浮遊図書館の魔王様

るーるー

第88話 マーテ達が帰ってきました

 浮遊図書館


「体が重い」


 わたしは階段から転げ落ち赤い絨毯の上で大の字になり転がっていた。
 どこかから何かが焼けるいい匂いがしたから移動し始めたんだけどすでに挫折しかかってる。
 ここ数日で何回こけて擦り傷を作ったかわからないし。


「魔法がないとここまでとは」


 今まで呼吸するかのように使っていた魔法ものが一時的になくなるだけでこの傷だ。
 魔法が世界から消えたらわたし即死しそうだ。いや、するだろう。


「また立ち上がったら転けそうだし転がってみよう」


 絨毯の上をゴロゴロと転がりながら移動を開始する。
 おー、これは楽だ! 怪我もしないし安全な移動方法と言えるかもしれない。
 このまま階段前まで移動し後は座りながら降りれば怪我なく移動できるはず。


「レクレさま! ただいま!」
「ごふぅ⁉︎」


 階段から勢いよく現れたマーテの足がわたしの腹にめり込む。
 結構わたしも勢いよく加速していたため反動が半端なかった。あまりの痛さに声もでない。


「レクレさま⁉︎ 大丈夫!」


 蹴りをくれた張本人が心配するという光景は変な感じだ。
 とりあえず手を上げ問題はあるけど問題はないように振る舞う。内蔵が無事ならいいんだけど。


「がはぁ、マーテ昨日いなかったけどどこいってたの?」


 ヨロヨロとお腹を抑えながら起き上がりマーテに尋ねた。
 マーテというか姉妹全員いなかったみたいだけど。


「ん、黒衣の森」
「なんで黒衣の森に?」


 あの森にマーテ達が用があるとは思えないんだけど。


「えっとね、ドラゴン狩りにいってね、蜘蛛ばっかり倒してて、お菓子の家があって、おばあさんがいて、おばあさんの腕が折れて、ポーション貰って、お肉捌いて持って帰ってきたの!」


 ……うん、全然意味わからない。相変わらずマーテは説明下手すぎるな。
 姉妹の中ならビリアラが一番容量よく的確に説明できるんだけど見当たらないし。


「マーテ、ビリアラ達は?」
「お肉焼いてるよ」


 となると厨房か。だったら情けないけどマーテに担いで貰って行くしかないか。怪我したくないし。


「マーテわたし担いでビリアラ達の所に連れてって」
「うい」


 マーテは返事をするとあっさりとわたしを担ぐ。
 ……わたし、自分より年下の子供に背負われてる。よく考えると凄く情けなくないかな?


「行きます!」


 軽くステップを踏むとマーテは一気に加速する。
 一段飛ばしで軽々と階段を下っていく。
 ビリアラに聞いた話ではマーテは獣人種の中ではかなり弱い部類と聞いていたけどわたしからというか人間種から見たらやっぱりハイスペックだと思うんだよね。


「痛い痛い痛い!」


 担がれているとはいえ小柄なマーテでは自然とわたしの足を引きずるのだ。超スピードで。
 時折自分の足から嫌な音が響くき痛みも襲ってくるがそれよりも削られ続ける足がやばい。


「到着〜」
「……ありがとう」


 謁見の間に到着しとりあえず降ろしてもらい立とうとするがあまりに足が痛すぎるので床に座り込む。
 よく見ると普通曲がらない方向に足が曲がってる。


「緊急事態だ。仕方ない」


 まぁ、楽しようとした結果なんだけどこの痛みはかなり辛い。
 付けられていた指輪を外し治癒魔法ヒールを自分の足を治す。激痛がスーと引いていく。


「私、みんな呼んでくるねー」


 傷が治ったわたしが王座に座るのを確認するとマーテが手を振りパタパタと足音を立てながら謁見の間から出て行った。
 そんなマーテを見送りながらわたしは考えた。


「肉って言ってたけど」


 問題は何の肉かだ。
 黒衣の森て手に入る肉って一体なんだろう? 初めはドラゴン狩りと言ってたけど途中から蜘蛛を狩ってたみたいだし。まさか蜘蛛ということはないだろうけど……


「これが最近読んだ東の国の本に書いてあったオニがでるかジャがでるか、というやつなのか、どう思う?」


 後ろに何気無く声をかける。するとよこのテーブルからフワフワと浮かんだ本がわたしの目の前までやってきた。


『神のみぞ知る、というものでしょう? ご主人』
「アトラはまだ人型に戻れないの?」
「ご主人の魔力が回復しないからこちらに魔力が回ってかこないですから」


 わたしの魔力が空になってからアトラは元の本の姿に戻り王座の横のテーブルでジっとしている。アトラ曰く動かない方が魔力の消耗がないらしい。


「そうは言っても魔力の最大貯蔵量が増えてるからどうしようもないよ」


 自然回復では限界があるしそのせいで全然回復してないし困ったものだよ。


『そのためにレキ達が動いたのでしょう? なにかはわかりませんが』


 アトラと話して再び不安が襲ってきた。
 せめて死なないものであってほしいとわたしは願うばかりだよ。

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