浮遊図書館の魔王様
第77話 ライブラリ防衛……?いや殲滅戦に移行しました②
「パンチ! パンチ! パンチ! キック!」
ゴブリンの群れの中をアルは白銀の手甲、足甲を装備した手足を振り回しながら駆ける。拳や脚がゴブリンに直撃するたびに鈍い音が響きゴブリンの体の何処かが陥没したり変な方向に曲がったりしていた。
「ニャハ、弱〜い!」
「KISYAAAAAA!」
耳障りな声を上げながら棍棒を叩きつけようとしてくるゴブリンを攻撃される前に顔面に蹴りを放つ。面白いくらいゴロゴロと転がって行った。
隙をみて反撃をしてきたゴブリンには躱しお返しとばかりに拳を叩き込む。
一般的にゴブリンは五匹に囲まれたらDランクの冒険者では危険と言われている。
しかし、今アルを取り囲んでいるゴブリンの数は数十体を超える数だ。並の冒険者ならすぐにフクロ叩きになるだろう。並の冒険者ならばだが。
「宝珠発動!」
拳を振り回しながらアルは手甲に嵌め込まれた宝珠を使用する。
アルの声に応えるように淡い青色の光が発せられ、周りのゴブリンの死骸が持っていた棍棒、剣といった武器が次々と手甲に集まり歪な形を作り上げる。
「やっぱり鎧みたいに纏まった数がないと腕作れないんだ」
棍棒やら剣やらを集め歪な形をした腕はそれでもアルの思い通りに動く。若干リーチが伸びたと考える程度だろう。
「むーん!」
それでも力任せにただ振り回すだけのアルには攻撃範囲が広がって。なぎ払うように腕を動かすだけで十体ほどのゴブリンが空を飛ぶ。さらにはゴブリンの手を離れた棍棒やら剣やらが引き寄せられるかのようにアルの腕に集まりさらに大きな腕と化していく。
それをアルは叩きつけ、振り回し、薙ぎ払い好き勝手に暴れ続ける。
ゴブリン達になすすべはなく只々蹴散らされているだけだった。
「にゃ?」
ふとアルは武器で作り上げた腕に違和感を感じたため掲げていた腕を見上げた。
見上げた先には腕にまとわりつくゴブリンが見てとれた。
「邪魔! 重くなるじゃん!」
腕を振り回すがゴブリン達も必死にしがみつく。さらには他のゴブリン達も飛び付き腕がどんどん重くなってゆく。
「や、やばい!」
あまりの重みに右腕がついに地面に倒される。その重みに引きずられるようにアルも倒れた。
その一瞬の隙をゴブリン達は見逃さずに飛びかかる。
「ず、ずるいぞ!」
アルは倒れたまま飛びかかってくるゴブリンを見ているしかできなかった。悪態はついたが。
思わず目を閉じ顔を背け、来るべき衝撃、痛みに備える。
「ん?」
しかし、いつまで待っても痛みがこない。恐る恐る目を開けると空中の一点にゴブリンがこれでもかというほど集められていた。
「kh kiiii……」
先程まで腕にしがみついていたゴブリンも例外なく集められ歪な球体を形成しており、苦しげな声が響く。
その声を聞き、いやな予感がしたアルは全速力で走りそこから退避する。
そしてある程度離れ後ろを振り返った瞬間、閃光が走った。
シュバァァァァァァァァァァァン!
「なぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
咄嗟に宝珠の力を解放し、武器で作られた腕をただの武器に戻し壁にするが閃光とともに発生した爆風と砂埃にに煽られアルは宙を舞う。
空から見えた中心地点にはただポッカリと穴が空いているだけだった。集められたゴブリンは欠片も残っているように見えない。
そしてアルは見た。
砂埃とゴブリンが再び、閃光が発生した中心の黒点に集められ始めているのを。
必死にゴブリン達も何かに捕まり飛ばされまいとしているようだが黒点の集める力の方が強いのか捕まっていた物事引き寄せていた。
「風魔法?」
アルは魔法には詳しくない。ただ、集めるといったのを得意とする系統はなんとなく知っていた。
再び、ゴブリンが大量に集まり歪な球体を作り苦しげな声を上げ始めたその時、赤い炎の槍が突き刺さる。
再びの閃光、そして轟音が鳴り響き爆風と砂埃が再度舞う。
「また、新しい魔法考えたのか」
流石に二度目は距離があり無様にとばされることはなかったがかなりの高さから自由落下しながらアルは考えた。
「どうやって着地しよう?」
南街門上
わたしはアルが砂埃を上げ無事着地したことを確認した後に満面の笑みで振り返った。
「これがまたまた新しい魔法! その名も! 爆裂槍!」
「いや、思いっきりアルを巻き込むところじゃったじゃろが!」
「当たってないよ?」
「そういう問題ではないわ! 人道の問題じゃ!」
なぜ、新しい魔法をお披露目するたびにわたしは怒られているのだろうか。
「じゃが、あの魔法はわしが見た感じなら新魔法というより複合魔法といった感じなんじゃが?」
よく見てるね。
確かに爆裂槍は二つの魔法の同時使用で可能となる魔法だ。
「そうだよ。風魔法と火魔法の同時発動が爆裂槍さ」
風魔法は普通に使えばただ敵を吹き飛ばすだけの魔法だが魔導書を読んでいて気づいたんだけどこの魔法、吹き飛ばす方向を弄れるんだよね。
「風魔法の中心に敵を集めそこに火魔法を叩き込む。これだけの魔法さ」
「じゃがわしの知ってる風魔法にはあの中心にあった黒点などなかったはずじゃが?」
「あの黒点はまだよくわかってないんだけど多分、空気が圧縮されたものじゃないかと踏んでるんだけどね」
だからこそ火魔法がバカみたいに攻撃力が跳ね上がってるしね。炎は風を送り込めばより強くなるわけだし、圧縮した空気の中に放り込んだら爆発くらいするだろうさ。
「……お主、原理のわからないものを味方に使う癖をやめよ……」
「避けれる人にしか使わないよ?」
「もうよいわ」
疲れたようにベアトリスは肩を落とした。
さてさて他の門はどうなってるかな?
東門を見ると白い物がやたらと宙を舞ってるな。多分ビリアラだろうね。前より紙魔法で操れる紙が増えてるみたいだ。勇者に負けてから練習してたからねぇ。まぁ、問題ないだろう。
お次はとおお! 
北門で土煙上がってるけどあそこはファス先生かな? まぁ、あの人はリアルアマゾネスだから心配するだけ無駄かな。彼女ならトロールも素手で殺れるだろうし。
となると西門はユールか。
真紅一号着てるから楽勝かな。時々光ってるのは魔導砲使ってるんだろうし、ゴブリンごときなら殴り合いでも圧勝するだろう。
「つまりは現状は圧勝だね」
カハネルが予測していた手前でゴブリンを食い止めているため損害は軽微(主にわたしが魔法で吹き飛ばした場所)
と言っていいだろう。
あとは精々、中央で今だに進軍できずにいる盾持ちゴブリン共だろうけどレキと態勢を立て直したアルが左右のゴブリンを狩った後に殺れば終わるだろうしね。
「むぅ〜私も戦いたかったです」
街門に顎を乗せ頬を膨らませ不貞腐れるマーテ。
ふむ、今度は一瞬の映像を保存できる魔法を作ろう。マーテ達の可愛らしさを他に知らしめるためにも必要だ。
「伝令! 中央に動きあり!」
まだやる気なのか。
中央を見るとマグマと化した地面を無理矢理に進むゴブリン達が目に入った。自殺行為ではあるがかなりの速度だ。現に何体か燃えてるしね。その死体を踏みつけさらに進んできてるし。
「恐ろしく早いぞ⁉︎」
「痛みに鈍いからこそできるやり方だね」
確かゴブリン達は痛みにかなり鈍感と読んだ気がする。
不意に服の裾をクイクイと引っ張られた。視線を落とすとキラキラした目でマーテがわたしを見上げてた。
「レクレ様! 私も戦える?」
わたしは軽くため息をついた。
なんでこんな好戦的に育ったのだろう? 育て方を間違えたのだろうか?
「まぁ、一緒に行こっか」
「はい!」
ああ、可愛い!撫で回したい! 撫で回してるけど
「ベアトリス、騎士団で取りこぼしたゴブリンから南門を死守するように命令だしといて。あと冒険者にも」
「ああ、出しとく出しとく。もう好きなだけ暴れて来い。思ったより被害がないから街道以外ならもうあんまり気にせんで……いや、多少は気をつけてくれ」
達観したような諦めたような声で適当に返事をするベアトリス。やる気がないな〜。
マーテを抱え準備完了!
「あのレクレ様? なんで私抱えられてるんでしょう? 走るんですよね?」
「マーテ、バカを言っちゃいけない。インドア派のわたしは走ったら息切れして死んでしまう」
「え、じゃ、どうやっ……」
言葉の途中でマーテは気づいたようだ。一瞬で顔が青くなりバタバタと暴れ始めた。
「さぁ、行くよ!マーテ!」
「いやぁぁぁぁ! 空はいやぁぁぁ!」
みんなが何事かとこちらを見て来るがもう遅い。
「次元魔法!」
「ウニャァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
空からマーテの絶叫が響いた。
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