浮遊図書館の魔王様

るーるー

第75話 ライブラリ防衛しました④ side聖女

 街壁の向こう側の至る所から轟音が響いていた。
 それは斬撃音だったり何かを殴る音だったり爆発したりする音だった。


「意外と好戦的ですよね。この国は」


 そんな事を呟きながら私、スペランツァ・タンペットはライブラリの街の中を歩いています。
 普通、暴走スタンビートが起これば街の中は静かになるものですがライブラリの街は意外と普通というか異常なことに普通に商売をしている店も見られます。


「おかしなものです」


 そう考えながらも先ほど買ったリンゴをかじる。まだ微妙に酸っぱいですがこの酸味もいい。


(パンパカパーン! みんな大好きポンパドゥールさまだぁぁぁよぉぉぉぉ!)
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 急に声をかけられ私は持っていた紙袋からリンゴをばら撒きながら絶叫し地面に転がりました。私の声に周囲の人達が何事かとこちらを凝視していました。


(あらあら、いきなり奇声をあげて寝転ぶなんてお転婆さんね〜)
「誰のせいですか!」


 慌てて起き上がり声の主に向かい怒鳴りつけましたが周囲には私しかいませんでした。


「ど、どういうこと?」
(ふふ〜ん! 女神の力で貴女の頭に直接話しかけてるのよ! 女神パワーよ!)


 あの女神様ですか! 


「無駄なところに女神の力を使うんですね」
(あ、頭の中で考えたら私にわかるようになってるからね?)
「先に言ってください!」


 普通に口にだした私がバカみたいじゃないですか。
 確かにこんな女神様を表に出したらポンパドゥール教は一気に信者を失いそうです。


(今失礼な事を考えたね?)
(そんなことないですよ?)


 落としたリンゴを拾うのを手伝ってくれた人に礼をいい再び私は歩き始める。


(それで何の用ですか? ポンパドゥール様)
(いや、そろそろ旅立って半月位たつでしょ? どう? ビビッときた勇者見つかった?)


 ビビッとってそんなすぐに見つかるものなんですかね。勇者って。
 というかポンパドゥール様がきっちり店員さしてくだされば二週間も馬車に揺られることなくもっとじっくりと探せたんですけど?


(簡単な旅で勇者を見つけたら試練にならないじゃない)
(ビビッときたという理由で勇者に選ばれる方もたまったものじゃないと思いますけど?)
(甘いな〜スペラちゃん。勇者ってのはモテモテなんだよ? 男でも女でも異性にモテたいと思うのは普通のことじゃないか)


 そんな欲望に直結した勇者は果たして勇者と呼べるのでしょうか?


(あの神官達は勘違いしてるみたいだけど勇者の力は女神への信仰心だけじゃないのよ?)


 あれ、でも教会でもそう教えてた気がするんですが。
 嘘を教えてたんですか?


(ん〜、単純に信仰心とは真逆の感情だから神官達が消したのよ)


 神官達が消さないといけないくらいマズイ感情ってなんでしょう?
 エッチなことでしょうか?


(まぁ、ぶっちゃけると欲望よ)
(欲望⁉︎ そんなのも力になるんですか⁉︎)


 かなり驚きました。女神の口からそんな言葉が出てきたことにも驚きましたがそれが勇者の力になっていることにもです。


(そうよ〜なんでもいいの。欲しいものや食べたいもの、好きな人を手に入れたいでもなんでもよ。その欲望と信仰している女神との波長が合えば勇者はバカみたいに強くなるわよ〜)


 そんな仕組みでいいのか勇者様。
 そんなことを考えながら歩いていると慌ただしく動き回る人達がいた。


「何事でしょう?」
(外は戦ってるからねえ。怪我人がでてもおかしくないだろうし)


「ゴブリン共が石を投げ始めてきやがったんだ! 今負傷者を街門から降ろしてるとこだ」
「なら私の出番ですね」


 成り行きというか押し付けられたとはいえ聖女の通り名。(あまり知られてませんが)
 攻撃魔法はつかえませんが治癒魔法なら得意です。


広範囲治癒魔法エリアキュア!」


 治癒魔法を私が使用すると同時にスーと魔力が減るのがわかります。代わりに周りの人たちの怪我が治ります。
 ふふふ、この今にも倒れそうな感じがたまりません。


(……貴女Mだったのね)


 失礼な私はノーマルです。


「聖女だ……」
「聖女様だ!」


 私の治癒魔法を見ていた人達が口々につぶやきます。
 まぁ、そうなんですが言われるのはなかなかに恥ずかしいです。
 広範囲治癒魔法エリアキュアで治りきらなかった傷の人達には個別に治癒魔法ヒールをかけて行きます。これで大半の人達は大丈夫でしょう。


「聖女様、こちらの騎士様を見て上げてください! まだ意識が戻らないんです!」


 そういい運ばれてきたのは女の騎士。
 その女の騎士を見た瞬間、ポンパドゥール様が息を飲む気配が伝わってきました。
 一応治癒魔法ヒールをかけてみましたが意識が戻りません。どうやら気絶しているだけみたいです。


(スペラ、スペラ)
(なんですか?)


 今だ怪我をしている人に治癒魔法ヒールをかけながらポンパドゥール様に聞き返します。


(もう、さっきの女の騎士でいいんじゃない? 勇者としての素質は十分だよ )
(さっきの?)


 私は先程治療した人を振り返ります。


(でも、女の人じゃないですか)
(大丈夫よ! あの人からは凄まじいまでの欲望を感じるわ!)


 やだなぁ〜そんな勇者の従者になるの。


(よし、この子にしましょう!)
(え、私に選択権は⁉︎)


 私の言葉に耳を貸さずに私の身体をポンパドゥール様が操り始めます。というか私の思い通りに全く動かないんですけど⁉︎


『ああ、今私が貴女の身体の使用権もってるから』


 変な所ばかりに女神の力を使わないでください!


『女神にも威厳というものがあるしね。じゃ、信託を告げるよ〜』


 そういうとポンパドゥール様は眠る女騎士の横に膝をつくと額に指を当てる。


『汝、魔王を倒す勇者なり、光の武器を使い、魔王を倒し世界の平和を守るのだ………………手段は問わない』


 眠る彼女に向かい無駄に威圧感バリバリの声で信託を告げるポンパドゥール様。なんか最後にサラッと物騒なことを言った気がするけど気のせいと信じたい。その言葉が聞こえたのか女騎士の身体が淡く光ったが女騎士は目を覚ます様子はなかった。


『はい、信託終わり!』
(えらくあっさりとしてるんですね。あと、質問なんですけどどうして彼女なんです?  欲望以外で)
『ノリよ!』


 ノリとか言いましたよこの女神様。


『まぁ、王族の末裔とか伝説の勇者の血をひいてるとかそんな人達に信託を与えてもよかったんだけど……』


 ポンパドゥール様は頬に手を当てながらニヤニヤとした笑みを浮かべ、


『それって王道すぎるでしょ? ていうかつまらないし』
(そんな理由で世界の運命を左右する人を選ばないでください!)


 私の言葉などは無視して、やや芝居がかったようにポンパドゥール様が両手をバッと広げ色が次々に変わる瞳が私を見つめる。


『さて、彼女に与える力を考えようか』


 イタズラをするような彼女の顔はどうみても女神ではなく、悪魔のような笑みを浮かべていました。

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