スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

第71話 結果と将来

それから一週間が過ぎて、遂に前期のテスト期間が始まってしまった。この期間中は学園の決まりで生徒と先生の交流が限られている。つまり、プライベートで会ってはならない。

その上、メールでのやり取りも禁止。それがバレると生徒にも先生にも重大な罰が待っているのだ。そんな状況で隠れて連絡するような度胸は私には無い。だから教壇のとこで座って読書している彼をじっと見つめる。

うん……元気そうで何より。この光魔法学のテスト、意外にも分かる問題があったからよかった。宿題とか度々教えてもらってたからだろうな……前の席のリュウは分からな過ぎるようで、さっきから文字を書いては消しゴムで消してを繰り返して、終いには頭を掻きむしった。

「あと5分です。最後まで諦めないように。これで赤点取った場合はこの前にも言った通り夏休みの補習の対象になります。」

「無理ー」

家森先生の言葉の後に斜め後ろからグレッグの声でそう聞こえた。きっと彼は夏休みも補習に参加するのかもしれない……。

そして時間が来て答案用紙を皆が家森先生に提出し終わると、家森先生は無駄な話を一切せずに教室から出て行ってしまった。最近はグリーンクラスでも授業の後にグレッグ達と話すときがあるから、そうせずに早々と出て行ってしまったのは多分テスト期間の決まりだったからなんだと思った。

今日は月曜だからあと4日、それに土日も会えない。

……あれ?もしかして自由じゃない?いや、テスト期間だからそんな浮かれた気分になっちゃダメだけどさ、自由だよね?何この感じ。

「うっわ。ヒイロテスト手応えあったんだ。めっちゃにやけてるもん。」

後ろを振り返ってきたリュウにそう言われたから首を振る。

「違うって。テスト期間中は家森先生に会えないなぁと思って。」

「おま、それでにやけてたの?ってかあいつと付き合ってんの?」

グレッグの質問にクラスのみんなが一斉にこっちを見た。私は慌てて首を振る。

「う、う、付き合ってないよ!本当に!仲は……よ、良いけど。本当に付き合ってない。」

「そうなんだ……でも最近マリーがまだ納得してないとかってリサから聞いたな。」

リュウが帰りの支度をしながら言った。ああそっか、そうだよね、彼女は家森先生ガツンと言われたぐらいじゃ納得しないのかも。

私も帰りの支度をしながらマリーのことを考えて、肩が重くなった気がしてため息を吐いた。ポンと誰かに肩を叩かれて振り返ると、私の後ろにグレッグが立っていた。

「お前は自由だよヒイロ。自由に生きていいんだ。何をしてても誰にも連絡する義務などないんだから。それが普通なんだから。だからさ、今日の夜も夜更かしして明日のコンディションボロボロにして明日のテスト全部赤点にしてさ、俺と一緒に補習やろ?」

「やだよ」

何そのいざない方……。私の反応が面白かったのか、周りのリュウとマーヴィンが笑った。

帰り支度も終わったところで、じゃあねと彼らに別れを告げて私は教室を出た。今日はお弁当も届ける事は出来ないので本当になんていうか……一人になった感じがする。

それに帰宅してからの楽しみがある。それは先日応募した海上のピアニストの応募結果が今日発表されるのだ。ふっふっふ……待ちきれない。発表時間は正午なのでもうWEBには選考結果が出ているだろうし。

待ちきれないから食堂でPCを広げてチェックすることにした。食堂にはお昼時なので主にレッドやブルークラスの生徒でごった返しになっていて座れるところがない……。キョロキョロしているとジョンとエレンが手招いてくれて、彼らのテーブルに空席があったのでお邪魔した。

「なになに?何見てるので?」

「唐突に某翻訳家の口調するのやめてやー!エレンおもろいわ。」

エレンの言葉に反応したのは定食プレートを持ったタライさんだった。彼も同じテーブルの席に座ってきた。

「前に応募した作曲コンテストの結果がもう出てるの……ああ、ドキドキしてきた。ちょっと部屋に戻るまで待ちきれないからここで見ていい?」

「いいけど、ええ!?そんなのに応募したの?ヒイロって音楽得意なんだ!」

ジョンとエレンが驚く。タライさんは早速唐揚げを口に放り込んでもぐもぐしながら隣に座る私のPCを覗いてきた。

「それに受かったらヒーたん有名になるやん、そしたら家森先生とどうなんの?」

「どうって別に何も変わらないですよ……」

ジョンがニヤッとして前のめりに話し出す。

「でもさ、それで有名になったら音楽業界の関係者と接点も増えるだろうし、家森先生よりもイケメンと出会えるかもよ?」

え?まじ?……なんて反応したら皆が笑った。いやいや。

「いやぁイケメンだから好きって訳じゃないもん……一緒にいると楽しいよ?」

タライさんがごふっと一回咳をして、お水を飲みながら言った。

「待ってヒーたん。今のってあの方のお話だよね?楽しいっていつも何を話すん?」

「うーん……ヨモギシャンプーとか、あー……だから日常的などうでもいいことを話します。だから覚えてない。」

私以外の3人が笑った後に、エレンが頷きながら言った。

「それは分かる。ジョンと何話してるのって聞かれればすぐに答えられないもん。そっか、それほどに一緒にいるんだね……ふふっ、家森先生と。」

その言葉にちょっと離れた場所で座っているマリーがチラッと私の方を見たので怖くなって私は本題に戻ることにした。

PCのWEBサイトを検索して開いていると隣でタライさんが咀嚼しながら言った。

「ほーん、海上のピアニストかぁ。なんか昔っからある映画よね?何度もリメイクされて。」

「そう見たいですね。まあ、佳作にでも入ってたらいいけど……」

待ちきれないのかジョンとエレンが立って私の後ろに来て一緒に画面を見始めた。

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佳作
『ignite』
Elle Oxnard
『star in the ocean』
Andrew Blown
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「ああ……佳作選ばれなかった……」

私は頭を抱える。タライさんとエレンが私の背中をさすってくれる。ジョンがページを上から下まで手慣れた手つきでスクロールさせながら隈なく見た。

「あれ?このページは佳作のみの発表なんだ。じゃあ次見てみよ。2位だって。」

「えええ?もう見る?はい……ジョン、クリックして。」

ジョンがクリックした。ページが切り替わる。

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2位
『libre』
Connor Symon
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「……。」

「ま、まだあるから……大丈夫やって!う、うん!」

タライさんの励ましが辛い。もうだめだ。テストももう頑張れない。

「このコナーって人知ってるよ!ロボットウォリアーっていう名作映画のサントラ作った人だよ。」

まじかよ……そんな人も応募するの?もうだめじゃん……早く帰りたい。そんな私をよそに、ジョンが無慈悲のクリックをした。

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1位
『the last song』
Evan Carter
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お。

終わったんですけど……。エヴァンって誰やねん……。

え?こんなに呆気なく終わる?コンテストってこんなに無慈悲なの?まあそうだよね……これにはプロの人だって参加してるんだ。そんな甘い話じゃなかったんだ。

ゴン、とテーブルに突っ伏す私。そりゃそうなるって。そうなるでしょ……。エレンが背中を撫でてくれるのが辛い。ありがたいけど辛い。

「まあ、頑張ったことが大事やから……」

「そうですよね……」

「うん。僕だったら応募出来ないもん。ヒイロはチャレンジ精神が豊かで羨ましいよ。」

「ありがとうジョン……」

学費だって今年度で終わるっぽいから、卒業したら衛兵として働くしかないのかも。衛兵でも体力使わない部門ってあるかな……監視兵とかだったらいいな。一日中監視してるだけでしょ。だったら体力使わないもんね。その部門に応募しよ。

「……でもまだページあるよ?」

「え?何それエレン」

私は顔を上げた。何?どうせ解説のページでしょ?だって1位出てたじゃん。

エレンが次のページをクリックした。

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最優秀賞
『fire of unfair』
Scarlet Underworld
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…………っぶ!!!

ぶ!?!?!?

「ぶ!ぶ?ぶ!ぶ?」

「うおおおお!?」
「あああああ!?」

エレンが叫ぶ。ジョンも叫ぶ。タライさんは興奮した様子で小動物のような機敏な動きでパチパチ拍手をしてる。私は……天井を見た。天井を見た。

天井を……見た。

「これってヒイロでしょ?ヒイロのことだよね?ヒイロってスカーレットだよね!?」

そうだよ……そう。リュウがつけてくれた私の名前……。私は激しく頷いた。

「すごいねヒイロ!最優秀賞だって!もう他にページ内からこれで決まりだよ!最優秀賞だしほら、ここにこの曲が採用されるって書いてある!すごーい!」

エレンがハグしてくれた。これは夢じゃないんだ……エレンがあったかいもん。これは夢じゃないんだ……監視兵に志願しなくて済んだかもしれないんだ!あああ!

「ほんなら、夏休みにお祝いでみんなで街行って楽しもうや!」

タライさんの提案にうん!と二人が言ってくれた。ああ……それも嬉しいし、選ばれたことがとても……信じられないくらいに嬉しい。

記憶がない自分に残された唯一のスキルで、何かを成し遂げることが出来た。いや、これは始まりなのかもしれないけど……うん、そうだ。ふふっ、ステーキ食べよ。賞金もらったら……食べよ。家森先生にも少しあげよ。

「ええなあ賞金貰えるし、これから音楽系の仕事にだって就けるんちゃう?ベラ先生との面談でこのこと絶対に話すんやで?」

ジョンとエレンが元の席に座ってまた食事を開始した。私はPCをリュックに入れながら聞いた。

「面談ってそういうこと話すの?将来のこととか?」

私の質問にジョンが答える。

「そうだよ!僕はもうちょっと学園にいて魔工学の勉強をして、いつかは中央研究所で働きたいって家森先生に言うつもりさ!」

エレンがカレーを頬張りながら言った。

「いいなあみんなやりたいこと決まってて……私はまだ分からない。うちはあまりお金持ちじゃないから家族には働けって言われるし、もしかしたら今年で卒業するかも……」

「ええ!?それは僕が卒業したらどうにかするってまたエレンのお母さんに言うからまだ来年も学園に居てよ!」

ええ?君達はどんだけ関係進んでんの……同じことを思ったのか隣のタライさんも笑ってた。

「あんたら卒業したら結婚するんか?まあもう付き合って長いもんなぁ。」

「ま、まだそれは分からないけどさ……僕はすごくエレンが好きだよ。付き合ってもう2年だしね。でも僕が卒業して中央研究所で働けるようになっても、見習いの時はあまり給料良くないだろうし、軌道に乗るまで……でももしエレンが大変なら僕、頑張って衛兵にでも「無理だと思う」そうだよね。そう。僕はロボットが好き。魔法だってろくに使えない。」

途中のエレンの厳しめな一言も面白かった。エレンは私を見る。

「ヒイロは?まだ来年もいるでしょ?」

「まあこれで賞金が手に入ったから来年とかの学費も払えるようになったし、ここにまだ居られるようになったけど、どうしようか決めてないなぁ……。」

「ええ!?これで賞金もらえなかったら学費もう払えなかったの!?じゃあよかったね、色々と……」

ジョンが笑い混じりに言った。本当にね。そう思うよ。

「なんでそんな行き当たりばったりなん……ふふっ。まあもしまた学費足りなくなったら家森先生にでも払ってもらえばええやん。」

あははと前の二人が笑う。私は苦笑いでタライさんの肩をどついた。

「そんなこと出来ません!タライさんは?今後どうするんですか?」

私の質問にタライさんが口を尖らした。

「そうやねー……まあやりたいこと決めてへん。満期まで居たいからあと3年ここにいるけど?」

そんなにここに居れるんだ……そっか。ジョンが笑顔でタライさんに聞いた。

「6年も居たら色々な職業につけますね!有機魔法学専攻だし、看護師とか薬剤師とか?」

「うーんそうやねー……まだ決めてへん。」

なんでそんな感じなの、いいけど。タライさんのフラフラした感じにジョン達と笑っているとあることに気づいた。

「そうだタライさん達これからテストだよね?ごめんなさい邪魔しちゃった。」

「あー大丈夫大丈夫、テストガチ勢は食堂に来たりせーへんから!」

あの優秀なマリーは来てるけどね……まあジョンもエレンも光魔法学は半ば諦めてると言ってくれたので申し訳ないと思う気持ちが少し救われた。それでも私よりはいい点取るんだろうけど。

彼らに頑張ってねと言うと彼らはおめでとうと言ってくれた。ありがたい、みんな優しい。私には褒めてくれる家族がいないから、こう言う経験は結構大切に感じた。

テスト期間終わったら家森先生にも話そう。

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