浮遊図書館の魔王様
第五十五話 再び交渉(脅迫)しました
ファンガルム皇国、王城の謁見の間。
そこにわたしはユールとレキを連れて訪れていた。
目の前の王座にはパーティーの時よりも顔色が明らかに悪くなったカドラト・ラ・ファンガルムが座っている。
周りにいる騎士達も殺気立ってるし疲れるなー。
「国王カドラト様、久しぶり」
仕方なしにフレンドリーに声を掛けた。沈黙は嫌いじゃないけど読む本もないしな。手早く済ませよう。
「……ああ、その様子じゃ冒険者達は全滅か」
わかっていたようだがガックリと肩を落とすカドラト、老け込んでるな。
わたしは軽く指を上げるとそれだけで騎士達が身構え、国王の顔も青くなった。そんな不安がらなくてもいいのに。
構わず指を鳴らすと足元に魔法陣が瞬時に現れ、その上に縛鎖でグルグル巻にされ身動きがとれなくされている勇者が現れる。
勇者が現れると周りの人達が慌て出した。
無理もない。期待の星であった勇者がボロボロで現れたんだから。
「ああ、安心してください。誰も死んでませんよ」
安心さす意味でみんなに聞こえるように言ってあげた。
人死には面倒だし色々と。恨み買うのも怖いし。
「ええ、あんな勇者殺す価値もありませんから」
はい、爽やかな笑顔で勇者を罵倒しましたー。
「では、交渉をしましょうか。敗戦国」
何事もなかったかのように交渉を開始しようとしてるし。
この姫様は確実にSだよね。傷口に塩を丹念に丹念に塗りつけるタイプだよ。その証拠にすっごいいい笑顔してるからね。
「まず最初にファンガルム皇国が負けたからといって国王の首を差し出せなんてことは言いません。これからも良き統治をしていただけることを我が主である魔王様も望んでおられます」
そういいわたしを手のひらで示す。
カドラト王や側近と思われる人達が安堵のため息をついていた。殺されると思ってたのか。
首なんてもらっても使うことないしな。そんな無駄なことするくらいなら国を統治してもらった方がまだマシだろう。
「こちらからの要求はこの首都以外の全部の領土とこの城の宝物庫の財宝の七割としましょうか」
「バカな!それでは国が立ち行かん!」
ユールの要求になんか偉そうな人(大臣?)がすぐに噛みつく。
横幅がやたらと大きな人だし、さぞいい物食べてるんだろうな。
わたしは交渉とか面倒いからしないよ。
「敗戦国は蹂躙されても文句は言えないでしょう?」
ユールの言葉に大臣が悔しそうに表情を歪めなぜかわたしを睨みつけてきた。
なんでわたしが睨まれる。今さっき恨まれるのはゴメンだと考えたばかりなのに。
しかし、ユール、敗戦国ってフレーズ気に入ってるの?
というか実の父親の国造り、いや、自分の国に対して案外容赦ないな。
「……領土を渡すと我が国は交易すら不可能になる。それは王として了承しかねる」
カドラト王が要求を拒否する、
当たり前だ。
王都だけ残されても農業も工業もできないな。というか国として成り立たない気がするんだけど。周りの領土を全部とられるというのは敵に囲まれるということと同意なんだから当たり前だ。
「では特定の領土、そして財宝は五割としましょう。あとは人材をいただきましす」
「初めからそこが妥協点だとわかっていたんだろう?ユール」
「こちらとしては魔王様の武力をカードにしてもよかったのですがそれは私の切るカードではないので」
あっさりと発言は訂正するわ、わたしを使って脅迫してるし。
こういうのが交渉というのか?
「領土として欲しいのは黒曜の森の前面、魔王様が騎士団を蹴散らし穴が空いた辺りをいただきます。ここまでが勇者の命の引き換え条件です」
「なっ⁉︎ ちょっと待て! 今までのは勝利したことでそちらが得る物の話ではなかったのか!」
ユールの発言にカドラト、側近の大臣達が目を見開く。
ここまでの要求とは勇者の命と交換?
どういうこと?
「魔王様はご存知ないでしょうが勇者とは神に選ばれた戦士です。つまり神の下のわけなんですから価値だけで言うと国王よりも上なわけです」
困惑しているわたしにユールが説明してくれる。
「あれがそんな価値あるんだ」
「はい、そんなバカみたいな価値のある勇者を土地と財宝だけで救えるんですから破格の交渉ですよ。まぁ、仮にこの交渉を蹴った場合国際的信用を失うわけですが」
「それはどうして?」
「勇者は世界に七人しかいない希少な人間ということもありますが、人道的な問題です」
いいですか? とユールは話を続ける。
「あの国は勇者を使うだけ使って捕まっても身代金も出さなかったケチな国と思われるからです」
なんてしょぼい理由!でもなんかありえそうだな。
「加えて勇者を蔑ろにしたという理由で教会との対立も逃れられないでしょう」
なるほど、つまりファンガルムは勇者を取り戻さないと他国からの信用を失う、教会を敵に回すという板挟みのような状態になるわけか。
でも、その考え方でいくと、
「ユール、勇者をボコボコにしたわたしたちはすでに教会の敵扱いなのかな?」
「それはもう。場合によっては高額の賞金首ですよ」
この女……わかっててやりやがったな。のったわたしも悪いが。
「……わかった。勇者の身代金は払おう」
「ありがとうございます。お父様。では約束のゴミです」
ユールはにこやかにお礼を言うと笑顔を浮かべたまま身動きの取れない勇者を蹴飛ばした。
「ぐぁ」という悲鳴が聞こえるがユールは全く気にするそぶりを見せなかったし。
あわてて神官がゴロゴロと転がる勇者に対して治癒魔法を使用する姿が目に入った。
「さて人材ですがそれはまたリストを渡します。それと冒険者を雇うための費用を出していただきます」
勇者などすでに眼中にないようにユールは交渉を続ける。この子 は本当に人でなしだな。敵じゃなくてよかった。
「待て! 冒険者を雇う費用もか⁉︎」
「財宝を七割から五割にしたのです。例え雇ったとしても一割も使わないでしょう」
またも大臣が叫ぶ。
なんかあの人叫んでばっかりだな。校長みたいに倒れるんじゃないかな。
「あとは当面のこちらのギルドの使用許可、あと広報物の配布の許可も必要ですね」
大臣など無視しユールは話を続ける。
内心うんざりしていることだろう。
「領土と財宝以外なら好きにせよ。ユール、そして魔王よ。今からなにをする気だ?」
疲れきったような顔をしたカドラトが尋ねてくる。
あんたが言った言葉のせいなんだがな。今の状況は!
「お偉い国王様が言ってた通りのことだよ」
「なに?」
覚えてないのか。
貴族というさ王族というのはめんどくさい。言った言葉すら覚えてない。それが他人にどれだけ迷惑をかけるかを考えもしないし。
「国だよ。わたしの理想の国を作るんですよ」
わたしはニヤリとカドラト王に笑い掛けたのだった。
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