を見て家森先生がため息をついた。

「はあ、やはりあれはヒイロに似せたリサでしたか。そうまでして僕の心が欲しいと?」

そう言われたマリーが胸に拳を当てながら家森先生を少し睨んだ。なるほど……リサに協力してもらって私とリュウが仲良いように家森先生に思わせようとしたのか。もうマリーの執念が怖い。怖いよ。

「で、でも!家森先生の為です。」

「何を言っても通じないのなら仕方ないか。ならこうするまでです。」

突然私の隣に立っている家森先生が、UFOキャッチャーのように私の頭を片手で鷲掴みにしてきて、ぐるりと私の顔を彼の方へ向けさせて、至近距離で見つめてきたのだった。

そして私の頭を鷲掴みにしたまま、家森先生の唇が私の唇に触れた。

きゃあああと女性陣の叫びが聞こえ、うおおおおとタライフレンズの雄叫びが聞こえる中、家森先生は更にキスを深めようとしてきたので恥ずかしくなった私は逃げようとした。が。

それを彼に気付かれてしまい、もう片方の手で私の顎を掴んで固定されてしまい、何度も何度も激しい口づけを受けてしまった。

逃れる事も出来ず、彼のこれが終わるまで待つしかなくなった私は観念して抵抗をやめた。ふと校舎の方を見れば職員室の窓のところで、にやけたベラ先生と教科書を筒状に丸めて望遠鏡がわりにしているシュリントン先生がこっちを見ているのが分かった。もうやだ……。

「……っ、はあ。はあ。分かりましたか?僕は彼女を愛しています。」

漸く離れてくれた家森先生が息切れしながらそう言った。彼の取り巻き達は羨望の眼差しを私に向けていて、リサはじっと私を睨んでいて、マリーは

ばしっ

……え!?

……マリーは、私の頬をビンタしてきた。それも思いっきり。痛い……。

「何を!?ヒイロ大丈夫ですか!?」

家森先生が慌てた様子で私の頬を見る。まあ、痛いことは痛いけど……血は流れてないし、怪我まではしてない感じがする。ちょっと頬が腫れそうだけど。

「痛いけど大丈夫です……で、でもどうして私が叩かれたの?私からキスしたんじゃないのに「うるさいわね!あなたが彼を誘惑したのでしょう!?」

「マリー!もういい加減にしないか!」

……ほら、彼を本気にさせない方がいいよ。私知ってるんだから。

案の定、彼のそこまでの怒りを初めて見たのかマリーが怯えた様子で俯いてしまった。家森先生はため息をついた後に言った。

「マリー、もう僕は耐えられない。ヒイロは優しく寛容的なので今まで大ごとにはなってこなかったのでしょうが、先程から続くマリーの暴言、それから今の暴力的行為。言ってしまえば双方とも学園の規則に違反しています。今回の件をヒイロがあなたを罪に問いたいと思うのならば、あなたは停学か、最悪のケース退学処分となります。」

事の重大さに気付いたのか、マリーが力なく首を振り、そして私の方を見つめてきた。

「ヒイロ…………。」

それだけ言ってマリーは項垂れた。皆が私に注目しているので多分私が話す番なのかと気付いた。

そ、そっか。私がこれを先生方に訴えればマリーが罰を受けることになるのか。

確かに色々言われて傷ついた。それに頬だってまだ痛い。でも、家森先生への気持ちが強すぎてこうなった訳でしょうから、その気持ちも分かるし……。

でもマリーのことを色々と考えると、いつも実戦で力合わせてモンスターを倒した時のことや、課外実習で荒野に行った時に私にタオルを貸してくれたことを思い出した。

だからいいや。いいことにした。

「気にしないです。頬は痛いけど別にいい。マリーにそんな罰なんて与えないでください。」

私の言葉にマリーはえ?と涙目で私を見つめ、隣の家森先生は組んでいた腕を解いた。

「ならば今回はこれまでにしましょう。マリーも今後はもうこのようなことをしないでください。僕ももう皆の前でこんな大胆な行動は取りませんし、ヒイロとの関係をそっと見守っていてください。」

マリーが家森先生を見つめた。

「はい……まだヒイロのことを応援できるかと言えばそれは難しいですけれど、分かりました。家森先生にお叱りを受けて、確かに私の行動はいきすぎていたのかもしれないと思いました。……ところで一つ質問が、ヒイロとはもうお付き合いされているのでしょうか?」

「……ぐっ。」

ん?……

言葉に詰まった家森先生の方を見てみると、かなり苦い顔をしてゆっくりと首を振っていた。それを見た周りからは少し笑いが漏れて、家森ファンの女性陣はちょっと嬉しそうな表情をした。

そういう関係では無いとはいえ、もう多分この学園の殆どの人間が我々が想い合っていることについて知ってしまっただろう。ひと段落ついた私たちはそれぞれの帰路を歩いて行くことにした。

職員室の窓ではシュリントン先生が一人、テキスト望遠鏡でまだ私のことを観察していた。

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