スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

第5話 初めての実戦とお買い物

昨日家森先生が言ってた通り、今日は全クラス合同で魔法を使用した訓練のようだ。その前に自分のクラスに一旦集合して担任の先生から魔法の使い方を教えてもらう時間があった。私のクラスは新入生がリュウと私だけなので他の生徒たちは……ワイワイおしゃべりをして楽しんでいる。

ベラ先生に言われた通りに手のひらに意識を集中させて魔法を出そうとするがなかなか上手くいかない。リュウはもう既に風の刃をシュッシュッと出しているのに、私は何も出ない。

「まあ大丈夫、そのうち出るわよ」

そういうことにしてもう実戦の授業に出ることになった……そんなぶっつけ本番でいいのかちょっと不安だけど、まあグループで行動する様なので他の人がいるなら付いて行けば大丈夫だろうと言った他力本願の気持ちで挑むことにした。

地下階にあるラボにクラス全員とそれぞれの先生方が集合して、チーム毎に分かれた。私のチームは4人だけど、他の人達は皆ブルーやレッドのクラスで、やはりそれぞれのカラーのローブの制服を着ている。私だけ私服と思うとちょっと恥ずかしかった。

グループ毎にラボの更に地下の倉庫に入って行って、練習用のモンスターと出くわすみたいな訓練らしいけど、どうすればいいのか詳細は分からない。まあ、誰かが分かってるだろうからそれに従おう……。

ここは魔工学のラボらしいがとっても広く、白い大きな室内にたくさんの機械機械類が色々と置いてある。その機械を勿論何に使うのかはよく分からない。

いよいよ我々の順番になって、ラボの地下倉庫にエレベーターで降りると足元にこの先へ進むように指示が書かれていたので、私を先頭に皆で進んでいくと、倉庫の奥で球体が光って浮かんでいるのを発見した。

で?どうするの?その後どうしたらいいのか分からない。球体の前で皆でキョロキョロしていると私が足元に何か書いてあることに気付いた。

そこに書いてあった指示は元きた道を戻れ、だったので我々は戻ることにした。たった行って帰ってくるだけ?モンスターはいなかったけどそれで良かったのだろうか……。

不安になりつつも倉庫のエレベーターの手間まで戻ると、私はエレベーターを呼ぶボタンを押した。本当に行って帰って来ただけになってしまっている……この訓練に何の意味があったのだろう……ただラボを歩いただけ。

グワッ

背後から音が聞こえた音に私が振り向くと、何かクネクネして細長い黄色いチクワの様なものがそこにいた。

な、な、何これ!?

するといきなりその黄色い細長い何かが我々を襲ってきた!
しかもそれは私たちのグループの一人であるレッドクラスの女の子を一気にごくんと飲み込んでしまったのだ!オーマイ!!

「わあっ!?」

このグループのリーダーを務めるちょっと小太りのブルークラスの男が恐怖に歪んだ顔で叫んだ。

彼はそばにいたもう一人のブルークラスのローブを着た女性、おそらく彼女なのだろうを抱き寄せ、エレベーターをボタンをガチャガチャと連打して必死に起動させようとしている。

黄色い物体は次元を歪ませるような魔力の波動をこちらに向かって出し、私とカップルは吹き飛ばされた。するとその時、エレベーターがチンと鳴って到着した。

私は比較的エレベータの近くにいるリーダーとその彼女に向かって叫んだ。

「い、いいから先に行って〜!」

「わかった!」

そ、そう……。

まあ私がそう言ったんだけど本当に置いていくんだ。はは、彼が物わかりが良すぎて苦笑いした。
そして彼らは到着したエレベーターで先に脱出してしまった。

私はどうしても飲み込まれた女の子を助けたかった。女の子といっても、二十歳は超えていると思うけど。と、とにかくその女の子をどうにかしたい。

黄色い物体はこの場にたった一人残された私の方を見ている……気がする。目はないので分からないけどこっちをロックオンしている気配がする。今にも波動を出して来そうな緊張感。空気が凍った。

私は物体に手のひらを向けて魔法を出そうと力み始めた。

「ああああぁ…。」

ああ。きっと、出ないかもしれない。でも彼女を助けたい!
お願いお願い、何でもいいから出て!

両手を物体に向けて全身でりきむ。物体は私に向かい、波動を出そうとしている。

「わあああっ!」

すると突然、体の奥の方からぐわっと魔力が引っ張られる感じがして、その瞬間、手のひらから炎の塊が出てそのモンスターを襲った。

私の炎の弾を食らった物体は床にボトリと倒れた。

え?今の何、これは……私の力なの?へえ、私の属性って炎なんだ。そっか……。

しかし体はきっとダメージを受けた。そんな気がする。体の奥がじんわりと痛くてつい、目をぎゅっと瞑った。
まだ魔法に慣れていないのかもしれない。そりゃそうかも、今日初めて出したんだし。

すると黄色の物体からニュルッと飲み込まれた女の子が出て来た。
レッドクラスのローブを着た彼女は私の方を見ると、慌てて私に近寄って抱きしめてきた。く、くるしい……!

抱きついて来る彼女を引っ張りながら私はエレベーターの方へ向かおうとした。

その時、何かがこちらに近づいてくる足音が聞こえた。また変なモンスターが現れたのかもしれない!どうしよう!?もう魔法は出ない気がするし、早く隠れないと!

私は女の子を抱きしめながら、隠れられる場所を探す。
辺りを見回しているとラボのとある箇所に研究員の制服がたくさん掛かっているラックを見つけた。私は彼女を連れながら掛かってる服の間に隠れることにした。

足音がコツコツこちらに近づいてくる。ああ〜〜我々バレてるかもしれない!

近づく足音に女の子は更に怯えて震えて私を抱きしめる。私は大丈夫だと、彼女の背中をさすった。

これはもう終わった。もう私の人生終わった。こんなことなら食費ケチって過ごさないで昨日の夜はステーキにするんだった。

身を潜める我々のすぐ側で、足音は止まった。

「おやー?」

独特のアクセントの男性の低い声が聞こえた。

人間だ…囮になることも兼ねて、味方である可能性を信じて、衣服の間に彼女を残して私だけ衣服の間から飛び出た。

急に私が目前に飛び出したからか、彼は驚いて仰け反った反応をした。

「ああ!こんなとこにいた!僕です。帰りが遅いので何をしているのかと迎えにきました。リーダーのジョンは?」

そこに居たのは、白衣を着た、茶銀の髪色の家森先生だった。なんだ……私はホッとして質問に答えた。

「ジョンって小ぶと……いや、金髪の男性ですよね。彼ともう一人のブルークラスの女性は先にエレベーターで脱出しました」

「そうでしたか……置いていくとは薄情な。しかしプリントで伝えたと思いますが、今回の訓練、逃げるだけでよかったのですが……」

え?そんな連絡あったっけ……?ああもしかしたら記憶が無い状態の時に受け取っていたのかもしれない。もっとちゃんとリュックに詰め込んであるプリントに目を通しておけばよかったと、私は苦い顔をした。

家森先生は地面にぐたっとする黄色いチクワを革靴の先でツンツンしてもう動かないことを確認している。足で生存確認するとは、ちょっとドSなところもあるのだなと少し面白く感じた。

そして一緒に隠れていたレッドクラスの子も衣服の隙間から家森先生に手を取られ、恥ずかしそうに出て来た。私の隣に立った彼女は、何故か頬を赤く染めて、艶やかな眼差しを先生に向けていた。

もしかしたら誰かが恋に落ちる瞬間を初めて見たかもしれない。

「さて皆のところへ戻りましょう。マリーは大丈夫ですか?先程からぼーっとしていますが。」

「ああ!はい……ちょっと考え事を」

彼女の名はマリーと言うらしい。レッドローブに身を包んだ、容姿端麗なかなりの美人さんだ。マロンブラウンの髪色はさらっさらで毛先が少しカールしている。目もぱっちりして鼻もすらっとして……見てると落ち込んできたのでもう見ないことにした。きっと彼女なら軽く家森先生を手玉にとることも出来るだろう……それくらいに可愛い。

エレベーターに向かう家森先生の後ろを私とマリーが付いて行く。もしマリーが家森先生にアプローチし始めたら、どうなるだろうか。きっと、マリーとくっつくだろうか……何を考えているヒイロ!別にそれでもいいじゃない……いや、ちょっと嫌かもしれない。あああ!

「あああ!」

ん?と二人が私を見つめてきた。そりゃそうだよね、急にそんな声出してしまって。でもそれくらいに何故か耐えられない気持ちになってしまった。

エレベーターも無事にラボ階に着き皆と合流したところでその日の授業はお開きになった。

お開きになった瞬間に、何故かベラ先生に腕をぐいっと引かれてしまった。

「ちょっとヒイロ」

「え?」

なになに!?何かしました!?

「……何故あなたが防具をつけていないのか訳を確認してくださいって家森先生に言われました……だから何故つけてないのか話してくれるかしら?」

ちょっと、いやかなり不機嫌な表情のベラ先生は今までで一番怖かった。私は震え出した手でぎゅっと拳を作りながら、謝罪することにした。

「ごめんなさい……まだ買えていないんです。次回までにはどうにか。」

「まだ買えていない!?ああ、必要な持ち物欄に書いてあったはずでしょう?売店で売っているから次回までに用意してちょうだいね。さも無いと私がまた家森くんに言われるんだから……彼の方が年下なのに。」

「あ、そうなんですか……家森先生の方が年下」

「ええ、そうよ。彼の方が後から入ってきたわ。副学園長の話、実は私にきていたのだけれどどうしても……シュリントン先生の補佐になりたくなくてね。ふふ、そんなことはどうでもいいわ、兎に角来週までには用意してちょうだい」

ポンと私の肩を叩いてベラ先生が去って行った。ちょっと職員室の事情を聞いてしまった感があるけど……そうなんだ。そこまで話してくれて悪いけれど、来週までに用意すると言うのも出来ない気がする。だって……高いんだもん。ベラ先生には本当に悪いけれど私はしばらくこのままでいかせていただくしかない。

今回の授業は現地解散だったのでラボを出て地上への階段を登っていると誰か走って近寄ってきたのが分かった。振り返ろうとしたら隣にリュウが来た。

「よお!ヒイロおつかー!明日参加するよね?」

「明日?なんの話?」

リュウが驚いた表情を作って私の肩をぼすぼす叩いてきた。

「明日食事会あるの知ってるでしょ?クラス前の掲示板に貼ってあったし、PCの@アークのTOPにも情報書かれてたと思うけど」

そうなんだ……思えば、ここに来てからこの掲示板なんか見たことなかった。
端っこは剥がれかけているし、貼ってある紙も色褪せていて、かなり前のものが貼りっぱなしなのだと思っていた。

それにしてもリュウは意外と情報をこまめにチェックしてるんだ。しっかりしているんだなと思った。

「まあじゃあ俺から説明するけどさ、18時から千屋艇、但し20歳以上限定で、幹事はタライさんだから」

「タライさん?」

「うん!俺たちと一緒で地上出身の人。先輩だよ。この食事会は全クラス合同だからさ、ヒイロも参加してよ!ね?」

まあ、二十歳以上と限定すると、合同でない限り人数集まらないか。それに…私は何歳か分からないけど鏡を見た限りでは二十歳以下ではない気がする。なので頷いた。

「よっし!じゃあ明日の17時に正門のところで!ああ〜何着て行こうか迷うな。ちょっとレッドクラスって可愛い子多いし」

「女の子狙ってるの?その食事会で知り合おうと思っているの?」

「そりゃあさ!せっかく皆で食事するんだから色んな子と知り合わないとね」

ニヤリと笑うリュウはいつになく楽しげな表情だった。そっか、確かに私としても他のクラスの男性と知り合えるチャンスなのかもしれない。あまり彼氏が欲しいとか考えたことは無かったけど、知ってる人を増やしてみたいと思う。

そうと決まれば!ちょっといつもより可愛らしい格好をした方がいいと思うし、少しだけ洋服を買おうと思った。リュウと1階に上がったところで別れて、売店へ向かった。

売店は食品コーナーや文房具、衣類に家電、魔法に使う道具、もうなんでも揃っている。店員は白い頭巾を頭につけたエプロン姿のふくよかなおばちゃん一人でいつもニコニコとレジをしてくれる。

私は早速衣類コーナーで可愛らしい服を買おうと思ったけど……何が可愛らしいのか分からなかった。予算的にも普段から着れる物がいいなと考えながらハンガーをたまに手に取りながらじっと眺めた。

ああ、これがいいかも。カーディガンだけどリブ素材なので体のラインが出る感じだ。カジュアルだけど少しセクシーかも。これと……下はスキニージーンズがあるのでヒールのある靴を買うことにした。これならいい感じだ。

ふと側の棚に置いてあるコロンの瓶が目に入った。きっと家森先生やマリーはここで買っているのかもしれない……家森先生の匂いはどれだろう。テスターの小瓶を端から端まで匂いの確認をしたけど彼と同じ匂いは無かった。

……はっ!何を恐ろしい行動を取っていたのだ私は。そう、きっと過去の私が変態なんだ、私じゃない、過去の私がいけないんだ!そう思うことにして取り敢えずカゴに入ったものを購入して部屋に戻った。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品