浮遊図書館の魔王様
筋肉の襲来きました①
「魔王たのもう!」
午後ののどかな読書タイムにそれを遮るかのように野太い声が響く。
わたしは読んでいた本から視線を上げ映す鏡に目をやった。
映す鏡に映っているのは《ライブラリ》の一角で蒼水晶を設置しさらにはわたしオリジナルの魔法陣を敷いたことで浮遊図書館にだけ転移が可能門。
通称『魔王門』だった。
「なんだあれ?」
わたしの眼に入ってきたの魔王門の前に立つなぜか上半身裸の下は短パンというなかなかの変態だ。すぐさま騎士団に引き取っていただきたいほどの変態だ。
無視に限る。
そう判断したわたしは再び本に視線を戻す。以前マーテて共に買いに行った本だ。ヴェルリックという少々マイナーな作家だがわたしのお気に入りの作家の一人だ。
丁度読んでたミステリーの犯人がわかるところだ。犯人も気になるし、犯行動機の自供の下りだから気になって仕方ない。
「魔王、たのもぉぉぉ!」
再び大声が響く。
今度はなぜか城が振動しているようで周りの本棚が軽く揺れた。
「うるさいな」
読書の邪魔をするやつは敵だ。叩き潰すに限る。
そう考えつくと誰かを呼ぼうと口を開け、しばらく沈黙し口を閉じた。
「しまった。今誰もいないんだった」
現在の浮遊図書館に誰もいないことを思い出しわたしは頭を抱えた。
レキ、ユール、ファスは泣きついてきたファンガルム皇国にかなり悪どい笑みを浮かべながら外交(脅迫?)に向かったし。
子供三人組は今日は休みだから城下町に遊びに出てる。
ベアトリス、カハミルは騎士団、冒険者ギルドと細かな打ち合わせに出ていってもらってるし。
今、現在、この図書館にいるのわたしだけじゃん。
「え、あれの相手わたしだけでするの? 無理!」
あんな筋肉ダルマの相手とかした日にはわたし、死んじゃうし。でも、あのままずっと放ってたらなんかずっと大声だしてそうだし。
「魔王、たのもぉぉぉぉぉぉ!」
三度目の大声で本棚から本が何冊も落ちた。
本を落とす声量って。
どんだけの声量なんだよ。
「あ、魔王はいないってことにすればいいのか」
魔王に用事があるみたいだし魔王がいなければ帰るだろうし。
わたしは余っているメイド服をいそいそと着込み鏡で姿を確認する。
このメイド服はビリアラのを借りたけどサイズはピッタリだね。サイズは……
「……ビリアラ、わたしよりあるんだね」
見た感じではわからなかったがビリアラの服を着た今ならわかる。
胸の辺りがスースーする!
まだ、成長期だしだ、大丈夫だと信じたい。
予期せぬところで精神ダメージを受けたがなんとか持ち直す。
気をとりなおしもとい、現実から目を背けつつ魔王門に対し魔力を送る。
すると映す鏡に映る門が開き魔法陣に光が宿る。筋肉の塊は怯える様子を一切見せず魔法陣に足を踏み入れ姿を消した。
少しするとわたしの目の前の魔方陣にやたらと上半身の筋肉を見せつけようとしているのかポージングを決めた筋肉の塊が現れる。
「失礼いたす!」
声を出すたびに城がビリビリと振動する。あと胸筋がやたらとビクンビクンと動いてキモい。
「はぁ、わたしはこの城のメイドのレ……レキと申します」
危ない。本名名乗るところだった。魔王と叫んでた所を見るとわたしの名前知らないみたいだから咄嗟にレキの名前出したけど大丈夫だよね?
なによりこいつはヤバイとわたしの本能が告げている。即刻にお帰りになっていただきたい。
「うむ! レキ殿。魔王は何処におられる?」
カールした金色のヒゲを触りながら聞いてくる筋肉。
丁寧だが何気無く上から目線の気がして仕方ない。
「い、今はこの城にはいらっしゃいませんが……」
「なんと! 我輩の闘気に怯え逃げ出したか!」
なぜか悔しそうにする筋肉ダルマ。
闘気ってなんだよ!
全く感じないよ。そんなもの。
「あの、貴方はどちら様で」
「やや! これは失礼した。自己紹介がまだだったな」
筋肉は軽く咳払いを行い胸を張る。
胸筋が動くからやめてほしい。
「我輩の名はイオン・ド・タスマリン! ファンガルム王家の……」
ファンガルム皇国王家⁉︎
まさかユール以外にもいたのか。
いや、王家なんだから隠し子みたいな奴がいてもおかしくないのか。
王家なんだから結構なんでもありそうだし。
「遠縁の兄弟の友達の親戚の家の幼馴染だ」
「それ他人だよね⁉︎」
真面目に聞こうとして損したよ!
まるっきり他人じゃないか。
「細かい事は気にせんでも良いではないか」
がははははと豪快に笑うイオンを見てわたしはこっそりとため息を付く。
こいつはあれだ。脳筋というやつだ。
「して、魔王は何処に?」
さて困った。ここで返答を間違えるとこの脳筋は絶対居座る。そんな確信がある。
慎重にこいつを追い返せるような説明をしなければ。
そのためにはまず、
「ま、魔王様に何の用で?」
この脳筋の目的を聞き出さなければ!
財宝目当てなら少し渡せば納得するはずだし。
「うむ、話せば長くなるが」
「な、なるべく手短にお願いします」
胸筋がピクピク動くのがキモい。視界に入れなくてもなんか音聞こえるし。
「手短に言うなら筋肉のためだな!」
略されすぎた!
「ざ、財宝とかなら魔王様がいないうちならば多少は盗れますが」
盗って帰ってください。お願いします。
「我輩を盗人風情と一緒にしてもらっては困る! しかし、いないうちということは帰ってくるということだな」
しまった! 言質をとられた!
「ま、魔王様は残忍な方です! お早くお逃げになったほうが……」
「なにを言う! お主のような子供をひとりにしとくわけにはいくまい! 残忍な魔王が戻ってくるならばなおのこと叩き潰さなければな!」
この脳筋はどごぞの勇者なの⁉︎
魔王からしたら迷惑極まりないんだけど!
「というわけでここで魔王をまたせともらうとしよう。レキ殿、安心するが良い」
ニカっとやたらとテカテカした笑顔を浮かべてわたしを見てきたのでわたしは、
「ハハ、ヨロシクオネガイシマス」
そう言うしかなかった。
午後ののどかな読書タイムにそれを遮るかのように野太い声が響く。
わたしは読んでいた本から視線を上げ映す鏡に目をやった。
映す鏡に映っているのは《ライブラリ》の一角で蒼水晶を設置しさらにはわたしオリジナルの魔法陣を敷いたことで浮遊図書館にだけ転移が可能門。
通称『魔王門』だった。
「なんだあれ?」
わたしの眼に入ってきたの魔王門の前に立つなぜか上半身裸の下は短パンというなかなかの変態だ。すぐさま騎士団に引き取っていただきたいほどの変態だ。
無視に限る。
そう判断したわたしは再び本に視線を戻す。以前マーテて共に買いに行った本だ。ヴェルリックという少々マイナーな作家だがわたしのお気に入りの作家の一人だ。
丁度読んでたミステリーの犯人がわかるところだ。犯人も気になるし、犯行動機の自供の下りだから気になって仕方ない。
「魔王、たのもぉぉぉ!」
再び大声が響く。
今度はなぜか城が振動しているようで周りの本棚が軽く揺れた。
「うるさいな」
読書の邪魔をするやつは敵だ。叩き潰すに限る。
そう考えつくと誰かを呼ぼうと口を開け、しばらく沈黙し口を閉じた。
「しまった。今誰もいないんだった」
現在の浮遊図書館に誰もいないことを思い出しわたしは頭を抱えた。
レキ、ユール、ファスは泣きついてきたファンガルム皇国にかなり悪どい笑みを浮かべながら外交(脅迫?)に向かったし。
子供三人組は今日は休みだから城下町に遊びに出てる。
ベアトリス、カハミルは騎士団、冒険者ギルドと細かな打ち合わせに出ていってもらってるし。
今、現在、この図書館にいるのわたしだけじゃん。
「え、あれの相手わたしだけでするの? 無理!」
あんな筋肉ダルマの相手とかした日にはわたし、死んじゃうし。でも、あのままずっと放ってたらなんかずっと大声だしてそうだし。
「魔王、たのもぉぉぉぉぉぉ!」
三度目の大声で本棚から本が何冊も落ちた。
本を落とす声量って。
どんだけの声量なんだよ。
「あ、魔王はいないってことにすればいいのか」
魔王に用事があるみたいだし魔王がいなければ帰るだろうし。
わたしは余っているメイド服をいそいそと着込み鏡で姿を確認する。
このメイド服はビリアラのを借りたけどサイズはピッタリだね。サイズは……
「……ビリアラ、わたしよりあるんだね」
見た感じではわからなかったがビリアラの服を着た今ならわかる。
胸の辺りがスースーする!
まだ、成長期だしだ、大丈夫だと信じたい。
予期せぬところで精神ダメージを受けたがなんとか持ち直す。
気をとりなおしもとい、現実から目を背けつつ魔王門に対し魔力を送る。
すると映す鏡に映る門が開き魔法陣に光が宿る。筋肉の塊は怯える様子を一切見せず魔法陣に足を踏み入れ姿を消した。
少しするとわたしの目の前の魔方陣にやたらと上半身の筋肉を見せつけようとしているのかポージングを決めた筋肉の塊が現れる。
「失礼いたす!」
声を出すたびに城がビリビリと振動する。あと胸筋がやたらとビクンビクンと動いてキモい。
「はぁ、わたしはこの城のメイドのレ……レキと申します」
危ない。本名名乗るところだった。魔王と叫んでた所を見るとわたしの名前知らないみたいだから咄嗟にレキの名前出したけど大丈夫だよね?
なによりこいつはヤバイとわたしの本能が告げている。即刻にお帰りになっていただきたい。
「うむ! レキ殿。魔王は何処におられる?」
カールした金色のヒゲを触りながら聞いてくる筋肉。
丁寧だが何気無く上から目線の気がして仕方ない。
「い、今はこの城にはいらっしゃいませんが……」
「なんと! 我輩の闘気に怯え逃げ出したか!」
なぜか悔しそうにする筋肉ダルマ。
闘気ってなんだよ!
全く感じないよ。そんなもの。
「あの、貴方はどちら様で」
「やや! これは失礼した。自己紹介がまだだったな」
筋肉は軽く咳払いを行い胸を張る。
胸筋が動くからやめてほしい。
「我輩の名はイオン・ド・タスマリン! ファンガルム王家の……」
ファンガルム皇国王家⁉︎
まさかユール以外にもいたのか。
いや、王家なんだから隠し子みたいな奴がいてもおかしくないのか。
王家なんだから結構なんでもありそうだし。
「遠縁の兄弟の友達の親戚の家の幼馴染だ」
「それ他人だよね⁉︎」
真面目に聞こうとして損したよ!
まるっきり他人じゃないか。
「細かい事は気にせんでも良いではないか」
がははははと豪快に笑うイオンを見てわたしはこっそりとため息を付く。
こいつはあれだ。脳筋というやつだ。
「して、魔王は何処に?」
さて困った。ここで返答を間違えるとこの脳筋は絶対居座る。そんな確信がある。
慎重にこいつを追い返せるような説明をしなければ。
そのためにはまず、
「ま、魔王様に何の用で?」
この脳筋の目的を聞き出さなければ!
財宝目当てなら少し渡せば納得するはずだし。
「うむ、話せば長くなるが」
「な、なるべく手短にお願いします」
胸筋がピクピク動くのがキモい。視界に入れなくてもなんか音聞こえるし。
「手短に言うなら筋肉のためだな!」
略されすぎた!
「ざ、財宝とかなら魔王様がいないうちならば多少は盗れますが」
盗って帰ってください。お願いします。
「我輩を盗人風情と一緒にしてもらっては困る! しかし、いないうちということは帰ってくるということだな」
しまった! 言質をとられた!
「ま、魔王様は残忍な方です! お早くお逃げになったほうが……」
「なにを言う! お主のような子供をひとりにしとくわけにはいくまい! 残忍な魔王が戻ってくるならばなおのこと叩き潰さなければな!」
この脳筋はどごぞの勇者なの⁉︎
魔王からしたら迷惑極まりないんだけど!
「というわけでここで魔王をまたせともらうとしよう。レキ殿、安心するが良い」
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