浮遊図書館の魔王様
第86話 知らないとこで話が進んでいました。 進め!黒衣の森!⑤
「おばあさん、ありがとー!」
「おばあさんじゃないと言っとるだろ!」
マーテが元気良く手を振り大声で叫んでいるのに対し老婆も大声で返した。
やがて四人の姿が見えなくなると再び愉快そうに笑う
「ヒッヒッヒッヒッヒ、面白い奴らだったよ」
被っていたとんがり帽子をとると金色の長い髪と尖った耳が露わにった。
「最後の最後まで気づかなかったしのう」
そう笑う老婆の顔がぐにゃりと歪む。皺くちゃだった顔が歪み続け、皺一つない整った顔が姿を現した。
確認するように老婆だった者は両手で自身の顔をグニグニと弄り問題ないかを確認する。
「やっぱり人を騙すのはおもしろいの〜お主もそう思わんか?」
ニコニコと上機嫌に笑いながら頭上の大樹に向かい話しかける。すると大樹から黒い影が飛び立ち、音もなく着地し頭を下げた。
「さすがです、アイリス様。俺もまだまだ精進が足りぬようです」
「戯け、あれだけ獣人の娘に殺気を放っておいて隠れているというのはふざけすぎであろう? あの剣を持った娘は気付いておったぞ?」
アイリスは腕の骨を折られた瞬間に凄まじい殺気を放っていたであろう青年を悪戯めいた瞳で見つめる。
「アイリス様、他人で遊ぶのもほどほどにしておいてください」
「固いのう。少し位よいではないか、アリスも喜んでおったじゃろう?」
アイリスと呼ばれた少年は無邪気な笑みを浮かべ愉快そうにわらう。
「失礼ながら俺はアイリス様しか見ておりませんので」
「堅物め、知っとったかギル、人の里にまた魔王が出たらしいぞ?」
「所詮は人界の出来事でございます。俺たちエルフには関係ないかと」
そう言い切ったギルと呼ばれた青年の尖った耳も揺れる。その尖った耳こそがエルフの証なのだ。
「はっ、里の者らも人界は関係ない、人界は関係ないと視野のせまいことぢゃ」
そう呟きながらアイリスはもう姿が見えなくなった獣人の姉妹が歩いていったほうに視線を向ける。
「魔王が魔力切れなど聞いたことはないが悪逆非道の魔王ではなさそうじゃしのう」
獣人の姉妹達は本当に魔王の身を案じていたようだったし、恐怖や洗脳魔法で従わされているわけでもなかった。エルフは魔法の気配に敏感なのだ。
「まぁ、そのうちに因果の鎖が絡まったなら妾とも出会うじゃろ」
アイリスはその時を楽しみにしている。
   それをエルフという種の噂を聞いたことがある第三者が見ればおかしいと感じたことだろう。
アイリスはエルフとしては異常ではあると。エルフはあまり外に興味を示さずに閉鎖的な種族と認識されているからだ。
「ではまた会おう。人界の魔王よ、ヒッヒッヒッヒッ」
「……その笑い方気に入っていたのですね」
「錬金術師の基本は等価交換。楽に手に入る薬などない。まぁ、あの娘っ子達が無事に帰れたらの話しじゃがな」
愉快そうに嗤う小さな影とため息をついた大きな影はそのまま森の奥に消えていった。
「レクレさまこれで喜ぶね」
私に背負われたマーテは上機嫌で老婆から貰ったポーションを眺めている。
用事を果たした私達は樹木の間を飛翔する。飛翔できないマーテは私が背負う羽目になってるけどこれは仕方ない。紙魔法はこの森の湿気で紙が使い物にならなくなったから使えないから戦闘ができないしね。
「シッ!」
レキ姉さんの短い声とともに細切れにされたジャイアントスパイダーの死骸が振り散る。
「ニャハ!」
アルねぇは樹木を次々と駆け移り空中を飛翔するジャイアントスパイダーに肉薄すると拳打をしこたま撃ち込む。
戦闘は戦闘担当に任せるとしよう。
私は荷物を運ぶのに専念することにしよう。
ただ、あっさりと魔力回復のポーションを渡してくれた老婆の胡散臭さが気になるけど。
「ねぇ、ビリアラ……」
「なに?」
背負ったマーテを振り返ると彼女は上を見ながら呆然とした声を上げた。
同じように上を見上げるが何も見えない。
「あれなに?」
「みゃ⁉︎」
再びマーテが声を上げた瞬間、アルねぇが短く悲鳴を上げ吹き飛んだ。
凄まじい勢いで飛ばされたアルねぇは木々をへし折り泥の沼を幾度もバウンドしようやく止まる。
「アルねぇ⁉︎」
「きゅぅ……」
慌てて吹き飛ばされたアルねぇの方を見ながら叫んだ。
完全に意表をつかれたアルねぇが可愛らしい声を上げながら伸びていた。
地面を転がったから着ているメイド服は泥だらけだがみたところアルねぇに怪我をした様子は見られなかった。
なんて丈夫さだ。
シュルシュルと音を立てなにかが目にも止まらぬ速さで動く。
「ビリアラ走り続けなさい!」
レキ姉さんが緊迫した声を上げる。レキ姉さんの声を頼りにしたのかシュルシュルとした音の発生源が飛翔中のレキ姉さんに一気に迫る。
「レキ姉さん!」
空中で身動きが取れないレキ姉さんだったが全身のバネだけを使い剣を振るう。
ガキン!とレキ姉さんの剣と何かがぶつかる音が響く。
「蛇!」
私が確認したのは銀色に輝く大蛇だった。大きさはわからないけどかなりの巨体だ。口内に潜ました巨大な牙でレキ姉さんの剣を受け止めたのか。
大蛇はその大きさに似合わない素早さで着地したばかりのレキ姉さんに接近すると尻尾を叩きつけた。あれでアルねぇを吹き飛ばしたのか。しかし、レキ姉さんはアルねぇのように吹き飛ばされることなく果敢にも自分から尻尾に向け突撃、剣を振り下ろした。
「kiiiiii!」
ガキン! という音が響く。今までならレキ姉さんが剣を振るうと必ずといっていいほど相対した敵は血の雨を降らしていたが今回のた 大蛇は違うようだ。
「鱗が硬い……」
レキ姉さんが呟くように独り言をいい自分の剣を眺めた後に大蛇のほうに視線を投げかける。
尻尾を浅く切り裂かれにじむように紫の血が飛び散っていた。大蛇の瞳には自分が傷つけられたことに対する怒りの炎が燃える。
尻尾が効かないと判断したのか大蛇は大きな口を開きその牙で仕留めようと動く。
「ふっ!」
レキ姉さんの剣が閃く。しかし、先程の尻尾を切ったように今度は大蛇の牙を折ることはできなかった。
牙にぶつかった衝撃が柄に伝わったのかレキ姉さんが顔をしかめる。その顔をしかめた僅かな間に大蛇が再び尻尾を振るい、そして吹き飛ばされた。
「SYAAA!」
大蛇が悲鳴のような声を上げ、大樹に叩きつけられる。大きな音が鳴り、更に大樹が軋む音も響いた。
吹き飛ばした張本人であるレキ姉さんは下着が見えることなど気にもしない様子で足を真上に上げたままの姿勢で固まっていた。おそらくただ単純に力任せで蹴りつけたんだろう。
「SGGGG……」
大蛇が威嚇するかのように声?を上げ距離を取る。そんな大蛇に全く関心を示さずにゆっくりとレキ姉さんは足を降ろす。
「蛇風情が私の剣を防ぐなんて……」
ボソリと呟く。その顔には一筋の切り傷のようなものがあり頬の傷からポタポタと血が落ちていた。
その光景とその声を聞いた私は本能的に恐怖を覚えた。背中に背負うマーテもビクリッと震える。
これはまずい。
私は慌てて倒れこんでいたアルねぇに向かい走り叫ぶ。
「アルねぇ! 起きて! レキ姉さんがキレてる! 」
私が叫ぶと同時に全身に怖気が走り同時に紫の花が咲いた。
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