浮遊図書館の魔王様

るーるー

第五十三話 遊んでみました

「弓、魔法撃て!」


 一歩前に踏み出してきた真紅の鎧に一瞬、恐怖を覚えながらもフランクの号令と共に弓、魔法が一斉に真紅の鎧に放たれる。
 一瞬にして炎、雷、風の魔法が鎧を包み込んだ。


「おお!」


 わたしは目の前で行使される魔法の破壊力に感嘆の声を上げる。さすがに学院にいる生徒とは比べものにならない威力だ。
 さすがに目の前で見ると迫力があるな。でも


「なんか魔法の威力が弱くない?」


 そう、弱いのだ。本当の魔法使いが使う魔法って普通に当たった奴を消滅さすくらいじゃないの?


「君はいい加減に基本ランクを把握するべきだよ」


 隣に座るファスが冷静な声で告げてくる。


「そうなんですか?」
「君は自分の魔力をバカみたいに使用して使うから自覚がないんだろうが、普通はあんな物だよ。あれでも威力として上々だ」
「ふぅん」


 適当に相槌を打ちながら再び真紅の鎧の方に視線を戻すとまだ色とりどりの閃光が鎧を包んでいた。


「だが、あんな物では私が調整した魔導具は潰せない」


 ニヤリと笑い余裕を持った表情で魔法を喰らい続けている鎧を眺めていた。


「打ち方止め! 前衛、前に出ろ!」


 再びの号令で弓、魔法が止まりそれと変わるように剣、槍を持った戦士が魔法の直撃により煙を上げる鎧に向かい殺到していった。


「やっていいよ」
『はーい』


 わたしの言葉に間の抜けた返事を返した真紅の鎧が動き、左の拳を振りかざした
 え、あんなところから当たるの?


「いけ! 私の作った魔導具、真紅一号!」


 ファスが珍しくテンション高く興奮している。
 一体何をする気なのか。


『いっきまーす』


 勢いよく誰もいないところに拳が突き出された瞬間、拳が飛んだ。
 轟々と炎を吹き出しながら真紅の左拳が鎖をジャラジャラと音を鳴らしながら空を飛ぶ。


「「「おおお!」」」


 わたしたち魔王側は感嘆の声が上がる。
 轟音を上げ密集してい冒険者達の元に真紅の拳が爆発するかのごとく叩きつけられ、


「ぎあやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 冒険者側からは直撃を食らった者の悲鳴があがる。
 おお、石畳を砕いて突き刺さってる!
 なんという破壊力だ。


『外しましたか』


 鎧はそう告げると軽く左腕を動かす。すると鎧と腕を繋いでいた鎖が鎧に引き戻されるように動きだし拳とガシャン!っと言う音を立てながら鎧が再び繋がった。


「よし! 飛ぶ拳はいけるな!」


 ガッツポーズを決めながらファスは笑みを浮かべていた。
 こういう人が狂気の学者と呼ばれるんだろう。
 というか楽しそうだなぁ。


「おい! 魔王!」
「ん?」


 呼ばれたためそちらを向くと死屍累々といった様子の中、確かアリ……なんとかと呼ばれていた勇者がこちらを見ていた。


「なにかな? アリホン君」
「アリオンだ! お前、その鎧まさか」


 なかなかに耳がいい勇者だ。もう少し後にしてからリアクションを楽しみなかったけど仕方ないか。


「バレたら仕方ないよね。兜はずしていいよ」
『わかりましたわ』


 そう鎧が返事すると左手で兜を持ちガチャガチャと騒がしい音を立てる。


『すいません。一人で外せないので誰か手伝ってもらえませんか?』


 申し訳なさそうに真紅の鎧がこちらを振り返りながら告げる。なんか情けない光景だな。
 鎧の言葉にアルが一番に動き、鎧の肩に乗ると先程と同じようにガチャガチャと再び音が鳴り始めた。その際に『ちょ、もう少し優しく』『髪髪巻き込んです!』という声が聞こえる。終いにはイラついたのかアルが力尽くで壊したのかバキ!っという音が響きようやく兜が取れた。


「ふぅ、お初にお目にかかります、私、ユニエール・ラ・ファンガルムと申します。カドラト・ラ・ファンガルムの第一子にして皇女をしております。以後お見知り置きを」


 鎧を着込んでいるので優雅にとはいかないが礼をするユール。


「な、何故、皇女殿下自身が闘っておられるのですか! 囚われたと聞いたのですが」


 突然のことで動揺するようにアリオンが尋ねる。まぁ、疑問はもっともだね。


「私、前から王城から出たかったのですよ。なにをするにもしきたりだ公務だ王族としての義務だとめんどくさいですし」


 前話した時も言ってたしね。


「ですから魔王様に頼んで攫っていただきましたのよ」


 満面の一切曇りのない笑顔でユールは言い切った。
 不意に視線を感じそちらを見ると勇者がわたしを殺すかのごとく殺意のこもった視線を向けてくる。


「魔王、貴様、禁忌の洗脳魔法を使ったのか!」


 なかなかに失礼なひとだね。 ユールの話聞いてたのかな? なによりそんな面倒なことするわけないじゃないか。


「そんな面倒なことするわけないじゃないか。そもそも国さえ欲しくないんだよ。わたしは」
「ならば、何故ファンガルムに戦争を仕掛けた!」
「わたしが本を読む時間を作るためだよ!」


 ああ、めんどくさい。ちゃっちゃと黙らそう。


「ユール!」
「はいはい魔王様」


 わたしが何を言うのか察しているのだろう。いい笑顔してるな。


「ちゃっちゃと蹴散らしてこのゲーム終わらすよ」
「御衣にですわ」


 そう言うとユールは右腕の筒のような物をアリオンに向かい構える。


「皇女殿下! あなたは洗脳されているのです!」


 いまだ現実が見えてない男が一人いるようだけどね。


「ねぇ、勇者。早く勝利条件を満たさないと全滅するよ?」
「魔王! 貴様、ボクに皇女殿下を殺せというのか!」


 こいつ、まだ気づいてないのか。
 まぁ、いいけど。


「見ているがいいレクレ。私が作り出した魔導具の、真紅一号の力をな!」


 興奮したように言うファスに言われるまでもなく何かをやらかしそうな真紅一号を纏うユールに注目する。
 あの筒みたいなやつもファスが作り出したというのなら興味津々だ。


「魔導砲試作型! 起動だ!」
「はい!」


 ファスの声かけにユールが答えた。
 ガコン!っという音が鳴ると右の筒が微かに振動しはじめているようだった。


「あれはどういった仕掛けなんです?」
「あの筒は私が作成した魔導砲だ」
「魔導砲?」
「ああ、あの筒から魔力を弾にして発射する物だ」


 見てればわかるといった顔でわたしを見てくる。
 仕方なしにわたしが再び視線を戻すとまだ勇者が喚いていた。


「あれ、うるさいからだまらせない?」
「奇遇だな。私もそう思った所だ。ユール殿下」
「りょうかーい」


 ユールは魔導砲の狙いを立ち上がろうとする冒険者達ではなく一人喚くうざい勇者に変えたようだ。
 それに気づいたのか勇者がギョッとしたような表情を浮かべ、


「殿下! お気をたしか……」
「撃て」


 無慈悲にファスが勇者の言葉を遮り発射命令を下す。
 掲げられた魔導砲に光が収束され、ヒュンという音が鳴り空間に白い線が走る。
 おお! 全く見えない! すごい速度だ!
 そんな白い線が幾つも走り、それが無防備な勇者の身体に直撃する。


「あが! いぎ! がぁっ!」


 ヒュン!という音が鳴る度に勇者から無様な悲鳴がもれ奇妙な創作ダンス?のようなものを踊る。
 ……これはこれでおもしろいかもしれない。
 狙ってる場所があきらかに即死に繋がらない部分、肩や爪先、腕を狙ってるユールの性格も大分悪いな。
 魔導砲の攻撃を食らうたびにわたしがフロアに使っている治癒魔法が発動し勇者の傷を治すがそれを上回る速度で勇者、傷増えてるし。


「どうだ! レクレ! 私の真紅一号に勇者は手も足も出ないぞ!」


 そう誇らしげにわたしを見ながらファスが告げてくる。
 このゴリラ女は体術だけじゃなくこういった魔導具の開発の才能もあるから妬ましい。
 そう考えているとバタっと何かを倒れるような音が聞こえる。
 そちらに目をやると、


「あれ?」


 勇者が血まみれで痙攣しながら倒れていた。

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