浮遊図書館の魔王様

るーるー

第96話 闘いの鐘《ゴング》が作られました

 


 ガキン! という金属がぶつかり合う音が響く。明らかに服が切られたような音ではない。わたしはおそるおそるといった感じで目を開け自分の服を見てみると先ほど胸元を切られた状態と変わりなかった。


「ホっ」
「ホっじゃないですわ!」


 カハネルの声に上を見ると変質者ジャックの鋏をカハネルが構えるハリセンが受け止めていた。本当にどういう原理であのハリセンはあれだけの強さを出しているんだろ。


「ふんぬ!」


 勇ましい声を上げ、ハリセンで鋏を力尽く弾き飛ばし無理やりカハネルは距離をとった。


「まさか我がフランとディアを止める物が存在するとは……」


 変質者ジャックも驚愕の表情だ。でもその驚愕はハリセンに向けられたものじゃなくてフランとディア? の斬撃を止めたことに対してらしい。おかしいよね? 鋏を防ぐ紙の武器っておかしいよね?


「カハネル、服は?」
「応急処置ですがマーテに縫っていただきました」


 そう告げるカハネルの服の胸元は確かにお世辞にも上手とは言えない縫い跡があった。マーテいつも裁縫セット持ってるしね。


「何故だ! ちらりと覗く裸! 全裸ではなく見えそうで見えないことでいることが至高の美であることに何故気づかない!」


 絶叫しながら頭を抱え地団駄を踏む変質者ジャック
 こいつもしかしたら女性の裸ならなんでもいいんじゃないだろうか?


「黙りなさい! 女の敵!」


 手にしたハリセンを変質者ジャックに向けカハネルは告げた。かっこいいんだけどね。武器がハリセンじゃなきゃね。


「ふん! ならば次こそは縫うことができぬくらいにバラバラに切り裂き至高のチラリズムを体現してくれる!」
「やってみなさい!」


 カハネルがハリセンを変質者ジャックが鋏を構え睨み合う。
 緊迫した空気のせいか誰も動かずさらには声をださない。
 かく言うわたしも結構ドキドキしている。こんなシーン(武器がハリセンと鋏で残念だが)本でしか見たことないからね! 本なら何かのキッカケで二人がぶつかり合うという最高のシチュエーションだ。何かキッカケはないのか⁉︎
 キッカケを探し周りをキョロキョロと見ていると騎士団の人から貰ったマントで肌を隠しこちらに向かい走ってくるマーテの姿が目に入った。
 あ・れ・だ!
 マーテあれこそ皆が待ち望んでいる闘いの合図キッカケに違いない!


「……風魔法ウィンド


 わたしは小さく呟き、即座にマーテの足元にたいして風魔法を発動させる。
 風魔法ウィンドは移動妨害によく使われる魔法だ。足元に風を送り続け動きを阻む。そんな魔法だ。
 しかし、今回使った風魔法は風を送り続け流のではなくマーテの走る進路上に塊を設置したのだ。周りにはそよ風が吹いたようにしか見えないが実際は圧縮された風の塊だ。踏めば必ず石に躓くが如くマーテはこけるだろう。


「レクレさま~無事?」
「無事だよ」


 テテテと音を立てるように走ってこちらに向かって来るマーテを見ているととても癒される。
 同時に足元の風魔法ウィンドに躓く。


「うにゅ?」


 足元に集められていた風の塊にマーテが引っかかりよろめいた。コケるまではいかなかったか!
 しかし、わたしは圧縮していた風魔法ウィンドを解放する。ただの風の塊であったものが一気に解放されたことにより周辺に暴風が吹き荒れる。


「な、なんです? この風?」


 バタバタと音をたて今にも飛ばされそうなマントを必死に握りながらマーテが疑問の声をあげる。たまにマーテの下着が見えるのは眼福と言わざる得ないたろう。
 そんなマーテを眺めながらもわたしは暴風を真上に上がるように調整する。


「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 甲高い悲鳴を上げながらマーテが空を飛ぶ。
 一つの方向にまとめ上げられた暴風は容易くマーテを空高くへと放り上げた。
 一応、結界を張ってるから地面に叩きつけられても死ぬことはないだろう。
 やがて風魔法ウィンドの効果がなくなりマーテの上昇が止まりゆるかやかに落下を開始する。


「あびゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「いいリアクションだね」


 視力を強化されてるわたしには涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらも悲鳴を上げるマーテの姿がよく見えていた。
 せっかくの可愛い顔が落下の恐怖からか凄まじいまでに歪んでいる。
 なぜか泣いてる顔を見るとゾクゾクとするね。
 マーテか地面にぶつかり砂埃が舞い盛大な音が周囲に鳴り響く。


「きゅううう……」


 結界で身を守っているため傷一つついてはいないだろうけどショックが強かったのかマーテは完全に目を回し気絶していた。


「オラァ!」
「セイ!」


 その音を合図にするかのように(わたしが仕組んだんだけど)変質者ジャックとカハネルが互いに武器を振りかぶり、


 スパァァァァン!
 ギィィィィィン!


 紙で何かを叩く情けない音と金属で叩きつけるような音が周りに鳴り響いた。


 マーテの犠牲によりわたしプロデュースした本でよく見るワンシーンが完成したのだった。

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