スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

第22話 コンテストとバスでの会話

春が訪れ気温が暖かくなってきて、寝ている時も布団がいらないほどになってきた。いつもならちょうどいい気温が原因で二度寝してしまうけれど、その日は朝早くに起きて例の映画の主題曲コンテストに作曲したデータを応募ページから応募した。

これであとは結果を待つだけだ。作曲するのにちょっと時間がかかったけど一応いい流れの曲が出来たと思う。PCの作曲ツールで試行錯誤しながら打ち込んで、休みの日にシュリントン先生に音楽室の鍵を借り、ピアノでサクッと録音したものだ。

まあ、なるようになる。これで大賞じゃなくても佳作だったとしてもちょっと賞金がもらえるから、そのどれかに選ばれれば私は防具や日々の食事をもう少しリッチにすることが出来る……ヒッヒッヒ。

物思いに耽ってしまったが、今日は学園の外で課外実習が行われる日だ。急いでリュックに適当に筆記用具を入れて部屋を出た。

初めて学園の外に出るけど外で一体何をするんだろう。校庭に着くとやはり全クラス合同で行うようで、大きなバッグを抱え防具を付けた全クラスの生徒たちがが集まり始めていた。

始まる前に我々グリーンクラスの生徒はベラ先生からプリントを受け取った。周りを見ていると皆はそれぞれ配られた紙を目にし、驚いたりだるそうな声を出したりしている。

「課外授業……。」

私も配られた紙を見ることにした。課外授業をよく知らないのでバッグの中にはあまり用意周到に何か入ってる訳じゃないけど、大丈夫かな。ノートとペンだけ入っている。あと携帯もね。

そして配られた紙にはグループ毎に生徒の名前が書いてある。それを見ていると隣に立つリュウが私に話しかけてきた。

「ヒイロ、どこのグループだった?」

私の名前は何処かな……あった!

「C班だよ!リュウは?」

「俺はI班だー。じゃあ行き先も違うな。」

「行き先?」

確かにグループによって行き先が3通りくらい分かれていた。そっか、リュウとは別の行き先だ。リュウは渓谷で、私は荒野。あと一つは火山だった。火山グループに関しては、あの黒い煙が渦巻いている火山のふもとまで行くらしい……なんか怖いので私はそこじゃなくてよかった。

引率の先生にも目を通す。火山はシュリントン先生で、渓谷は家森先生、私が行く荒野はベラ先生だった。

「ヒイロさぁ、渓谷の方が良かったんじゃない?」

そう言ってニヤニヤしながら肘で脇腹を突いてくるリュウの頭を軽く叩く。なんでタライさんといいリュウといい、私と家森先生がどうにかなることを想像するんだろう。

「もう……そんなんじゃないから!」

「そう?」

もう一度配られたその紙をよく見ることにした。C班のグループメンバーが記入されている。他は誰だろう?

マリー・リーヴィー、ジョン・フォッジ、エレン・ミラー

「あっ」

最初のラボの時と同じメンバーだった……というかいつも金曜の実戦はこのメンバーだ。もう固定っぽい。

「またタライさんと一緒かよ!」

リュウがプリントを見せてきたので、彼のグループのメンバーを見てみると、ハロとケビンとタライさんだった。

なるほど!だからリュウはタライさんのことを最初から知っていたし、彼とすぐに知り合えたんだ!そのメンバーは正直羨ましい。

「正直羨ましい〜。」

そのまま口に出てしまった。

リュウは笑いながら「なんでー?いいじゃん!マリーは美人だし。ベラ先生も美人だし。」と言った。

「美人ねぇ……」だから何がいいのだろうか。

そう思ってるとリュウが私の肩を手のひらでぼすぼす叩いてきた。

「魂が抜けたような顔すんなって!今日の実戦でやられるぞ?」

リュウにそう言われプリントの下の欄を見ると、授業内容にクラス合同チームによる弱小モンスターとの実戦と書かれているのを発見した。

「ああ!?今日の課外授業って外での実戦だったんだ!」

「そうだよ……まさか忘れてたんじゃないよな?あ!じゃあ、先行くわ!」

「うん!気をつけてね!」

お前もな、と軽く手を挙げてリュウは手招くタライさんと共に渓谷行きのバスに向かって走って行った。

周りを見れば、皆が慌ただしい様子で自前のローブを羽織ったり魔道書を入念に見たり、防具をつけ始めている。

それほど怪我をするような実戦なのだろうか。今日ばかりはもう腹を括って防具を買った方が良かったのかもしれないと、何も準備をしてこなかった自分をちょっと悔やんだ。

校庭にはそれぞれ引率の先生の周辺に、グループ毎に分かれて生徒達が集まっていた。

「次はI班です。タライ、ケビン、リュウ、ハロ……全員居ますね。」

隣のグループから家森先生が点呼を取る声と、はーいいますよーと答えるタライさんの声が聞こえる。彼らは渓谷に行くのか……以前シュリントン先生の獣扱学の授業の時に渓谷は小さなモンスターがたくさん出ると聞いた。

無事に家森先生が過ごせるといいな。勿論タライさんもリュウもみんなもだけど。こうしてちょっと家森先生のことを考えてしまうのはタライさんやリュウの言う通り、もしかしたら私はちょっと先生のことが……いやいやいや!何を。相手は先生なのに。何をヒイロったら!

「C班はヒイロ、マリー、ジョン、エレンの4人ね。」

考え事をしてる中ベラ先生に呼ばれて、ちょっと慌ててはいっ!と大きな声で答えてしまった。私のことをC班の皆が見てきて笑ってる。

「ふふ、ヒイロは元気がいいわね!さて、この4人だと一番先輩なのはジョンだから、前回と同様にリーダーはジョンでいいかしら?」

ジョンはまあいいけど、と言って了承した。

正門の前にはバスが3台駐車していて、それぞれ火山、渓谷、荒野とプレートがかかっていて、行き先ごとに分かれているようだ。この大型のバスの魔力車に乗って目的地に向かう。

ベラ先生に見守られ中がらゾロゾロとバスに乗車して行くA班のメンバーの背中を見ていると何か感じた。

ふと渓谷行きのバスの入り口を見ると、同じくバスに乗り込む生徒達の確認をバインダーにチェックしながら行っている家森先生が、チラと私の方を見つめていたのが分かった。目が合うと彼は一瞬周りを見て誰も見てないことを確認してから、生徒の皆に悟られないように一瞬微笑んでくれた。

これは一体なんなのだろうか。なんなのだろうと思いながらも、そうされると私だけ特別に思ってくれてるみたいできゅんとしてしまう。また別行動してるときにメールでもしてくるのだろうか。もししてきたら……ちょっとだけ早く返信しよう。

そんなことを考えながらとうとう私も乗り込む順番が回ってきたので、ジョンとエレンが乗り込んでから私もバスの中に入った。2人がけの席、私の隣はマリーが座ることになった。ちょっと振り返ると真後ろのジョンとエレンは手をラブ繋ぎしちゃって、もうイチャイチャモードを始めている。これはこれは先が思いやられる。

バスが進み始めて隣のマリーが携帯を操作し始めたので、私も自分のシャツのポケットから携帯を取り出して何をする予定もなく画面を開いた。

その時にばっと隣のマリーに携帯を奪われてしまった。彼女は私の携帯の画面を食い入るように見つめた後に言葉を放った。

「ねえ、これって何の写真?」

「ああ……通常実践魔学の授業の時にケビンとやっと魔法が出せるようになったから3人で屋上に行って……記念に撮った写真だよ。」

優しい声で説明したけどそれも暖簾のれんに腕押し、私の携帯を持つ彼女の手は震え、明らかに彼女が歯を食いしばりだした。あまりの気迫に、もしかしたら私は殺されるかもしれないと思わされるんですけど。

「少人数の授業だとこうやって先生と触れ合いながら授業を進められていいわね……この授業を取るか本当に迷ったのだけれどヤモリが苦手だし、だから私は有機魔法学を取ったけれど専攻の生徒数が多くて家森先生の近くにさえ座れないから……羨ましいわ。」

そうか。マリーは家森先生が好きなのだからそう思ってしまうんだ。それは先生としてじゃなくて一人の男性として好きなのだろうし……。

「ヒイロは最近、家森先生と何かあった?」

「最近?」

何かってどういう意味の質問だろう?もしプライベートで仲良くしてるのか、そういう意味で聞いてきたのなら心当たりがあるようで何もないので私は首をかしげる。

「ええ。最近特別仲良くしていないのかしら?ただ何かあったかなって気になったんだけど。どうなの?」

「ああ……うーん。まあ別に普通というか。たまに先生からメールがきたら返すくらいで他は何も無いよ?」

マリーはふうん、と口を尖らせる。

「先生とは本当にそれだけ?メールなら私も毎日のようにしてるけど。ヒイロはどれくらいの頻度なの?」

え……マリーは家森先生と毎日のようにメールをしているのか。なんかちょっと驚いたというか……別に私だけにしょっちゅう送ってた訳じゃないのかと思うと切なくなった。しかも彼女には毎日送っているのか……。私はその気持ちを隠しつつマリーを安心させる為に口を開いた。

「私は一週間に一度メールが来るか来ないかだよ。そんな気にしなくても私は家森先生には興味ないから大丈夫だよ。」

そうは言ったものの、果たして本当に興味ないのかと考えればそれはちょっと違うかもしれない。

いやいや何を何を!私は勉強に集中するんだ!それにこんな、醤油顔で背も他の子よりちょっとノッポな私よりも、目がクリクリでちょこんとした可愛らしい美人のマリーの方が家森先生に釣り合ってるよ。

マリーは私の言葉に納得したのか正面に体の向きを直すと、そうなんだ、と口角を上げた。

最初のラボの時から分かっている。確実にマリーは家森先生が好きだ。マリーのような美しい女の子に好意を寄せられていると分かれば誰だって嬉しいに違いない。ましてや家森先生。彼女の気持ちを知って付き合わない訳がない。

そうなれば誰から見ても美男美女のカップル誕生だ。こんな記憶喪失のへんちくりんな私よりずっとお似合いだと思う……そうだ、たまに手を差し伸べるくらいの協力をマリーにしようと窓の外の景色を眺めながら思った。

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