浮遊図書館の魔王様

るーるー

第97話 新魔法使いました

 


「ウラララララララ!」


 カハネルがひたすらにハリセンを振るう。その度にスパン! スパン! と情けない音を鳴らすその攻撃に何故か変質者ジャックは防戦一方になっていた。


「っ! なんだその武器は⁉︎」


 鉄の鎧すら容易く切り裂いた魔鋏フランとディアがたかだか紙で作られた武器を切り裂くことができない。そのことに変質者ジャックは戸惑っているようだね。
 確かにあのハリセンは謎すぎるんだよね。わたしの結界も切り裂かれるわけでも削られたわけでもなくただすり抜けてるみたいだし。


「こうなったら仕方ない。大きく切らずに小さく裂く!」


 防戦一方なのに焦れたのか大振りの攻撃を避け振るうではなく突きによる攻撃に切り替えてきたようだ。
 それにより先程までイケイケムードであったカハネルが徐々に防戦に回り始め、服が少しづつ切り裂かれ始めた。
 カハネルがハリセンを振るえば変質者ジャックは左右どちらかの鋏で逸らし反撃と言わんばかりに突きを繰り出す。
 ハリセン一本では攻撃するか防御するかの一つしかできないから必然的に手数で負けるわけだ。


「こん、の!」


 ハリセンを両手から片手に持ち替え、腰の剣を片手で抜き放ち一閃。
 しかし、それの斬撃は魔鋏ディアによって阻まれる。いや、阻むどころかカハネルが繰り出した剣を容易く切り裂く。


「そのハリセン以外は恐るるに足らないな!」


 変質者ジャックがニヤリと笑う。
 真っ二つに斬られ刃がキラキラと太陽の光を反射さしながら空を踊る。


「ムキィィィィ!」


 一方的に攻撃を受け続けて腹が立ったのか怒りを露わにしながらカハネルががむしゃらにハリセンを振り回す。
 まただよ。カハネルは一度頭に血が上ると視野が極端に狭くなるんだよね。
 単調な攻撃を繰り返すカハネルはまさに切り裂き魔にとって絶好のカモと化している。変質者ジャックが鋏を振るうたびに服が唯の布切れと化してるしそろそろ手を出さないとまずい。


「よっと」


 わたしはポケットから紙とペンを取り出す。
 まだちゃんと使えないから魔方陣書かないと発動しないんだよね。何回やっても魔法唱えるだけで発動しないから若干諦め気味だ。


「さらさら〜と」


 鋏とハリセンの衝突音を後ろにわたしはペンを動かし紙にうろ覚えの魔方陣を書き込む。あとは書き込んだ魔方陣に魔力を流し込めば魔法が発動する。


「カハネルはと……」


 今だにハリセンと鋏が闘いを繰り広げていた。
 すでにカハネルの服は肌面積の方が大きくなってるし。見たことないけど海というところで着ると言われてる水着? と言われるやつにそっくりだ。


「今でも美しいがあと少しで究極の美が……はぁはぁ」


 おい、チラリズムはどうしたの?
 やっぱりただの変態じゃないか。


「ちょこまかと! 正々堂々と斬り合いなさい!」


 頭に血が登り過ぎて羞恥心がなくなったカハネルがわめく。いろいろと見えてるが当の本人は全く気付いていないようだ。


「カハネル〜」
「なんですの! 私はあの変態をはたき倒すまではやめませんわよ!」
「色々見えてるよ?」
「だからなんですの‼︎」


 だめだ聞く耳を持たない。こうなったら話を聞かないからどうしようもない。
 仕方ない。先程作り終えた魔法陣に魔力を通し小さく唱える。


「古代魔法、雷化イカヅチカ


 パチっと音が弾ける。魔方陣が成功したかどうかはわからないけど何かが発動した感触はあった。とりあえず魔方陣の書いた紙をスカートのポケットにしまう。これにまた魔力流したら使えるかもしれないし。


「よっ」


 脚に軽く力を溜め地面を蹴る。ただそれだけの動作でわたしはかなり離れていたカハネルと変質者ジャックの間に立った。


「なっ」
「レクレ⁉︎ 貴女どうやって……」


 対峙していた二人が同時に突然現れたわたしを見て目を見開き驚愕していた。わたしとしてはただ間に立っただけなんだけどね。


「カハネル、いい加減に頭冷やさないと君、明日からこの街で痴女と呼ばれるよ?」
「え、きゃっ!」


 ようやく自分の今の服装に気付いたカハネルが胸元を腕で覆い隠し座り込んだ。これで彼女の名誉は守られただろう。
 こちらを警戒するような視線を向けてくる変質者ジャックに向き直る。


「で、やる?」
「無論! 美のためにあえて行く!」
「面倒だな〜」


 ため息を尽きながら軽く脚を踏み出したつもりだった。


「どこにっ……!」


 変質者ジャックがつい先ほどまでは目で捉えていたわたしを見失い首を巡らしていた。


「あれ?」


 その張本人のわたしはいうと思いがけず変質者ジャックの懐に潜り込んでしまったようだ。とりあえずわたしは変質者の腹に両手をペタリと貼り付けた。この距離なら逃げ切れないでしょ。


「なぁ⁉︎」


 驚愕の表情を浮かべた変質者ジャックが後ろに下がろうとするがもう遅い。


雷魔法ライトニングランス


 変質者ジャックの腹部に密着したわたしの手から先程まで使っていた雷魔法ライトニングとは比べ物にならないほどの密度をもった雷魔法ライトニングランスが放たれ変質者ジャックの腹に突き刺さった。


「がぁぁぁぁっ!」


 悲鳴とも雄たけびとも取れる声を上げ両手の鋏を振り回すためわたしは軽く後ろに下がる。バチィという音が聞こえたけど一体なんだろう?


「……まただ」


 軽く飛んだだけのつもりがかなり後ろに下がってるしどうなってるんだ?
 再び変質者ジャックに視線を向けるとバチバチと変質者ジャックの体に雷が流れ続け髪の毛が逆立ち、体は痙攣し煙を上げていた。


「貴様、なにをした」


 ギロリと血走った目をこちらに向けてきた。
 なにをと言われてもわたし魔法使いだし、体術使えないし


「なにって魔法?」
「ふざけるなよ?」


 首を傾げながらわたしは答えた。しかし、その返答はお気に召さなかったようだ。
 かなり真面目に答えたんですが。


「俺が聞いているのはお前が自分自身に掛けている魔法のことだ」


 言われてようやく自分に掛けた古代魔法のことを思い出したわたしは自身の体を見下ろすと蒼白い光を纏っているようだった。


「これが雷化イカズチカなのかな?」


 軽く手を動かすと蒼い輝きが弾けバチィ!という音が響く。さっきの音はこの蒼い雷が弾けた音だったのか。納得納得。
 でも効果は全くわかんないんだけどね。
 さてどう戦おうか。



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