浮遊図書館の魔王様
第五十話 第四階層 レキテンションあがりました②
交差さした光剣でレキの斬撃を受け止めたアリオンだが内心では冷や汗を流していた。
(めちゃくちゃ早い! 加えて重!)
相手がなんとなくこちらを見ていたから警戒はしていた。そして常に視界に入れていたはずなのに姿が一瞬で消えた。
この二つのことからアリオンは反射的に防御の構えをとったのだが正解だった。もし防御の姿勢をとらなかったら頭をあの斬れ味の悪そうな剣で叩き割られていたのかもしれないのだから。
「せい!」
力を込め、レキの剣を弾き返す。
姿勢を崩しながらも再び剣を構え斬りかかろうとするレキに右からフランク、フォルト左から追撃を放つ。
僅かに早くきたフランクの斬撃を大剣を石畳に突き立てることで受け止め、フォルトの斬撃は突き立てた大剣に執着することなく手放し足場とし跳躍し躱す。
空中に跳ぶことにより逃げ場をなくしたレキに向かいアリオンも跳躍。光刃を閃かせるがレキはそれを鞘で受け止めた。
空中で受け止めたためレキは後ろに弾き飛ばされるが左手を突き刺した大剣に振るうような素振りを見せる。
放たれたなにかを手繰るような仕草をすると吹き飛ばされていたレキがなにかに掴まれたかのように空中で急停止。同時に突き刺さっていた大剣が主の元に戻るように石畳をえぐりながらレキの方へ飛んでいく。
レキはそのままふわりと着地すると自分に向かい飛んできた大剣を何事もなかったかのように左手に収めた。
そこへ遅れてきたように弓と様々な魔法が殺到する。
「邪魔ですね」
短く言い捨てると自分に当たるであろう色とりどりの閃光を放つ魔法に対し剣を振るう。
魔法は切り裂かれ効果を失い、振るった剣の風圧で弓はレキに届かない。
レキは剣一つで悠然と迎撃し切ったのだ
「……本当にこの図書館はびっくり箱ですか」
流石に勇者アリオンも信じられないような呆れるような声を出し呟いた。
魔法を斬るという技は確かに存在する。だが存在するといっても実際にできる人間というのは僅かな人数のはずだ。
(それをあっさりとしかも当然のようにですか)
後ろで魔法使いや弓兵達がざわめき立つ。
無理もない、魔法は相殺されることはあっても斬られる無効化されることなどだれも想定していないのだから。
「ふ、ふふふ」
声は剣を振り切ったままの姿勢で固まる少女から聞こえてきた。
「あっはっはははっははは!」
なにが可笑しいのか少女は笑う。すると先ほどと同じようになにかわからない圧力がフロア全体に充満し始めた。
「化け物が!」
恐怖に駆られた魔法使いが再び魔法を放つと再び弓、魔法の閃光がレキに降り注ぐべく舞い上がった。
「くふぅっ!」
レキは狂ったような笑みを浮かべる。
先ほどのように剣を構えるわけでもなくただ立ったままで破壊の閃光をただ眺める。
そしてレキが軽く踏み込む。
それだけで誰しもの視界からレキは消えた。
「クソっ!」
アリオンは口汚く罵りの声を上げるとすぐさま反転。魔法使い密集している方に駆け出す。
彼だけが唯一見たのだ。
後方支援組である魔法使い、弓使いの密集したところに向かいレキが跳躍したのを。
「シシシシシ!」
笑いながらただ力任せに振るう。
杖などで防ごうとしたのだろうかそんな行為は意味がないと言わんばかりに軽々と振り抜かれた。
振り抜かれた後にはなにかが砕けるような嫌な音が響き、数人が宙を飛ぶ。
「え……」
場違いのように間抜けな声があがる。
目の前で人が吹き飛ばされたことをようやく認識した魔法使い達が魔法を放とうとするがそんな時間を与えてくれるほど目の前の化け物は甘くなかった。
「ドォォォーン!」
緊張感の感じられない声とともに蹴りが放たれる。
放たれた蹴りは目標違わず目の前の弓使いの足に叩き込まれ瞬間、骨が折れる音が鳴る。
悲鳴が響くが 化け物はすでに新たな獲物に向かい一歩を踏み出す。
「勇者魔法六番! 光弾!」
アリオンの前に五つね光の玉が現れ、彼が剣を軽く振るうと凄まじい速度で光球五つ全てが違う方向からレキに襲いかかった。
(威力を捨て速度で相手を追い詰める魔法、これなら!)
手当たり次第に剣で殴りつけていたレキは光球に気づくとすぐさま剣を翻し一つ目を切り裂く。その切り裂いたのと時間差で二つ目の光球がレキに迫った。
二つめを躱しきれないと判断したのか剣から右手を離すとその手で光球を横から払うように叩きつけた。
僅かに手に負傷を負いながら魔法を払い血が滴る右手をそのまま近くの魔法使いへと伸ばす。
「うわっ」
無様な悲鳴を上げた魔法使いの胸ぐらを掴むと残り迫る光球に向け投げつける。
レキを狙い放たれた魔法は制止することができずに放り投げられた魔法使いに直撃。一瞬で意識を奪い大きな音をたて床に落ちる。
「ちっ!」
舌打ちしつつもアリオンは再び光弾を放とうとするが辞め、すぐさま横に跳ぶ。そして轟音。
先程までアリオンが立っていた場所にレキの剣が突き刺さっていた。
おそらくアリオンが魔法を唱えるのを邪魔するために放り投げられたのだろう。
その武器を手放した瞬間を見逃さずフォルトがレキを袈裟斬りにするべく剣を振るう。
しかし、レキは腰に下げていた鞘を抜きた叩きつけることで軌道を逸らし、バランスを崩したフォルトに対し足脇腹を蹴り上げた。
鈍い音が鳴りフォルトの体が衝撃で浮き上がり天井に叩きつけられた。
「あがぁ!」
天井にぶつかった衝撃で息ができなくなり一瞬の無重力を味わったあとに床に叩きつけられ血反吐を吐くと身動きがとれなくなった。
フォルトの持っていた剣も時間差を起き宙から落ちており、鞘を持っていない左手にその剣はレキの手に収まった。
「おおおおっ!」
フランクが咆哮を上げながら剣を振り下ろす。レキはその斬撃に無造作に合わせるように剣をすくい上げる。
爆発音じみた音が響き同時にドスっという音と共に中ばから折れた剣が二本石畳に刺さった。
「なっ⁉︎」
「あれ?」
フランクはすぐに見切りをつけ折れた剣を捨てると後退。腰から短刀を取り出すとノーモーションでレキの顔に向かい投げつけるがそれをレキは折れた剣で容易く弾き、逆に折れた剣をフランクに向かい投げつけた。
瞬く間に迫った剣を避けることができずフランクは剣に鎧を突き刺され身動きががとれなくなる。
武器を失ったレキに対しアリオンは疾走。
光剣に更に魔力を流し込み強化する。
それに気づいたレキはまたもなにかを手繰るような動きを見せた。その動きに再びアリオンは危機感を覚え屈み込み頭を下げる。
屈んだにも関わらず頭上を何かがかすり風が吹き荒れた。
視線を戻すとレキの手には投擲したはずの剣が再び収まっており、鞘を腰に戻す所だった。
目を凝らして見ると剣の柄の部分とレキの右手にキラキラした糸のような物が見えた。
「魔法か?」
「いえ、ただの魔力で編まれた糸、魔力糸ですよ」
そういうとレキは糸を振り回し頭上で剣を回転さし始める。それは轟々と音を上げながら暴風を撒き散らしていた。
「てぇい!」
可愛らしい声とともに馬鹿らしい程の遠心力が加えられた剣がアリオンを襲う。アリオンはすぐさま後ろに飛び退くが放たれた剣は石畳を砕きいくつもの石弾を作り上げアリオンを追撃する。
アリオンも光剣を振るい叩き落すが数が多すぎ全てを躱し切ることができずいくつもの傷を負う。
「なんつう力だよ」
額から流れる血を拭いながらアリオンは吐き捨てる。
今までの攻撃がただ純粋な力だけで行わられてることに気づいたからだ。
レキは再び力を込め魔力糸で剣を振り回し、アリオンを近づけさせない。しかも、その攻撃はアリオンを狙う物だが周囲の冒険者達にも被害を及ぼす物だった。
砕かれた岩により倒れる者や剣の直撃を受け血反吐を吐くような者がいたりと散々たる物だ。
「ほいほいほいほい!」
疲れ知らずとは彼女のことを言うんだろうとアリオンは考えながら飛んでくる剣、石弾を光剣で弾きながら考える。
なかなか当たらないことに焦れたのかレキは魔力糸を手繰り剣を引き戻し構え直すと石畳を踏み砕く勢いで真正面から斬りかかってきた。
それを見たアリオンも同じ様に光剣を両の手に構え飛び出した。
レキの上段からの振り下ろしをアリオンの二つの光刃が迎え撃つ。 
幾重にも剣を振るうが両者は傷が増えて行くだけで決定打はでない。うち合わされるたびに空気が震え、いたるところにヒビが入る。
レキの放つ連撃をかいくぐり、アリオンはついに懐に飛び込む。
「もらった!」
完全に躱すことのできないタイミングで双刃を閃かせるべく体に力を込める。
レキはそれに反応し、右手一本で剣をアリオンの頭に叩きつけるべく振り下ろそうとした。
アリオンはその攻撃に左の一閃。レキの斬撃を弾き、躊躇いなく右の光刃をレキの胴へと閃かす。
殺った! そう確信した時、アリオンは見た。
レキの左手が今まで抜かられることがなかった右に下げられた剣の柄に手が伸びるのを。
そして銀の閃光が放たれる。
アリオンが右の光刃を振り抜くよりも速くレキの銀閃が内から外に残像を残す様に切り裂こうとする。
ゆっくりと刃がこちらに向かってくるのがわかる。
光刃を切り裂き銀閃がアリオンの首に当たる瞬間、レキを縛り付けるように一瞬で黒い鎖がまとわりついた。
それにレキとアリオンの二人が目を見開く。
しかし、そんな二人を置き去りにしたままレキの足元に魔法陣が展開され一瞬にしてレキの姿が消える。
アリオンの振るった光刃は虚しく空を斬る。
「なんだったんだ?」
ぼそりとアリオンは呟くのだった。
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