浮遊図書館の魔王様

るーるー

第87話 知らないとこで話が進んでいました。 進め!黒衣の森!⑥

 


「起きて! 早く起きて! アルねぇ!」


 暗い森の中にパシパシと何かを叩く音が響き渡る。私がアルの頬を叩く音だ。


「あ〜う〜」


 かなり叩いているが貰った衝撃が大きかったせいか呻くだけで全く目を覚まさない。
 このままじゃまずい。


「早くこの場を離れないと……」
「GYAAAAA!」


 言葉の途中でかなり大きな声が聞こえ続き轟音。更にもうひとつおまけと言わんばかりに大きな音が鳴り大地を揺らし大量の泥が空高くにはね上がった。
 やがて泥が雨ように降り注ぐ中、私が目にしたの大蛇の腹に深々と剣を突き刺したレキ姉さんの姿でした。


「GYAAAAA!」


 大蛇が再び威嚇とも悲鳴とも取れる声を上げ、レキ姉さんを振り落とすと腹に剣が突き刺さったままの状態っ高速で移動を開始。スルスルと動いていた先程よりいくらか動きは鈍い。レキ姉さんの攻撃が効いているように見えた。


「逃がすと思いますか?」


 振り落とされ泥に片膝をついた姿勢で大樹を登る大蛇を睨みつけていたレキ姉さんからゾッとするほど低い声が零れた。
 そして姿が消える。


「もう驚かないけど……」


 呆れながらおそらくいるだろうと思い、木々が覆い繁る上を見上げると逃げる? 大蛇に向かいレキ姉さんが跳躍していた。動きの鈍っている大蛇にあっさりと追いつくと無防備な大蛇の体に向かい蹴りを放つ。


「SYA⁉︎」


 突然の横からの衝撃に驚いたような声を上げた大蛇が大樹から離れ宙を飛ぶ。
 無防備に剣が突き刺さった腹をレキ姉さんに見せながら。
 その隙を見逃すはずもなくレキ姉さんは近くの大樹を蹴りつけ落ちる大蛇に向かい飛び込む。


「死になさい!」


 寸分違わずに突き刺さったままの剣に向かい拳を繰り出す。それにより大蛇の腹に刺さった剣が深々と刺さり悲鳴が上がる。


「KISYAAAAA!」
「黙りなさい」


 レキ姉さんが体を捻じり、拳と同じように剣に蹴りを抉り込んだ。
 ついに剣が腹を完全に貫通し背中から刃が見えた。しかも蹴りにより勢いが着いた大蛇は紫の血を撒き散らしながら落下速度を早めた。
 私たちの真上で。


「やばいよ! ビリアラ!」
「わかってる!」


 背中で叫ぶマーテに答えながら地面で転がるアルねぇのメイド服の首元を掴み全力で後方に跳ぶ。


「ぐぇ」


 首がしまったせいでアルねぇが無様な悲鳴を上げてるけど仕方ない。緊急事態だし、放っておいたらアルねぇが潰れる。
 後ろに跳ぶとほぼ同じタイミングで大蛇が轟音を大蛇立て、泥の中に叩きつけられ再び泥の雨が降った。
 あと少し遅れてたら完全に大蛇と地面に挟まれ圧死だっただろうな。


「GAA!」


 短く悲鳴を上げる大蛇に向かいレキ姉さんが落下。狂いもなく剣の柄に衝撃を殺すことなく着地する。それにより剣は大蛇を地面に完全に縫い止めた。
 大蛇がバタバタと暴れるが剣は全く抜ける気配がない。それどころか暴れれば暴れるほどに大蛇は血を流し弱っていっているように見えた。


「この蛇も肉を切り持って帰りましょう。蛇の肉とかも魔力回復に使えそうですし」


 なんの根拠もなくそう言うレキ姉さんはうっすら笑っていた。


「……でもそんな大きな蛇持って帰れないよ?」


 おそるおそると言った様子で背中のマーテが尋ねる。するとレキ姉さんは笑みを深めた。


「大丈夫よ。お腹の部分だけ叩き切るから」


 そう告げるとレキ姉さんは大蛇を縫い止めていた剣を抜く。


「え、なんで抜くの⁉︎」
「なんでって、抜かないと斬れないじゃない」


 剣が引き抜かれた瞬間、大蛇が最後の力を振り絞るかのように逃走を計った。


「ダメよ? お前はは魔王様に捧げる食材になってもらうんだから」


 再び逃げる大蛇に迫るレキ姉さん。
 また蹴りでも食らわせるのかと見ていたが


「お前の硬さにはもう慣れ• •ました」


 手にしていた大蛇から引き抜きまだ紫の血が滴る剣を逃げる大蛇の背中目掛けて一閃した。
 振り切った剣は先程、剣閃を弾いていた鱗など存在しないかのように切り裂いた。


「GI……」


 大蛇が悲鳴を上げようと口を開けた瞬間、更なる剣閃が頭に叩き込まれ、細切れと化した。何回斬ったのか全くわからなかった


「さ、切り分けるわよ」


 大蛇が完全に動きを止めゆっくりと倒れこむ様を確認せずにレキ姉さんはこちらに歩みつつ剣を鞘に戻していた。


「……強すぎですよね」


 死んだ獲物に興味を失ったレキ姉さんの代わりに私はおそらくこの森ではもう使わないだろうと判断し、残しておいた紙魔法ペーパークラフト用の紙でナイフを作り大蛇の肉を切り分けたのだった。



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