浮遊図書館の魔王様

るーるー

第82話 知らないとこで話が進んでいました。 進め!黒衣の森!①

 
「といっても魔力を回復ってどうすればいいの?」
「……確か魔力を回復させるポーションはもう存在しないはず」
「美味い物食べたら回復するんじゃね?」
「マーテは何か考えがあるのかしら?」
「私も少しは調べました。ですがこれといった物はありませんでした」


 レキの問いに答えながらマーテの耳がシュンとうなだれる。


「……となるとあとはドラゴンの血とか?」
「ドラゴンっているの?」


 ドラゴンは本にはよく出てくる生き物ではあるが実際には見た者がいない。
 もしかすると存在していて見た者は残らずドラゴンの胃の中に収まっているのかもしれないが。


「ドラゴンっているのかしら?」


 いたら斬ってみたいけどと物騒なことを可愛らしく首を傾げながら呟くレキ。
 それを隣にいたビリアラは聞いてしまい少し椅子を動かしレキから距離をとった。


「……黒衣の森の奥に大きな魔物がいるという噂はある」
「それです! 狩りにいきましょう!」
  
 いつになくマーテが好戦的である。


「でもドラゴンと決まったわけでは……」
「ドラゴンじゃなくても幻獣種でもいいです!」
「幻獣もまだ斬ったことないわね〜」
「戦いか? オレも行く!」
「いや、確かにドラゴンよりいそうだけど……」


 乗り気な他の姉妹よりビリアラは乗り気ではなかった。
 ドラゴンや幻獣というのはおそらくは魔物なんかとら比べものにならないほど強いと考えたからだ。
 しかし、目の前でワイワイといいながら準備をしている姉妹を見ていると何も言えなくなるビリアラであった。


「……自分がしっかりしなければ」


 何に使うかわかない物を魔法のカバンマジックバックに放りこんでいく姉妹を見ながらビリアラは深く心に誓うのだった。






 けたたましい音を響かせながら黒衣の森を四姉妹は進む。
 目の前には魔物が何体も現れるが四姉妹の敵ではなかった。近づいてきた大きな蜘蛛の魔物はレキに切り裂かれ、アルに殴り潰されていた。
 さらに遠距離から糸を吐いてくる蜘蛛もいたがビリアラの紙魔法ペーパークラフトで刻まれるという一方的な戦闘となっていた。


「蜘蛛しかでないわね〜」


 剣に着いた魔物の血を軽く刃を振り落とした後に鞘に収めながらレキが呟く。


「弱い弱い!」


 アルも不満気味に呟く。
 そんな彼女達を後ろから見ていたビリアラはため息をつく。


「……あのですね。黒衣の森の中心部までは危険度はD。つまりランクDの冒険者なら注意深く進めばさほど苦労をすることなく進めるということです。レキ姉さんやアルねぇの期待するような敵は出てきません」
「で、でももしかしたら亜種とかが……」
「さっきから倒してるジャイアントスパイダーの亜種ならさっきレキ姉さんが切り裂きましたよ」
「え〜」


 残念そうな声を上げるレキを無視しビリアラは後ろで退屈そうにしているマーテに目を向ける。


「私も戦いたい!」
「でも、マーテには武器がありませんよね?」
「レキ姉さんの借りる!」
「……あれは無理じゃないかな」


 以前レキに剣を借りた時の事をビリアラは思い出す。
 あまりの重さに持ち上げることすらできなかったのだ。あれを軽々と振り回すとは我が姉ながら化け物じみていると考えたものだ。


「むぅ〜じゃあ、私いつまで経っても戦えないじゃない!」
「気づいた?」


 マーテに合う武器が見つからない限りはマーテは戦闘に参加できないだろう。まぁ、魔王様は参加して欲しくないみたいだし。


「いいもん、帰ったらレクレ様に武器もらうもん」
「……まずは自分で探す努力しようね」


 末っ子は魔王様に目を治してもらってから懐くというか崇拝に近いレベルな気がする。
 マーテとビリアラが話していると前方から斬撃音と打撃音がひたすらに鳴り響いている。ちょっとの間にかなり離れてしまったようだ。


「早く行かないと戦闘狂二人に置いてきぼりくらうよ?」
「うい」


 そう言いながらビリアラはマーテの手を引きながら破壊音を響かせまくる戦闘狂二人を追いかけたのだった。

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