浮遊図書館の魔王様

るーるー

第109話 知らないとこで見下ろされていました

 


「混沌としているね」


 ライブラリはるか上空から街を見下ろしながらウサギ仮面は何もない空に浮かび一人愉快そうに口ずさんだ。
 見下ろしたところは先程ハピるんが歌で潰し瓦礫の山と化していた。


「愉快そうね。ウサギ」


 後ろから声をかけられたためウサギ仮面は振り返る。そこにはクルクルと日傘を回し退屈げな表情を浮かべたラヴリがウサギ仮面同様に何もない空に立っていた。


「これはこれは、ラヴリ様。下界に行かなくてよろしいので?」
「必要ならそうするわ。ただ今は必要ないでしょ?」


 なぜかいらただしげにラヴリは呟く。


「なにやら不機嫌でございますな」
「ええ、私のタルメアの近くにひどく暑苦しいのがいるのがたまらなきな嫌だわ」


 それだけではないだろうがウサギ仮面は特になにも言い返さなかった。


「あなたの勇者も好きに動いているようですね」
「そこまで束縛する気はないわ。もともと勇者アレとはそういう契約なのよ」


 もともとあまり束縛を好まないラブリは興味なさげに答える。


「なにより私はタルメアと争うつもりはないわ」
「その割りには一番にタルメア様と争うように魔王と戦う役に立候補してましたが?」
「タルメアの肌に傷がついたら嫌じゃない!」


 なるほど、とウサギ仮面は頷く。どんな理由よりも彼女ラヴリらしいと考えたからだ。


「なら尚の事今のうちに魔王を消してしまえばいいのでは?」
「まだ開始してないのにそんなことしたら容赦無くペナルティを出してくるくせに」
「ばれましたか」


 ラヴリはふざけるウサギ仮面をジト目で睨む。ハッハッハっと快活にウサギ仮面は笑う。


「まぁ、前回の『イケイケ! 魔界侵略ボードゲーム! 血で贖わせろ編』でトップだった方は余裕がお有りですね」
「あのゲームとはまた違うでしょ。それに今回のゲームはあくまで女神はアドバイザー兼補助役でしょ?」
「ええ、補助を逸脱した場合はペナルティですよ?」
「わかってるって」


 クルクルと日傘を回しながらラヴリは答える。


「さてではウサギさん、あなたどう考えているのかしら?」


 ラヴリがウサギ仮面を見つめる瞳には興味の色が浮かんでいた。


「なについてでしょうか?」
「今回の『チキチキ! 新米魔王レクレと戦闘大会! 出血もあるよ!』のあなたの予想する勝者よ」
「ハッハッハ、それは女神様のどなたかでしょう」


 ウサギ仮面は再び笑う。そんなどこまでもふざけているようはウサギをジーとラヴリの銀に輝く瞳が見据える。
 やがてふぅ、と諦めたかのようにため息をついた。


「ふぅん、今回は追求しないであげる」


 そう言うとラヴリはクルリと回りウサギ仮面に背を向ける。


「おや、あなたも下界に?」
「ええ、たまには下界のお菓子を食べるのも悪くないわ」


 すでに興味を失った青い瞳をウサギ仮面に軽く向ける。


「あなたが今回• •は何も考えてないならお菓子を食べるだけよ。ただ……」


 一度言葉をきったラヴリから徐々に魔力が目に見える形で滲み出てきた。


「タルメアが死ぬようなことにでもなったらコロス」


 最後の言葉を告げた瞬間に今までただ滲み出ていた魔力がラヴリの殺意によって黒い暴風となり空に浮かぶ二人を中心に吹き荒れる。
 それを隔てるものがなく直撃を受けたウサギ仮面の仮面に小さくヒビが入る。


「は、ははは、ソンナコトオコリマセンヨ」


 内心で冷や汗を流しながらウサギ仮面は答えた。
 本能が警告してくる。この状況はまずいと。


「そうよね。私もウサギが食卓に並ぶことがないことを祈るわ」


 そう言い放つとラヴリが身体中から放っていた魔力が一気に霧散する。そして徐々に姿が消えていった。
 そして完全に気配が消えたのを確認するとウサギ仮面は大きくため息をついた。


「女神こわい……なにもかも見通してそうで怖い……」


 身体を震わしながらかなり大げさにウサギ仮面は一人つぶやく。


「でも、運命には事故があるからねぇ」


 ひび割れた仮面の隙間から意地の悪そうに三日月状に歪ませた口元が見て取れていた。

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