スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

第43話 眠りの中で

家森先生が買ってきてくれたお弁当を3人で仲良く食べて、食後にチョコマフィンも食べて、そのあとはテーブルの上でお絵かき大会をした。ソフィーはお花の絵を描いて私は家森先生の顔を描き、家森先生は私の顔を描いた。

私の描いた家森先生は目があっちこっち向いていて歯がボロボロで、家森先生が描いた私は鼻が折れ曲がっていて目が異様にパチパチしていた。お互いあっちの意味で画伯だったみたいでその絵を見てソフィーも含めて皆で笑ってしまった。

どういうことか我々が描いた絵を気に入った家森先生がその紙を持って書斎に入っていったので、ソフィーと一緒に書斎へお邪魔した。中は机の後ろの壁を除いて全ての壁が本棚になっていて本がぎっしりと詰まっていた。その真ん中にダークブラウンの木製の大きな机とその上にデスクトップタイプのPCが置いてあった。

そして机のところで家森先生が何やら机から出してゴソゴソしているので近付いて覗くと、驚くことに何と私と家森先生とソフィーの絵を額縁がくぶちに入れていたのだ。いやいやと焦る私をスルーして、彼はその3枚の絵を机の後ろの壁に飾ってしまった。

他に壁に飾ってあるのは医師免許の証書だったり学園の教師の証書だったり、しっかりしたものばかりだ。その他にも賞状のようなものも貼ってあるけれど、細かい字で読めなくて何の賞かは分からなかった。

その中にソフィーの描いたお花畑とガチャ目の家森先生と鼻がカールしてる私が飾られていて妙な存在感を出していた……この絵に見つめられて執務に集中出来るのかちょっと疑問だったけど、彼の家、彼の部屋なので何も言わなかった。それにちょっと嬉しかったし。

そんなこんなをしていたらソフィーが眠くなったみたいなので、一緒に歯みがきをして寝室のベッドに横になった。クリーム色の布団にベッドの枠組みは黒色だった。

側には大きなクローゼットがあって、ベッド脇には両サイドに小さいテーブルがあった。大きなベッド、乗ってみるとふかふかしていた。これで毎日寝ているのだからいいなと思った。

ソフィーが無事に寝たので、そっと離れてベッドから降りた。しかし彼女は端っこで寝ているのだ。どう考えてもこのままだと先生が真ん中で寝るか私が真ん中で寝るかなので、どちらにしても私と家森先生との距離がちょっと近すぎる。

それは困る……私はちょっとソフィーを動かそうとしたけど、ううんと嫌な顔をして泣きそうになったので断念した。他にはベッドが無いだろうし。私はリビングでPCを使って作業をしている家森先生を呼んで、この状況を説明した。

「なるほど、彼女どうしても動きませんか?」

「動きません。端っこがいつもの定位置みたいで。だから私はリビングの椅子で寝ますよ。それか他の部屋に椅子やソファでもあればそこに。」

そう、リビングと寝室、それに洗面所や書斎の他に、謎の部屋があと2つある。そこにもしかしたらもう一つベッドがあるかもしれないと思った。しかし家森先生は首を振った。

「隣の部屋は調合室で真ん中にソファがありますがとても寝られる状態ではない。それにもう一つは物置です。リビングのあの椅子でだって眠れるわけがありません。ヒーたんも今日は疲れたでしょう、どうにか一緒にベッドで寝る方法を考えましょう?」

でもいいのかな。家森先生は嫌じゃないのかな。あのスペースだと私とくっついて寝ることになるけど。

「いいんですか?嫌じゃないですか?私が近くで寝てて。」

「嫌ではありません。万が一寝不足でもコーヒー飲めば解決しますから。」

ああそう……ならいいや。あまり私が近くで寝ることに対して気にしてないようだし、もうそれでいいや。タライさんの時みたいに疲れてぐっすり寝てしまうのがオチだ。

「僕はもう少し明日の準備をしてから寝ます。ヒーたんはもう寝ますか?」

確かに、ちょっと眠いのでもう寝ようかな。その方がいい。起きたら先生がそこに居たぐらいの状況の方がぐっすり眠れると思った。

「じゃあもう寝ることにします。先生準備頑張ってください。」

ふふ、ありがとうと微笑んでから家森先生は寝室を出ていった。今この部屋にはソフィーのいびきが響いている。私もいびきをかいてしまったらどうしよう。ちょっと恥ずかしいけど、もう寝るしかない。

ベッドにまた乗って私はソフィーの隣で横になった。枕は何故か4つあったのでそのうちの一つを借りることにした。一人で4つも使うのか……でもムービーチャンネルで一人で3つ使ってる人を見たことがあったので、先生もそうやって枕を重ねるようにして眠るのかもな……そうこう考えているうちにいつの間にか深い眠りの世界に落ちていた。



寝返りを打った時におでこにコツンと何かが触れたので少し起きてしまった。

目を開けると家森先生の寝顔がすぐ目の前にあった。ああ、先生のおでことぶつかったのか……閉じられた目から伸びている茶銀色のまつ毛がすらっと長くて綺麗。眠たさの中でぼーっと眺めていると、先生が目を開けた。

「ん……失礼」

彼は小声で眠そうに呟いて、また目を閉じた。

「ごめんね……」

つい眠気でタメ口になってしまった。許可されてるけど……と思っているうちにまた目を閉じた。

スーッと落ちていくような眠気の中で、家森先生が私にキスしているのが分かった。ちゅ、ちゅと音を立てて、眠いのかゆっくりと何度も私の唇を挟むように彼の唇が動いている。後頭部には手が添えられていて、ぐっともっと彼の方へ引き寄せられた。

段々と家森先生の鼻息が荒くなっていくのが分かる。目を開けると、先生は目を閉じたまま私にキスをしていた。とろけそうな甘い感覚に、いつも以上に香る先生の匂いに、どくんどくんと胸が鳴る。

キスが終わると先生は私のおでこに口を付けてから、掠れた小声で言った。

「はぁ……ヒーたん、好き。」

「ん?」

それはソフィーと同じくらいかな。私は彼を見つめる。彼は目を開けて熱のこもった視線で私をじっと見た。

「ねえ、好き?」

「ん?」

「僕のこと、好き?」

……私は静かに目を閉じた。これはどういう好きなのかな。

「多分……先生以上に」

「ん?」

私は言いたいことは言ったのでもう目を閉じた。もう寝る。もう寝るから……

「僕以上に?どういうこと。」

ああもう……

「家森先生はソフィーが私を好きなように私が好きなんでしょ?私はもっと好きって意味……」

眠くてつい本音言ってしまった。もういいよ。きっと明日の朝まで覚えてないよ。

だけどまた、先生の唇が私の唇に触れた。ちゅ、と漏れる音につい胸がドキドキしてまた目が覚めてしまう。もう戯れが過ぎるでしょ……私は聞くことにした。

「家森先生は……私のこと好き?」

ふうと息を吐いて、おでこにキスされた。

「うん。好き、すごく。」

……はああ。

顔がもうこれ以上ないくらいに熱くなる。彼のことを見ると、彼もまた顔が赤く染まっていた。初めて見た。そんなに照れた表情。

私にじっと見られることが恥ずかしくなったのか、ぐいと体を彼の方に引き寄せて、ぎゅっと抱きしめてきた。彼の首元に私の顔が埋まる。

「このまま寝る?」

甘く囁かれた声に、私は頷いた。

ぎゅっと彼が私を包む力が強くなった。ドキドキして眠れないかもしれない。温かくて熱い。私はふふ、と笑いを漏らしながら言った。

「なんか熱いです。」

「ふふ、うん。僕も熱い。」

「じゃあ熱でもあるんじゃないかなー」

エッ!?

突然響く女児の声にばっと家森先生から離れて振り返ると、ソフィーが眠い目をこすりながら体を起こしてこちらを見ていたのだ。

私も急いで体を起こした。今の見てないよね!?見てたとしてもシュリントン先生に言わないよね!?いや誰にも言わないでくれ〜〜!

「ソ、ソフィー、どうしたの?」

チラと家森先生を見る。彼は欠伸をしながらサイドテーブルに置いてあった青い豪華な装飾の懐中時計を手にして時間を確認していた。ソフィーはベッドから降りて私に手を差し伸べてきた。

「おしっこ!」

「お、おしっこ?おしっこしようね……」

私はソフィーと手を繋いで寝室を後にした。そうか、おしっこで起きたんだ……トイレの前で彼女のことを待ちながら、さっき起きたことを思い出した。

あんなことになるとは思わなかった。でも、すごく好きって言ってくれて嬉しかった。それはソフィーに対して思う気持ちとは違うらしい。

「終わった!」

「うん」

ソフィーの手を洗って寝室へ戻った。ベッドでは家森先生が背を向けて寝息を立てていて、なんだか微笑ましく感じた。

ソフィーをベッドに寝かせてサイドテーブルのランプを消して私も横になった。私は横を向いて寝たい派なので、どちらかを向きたいんだけど……まあ、ソフィーの方を向こう。私は寝返りを打った。

ゴソゴソ

ん?多分家森先生が寝返りをうっている。と思っていたら後ろに密着されてお腹に手を回された。首筋に彼の鼻息が当たる。

「……ヒーたん」

「ん?」

優しく聞き返すと、彼は足を私の足と重なるようにくっつけてきた。

「今日、どうして僕を避けたの?有機魔法学の授業の時も僕のこと見てくれなくて、お弁当だってベラから受け取った……少し、寂しい。」

何だろう……眠いからなのか、家森先生はさっきから甘えたような掠れた声で話す。それがまた私の心をキュンとさせるのだ。それに、今日の行動がそんなに気になってたなんて。それほどに私を想ってくれてるのかな。

「昨日キスされて、ちょっと緊張しちゃうから見れなかったんです……そうでなくても最近ちょっと緊張するので。寂しくさせてごめんなさい。」

「うん……」

ぎゅっと私のお腹に回された腕が力を入れてきた。うーん……あと気になっているのは、、何かがあるのだ。

私のお尻に何かくっついている。硬いのが。これは何?

さわっ

「あ!こら」

「え!?え?」

家森先生がビクッとして私から素早く離れた。振り返って先生の方を向くと顔を真っ赤にして首を何度も振っていた。腫れ物なのかな。

「どうしたのですか?腫れてるの?」

ぶっ、と何故か笑いを漏らした後に先生は赤い顔のまま言った。

「意味が……分かってから触ったほうがいいです。」

「それは、どうしてです?」

「大人の世界の話です。ヒーたんはもう少しじっくり知ればいいんですよ……」

「ああそうなんですか……」

大人の世界の話か。よく分からないけど明日図書室で調べてみよう。
私はまたソフィーの方を向きながら横になった。先生は私に背を向けて寝たのだった。



*********


翌朝、ソフィーに叩き起こされた僕とヒーたんは急いで登校の支度をしていた。リビングに玄関のチャイムの音が響き、僕がドアを開けるとそこにはトレーニングウェア姿のベラが立っていた。彼女はいつもジムに行ってから出勤するらしい。

「おはようございます、ベラ。」

「おはよう家森くん……まさかとは思うけど、昨日やった?」

「え?」

朝から何てことを言うのか。ヒーたんに聞こえてなかったか気になって振り返る。

今彼女はソフィーと一緒に洗面所に行っているようだった。僕はまたベラの方を向き、力強く首を振った。確かに、ベラとはそう言うことも気軽に話せる仲ではある。きっと僕の肌色を見てそう判断したのだろう……やれやれ。

「やってませんよ……ソフィーがいるのに。それにヒー……ヒイロはまだそう言うことを知らないんです。それにまだ我々はお付き合いをしていません。」

ベラは驚きの表情をして聞いた。

「もうそっちの記憶もないのね?ヒイロは。」

「ええ。そのようですね。ですから大事に……」

僕が髪の毛をかき上げるとベラは慰めてくれようとしたのか僕の肩をポンとしながら言った。

「それじゃあ、あなたにしてはよく頑張ってるわね。私なら愛する女性と何もせずにくっついて眠れないわ。」

彼女の言葉につい僕も微笑む。

「そうですか、ベラはどちらかと言うと僕らの仲間ですね。」

「ふふっ、まあ対女性という点に関しては仲間かもしれないわね。あ、そうそうこれ買ってきたの。今日の二人のお昼のお弁当よ、良かったら食べてちょうだい。」

そう言ってベラは僕に売店のお弁当の入った袋を渡してくれた。

「頂いてしまって、ありがとうございます。」

「いいのよ、ソフィーの面倒も見てくれたし。それに今朝電話連絡したら奥さんの体調も良くなってきたみたいだから、もう退院出来るみたいよ。応急処置が的確だったって。さすがね。」

「そうでしたか、それは良かった……」

するとリビングからソフィーとヒーたんの楽しげな笑い声が聞こえた。二人で遊んでいるようだ。それを聞いたのかベラが言った。

「あの子、子どもも好きなのね。優しい子ね。」

「そのようですね。」

「ふっ……あまりそのまま放っておくと誰かに先越されるかもしれないわよ?高崎くんとか。」

ニヤニヤしながら言うベラに僕はため息をついた。

「そうはさせませんよ……」

分からないわよ?と言い残してベラは去っていった。僕は袋を持ったまま少しヒーたんを見つめた。高崎がもし彼女と……確かに僕には見せない態度を高崎に向けることはある。

しかし、そうはさせない。

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