浮遊図書館の魔王様
第107話 迷子と遭遇しました
ヨロヨロとダメージを受けながらわたしは本通りをマーテ、ビリアラとともに歩く。治癒魔法は肉体的ダメージは回復さすことができるけど精神的ダメージは回復できないから今だにわたしの心は血を流し続けている。
「……大丈夫ですか? 魔王様」
ビリアラが心配そうに見てくる。
「ふふ、大丈夫、このレクレ・フィンブルノは本を読むまでは死なない」
そう死ぬわけにはいかない。せっかく浮遊図書館を手に入れたんだから!
「そこの人間と獣人、少し訪ねたいことがあるんじゃが」
「ん?」
後ろから声をかけられ振り返ると真っ黒なローブにぶかぶかのとんがり帽子を被ったのがいた。いかにも魔女ぽい。
「なにを聞きたいの?」
「うむ、人を探しておるのじゃ。背が高くて長い黒髪、そして着物と呼ばれる東の国の服を着ている方なんじゃが見とらんか?」
「黒髪?」
「着物?」
マーテとビリアラが首を傾げる。おそらく二人の頭の中にはベアトリスが浮かんでいるんだろうね。彼女も着物だし。
「最近来た人だよね?」
「そうじゃ、つい先ほどこの街についたところでのう。儂が目を離した一瞬で何処かに行ってしまわれたのじゃ。しかも大変な迷子の才能があってのぅ」
ふむ、ならベアトリスじゃないみたいだし余計わからないな。でもあの着物とかいう服は目立つからすぐにみつかりそうなものだけど。
「あとここに図書館はないかのぅ? ああ、あの浮いてるやつ以外じゃぞ?」
そう、笑ながら魔女っ子は宙に浮かぶ浮遊図書館を指差す。いや、確かにあれも図書館だけど普通の人入れないしね。
というかこの国図書館あったのか。
「確かここから一番近い図書館は西門近くにライブラリ図書館というのがありました」
「だそうだよ? 一番近いってことは他にもあるの?」
「はい、各門付近に必ず一つは図書館があります」
あったよ。図書館! しかも四個も!
これがベアトリスやユールなら「自分の国なんですから覚えておいてください」とおこられるところだったよ。統治者の義務? 知らないね。
しかし、わたしの知らないことをきっちり教えてくれるビリアラえらい。頭を撫でてやろう。でもなんで図書館の場所を知りたがるんだろ?
「いや、その方も知識を得るのが大好きな方じやるからぬのぅ、見当たらなかったら本屋や、図書館を回ろうと思っての」
わたしの表情を見て察したのか苦笑しながら魔女っ子が教えてくれる。
確かにこのライブラリは知識がほしい人や本を読みたい人にはかなりの理想郷だろう。本は次々と新しいのが生み出されてるし、普通の街には図書館がないとこだって普通だ。それがこの街にはビリアラの話では四個もあるらしいしね。
すごいねライブラリ。
「よ、四個もあるのか。仕方ないのう一つ一つ回って行くしかないか。質問に答えてくれてありがとうの。これはお礼じゃ」
そう言うと魔女っ子らゴソゴソとローブの中をいじりながら小さなフラスコを三つ渡してきた。中には薄赤い液体が入っていた。
「これは?」
フラスコを受け取りながら尋ねる。善意を疑いたくはないが得体の知れないものは飲みたくはない。
「ヒッヒッヒッヒ、安心せぃ毒ではない。ただのポーションじゃ。肩こり、腰痛、冷え性に効きあとは死にかけのジジイでも元気に一時間は走り回れるただのポーションじゃ」
「一時間後の爺さんが気になるよ⁉︎」
しかもそれがただのポーションなんだろうか? いや、薬を作れるわけじゃないからポーションとはそんなものなのかもしれないし。
「ではの! また縁があればまた会おう」
一方的にポーションを渡してきた魔女っ子はローブを踵を返すと引きずりながら歩いていった。
「へんな人だったな〜」
手にしたポーションを恐る恐るポケットにしまいながらつぶやく。
ふと視線をビリアラに向けると彼女はとても難しそうな顔をしていた。
「どうしたの? ビリアラ」
「いえ、さっきの魔女ぽい人を何処かで見た気がしたので」
どこで見たのか思い出せないのかビリアラは腕を組んで悩んでいた。ならマーテも見たことあるんじゃないかな。そう思いマーテを見ると、
「おやつ食べたかった」
しょんぼりしていた。耳も尻尾もしょんぼりしていた。これはこれで可愛いけど。
「あの〜すいません」
「はい?」
今日はよく話しかけられる日だと声がした方に振り向くと山のように積まれた本がわたしに話しかけてきていた。
「え〜と?」
「ああ、けして本が喋ってるわけではありませんので〜」
何故か楽しげに言われた。声からして恐らくは女性だろう。
「お尋ねしたいのですがこの辺りに図書館はありますでしょうか? あ、浮いてないやつですよ?」
なんだろこのさっきもやったような気がするやりとり。
「ここから一番近い図書館は西門近くにライブラリ図書館らしいですよ」
「これはこれは丁寧にありがとうございます」
本を抱えたままお辞儀をするものだから山のように積まれた本が傾いた瞬間に滑り落ちてきた。
「ぬあ⁉︎」
「痛い!」
当然よけれるだけの運動神経がないわたしとしょぼくれていたマーテの頭に落下してきた本が直撃した。
「あらあらごめんなさい」
「謝らないで! 傾けないで! 落ちて来るから!」
またこちら側に倒れてこようとする本の山を慌ててマーテとわたしは押さえつけた。一番上の辞書みたいなやつが落ちてきたらやばい。
「はぁ、それでまたどうして図書館に?」
「ええ、私の連れが迷子になってしまいまして。私が目を離した隙にすぐに消えてしまいまして迷子癖がありましてね」
聞いたことある話だ。
「その方は知識を得るのが大好きな方なので本屋を見て回っていたのですが見当たらなくて」
ならなんであんたは大量に本を買ってるんだよ。探してるんじゃなかったのか。
「そこで次は図書館に本を読み……休憩に……探しに行こうと思いまして」
凄く図書館で本読んで休憩する気だよね? この人。
「ですが図書館の場所がわからなくて訪ねさしていただいた次第です」
「そのままいくの?」
わたしも人のことを言えないけどこの人もどん臭そうだし少しだけ心配だ。本が。
「いえ、流石に疲れてきましたから」
そういうと彼女は持っていた本から手を離した。そうすると自然に本は重力に引かれ落ち始めた。
「なぁ!」
わたしは声を上げ、落下する本に向かい飛びつき手を伸ばした。間に合わない!
しかし、突如として落下していた本が空中に縫いとめられるかのように停止する。
「あだぁ!」
当然空振りをしたわたしは土煙を上げながら地面を転がった。ユールに着せられた黒い服が土まみれになった。ごめん、ユール。でも本を救いたかったんだ。勝手に救われてたけど。
「あらあら大丈夫ですか?」
そういい手を差し出してきた彼女を見上げる。わたしの目には輝かんばかりの長い黒髪が映った。
「大丈夫だよ」
とりあえず差し出された手を掴むとさっき感じたようにチリチリとした感覚が再び湧き上がってきた。
眉を潜めながらも掴んだ手を頼りに起き上がる。
起き上がり上を見上げると先ほどばら撒いた本はどういう原理かわからないけどふわふわと宙に浮かんでいた。
「魔法?」
「どうでしょう?」
美女は曖昧な笑みを浮かべどちらとも取れるような返答を返してきた。
教えない気だねこりゃ。
「ではご機嫌よう」
にこりと笑い美女は身を翻しふわふわと浮かぶ本を引き連れ図書館に向かい歩き出した。
「魔王様、あの人って……」
「多分ね」
ビリアラのなんとも言えない表情を浮かべこえをかけてきたため頷く。何にって? だって彼女、着物だったしね。二人の迷子が出会うことを祈るばかりだよ。
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