浮遊図書館の魔王様

るーるー

第68話 クエスト受けました

 ランクF
 依頼 薬草の採取
 場所 黒衣の森の手前
 報酬 銅貨 20枚 (量によって変動あり)


 今回受けた依頼はこれである。
 ランクFの依頼を受けたのはちびっ子三人組のランクが全員Fであるからだけど実際は彼女達のランクはBクラスはあるとわたしは踏んでいる。
 何故なら、


「そっち! そっちにサーベルタイガーいった!」
「よし!任せろ」


 マーテとビリアラが背中にやたらと剣が付いているサーベルタイガーと呼ばれる魔物を追い込みアルが拳を叩き込むという光景が目の前で繰り広げられている。
 ちなみにこのサーベルタイガー、素早い動きで敵を翻弄し見失った瞬間に回転しながら背中の剣を使い攻撃してくるとう動きをするため犠牲になる冒険者は後を絶たない。
 討伐推進ランクはBである。


「うらぁぁぁぁぁ!」


 アルが気合いを込めて突き出した拳がサーベルタイガーの顔面に叩き込まれ、サーベルタイガーの動きが若干止まる。その瞬間を待っていたかのようにビリアラの紙魔法ペーパークラフトが四肢を切断。完全に身動きをとれなくした。すごい量の血がでてるしもうじき死ぬだろうな。


「これで血抜きもできる」
「晩御飯のおかずげっとです!」
「いい汗かいた」


 三人が爽やかな笑みを浮かべる光景は絵になるね。後ろに血溜まりがなかったらの話だけど。


「お疲れ様、あとは薬草を適当に集めて帰ろうか」
「「「はーい」」」


 元気な返事を上げたちびっ子三人は周りの薬草とうか雑草を手当たり次第に採取し始めた。
 君たち、薬草がどれかわってないのか……


「……貴女はなにもしてないじゃないですか」


 対照的に呆れた声を上げるのはスペラだ。なにが不満なんだ。


「依頼を受け、人々の役に立つ。聖女としては見ていて実に心温まるエピソードだと思うけど?」


 雑草と薬草を仕分けるギルドの人達には同情するけどね。


「貴女はただ座って小石を森の奥に投げてるだけじゃないですか!」
「一応やってるんだけどね」


 喋りながらもわたしは再び小石を森の奥に投擲。パァン!となにかが弾ける音が聞こえる。


「お、今度は近かったな」
「一応聞きますがなにをしてるんです?」
「ん、ああ見せたほうが説明するより早いかな」


 不思議そうな顔をするスペラの目に身体強化の魔法をかける。これで遠くが見えるようになっただろう。……ついでに聴覚も強化しとこう。


「これなんです? 凄く視力と聴力が上がってるんですけど……」
「今から投げるから見てて」
  
 再び手頃な小石を持つと森の奥に投擲する。
 視力を強化していなかった今までならここまでしか見えなかっただろう。しかし、今はスペラの視力はわたしと同じくらい強化されている。つまりわたしと同じものが見えるのだ。


「ひぃ!」


 再びパァン!という音が響くと同時にスペラは小さく悲鳴を上げた。まぁ、普通はそうだよね。わたしは笑いながら彼女を眺める。


「い、今の緑色のは……」
「うん、多分ゴブリンだよね」


 ゴブリン。子供位の大きさで緑色の皮膚が特徴のどこにでも生息する魔物だ。
 先程から投げていた小石は森の奥で動き回るゴブリンを狙ったものだ。強化魔法を使って投げてるから当たれば当たった部分が弾け飛ぶんだよね。
 さっきから鳴ってる破裂音はゴブリンが弾け飛んでる音なわけで。
 スペラは強化された瞳でゴブリンの頭が小石で弾き飛ばされたのをしっかりと見てしまい悲鳴を上げたわけだ。ついでに周りにいろいろな部位が欠損したゴブリンの死体も。


「さっきら小石を投げてたのはゴブリン狩りのためですか」
「数が多かったからね」


 ゴブリンは対して強くはないが数で囲まれるとなかなかに厄介な魔物なのだ。
 ちびっ子三人組がサーベルタイガーと戦い始めた時からチョロチョロと姿を見せ始めていたので囲まれる前に牽制で投げていたのだけど思いのほかよく当たるのでゲーム感覚で続けていたのだ。


「ゴブリンが多すぎる。まだ繁殖期じゃないから何処かから流れてきたゴブリンもいるのかもしれない」
「確かにあの死体の数は異常ですね」


 すでに視力強化は切ってあるのだが思い出したのかスペラは顔を青くしている。
 森の入り口付近でサーベルタイガーに遭遇するのも異常だが何よりゴブリンの数が多すぎる。普通ならニ,三匹見かけるくらいだ。


「なによりあいつらこっちを襲おうとしてたしね」


 ゴブリンは臆病な魔物だ。自分より強い者には圧倒的に数が多くなければ仕掛けてこない。しかし、先程のゴブリン達は確実にこちらを襲おうとしていたのだ。ゴブリンの上位種ならありえなくはないが普通ならありえない。


「これは一応ギルドに報告しとくかな」


 なんかの前触れだと怖いしね。


「貴女は本当に無駄に能力がありますね。ボクにも分けてほしいですよ」
「身分相応の能力じゃないと辛いだけだよ? やりたくもない国のトップになったりとかね」


 特権はあるけど面倒なことこの上ないしね。わたしは本さえ読めればいいよ。


「レクレ様、集め終わった」


 マーテの方を見ると袋いっぱいに薬草? を詰め込んでいた。ビリアラも似たような感じだ。アルはサーベルタイガーを担いでいた。


「じゃ帰るよー」
「「「はーい」」」


 ちびっ子三人組とスペラと一緒に冒険者ギルドまで戻ることにした。
 よく考えたらスペラも特になにもしてないよね?


 冒険者ギルドに着き受け付けにちびっ子三人組が向かって行くのをスペラと共に椅子に座って眺めていた。
 結果で言うとちびっ子三人組はギルドで受付のお姉さんにめちゃくちゃ怒られていた。
 薬草と雑草を適当に詰めて来たことにだ。


「薬草はちゃんと初めに渡した冒険者マニュアルにきちんと絵が載ってます。なのになんで雑草まで集めて来たんですか」
「「「すいませんでした」」」


 頭の上のケモミミが三人ともシュンとしてる。なかなかにがっくりときているみたいだ。
 そしてサーベルタイガーの死体を指差すと怒りがさらに爆発していた。


「いいですか? 貴女達はまだFランクです! まずは街の外の知識を得ることを優先とする。それがF.Eランクの冒険者さん達の務めなのです」
「「「はい」」」


 E.Fランクにはそんな役目があったのか。


「貴女も一緒に説教を受けてきてはどうです?」
「いやだ」


 捕まったら長そうだし。


「ゴブリンと戦うことだってFランクには荷が重いと言われています。なのになんでBランク相当のサーベルタイガーを狩っているのですか!」
「「「はい」」」
「はいじゃありません!」
「「「うい」」」
「返事の仕方の問題ではありません!」


 こうしてちびっ子三人組への受け付けお姉さんの説教は四時間続き一応サーベルタイガーを討伐したことを評価されたちびっ子達はランクDに上がったのであった。
 そして当然というか偶然というかゴブリンが大量にいた事をわたしはすっかり忘れてギルドに伝えなかったのであった。

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