浮遊図書館の魔王様

るーるー

新刊を買いに行きました①

「今日は新刊を買いに行きます」


 浮遊図書館から《ライブラリ》の街に向かい転移魔法でわたしはやってきた。途中でマーテに見つかったから一緒に連れてきた。
 いやー待ったよ。かなり待ったよ。
 街として機能し始めて三ヶ月。本屋に置いてあるやつ全部新刊じゃないんだもね。
 中央大陸の作家がほとんどこの街に移住してきてしまったらしいからその間新刊が一冊もでなかったんだ。
 かなりの地獄だったよ。
 読書好きのわたしには地獄だったんだよ。
 読む本がないというのはね!


「レクレさま、新刊ってなんですか?」


 キョトンとした顔で尋ねられた。うーむ、そこから説明しないとダメか。


「そのままの意味だけど新しい本だよ。」
「本、城にいっぱいあるよ?」
「城にあるやつは、全部読んじゃったしね」
「え……」


 なにそのありえないものを見るような顔は。
 三ヶ月もあったんだよ?
 ビリアラは一日一冊にしてたみたいだけど、一日二十冊とか読書家なら普通だよね? 


「レクレさま、それ普通ちがう」


 目線を逸らしながらマーテが言うけど無視。
 今日は心躍る新刊の日だからね。細かいことは気にしてられない。
 自然と気分が良くなり鼻歌を歌いつつ本通りをスキップしたい気持ちを抑え歩く。
 本通りは名前通り本屋がズラリと並んだ通りの事をさす。
 ここに来れば大体の本は揃うしね。古本屋もあるし極稀に魔導書が売られたりするから周りには魔法使いらしい姿チラホラ見えたりする。
 まぁ、本は見るだけでも楽しいものさ。
 ふと後ろを見るとマーテの尻尾がすごい勢いで左右に揺れてる。本屋というよりあちこちにある露天に興味があるのみたいだ。キョロキョロとしながらわたしの後ろをパタパタといった具合について来る。帰りになにか買ってあげよう。


「とりあえず、あの本屋に行こう」
「はーい」


 指差した本屋に向かいわたしとマーテは歩き始める。
 店の前には『今月の新刊!』と書いてある紙がでかでかと張り出されておりその下には数十冊のとても綺麗に作られた新しい本、本、本が!


「レクレさま! ヨダレ! ヨダレ垂れてます!」
「おっといけない。あまりに美味しそうだったからつい」


 慌てて口の端しから垂れていたヨダレを腕で拭う。
 新刊のインクの匂いにやられてヨダレが垂れてたよ。


「レクレさま、それ病気だと思う」
「マーテ、その病人を見るような眼をわたしに向けるのは辞めてくれないかな。傷つくよ」


 読書家なら普通だと思うんだけど。これが一般人と読書家との差か。
 ああ、でも久しぶりの新刊だからな〜。すごい楽しみでもあるんだよ。


「でもあんまりいっぱい買えないよ? 二人しかいなからそんなにもてないし」
「そうだね」


 そう、確かに二人だしそんなに持てない。吟味に吟味を重ねて選ばなくては。
 うむ、


「ここの新刊全部一冊ずつください」
「レクレさま⁉︎」
「え、なに?」


 欲望には勝てないから仕方ないよね。
 これも読書家なら仕方ないんだよマーテ。


「そんなにいっぱいもてませんよ」
「いや、その前に嬢ちゃん。お金持ってるのか?」


 胡散臭げな顔をしながら店主ぽいおっちゃんが聞いてきたのでわたしは金貨や銀貨が入った袋を取り出し目の前で振って見せた。チャリチャリと貨幣がこすれるいい音が響く。


「お金があるなら問題ないがそっちの小いさい嬢ちゃんの言う通り持つのは無理じゃないか?」
「大丈夫大丈夫」
 パチンと指を鳴らす。するとわたしの横の空間が歪み小さな穴があく。


「?」


 マーテが不思議そうに穴を見ている。わたしは穴の先にはビリアラが椅子に座り真剣な顔をして本を読んでいる姿を確認する。


「上手くいった上手くいった」


 予定通り浮遊図書館に穴が繋がった事にわたしは満足する。
 最近覚えた魔法次元魔法ゲート
 効果は行ったことのある場所に扉を繋げることができるという物を運んだりするのにとても便利な魔法だ。
 その次元魔法ゲートで作った穴に先程購入した本を次々と放り込んでいく。
 次元魔法ゲートで作られた穴からビリアラの悲鳴が聞こえ、「本が落ちてきてる⁉︎」「なに! お化け⁉︎」といったような驚いた声が聞こえてきた。
 これはイタズラに使えるかもしれない。


「驚いた。嬢ちゃんは魔法使いか」
「そうよ」
「その歳であんな額の金貨をもってこんな魔法を使うとは何処かの貴族か?」
「貴族とは違うけどまぁ、儲けてる家だよ」


 働かなくてもお金が入ってくる身分の魔王だなんて言えないし。
 サイフをポケットにしまうとなぜか眩いばかりの光が目に刺さった。


「眩し!」


 思わず眼をつむり手でさらに覆うと多少マシになった。
 なんだったんだ一体。
 しばらくすると光が収まりようやく目が開けられるようになった。だれか光魔法でも暴発さしたのか?
 更に腰に違和感。ふと下を見るとマーテが腰に手を回ししがみついていた。


「マーテ、なにしてるの」


 わたしの声にようやく眼を開けたマーテが掴んだわたしを確認すると驚いたような表情を浮かべる


「なんでレクレ様?」
「いや、わたしが聞きたいんだけど?」


 しがみついてた理由わからないしね。
 マーテはしがみつくのをやめると急に泣きそうな顔になった。


「レグレざま」
「な、なに? マーテ。というかなんで泣いてるの」
「サイフ盗られてるかも」
「え?」


 言われて服のポケットに手を入れ確認する。
 しかし、入れた手はサイフを触ることない。慌てて周りを見たりするが全く見当たらない。


「え、本当にない?」
「だから盗られたの!」


 言ったことを信用してくれなかったことにマーテはなきながらも頬を膨らます。怒った顔もまたかわいい。マーテの頭を撫でながらそんなことを考える。怒っていたマーテはくすぐったいという表情を浮かべる。


「いや、こんなことをしている場合じゃなかった!」
「こんなこと⁉︎」


 何故かショックを受けるマーテ。
 今はそれどころじゃない。盗んだ奴を探さなくては。


「レクレ様! あれ! あれ!」


 大声を上げわたしの服を引っ張るマーテの指を指すほうを見ると凄い勢いで走り去るハゲが!


「あれ! あのピカピカが盗った!」
「あのピカピカか!」


 確かに一人だけ走っているだけで怪しさ全開だ。


「よし、マーテ! 汚名返上よ」
「うん!」


 ビシっとピカピカに向かい指を指したわたしの声に元気良く返事をしたマーテが走り出そうとし、


 ビタン!


 大きな音を立て、マーテが顔から地面に倒れこんだ

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