浮遊図書館の魔王様

るーるー

第111話 ウサギがくつろいでいました

「誰が自分がフルボッコにされる話にのると?」


 若干白けた目をウサギにわたしは向ける。そんなイジメイベントに誰が参加するわけないし。


「戦闘と言いましても全てが戦いで決するというわけではないよ? ゲームで決着を決めても構いません」


 再びウサギがいつの間にか手に取ったティーカップを口元に運ぶ。
 こいつ紅茶好きだな。


「そもそも誰が参加するのよ」
「こちらから参加するのは勇者が四名でございます」
『勇者⁉︎』


 その場にいる全員が驚きの声を上げる。わたしも驚いたよ。いや〜勇者が来るとはね。


「女神様も退屈していましてなぁ」
「退屈で勇者を魔王にぶつけるのか、女神は……」


 ベアトリスが呆れたような声を出す。
 仕方ないんじゃないかな。退屈って一番の敵だと思うしね。


「いやいやいや、魔王を討つのは勇者の本文でしょう?」
「それもそうだね」


 魔王と優雅に紅茶を飲んでる勇者ってのは見たくないよね。
 なんか勇者の評価が下がりそうだ。


「まぁ、女神様の退屈しのぎにお付き合いください。でないと僕の仕事も増えるんですよ」
「仕事が増える?」
「ええ、退屈になると以前ならば地図に向かい弓を放って刺さった地域に魔王を出現さしたりしてましたからね」
「なにその愉快犯……」


 いくらわたしでも退屈だからと言って街を潰すことはないよ。というか女神のほうが魔王じみた所業をしてる気がするんだけど。


「まぁ、女神様を退屈させない程度にイベントを提供、後始末をするのが僕の仕事でしてね」
「あなたも苦労されているのですね」


 ユール、ベアトリス、カハネルがウサギを見る目が変わってる! あれは同じ悩みを持つ目だ!


「え、みんなそんなに苦労してるの?」
「「「主にあなたが原因だ」」」


 声を揃えて言われました。 そんなに迷惑かけてたのか。


「と、ともかく、死なない程度にしていますねので是非参加をしていただきたいのです」


 なんとも言えない空気になりかけたのに焦ったのか慌てたように口を挟んできた。


「めんどうね」
「そこは僕を助けると思って!」


 気だるげにわたしが言った次の瞬間にはわたしの足にウサギが縋りつくように抱きついてた。早!


「ちっ!」


 すぐさまレキがウサギに突進、瞬時に刃を閃かせウサギを両断しようとする。


 カチン!っと音が響き、わたしは目を見開いた。


「いやいや、あぶないですよ?」


 何事もないように言ったウサギの手にはレキが振るった剣が握られていたからだ。


「へぇ」


 受け止められた刃を見てレキが狂気じみたニタァという音がなりそうな笑みを浮かべながら剣を引く。


「いや、しかし、あなたやりますね。無傷で掴むつもりだったんですが」


 そういうウサギの手を見ると着けていた白い手袋は裂け赤く滲んでいた。


「次は斬ります」


 凄く笑顔のレキ。最近気づいたけどレキは笑ってる時が一番やばい。


「いえ、やめておきましょう」


 ウサギは軽く腕を振ると先程まで赤く滲んでいた手袋が真新しい真っ白な手袋に変わる。


「勇者様も僕くらいは強いですよ?」
「あ、余計なことを!」


 そんなこと言ったら好戦的なレキが戦いたがるじゃないか! わたしは平和主義者なんだよ。ほら、目をキラキラさしてこっち見てきてるし。
 仕方ない……


「レキ」
「はい」
「そこのウサギ、斬っていいよ」
「あれ? その結論おかしくないかな?」


 わたしの言葉に少し焦ったかのようにウサギが一歩下がる。


「うるさい。食事を邪魔された挙句に余計な問題までもってきたんだ。首の一つや二つ置いて行きなよ。それにね」


 わたしはニタァと笑う。その笑みを見てユールとベアトリスはため息をついた。これから起こることがなんとなくわかったのだろう。


「東の国の言葉でシニンニクチナシと言う言葉があるんだ」
「戦略的撤退!」


 わたしが喋り終えると共にウサギは踵を返して逃げ出した。


「逃がしません」


 しかし、回り込まれた!


「むぅ、先程より速い⁉︎」
「首もらいます」


 目にも留まらぬ速さでレキが剣を閃かす。ウサギは逃げようとしたようだが動けない。


「むむ?」
「めんどうだからここで死んどいて」


 ビリアラが紙魔法ペーパークラフトで紙を操り足を身動きできないように固定していた。


「ハッハッハ、これは一本取られたよ」


 何故か愉快そうな声を出しながら笑うウサギの首に剣が当たりなんの抵抗もなくウサギの頭を跳ね飛ばした。


「いやいや、素晴らしい! まさか僕の首をはねるなんてね」


 空中でクルクルと回る首が喋る。ふむ、最近のウサギは首をはねても死なないものなのか。


雷魔法ライトニングランス


 わたしは空中の首に指を指しながら魔法を唱える。幾つもの雷が束ねられ槍と化しウサギの顔面に突き刺さり爆発する。


「……容赦がないのぅ」


 ベアトリスがウサギの首が吹き飛ぶ様を見ながらため息混じりに言う。


「いや、全くだよ。客人に対する礼節がなってない」


 若干イラつきながら声の聞こえた方に体を向けると先程吹き飛ばしたはずのウサギがモグモグという音を立てんばかりに食事をしていた。


「な⁉︎」
「どうやって?」


 レキとビリアラから驚いたような声が上がる。そりゃそうだろう。攻撃してたのは彼女達なんだから。まぁ、首を破壊して生きてる時点でわたしも多少驚いてるんだけど。


「いや、こんな敵になりそうなまっただ中に何の策も無しには来ないよ?」
「確かに」


 そりゃそうだ。わたしでも行かないよ。しかし、面倒だ。このウサギにつきまとわれるのが面倒だ。このままじゃ落ちついて本も読めないし。


「じゃ、ゲームに参加してあげるよ」
魔王レクレさま⁉︎』


 え、なんだよ。みんなしてこっち見て。
 だって受けないとこのウサギしつこそうなんだもん。


「でも、条件があるよ」
「聞きますよ」


 上機嫌な様子なウサギを見ながらわたしは口の端を吊り上げて笑う。


「ゲームはわたし達に決めさしてもらう」


 それを聞いたウサギの目は楽しそうに輝いていた。

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