スカーレット、君は絶対に僕のもの
第82話 ヒイロはどこ
水曜、5限の専攻の授業を終えた僕は、真っ先にグリーン寮へ向かった。今日はヒイロが休みだったが何一つ連絡が無かった。心配に思う僕の気持ちを理解してくれないのか一人で何をしているのか、とにかく確かめるべきだと思った。
ギッ、ギッと音を立てて木造の階段を登っていく。相変わらず廊下の天井には蜘蛛の巣が張っていて誰も綺麗にしようとはしない。ベラが最初はしていたようだが拍車をかけるように生徒たちが汚し始めるのでやめたと言っていたのを思い出す。
確かに、それだと匙を投げ出したくなるのも分かる。
トントン
ヒイロの部屋のドアを叩く。僕が魔法で直したドア……大事に使ってくれているのか、他の部屋のドアよりも綺麗に磨いた跡がある。しかし反応がない。
トントン
どうしたと言うのか。休みを取ってここにいないならば、一体どこにいると言うのか。僕は声をかけることにした。
「ヒイロ。僕です。開けてください。」
ガチャ
開いたのは隣の部屋だった。ドアから何故か上半身裸のマーヴィンがこちらを覗いた。何故上半身裸なのか疑問だと思いながらその細く引き締まった体を見ていると、彼が僕に話しかけてきた。
「家森先生、ヒイロなら昨日から帰ってない気がしますけど。」
「え?それは確かですか?」
この薄い壁の建物、隣に住む彼の言うことを嘘だとは考えられない。それにしても昨日から?一体どういうことだ……?僕の問いにマーヴィンは頷いた。
「帰ってきたり、部屋にいればヒイロのくしゃみとかPCのタイピング音がうるさいんで聞こえます。それが昨日の夜ぐらいから聞こえないんで、てっきりまた家森先生のとこに泊まってるんだと思ってました。グレッグなんか、もしかしたらそうじゃなくて、タライちゃんとこ泊まってんじゃないのかって!はっはっは!」
彼がケラケラ笑い始めた。それが事実だとしたら何も面白いことなどないのだが。
「しかし聞けば、高崎も理由が分からないと。」
「ああそうなんすか……それは俺たちにも分からないけど、前このクラスにいたセシルって女も、男と付き合ったばかりの時は授業休んでばっかで男の部屋に泊まってて……まあ彼女はその後、退学したけど。だからヒイロも誰か男に夢中で休んだんじゃないかってクラスで話してただけっす。」
そんな訳はない……彼女は僕としか、ハグをしないと、キスをしないと約束したんだ。確かに僕とヒーたんは恋人ではないけれど、それだって中々タイミングが合わなかったからで僕はもう次のステップに進んでもいいと思っていた……。
しかしもしや、僕がゆっくりと事を進みすぎたことに嫌気が差したのかもしれない。ベラの言った通り、ガンガンと進んでもよかったのかもしれない。
それに昨日は僕の……かなり弱い部分を見せてしまった。僕が彼女のことを守ると言ったのに、それで僕が頼りなく見えたのかもしれない。嫌われたのか?だとしたら今どこにいるのか……。
いけない。つい考え事をしてしまった。僕の顔色を見てか、マーヴィンがニヤニヤしている。
「そうでしたか。部屋に戻っていないのならば探すしかありません。本来なら担任であるベラの仕事ですが、僕も手伝います。」
あえて説明してしまった。僕の内心を見透かしたのか、マーヴィンがニヤリとしたまま言った。
「家森先生のとこじゃなかったのなら、タライちゃんのとこじゃ無いかと俺は思いますよ。まあ、部屋に居たとしてもヒイロは必死に隠れるでしょうけどね!はっはっは!最近ヒイロとタライちゃんよく肩組んでたり手繋いだりほんと、忙しいし「おい!もう次のラウンド始まるぞ!」ちょっと待って!じゃあ俺グレッグと格闘技の生放送見てるんで、また!」
「あ、ああ……また。」
そう言って彼は引っ込んでいった。格闘技の番組を上半身裸で見る意味はなんなのか、少し疑問がある。
まあいい……しかしマーヴィンの言うことにも一理ある。僕がたまに見学をする環境学といい、金曜の実戦の授業といい、合同クラスの授業の時はいつもヒーたんは高崎と一緒にいる。それも……イチャイチャしながら。最近は前ほどでは無いが。
確かに僕だってマリーやカリーナ達に普段もみくちゃにされているが、生徒に好かれている証拠だと思って放っておいている。それに何も、僕がこんな辛い状況で、何もこのタイミングで高崎と仲良くしなくたっていいではないか……。
僕は、はぁと細長いため息を吐いてからグリーン寮を出て、校庭を横断してブルー寮へ向かった。
途中、僕に挨拶してくる生徒に自動的に返事をしながら、3階までの階段を息を切らしながら登って、やっと高崎の部屋の前に来た。
ドンドン
……いないのか。
ドンドン
すると高崎の隣の部屋のドアが開いた。ケビンだ。彼は僕を見ると目を丸くした。
「あ、家森先生……。」
「高崎はいますか?」
「いると思いますけど、さっき入ってくの見えたんで。」
するとガチャっとドアが開いた。ニヤニヤした高崎が漫画片手に出てきて僕の方をチラッと見ると、ハッとした顔で漫画を閉じた。
「あ、家森先生……なんです?どうしました?」
「少し、中に入れてもらえます?」
「え!?今です!?ちょっとそれは……あああ!」
少々強引かもしれないが僕は彼の肩を突き飛ばして中に入り、玄関のドアを閉めた。
青と白を基調にした部屋はブルー寮特有のもので、リビングは以前来た時よりも綺麗に整っていて、テーブルの上には漫画本と灰皿があった。
リビングの隣の扉を指差して聞いた。
「あそこは寝室ですか?」
高崎はパジャマ姿で黒髪をかき上げながら言った。
「まあそうですけど……なんです?俺の魅力に気づきました?ちょっとそう言う趣味無くて「アホなこと言わないでください……」
僕は彼の寝室のドアを開けた。中には青い布団のベッドがあって乱れているものの、人の気配はない。僕の後ろに立つ高崎が聞いた。
「どうしたんです?何してはるんや?」
正直に言おうか。そのほうが彼も正直に話してくれるだろうか。僕は振り返って、寝室のドアを閉めながら言った。
「実はヒイロを探しています。」
ぎくっという顔を高崎がした。心当たりがあるらしい。となるともしや、マーヴィンの言っていたことは本当なのかもしれない……そうは思いたくないが。
「僕やベラ先生から何度メールを送っても何も返しませんし、彼女の部屋に行ってもいませんでした。隣のマーヴィンはヒイロは昨日の夜から帰っていないと訳の分からないことを言います。しかしあの壁の薄さ、彼の言っていることには信憑性があります。あなた何か本当のことをご存知のようなのでお聞かせ願えますか?それとも話せませんか?」
「……。」
高崎は舌を噛みながらポケットからタバコを取り出して吸おうとしたので、僕は彼の手首を掴んで止めさせた。
「何するんや!」
「部屋の中では吸わないでください。決まりでしょう?」
「そうですけど!……」
「高崎、本当のことを話してください!お願いしますから。」
僕の頼み、どうして聞いてくれない。高崎。
「……本当のことを言いますと俺、ヒーたんと約束したんや。今どこにいて何をしているのか、絶対に話すなって。他のことはそりゃペラペラ話してまうけど今回のは何だかあかん気がするんです。もしかしたらヒーたんの過去が関係してるかもしれへんしアイタタタ!」
僕は高崎の足を踏んだ。
「彼女の過去が関係している!?それで彼女はどこに行ったというんです!?話しなさい!」
「やめて!やめてぇーーーー!話せへんのや!どうしても無理なんや!」
「はあーーー。なるほどそうですか……」
仕方ない。やるしかあるまい。
僕は白衣のポケットから紫色のポーションの入ったフラスコを取り出して彼に見せた。高崎の表情がみるみる苦いものへと変化していく。
「これを飲みたいですか?」
「虐待です!体罰!」
「ああ、飲みたいんですね。構いませんよ。あなたが苦しむ中で許しを請いながら真実を叫ぶ姿を見てみましょうか。」
高崎はぴょんと跳ね上がってから僕の目の前で土下座した。
「お許しを……!お許しを〜〜〜!」
「……まだ飲ませてませんが」
「……じゃあ、じゃあ!ヒント!ヒントあげますね!」
高崎は立ち上がってヘラヘラ笑った。彼の額には汗が流れている。
「ヒントは〜そうやな。あ〜……車を使った!」
僕はすぐに思案顔になる。
「街ですか?過去の自分の情報でも手に入れたとか?」
「それが理由までは本当に俺も知らんのです。でも彼女ものすごい剣幕やったし、俺が勝手に過去のことなんかなって思っただけで。」
「そうでしたか……それで街にいるんですね?」
「いや」
ん?と高崎を睨むと彼は口を尖らせていた。
「なるほど、そろそろ飲みましょうか。この家森スペシャルを。」
「いやいやいや!それはあかん!家森先生だって犯罪者にはなりたくないでしょお?」
「ヒイロのためなら……」
わざというと真に受けたのか高崎はため息をして、何故か僕に向かって合掌しながら言った。
「もう、俺は口の軽い男選手権ナンバーワンになってしまうんや。もうヒーたんに許しを請いながら話しますね。俺の知ってることはこれだけですからね。彼女は……イスレ山に行きました。」
「はぁっ!?」
僕の叫びが部屋に響いた。目を見開いて高崎の首元を掴む。ブンブンと彼は首を何度も振っている。
「俺のせいちゃう!俺のせいちゃいます!」
「何故!?何故イスレ山に!?そんなことは分かっている!街に行くより何千倍も危険な行動を貴様は許したというのかっ!」
「だってすごい真剣やったから!大丈夫やって!ちゃんと帰ったら連絡する言うてたから!」
「それで連絡はまだないのか!?」
「……ありません。」
はあ!と僕はため息を吐いた。ヒイロ……過去のことがあって、まさか地上に行っているとは……目の前の高崎は放心状態になっている。
「ヒイロは過去の記憶がありません。道路の標識だって、信号機の役割さえ理解していないでしょう。」
「そうですね」
「電車だって、バスだって、それに……あああ。」
僕は両手で顔を覆って目頭に力を入れた。ヒイロのことといい、父のことといい。もう考え疲れてしまった。その場からゆっくりと歩いて高崎の部屋のドアを開けた。
「教えてくれて感謝しています。ヒイロから連絡きたら、僕にも連絡してください。」
「わ、わかりました……黙っててごめんなさい。家森先生大丈夫です?」
高崎が心配な目で僕を見ている。僕はこくっと頷くと部屋を出た。
結構疲れてしまった。少し、部屋で休もう。
ギッ、ギッと音を立てて木造の階段を登っていく。相変わらず廊下の天井には蜘蛛の巣が張っていて誰も綺麗にしようとはしない。ベラが最初はしていたようだが拍車をかけるように生徒たちが汚し始めるのでやめたと言っていたのを思い出す。
確かに、それだと匙を投げ出したくなるのも分かる。
トントン
ヒイロの部屋のドアを叩く。僕が魔法で直したドア……大事に使ってくれているのか、他の部屋のドアよりも綺麗に磨いた跡がある。しかし反応がない。
トントン
どうしたと言うのか。休みを取ってここにいないならば、一体どこにいると言うのか。僕は声をかけることにした。
「ヒイロ。僕です。開けてください。」
ガチャ
開いたのは隣の部屋だった。ドアから何故か上半身裸のマーヴィンがこちらを覗いた。何故上半身裸なのか疑問だと思いながらその細く引き締まった体を見ていると、彼が僕に話しかけてきた。
「家森先生、ヒイロなら昨日から帰ってない気がしますけど。」
「え?それは確かですか?」
この薄い壁の建物、隣に住む彼の言うことを嘘だとは考えられない。それにしても昨日から?一体どういうことだ……?僕の問いにマーヴィンは頷いた。
「帰ってきたり、部屋にいればヒイロのくしゃみとかPCのタイピング音がうるさいんで聞こえます。それが昨日の夜ぐらいから聞こえないんで、てっきりまた家森先生のとこに泊まってるんだと思ってました。グレッグなんか、もしかしたらそうじゃなくて、タライちゃんとこ泊まってんじゃないのかって!はっはっは!」
彼がケラケラ笑い始めた。それが事実だとしたら何も面白いことなどないのだが。
「しかし聞けば、高崎も理由が分からないと。」
「ああそうなんすか……それは俺たちにも分からないけど、前このクラスにいたセシルって女も、男と付き合ったばかりの時は授業休んでばっかで男の部屋に泊まってて……まあ彼女はその後、退学したけど。だからヒイロも誰か男に夢中で休んだんじゃないかってクラスで話してただけっす。」
そんな訳はない……彼女は僕としか、ハグをしないと、キスをしないと約束したんだ。確かに僕とヒーたんは恋人ではないけれど、それだって中々タイミングが合わなかったからで僕はもう次のステップに進んでもいいと思っていた……。
しかしもしや、僕がゆっくりと事を進みすぎたことに嫌気が差したのかもしれない。ベラの言った通り、ガンガンと進んでもよかったのかもしれない。
それに昨日は僕の……かなり弱い部分を見せてしまった。僕が彼女のことを守ると言ったのに、それで僕が頼りなく見えたのかもしれない。嫌われたのか?だとしたら今どこにいるのか……。
いけない。つい考え事をしてしまった。僕の顔色を見てか、マーヴィンがニヤニヤしている。
「そうでしたか。部屋に戻っていないのならば探すしかありません。本来なら担任であるベラの仕事ですが、僕も手伝います。」
あえて説明してしまった。僕の内心を見透かしたのか、マーヴィンがニヤリとしたまま言った。
「家森先生のとこじゃなかったのなら、タライちゃんのとこじゃ無いかと俺は思いますよ。まあ、部屋に居たとしてもヒイロは必死に隠れるでしょうけどね!はっはっは!最近ヒイロとタライちゃんよく肩組んでたり手繋いだりほんと、忙しいし「おい!もう次のラウンド始まるぞ!」ちょっと待って!じゃあ俺グレッグと格闘技の生放送見てるんで、また!」
「あ、ああ……また。」
そう言って彼は引っ込んでいった。格闘技の番組を上半身裸で見る意味はなんなのか、少し疑問がある。
まあいい……しかしマーヴィンの言うことにも一理ある。僕がたまに見学をする環境学といい、金曜の実戦の授業といい、合同クラスの授業の時はいつもヒーたんは高崎と一緒にいる。それも……イチャイチャしながら。最近は前ほどでは無いが。
確かに僕だってマリーやカリーナ達に普段もみくちゃにされているが、生徒に好かれている証拠だと思って放っておいている。それに何も、僕がこんな辛い状況で、何もこのタイミングで高崎と仲良くしなくたっていいではないか……。
僕は、はぁと細長いため息を吐いてからグリーン寮を出て、校庭を横断してブルー寮へ向かった。
途中、僕に挨拶してくる生徒に自動的に返事をしながら、3階までの階段を息を切らしながら登って、やっと高崎の部屋の前に来た。
ドンドン
……いないのか。
ドンドン
すると高崎の隣の部屋のドアが開いた。ケビンだ。彼は僕を見ると目を丸くした。
「あ、家森先生……。」
「高崎はいますか?」
「いると思いますけど、さっき入ってくの見えたんで。」
するとガチャっとドアが開いた。ニヤニヤした高崎が漫画片手に出てきて僕の方をチラッと見ると、ハッとした顔で漫画を閉じた。
「あ、家森先生……なんです?どうしました?」
「少し、中に入れてもらえます?」
「え!?今です!?ちょっとそれは……あああ!」
少々強引かもしれないが僕は彼の肩を突き飛ばして中に入り、玄関のドアを閉めた。
青と白を基調にした部屋はブルー寮特有のもので、リビングは以前来た時よりも綺麗に整っていて、テーブルの上には漫画本と灰皿があった。
リビングの隣の扉を指差して聞いた。
「あそこは寝室ですか?」
高崎はパジャマ姿で黒髪をかき上げながら言った。
「まあそうですけど……なんです?俺の魅力に気づきました?ちょっとそう言う趣味無くて「アホなこと言わないでください……」
僕は彼の寝室のドアを開けた。中には青い布団のベッドがあって乱れているものの、人の気配はない。僕の後ろに立つ高崎が聞いた。
「どうしたんです?何してはるんや?」
正直に言おうか。そのほうが彼も正直に話してくれるだろうか。僕は振り返って、寝室のドアを閉めながら言った。
「実はヒイロを探しています。」
ぎくっという顔を高崎がした。心当たりがあるらしい。となるともしや、マーヴィンの言っていたことは本当なのかもしれない……そうは思いたくないが。
「僕やベラ先生から何度メールを送っても何も返しませんし、彼女の部屋に行ってもいませんでした。隣のマーヴィンはヒイロは昨日の夜から帰っていないと訳の分からないことを言います。しかしあの壁の薄さ、彼の言っていることには信憑性があります。あなた何か本当のことをご存知のようなのでお聞かせ願えますか?それとも話せませんか?」
「……。」
高崎は舌を噛みながらポケットからタバコを取り出して吸おうとしたので、僕は彼の手首を掴んで止めさせた。
「何するんや!」
「部屋の中では吸わないでください。決まりでしょう?」
「そうですけど!……」
「高崎、本当のことを話してください!お願いしますから。」
僕の頼み、どうして聞いてくれない。高崎。
「……本当のことを言いますと俺、ヒーたんと約束したんや。今どこにいて何をしているのか、絶対に話すなって。他のことはそりゃペラペラ話してまうけど今回のは何だかあかん気がするんです。もしかしたらヒーたんの過去が関係してるかもしれへんしアイタタタ!」
僕は高崎の足を踏んだ。
「彼女の過去が関係している!?それで彼女はどこに行ったというんです!?話しなさい!」
「やめて!やめてぇーーーー!話せへんのや!どうしても無理なんや!」
「はあーーー。なるほどそうですか……」
仕方ない。やるしかあるまい。
僕は白衣のポケットから紫色のポーションの入ったフラスコを取り出して彼に見せた。高崎の表情がみるみる苦いものへと変化していく。
「これを飲みたいですか?」
「虐待です!体罰!」
「ああ、飲みたいんですね。構いませんよ。あなたが苦しむ中で許しを請いながら真実を叫ぶ姿を見てみましょうか。」
高崎はぴょんと跳ね上がってから僕の目の前で土下座した。
「お許しを……!お許しを〜〜〜!」
「……まだ飲ませてませんが」
「……じゃあ、じゃあ!ヒント!ヒントあげますね!」
高崎は立ち上がってヘラヘラ笑った。彼の額には汗が流れている。
「ヒントは〜そうやな。あ〜……車を使った!」
僕はすぐに思案顔になる。
「街ですか?過去の自分の情報でも手に入れたとか?」
「それが理由までは本当に俺も知らんのです。でも彼女ものすごい剣幕やったし、俺が勝手に過去のことなんかなって思っただけで。」
「そうでしたか……それで街にいるんですね?」
「いや」
ん?と高崎を睨むと彼は口を尖らせていた。
「なるほど、そろそろ飲みましょうか。この家森スペシャルを。」
「いやいやいや!それはあかん!家森先生だって犯罪者にはなりたくないでしょお?」
「ヒイロのためなら……」
わざというと真に受けたのか高崎はため息をして、何故か僕に向かって合掌しながら言った。
「もう、俺は口の軽い男選手権ナンバーワンになってしまうんや。もうヒーたんに許しを請いながら話しますね。俺の知ってることはこれだけですからね。彼女は……イスレ山に行きました。」
「はぁっ!?」
僕の叫びが部屋に響いた。目を見開いて高崎の首元を掴む。ブンブンと彼は首を何度も振っている。
「俺のせいちゃう!俺のせいちゃいます!」
「何故!?何故イスレ山に!?そんなことは分かっている!街に行くより何千倍も危険な行動を貴様は許したというのかっ!」
「だってすごい真剣やったから!大丈夫やって!ちゃんと帰ったら連絡する言うてたから!」
「それで連絡はまだないのか!?」
「……ありません。」
はあ!と僕はため息を吐いた。ヒイロ……過去のことがあって、まさか地上に行っているとは……目の前の高崎は放心状態になっている。
「ヒイロは過去の記憶がありません。道路の標識だって、信号機の役割さえ理解していないでしょう。」
「そうですね」
「電車だって、バスだって、それに……あああ。」
僕は両手で顔を覆って目頭に力を入れた。ヒイロのことといい、父のことといい。もう考え疲れてしまった。その場からゆっくりと歩いて高崎の部屋のドアを開けた。
「教えてくれて感謝しています。ヒイロから連絡きたら、僕にも連絡してください。」
「わ、わかりました……黙っててごめんなさい。家森先生大丈夫です?」
高崎が心配な目で僕を見ている。僕はこくっと頷くと部屋を出た。
結構疲れてしまった。少し、部屋で休もう。
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