浮遊図書館の魔王様

るーるー

司書を探しました③

「それでは今から面談を始めていきたいと思います」


 浮遊図書館、第一階層広間にてベアトリスが厳選した五人の中から一人の司書を決める面談を開始する。


「審査をいたしますのは我がライブラリの魔王レクレ様、宰相ユール様、外交大臣ベアトリス様、味見大臣のファス様の四人です。司会は私、世界征服大臣レキが務めさしていただきます」


 レキが司会でこのメンツとなると役職名がなかなかにカオスだね。
 しかし、


「何故ファス先生まで?」
「ん? 暇だからね。鍛錬ばかりするのも飽き飽きしてきたんだ」


 このリアルアマゾネスは暇さえあれば筋トレするかマーテの料理を味見してるしな。娯楽に飢えてるんだろう。


「では、面談する四人に登場していただきましょう」
「ん? 五人じゃなかったの?」


 確か以前の話では五人って話だったはずだけど。


「いろいろあったんだ……」


 疲れ切ったよう声をベアトリスが絞り出す。
 目の下のクマがひどくなってる気がするな。
 フロアが真っ暗になり一部分だけ光が当たるように調節されていた。
 そこに何故か白いマントで体を覆い仮面を被り顔を隠した五人が歩いて現れた。


「そういえば、ベアトリスとユールはファイルに目を通したんでしょ? どんな人がいるか覚えてないの?」
「如何せん、徹夜続きじゃったからのぅ。全く覚えとらん」
「私もなんです」


 え、つまりほぼ初見ってこと?
 めちゃくちゃ不安なんですけど。
「審査員の方にはお手元にある0〜3と書かれている札で点数を付けていただきます。つまり最高点四人いらっしゃいますので12点になります」


 なるほど。この札の最高点で司書を決めるわけか?
 でも、このやり方なら最初の人が不利な気がするんだけどな。


「では、一人目の方です」


 そんなわたしの不安な心など知りはずもなくレキは司会を進める。
 仮面に白マントの一人が一歩前に出る。そしてバッという音を鳴らしながら白マントを脱ぐ。
 マントの下に隠されていた身体が……?身体が明らかになった。
 なんというかあれだ。この姿を一言で言うなら。


「酒樽みたいな体型ですね」


 うん。ユールの言う通り酒樽みたいだな。
 いや、でも、人は見た目で決まるわけじゃないしね!


「わたしー、この図書館でー働きたいていうかー」


 はい、第一声でなんかむかつくー。第一印象通りでした!
 喋り方がむかつくからなぐりたくなるよ。容姿? 論外です!
 0点の札を上げながらユールは笑顔を浮かべる。


「態度がむかつきますね」


 笑顔が怖いよ。
 0点の札をめんどくさそうに上げながらも「むかつくのぅ」と半目でいうベアトリス。
 0点の札を持ちながらも腕まくりをしながらいつでも飛びかかれるような態勢をするファス先生。
 纏う空気がすでに「こいつ殴るか」と決まったような感じだ。


「はい、規定の数値に達しませんでしたのであでゅーです」


 にこやかに笑いながらおそらくはビリアラから聞いたであろう古代語で挨拶をする。


「は?」


 樽女型が間抜けな声を出し、一瞬で全員の視界から消えた。
 え、なにこれ。怖い。
 唐突に人が消えるって。


「では二人目の方です」


 そんな空気を無視し、レキが司会を進める。
 再び仮面付きマントがバッと脱ぎ捨てる。
 ベアトリスみたいな和服をきたやたらと胸がでかい奴が現れた。


「うむ、わしが働いてやるぞ!近うよれ」


 胸をそらすようにポーズをとったためやたらと揺れる揺れる。挙句に凄まじいまでの上から目線だ。
 ユールはただ微笑んでいる。なにを考えているかまったくわからないが上げてる札は1点だ。
 忌々しそうに1点の札を上げるベアトリス。


「キャラが被ってる」


 いや、胸のサイズが違うだろ。あとベアトリスはあそこまでうざくはない。
 すでに興味がなくなってきたのか0点の札を挙げたファス先生。


「まず、眠くなってきた」


 寝る気満々だな。


「はい、点数が足りません! あでゅー」


 再び目の前にいた巨乳が消える。
 二回目は見えた。一瞬だけ落とし穴が空いたんだ。


「続けて行きましょう。三人目の方出てこいや!」


 レキさん、キャラが崩壊し始めてますよ。


「我輩の名はイオン・ド・タスマリン!ファンガルム王家の遠縁の兄弟の友達の親戚の家の幼馴染!」
「だれだよ! 審査通したやつ!」


 思わず立ち上がった。
 なんでこの筋肉がいるんだよ!


「ふむ、本好きの我輩がここにいてはいかんのかね?」


 いや、言ってたけど! 確かに言ってたけど!
 横の二人を睨みつけると案の定、ユールとベアトリスは明後日のほうを見ていた。


「おい、言い訳を聞こうか」
「疲れてたんじゃ……」
「あの筋肉も見かたによってはかわい……いえ、すいません吐きそうです」


 無理な言い訳を言おうと頑張ったユールがハンカチで口元を押さえながら退室。
 いや、わかるよ。あいつなんか玉みたいな汗かいてるし、臭うし。


「ふふん! 我輩の闘気オーラに当てられたか! 軟弱な」


 やたらとポージングするのがむかつくな。
 ユール退室 0点。


「さすがにこれはない」


 ベアトリスもげんなりとした表情を浮かべながら0点の札を上げる。


「いい筋肉だ」


 何故か満足げな表情を浮かべるファス先生。だが上げてる札は1点だ。なかなかに手厳しい。


「はーい、点数が足りません〜あでゅー」


 レキの声とともに再び筋肉が消えるかと思いきや首だけが床にあった。生首みたいだな。


「ぬぅぅぅ⁉︎ どういうことだ!」


 しかも動いてる⁉︎ きもい!


「ああ、穴が空くのが一瞬すぎて全部落ちなかったんですね」


 ポンと手を叩いたレキは生首に向かいスタスタと歩き、


 ガスガスガスガスガスガスガスガス!


 凄まじい音を立てながら生首を上から押し込むように踏み始めた。


「ぬぅぁ! こら!貴様! 我輩になんてこぶはぁ!」


 抗議の声を筋肉が上げるとすかさず蹴り付け一切の反論する暇許さない。ただただひたらすらに頭を踏みつけ空いている穴に無理やり押し込もうとする。


 十分ほど経過しひたすら鳴り響いていた鈍い音が止まり周りには血が飛び散っていたが筋肉の生首はなくなっていた。
 無事落ちたのだろう。多分、地獄に。


「さぁ、気を取り直して最後の一人行ってみましょう!」


 笑顔で振り返ったレキ。至るとこに返り血が付いてるがあえてナニモイウマイ。
 ビクビクとした様子で仮面とマントを外す。


「よ、よろしくお願いします」


 ビクビクとしながら赤髪の少女がお辞儀する。
 わたしは他の三人に視線を送る三人ともが頷いた。


「「「「採用!」」」」
「え? え?」
「はーい、では浮遊図書館の司書はサーニュ・マーフスに決定しまーす」


 四人の採用の声に少女・サーニュ・マーフスが驚いたような声をあげる。
 一瞬でビリアラ、アル、マーテがサーニュの後ろに回り込み幾つものクラッカーを鳴らす。


「おめでとーサーニュ。ようこそ浮遊図書館へ」


 今までの面談した三人など忘れ素直にサーニュが司書になったことを嬉しく思ったわたしだった。

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