浮遊図書館の魔王様
第76話 ライブラリ防衛……?いや殲滅戦に移行しました①
魔力で体を強化することなく獣人自慢の脚力を存分に発揮しながらレキは走る。
「久々の戦闘に胸が高鳴りますね」
浮遊図書館でも時折訓練をしたりしていたがやはり戦場にでるのとは緊張感がまた違う。
なにより機嫌がいいのは腰にある剣だろう。
以前彼女が使っていた剣はレクレに貰った刃が完全に潰されていた物だったが、今彼女が腰に帯剣しているのは彼女の愛剣である。
「久々に血が見れます。赤い血じゃないのが残念ですが」
口元を歪めレキは笑う。すでにゴブリン達は視界に入っていた。
レキは更に足に力を込め加速する。
あと数歩で間合いに入る瞬間、レキは腰の剣を抜き鼻歌を歌いながら嬉々とした動きでレキは舞う。紫の血が飛び散る舞を舞うたびにゴブリンの首、あるいは体の一部が宙を泳いでいた。
「魔王様に言われたのは殲滅。なら効率良く行きましょう」
特に策など考えることもなくただ近づいてくるゴブリンを切り捨てる。
さらには剣を投げつけ、それだけで三匹ほどのゴブリンを串刺しにする。その剣の柄に魔力糸を繋げ振り回す。
力任せに魔力糸が繋がった剣を振り回すことでゴブリン達の死骸を大量生産を開始する。
なんとか攻撃を躱しゴブリン達も反撃をするが棍棒はあっさりと斬られたり、さらにはレキの繰り出す蹴りによりボールのように軽々と蹴飛ばされたりと全く抵抗になっていなかった。
「……弱すぎますね」
魔力糸を引っ張り戻ってきた愛剣を手に収め、剣を振るい刀身に着いた血を払った。
かなり力を抜いて剣を振るっているのだがそれすらもゴブリンには致命傷に近いダメージを与えているようだ。
すでに何十匹と斬り殺しているが周りにいるゴブリンが減っているような感じはしない。
「弱いのに数が多いと面倒ですね」
がっかりして同時にちょっぴりうんざりした時、レキの背中にゾワっと悪寒が走った。
「⁉︎ なんです⁉︎」
考えるよりも本能で体がすぐさま跳躍。かなりの高さまで上がりやたらと多いゴブリン達を見下ろす形になった。
まだ悪寒が消えない。
その宙から見下ろすゴブリン達を白い閃光が照らした。閃光は一瞬で特に何も効果がなかったのかゴブリン達は進軍を続けていた。
「さっきのは?」
頭に疑問符を浮かべながらも重力に従い落下、着地。軽い衝撃があるが対した物ではない。素早く剣をゴブリン達に向かい構えるが突然なにかに躓いたかのようにゴブリン達は倒れだした
「これは……」
レキはそんな倒れたゴブリン達を見て声を失う。
倒れたゴブリン達の胴体に十センチほどの穴が空いていたからだ。
「こんなことをできるのは魔王様しかいませんよね」
小さくレキはため息をついた。
このまま魔法を援護というか暇つぶしで撃たれ続けるなら自分の獲物はどれくらい残るのだろう、と心配しながら。
南街門上
「見た⁉︎ 今度は完璧に被害をなくして魔法使ったでしょ⁉︎」
「わかったわかった」
新魔法が上手く炸裂しガッツポーズを決めたわたしをベアトリスがうんざりとしたような目で見てきた。
「しかし、何の魔法を使ったのだ? ゴブリン共の体に穴が空いとるではないか」
それでもベアトリスは新魔法の仕組みが気になるみたいだ。
ふふふ、そうでしょうそうでしょう。
「使った魔法は次元魔法の応用魔法だけどね」
「お主しか使えない魔法か」
「ふふん! 新魔法は次元弾と言うんだ」
次元魔法は自身を簡易転移する魔法だ。簡易と呼ぶからこそ次元魔法は目に見えるところに転移するという魔法に落ち着いているのだ。
だがこの次元弾はちょっと違う。
この魔法、次元弾は直径十センチほどの魔力が当たった場所を転移さすのだ。
魔力が当たった場所にはぽっかりと穴があくし、わたしの知ってる限り十センチの穴が空いて生きている生き物は見たことはないし、本でも読んだことがない。
「当たった場所を転移させる魔法、部分転移魔法だからね」
「それは……人に当たった場合もか?」
「もちろん」
人間に対してのみ不発する魔法とか失敗作じゃん。
使ったら発動しない魔法とかは論外だし。
「それを味方のおる戦場に向けて平然と撃つお主の精神がおかしいわ」
「はっはっは、レキが当たるわけないじゃん?」
「その無責任な信頼はどこからくるんじゃ……」
いや、だってレキは魔法斬るからね。未だにどうやって斬ってるのか全くわからないんだよね。見えない魔法すら斬ってるから獣人特有の力かと思ったけどアルは魔法を弾くしかできなかったし。まぁ、十分すごいんだけどね。
「まぁ、レキは大丈夫だよ」
さっきもなんか放つ前から回避行動とってたしね。
さて次はなんの新魔法を試そうかな。
そう考えわたしはゴブリンを見据えニタァと笑う。
「……悪い顔しとるのぅ」
ベアトリスがぼそりとつぶやいた
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