スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

第69話 高崎の相談

トントン

「はい?……」

「あ、高崎ですー。今ちょっといいです?」

ガチャ

ドアが開かれると不機嫌な表情のベラ先生がそこに立ってはった。キャミソールにカーディガンを羽織っただけ。部屋着の格好やな。俺はニコッとした。

「何よ高崎くん。職員寮まで来て。どれを提出してないのかしら?」

「幾ら何でもそんなに課題の提出滞っておりませんて。ちょっとお願いがあってきました。」

そうや。もう、これには彼女の力が必要や。そうでなければあの強敵は倒せん。ベラ先生は腕を組んで壁に寄りかかりながら聞いた。

「お願いって何よ。」

「実は協力して欲しいんですー。」

「何に?」

もうめっちゃ不機嫌そうな顔してる。まだ19時やで?夜中とかなら分かるけど何でそんな感じなん?まあええわ。

「俺とヒイロが付き合うの手伝ってください。」

「無理でしょ。それじゃあね。」

ベラ先生がドアを閉じようとしたのを俺は足を挟んで食い止めた。

「なんでやねん!ちょっと待ってくださーい!何で決めつけるんや!諦めんといてくださいって!」

「……ええ?だってそれって家森くんを出し抜きたいということでしょう?」

「まあそうなりますね。」

「そう……」

もう一度ドアを開いたベラ先生は俺の顔から足元まで何度も何度も観察した。しかも苦い顔をして。何でなん!?別に俺いい感じやろ!

「そんな目でジロジロ見んといてください!ベラ先生かて街に行ったら女の人にモテるでしょ?そのコツさえ教えてください!」

「……まあいいわ。入りなさい。」

やった!ちょっと褒めてみてよかったわ!そう、俺の目的は一人でも多くの味方を作ることや。そして俺のことを親友と思っているヒーたんに俺のことを恋愛対象として見てもらう!

よし完璧や……確かに家森先生は彼女と仲良いかもしれんけど、どうせただ束縛しているだけやろ?そんなんでええんか逆に心配やわ。ヒーたんは外見で人を判断しない子やし、家森先生かて今まではその方法でどうにかなってきたんやろうけど今回はそうはいかへんもんねー。

それに、今まで一緒にいてきた子の中で一緒にいてこんなに楽しいと思う子は他におらんかった。勿論ゲームも一緒にしてくれるしな。

「どうぞ……そこに座ってちょうだい。」

ベラ先生はソファを指差したので俺はそこに座った。

「あ、どうも。綺麗なお部屋ですね。」

「どうも。紅茶とコーヒーどちらがいい?」

ベラ先生がキッチンに立ってカップを戸棚から出しながら聞いてきた。

「えっと……紅茶で。でもアイスでいいですー。」

「アイスね、分かりました。それでヒイロに好かれたいって本気なの?」

ベラ先生がアイスティーのボトルを冷蔵庫から出してカップに注いで渡してくれた。美味しそうな匂い、これはカモミールやな。ベラ先生はなんか女の子みたいなとこと女帝みたいなとこ両方あるな。一口飲んだらうまかった。

「あ、これ美味しいですわ。」

「あらよかった。自分で健康に良さそうな茶葉を適当にブレンドして煎れたのよ。それを冷やしておいたの。」

ベラ先生もそれを飲みながら微笑んだ。適当に入れてこの美味しさってすごいわ。しかしこの美しいキャリアウーマン風の女性がゲイなんやから、世界って不思議や。

「あ、それで本気です。俺はヒイロが好きです。」

「ならそう言えば良いじゃない。」

「え?そんなどストレートで効きます?ヒイロはやっぱり、家森先生のことが好きなんでしょうか。」

カップをテーブルに置いたベラ先生はうーんと唸った。

「ヒイロがどう思っているかは分からないけれど、家森先生は結構真剣にヒイロが好きだと思うわよ。相変わらずお弁当だって作ってもらってるみたいで、それをあんなに幸せそうな表情しながら食べるんだもの……あ、お弁当のことは知ってるわよね?」

「ああ、知ってます。本当は俺が毎日作ったる言ったんですけど、家森先生に割り込まれてしもた。」

ははと笑いを漏らした俺に、ベラ先生がそうと呟いた。

「ヒイロに好かれる方法、ね……しかし彼女は記憶を無くしている訳だし、人の記憶もなければ恋愛のこともそっちのことも何も記憶が無いって聞いたわ。」

「ああ、知ってます。せやから俺もちょっと慎重になるっていうか……」

「でも私は結構、押したらいけると思う。」

ベラ先生の強気な一言に俺は喉をごくっと鳴らしてしまった。

「え?」

「家森くんは彼女を尊重して慎重にことを運びたいと言っているけれど、」

「そうなんですか!」

なんや、家森先生がっつくタイプかと思ってたら意外とビビリなんやな。俺も人のこと言えんけど。

「私はそうじゃないと思う。ここだけの話、彼女はもう成人しているのだし。教えながら攻めちゃえば良いのよ……」

そういって彼女はごくっと紅茶を飲んだ。あれ?ヤケにいつもよりも攻めた発言をするなと思ったら、若干彼女の頬が赤い気がする。

「もしかしてベラ先生……飲んではった?」

「……ちょっとね」

やっぱな!目が虚ろだし、言ってることいつもより大胆やし。だから機嫌悪かったんかい……。

「ひとり酒を邪魔して悪かったですね、もう行きますわ。」

「ねえあなた飲めるかしら?」

え?

なに?俺と飲みたいんか?

ベラ先生はじっと見つめてきた。もしくは睨んでる。

「それが俺、実はあまりお酒飲めないんです。お誘い嬉しいですけど「誘ってないわよ!勘違いしないでちょうだい!」

そういってベラ先生は冷蔵庫からマーメイドカクテルのボトルを取り出してグラスに勢いよく注いで俺に渡してきた。

「え!?言ってることとやってること矛盾してますやん!」

「いいから飲みなさいよ!」

「は、はい……」

もう飲むしかないんやね。これだけは言っておこ。

「俺飲んだら結構、どうなるか分かりませんよ?間違えてベラ先生のこと襲うかもしれません。」

「望むところよ。あんたいい度胸じゃないの。私と魔術でやり合おうっていうのね。」

手のひらを構えて風の力を貯め始めたベラ先生に、俺は盛大に首を猛シェイクして命乞いをした。もう飲んでるからか、気性荒すぎやろ!

「嘘ですやん!それに先生相手に俺に何が出来るんや!そうやなくて……もうしゃあないな、飲みましょか。」

「そうこなくちゃね。飲みながら作戦会議しましょう」

そう言って微笑む彼女はとっても可愛かった。あかんで。俺。

ガンバやで。俺。

ベラ先生の部屋で粗相はあかんからな。俺。

ちょっとづつ飲むんやで。俺。

「高崎くん、もう顔赤いけど大丈夫?」

「ちょっとこの辺で休憩しまーす。」

「……まだ一口しか飲んでないけれど。」

「いいんです!ベラ先生もっと飲んでくださいて!そんで家森先生に勝つ方法教えてくださいって!」

ふーと長く息を吐いたベラ先生がテーブルに肘をついて思案顔をした。

「ヒイロは何が好きなのかしら、うーん……ギャップ見せたらどう?」

「ああギャップですか?どんな?」

「例えば……いつもあなた冗談ばかりでおチャラけてるから、たまにはビシッと男らしく真剣に話しかけるとか。どう?」

「ああ、確かにそれはいいかもしれませんね……」

「今、家森くんの真似したでしょ?」

「バレました?」

彼女がベシッと俺の頭を叩いてきた。

「ちゃらけるなって言ってんのよ!全く。」

「分かりました……ベラ、今日の君はとても綺麗だよ。」

俺って頑張ればこんな低い声出るんやな。これは使ってこ。ちょっとふざけて言ったこのセリフに、意外にもベラ先生が一瞬にやけた。ん?

「ふうん……いいじゃない。でもヒイロに言ってね。」

「はーい。これは確かにいい感じやな。これで家森先生を出し抜けるかもしれん……ヒッヒッヒ」

「……ヒイロも面倒な二人に好かれたものね。」

「え?何か言いました?」

「別に。あ!ナッツもあるわよ。」

ベラ先生は立ち上がってキッチンの戸棚からミックスナッツの入った瓶を取り出してくれた。

「おお!俺ナッツめっちゃ好きなんです〜!」

「あらそうなの私もよ!どうぞどうぞ、まだ補充もあるから。」

「いただきまーす!」

そうして俺とベラ先生はナッツばかり食べてマーメイドの入ったグラス片手に、恋話をしたのだった。

あと、ちょっと気持ち悪くなってやっぱりあかんかった。

その後、俺は何度もベラ先生のお手洗いにこもってしまって、しまいには激しい頭痛で立てなくなり彼女のベッドで横になるしか無くなってしまった。

ベラ先生が看病してくれはって、申し訳ないと思う……でもしゃあないやん、飲ましてきたんやもん。俺飲めないって言ったもんね。

「全く……飲めない体質ならそう言えばいいじゃないの。」

「だって……ちょっと飲めるもん。」

彼女のフカフカのベッドが暖かくて気持ちええ。あとこの寝室の正面の壁に、でっかい女性の裸婦画が飾ってあるのが気になる。これ見ていつも寝てはるんや……。

「家森くんに痛み止めもらってこようかしら?」

「ああ大丈夫です、横になってれば治りますから治ったら帰ります。」

「いいわよ別に、明日の朝までここにいて」

え……?

居ていいんか……?

「ああ……そうでっか……スマセン」

ならお言葉に甘えたい。それほどに今俺の頭はガンガンと激しく痛んでいる。痛みにグッと目を瞑ると、それを見たのかふうとため息を吐いたベラ先生が俺に布団をかけ直してくれた。

「でもベッドでは粗相しないでちょうだいね。これしかないんだから。」

「しませんしません……。」

なんか、優しいな。ベッドのそばの椅子で座って俺のことを見つめるベラ先生が悲しそうに俺を見たのが分かった。もしや、俺に飲ませたことにちょっと罪悪感を感じてるのかも。俺の母さんも教師やったけど責任感とかえらい感じるタイプやったからなぁ。

どうしたら気にしないでもらえるんやろ。せや、話題変えよ。

「そう言えばベラ先生って学園時代はレッドクラスだったんですかー?めっちゃ優秀やから聞くまでもないかもしれないですけど。」

ベラ先生は俺の方を見て首を振った。

「私はグリーンクラスよ。」

「ええ!?なんで!?」

「……別に優秀だからレッドクラスなんじゃないわ。性格の違いみたいなものよ。天才肌はレッドクラス、努力家はブルークラス、ダイヤモンドの原石はグリーンクラス。どのクラスだから成績が優秀とかそういう訳じゃないわ。それに学園の教師は学生時代に自分の所属していたクラスの担任になるって決まりがあるのよ。」

ほんならレッドクラスの一部の連中が俺らやグリーンクラスを見下した態度を取るのは間違ってることなんやな。あれは成績ちゃうやもんね。今度見下されたらベラ先生はグリーン出身ですけどその彼女に教えてもらってるのだれ〜?ってドヤ顔で返そっと。

「そうやったんや……となると、へえ〜。家森先生ってブルークラスだったんや。意外やなぁ……噂では飛び級したとか聞いたし。」

「ふふっ……すごいわよね彼は。高校でも学園でも医学院でも飛んでるのよ。」

「はっはっは!なんかハイテンションみたいでおもろいわ。」

ふふっと口元を綺麗な手で押さえて笑うベラ先生はあまり見たことない感じやった。ちょっとそんなことされると俺が照れるからやめてほしい。

「ふふ、そうね……何よ?」

やばい。にやけてたのに気付かれた。俺は口を尖らせてごまかしながら言った。

「いや……ベラ先生の笑顔が……何でもないです「笑顔が何よ」あ!そうや!ベラ先生、今日は一緒にいてくれてありがとうございます。」

危ない危ない……流せた流せた。それにしても何でこんなに俺は焦ってるんやろ。それに頭だって痛いはずやのに、今はあまり気にならない。

「いいえ、私があなたに飲むことを勧めてしまったんですもの。今度からはもう絶対にしない。さて、ちょっと詰めてくれる?」

「え?」

椅子から立ち上がったベラ先生がしっしっと手のひらを動かす。

ど、どういう?どういういう〜?

テンパりながらも俺がベッドの端まで体を移動させると、何とベラ先生が同じ布団の中に入ってきた。ま、ま、まあそうやね、これしかベッドないもんな。

「おやすみ」

「お、お休みなさい……」

そう言って彼女はサイドテーブルのランプの明るさを下げた。ああなるほど、寝るときに部屋を真っ暗にしない派なんやね。俺と一緒か……。しかも。

しかも彼女は猫みたいに丸まって寝るんや……可愛いな。可愛いなんて言ったら殺されそうやけど。

寝てるかもしれんけど、半分独り言のつもりでちょっと話しかけてみよ。

「……魔工学専攻しようかな」

「……ミニマムシステムの水属性のキャパシティプレーンをアンリミテッドした際に必要な属性と補正値は?」

「は?」

俺に背を向けて可愛らしく丸くなったまま、そんな難解な質問してくるんやもん。別にちょっと興味持っただけやのに何でそんな意地悪なん?と、俺は頬を膨らました。

「……うーん。せやなぁ。それ基礎クラスでやりましたっけ?」

「……あなたに合わせてハンドガンの問題を出したのにそれすらも分からないの?それにその通り、専攻クラスじゃなくて基礎クラスの内容よ。全く何年私の授業受けてるのよ。ちょっとショックだわ……」

「ちょ、ちょっと待って……それはごめんなさい。ベラ先生元気出して。」

はあと一回大きなため息をついて彼女が無言になってもた。ああ完全に俺はあかんと思われたな。

なんて……あれ?何でや。別にええやん。俺が好きなんはヒイロ……やもん。

チクタクと壁にかけられた時計が音を出してる。寝室であの音って、気にならんもんなんかな。それ言うたらあの巨大な裸婦画の方が気になるけど、あの裸のお姉さんこっち見てはるよ?それも気にならんのかな?

ちょっと色々とツッコミたいとこあるけど言ったら殺されるんやろな。それも含めてちょっと……可愛いかもしれない。

あかん。

寝れない。考えすぎてしまう。

せや、なんか賢いことの一つでも言ったらベラ先生のショックが回復してくれるかもしれんな……何やろ賢いこと。京都では北へ行くことをあがる言うんですよって……そんなん、だから何よってなるか。もう俺はあかん。今度からちゃんと勉強しよ。

「ねえ」

「え?はい?」

突然話しかけられた。何やろ。俺は背を向けたまま丸まってるベラ先生の黒髪を見つめた。

「高崎くんは有機魔法学を続ければいいじゃないの。この前のドラゴンの時、貴方のポーションで私の頭の傷が早く治ったわ。これからも多くの人を癒してあげてちょうだい。くだらない話してないで早く寝るわね。おやすみ。」

そのあげて落とす感じは何なん……でも、今の無言の間は俺のこと考えててくれはったんか、そんな優しさに俺は微笑んで彼女を見つめた。

「あ、ありがとうございます。お休みなさい。」

なら有機魔法学続けよ。これまでも家森先生が怖すぎて何度となく諦めかけたけど、考えてみれば家森先生が優秀やから俺みたいなアホでもここまでこれたんや。

これからもあの方に何度となく足を踏まれ背中を叩かれ、変な課題を休日にぶつけられるかもしれへん、でも今の言葉思い出したら底なしに頑張れる気がした。

これって何?

俺はもう一度だけベラ先生の姿を見てから、目を閉じた。

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