浮遊図書館の魔王様
第四十八話 ビリアラ目標できました
瓦礫とかしたフロアを映す鏡で見ながらわたしは言葉を失った。
「オレもやりすぎたと思ったけどビリアラのほうがやりすぎだと思うな!」
なぜか誇らしげにアルが言い放つが確かにその通りだ。あの勇者がいなければビリアラはあの圧倒的な制圧力で冒険者達を一人残らず殺さずに身動きをとれない状態に追い込むことがてきたのは火を見るよりも明らかだし。
「いい意味でも悪い意味でもあったね。勇者の参戦は」
「ですね」
「「? どういうこと?」」
わたしの発言に対し、アトラは同意、アル、マーテは首を傾げながら疑問で返す。
さて、どう説明しようか。
「勇者という存在が第三階層で勝利をもたらした、という事にこそ意味があるのです」
鈴を鳴らしたような声の方に視線を向けるとユールが本を手に持ちこちらに歩いてくるところだった。
「どうして?」
「なんで?」
この二人には考えるということを教えなくちゃいけない気がするな。
そう考えながらもわたしはユールが手にした本に視線を送る。
「それに決めたの?」
「ええ、一度やって見たかったんですの」
うっとりとした表情で手にした本を抱きしめるようにするユーリ。この姫大丈夫だろうか。
なにかまずいものを彼女に渡したような気がするが大丈夫と信じたい。
「ユーリ、どうして勇者が勝つことに意味があるの?」
とことことマーテがユーリに力よりメイド服の裾を掴み、自分より背の高いユーリを上目遣いで見つめながら尋ねた。可愛すぎる。
「あっはぁぁぁぁ!」
その姿を真近で見たユーリは奇声を上げながら仰け反り、身体を震わし、体の力が抜けたのか床に崩れ落ちた。マーテの愛らしさにやられたか。鼻血がドバドバと流れてるし。床が汚れるからやめてほしい。
「失礼しました」
心配そうに見つめるマーテがポケットから取り出しユーリにおずおずと渡す。ユーリがティッシュを受け取り鼻に詰める姿は彼女が美人なためになかなかに滑稽だ。
では、とユーリは軽く咳払いをする。
「勇者とは希望の象徴。第二階層ではアルに徹底的に蹂躙されましたがそれはあくまで冒険者達です」
ユーリが行なっているのは現状の説明だ。第三者から聞いた方が客観的に見れるし考えることもできるからわたしは先を促す。
「勇者は第二階層で絶望的な力の差を感じている冒険者達に勝利という夢を見させるにはかっこうの存在です。だからこそ冒険者達は勇者とともに第三階層に進んでいます。ここまでがいい点と言えるでしょう」
「ん? じゃ、逆に悪い点ってなんだ?」
腕を組みながらユーリの話を聞いていたアルが尋ねた。
「悪い点は勇者の力が予想より強かったということです」
ユーリの言葉を遮るように目の前の魔法陣が光り、ビリアラが布切れと化したメイド服を抑えながら現れる。
その目に悔恨の色が濃くでていた。
「レクレ様、負けてしまいました」
膝を付き震えるような声でビリアラは告げる。
「うん、残念だと思うよ。でもあの魔法すごいね! わたしの考えた紙魔法はあんなことできるなんて考えてなかったよ」
ちょいちょいと手招きをするとおずおずといった様子でビリアラが近づいてくる。
ゴミ捨て魔法だったしね。いやぁ、使う人次第であそこまで化けるとは思いもしなかった。
近くに来たビリアラの頭を撫でると彼女は白い頬を僅かに赤く染める。
「でもあの魔法使っても倒せなかったし」
「ビリアラは負けたことにはなりません。むしろ一番目標を達成していると言えるでしょう」
ビリアラの言葉を遮りユーリが言う。
「なんで? ビリアラ負けたじゃん」
わけがわからないといった顔でアルはユーリを見ていた。対してマーテはなんとなくわかったようだ。いいのか次女よ。末っ子に負けてるぞ。
「第一から第三階層までの役割はあくまで制限時間内に数を削り戻る。これが目的なのですからビリアラが負けたというのは間違いです」
ユーリの説明を聞きアルはようやくわかったのか耳がピコピコと動いていた。
それにしてもユーリは説明が上手だ。あとで姉妹の先生役にするように言いつけよう。知識があるとないとではかなり違うからね。
「ビリアラの使う紙魔法に必要な物は私が見ている限りでは魔力もそうですが一番は制御力と想像力かと思います」
ビリアラが静かに首を縦に振る。
確かにあの魔法は魔力よりも紙を操り制御する力と紙を幾つも使い形状を変え武器を想像する力が一番重視されるのかもしれない。
「想像し、形成し、創造する。あの魔法の強みでもあり弱みでもあります。通常の魔法は詠唱し発動、この流れです。まぁ、魔王さまは詠唱を面倒くさがって魔力にものを言わせて発動していますが」
詠唱なしでできるんだしいいじゃないか。誰もが楽をしたいに決まってるんだし。
「詠唱式の魔法は詠唱をすることによって魔法が発動。これは詠唱の意味を知らなくても魔力があり詠唱を行えば発動するものです。ですが、紙魔法は違います。紙を操り、頭の中で武器を想像し、形状を変化さす。敵から離れている時なら楽にするとこができます。一番最初に抜け駆けしようとした盗賊の動きを止めた時のように」
確かに最初の一撃は盗賊の機動力を完全に奪い窒息による気絶という流れは完璧だっしね。
「でも、接近戦となると話は別です。近接戦は言わば勇者の得意分野。そんな勇者の攻撃をいなしながら紙魔法で反撃というのはすでに神業に等しい所業です」
ビリアラはやってたけどね。かなり追い込まれたけど。
「はい、一対一ならば問題がなかったでしょう。しかし、冒険者達の介入のせいで戦局は変わりました」
確かに一対一ならば攻め勝てたかもしれない。
「勇者と戦いながら冒険者達も止めるというのはなかなかにつらそうだね」
そんなわたしの言葉にその場にいる全員がなんとも言えない表情を浮かべていた。
え、なに?
「ご主人、普通なら辛そうでは済まないです。むしろ無理ですよ」
「魔王さまは自分が規格外という自覚をもう少し持た方がいいと思います」
ほんと散々な言われようだよ。
一応君たちの主なんですけどね。そこを忘れてない?
「冒険者の介入により今まで集中し、制御していたものができなくなりスマートな戦いではなくなりました。そして今まで出ていなかった重傷者がでました」
「死んではないけどね」
そう勇者の参戦での悪い点、それが手加減ができなくなるとうことである。
マーテ、アルの使ったものならば怪我をすることはあっても死ぬことはないだろう。だが、紙魔法は制御を誤れば容易く人を殺すことができる。
「そういうことだよ。ビリアラ。今後もその魔法を使い続けるなら戦い方に注意しなければいけないよ」
「はい、今度は必ず勝ちます。そして」
ビリアラはスッと立ち上がる。
「あの勇者は必ず私がこの魔法で私が受けた屈辱を同じように返し泣かします」
そう言い放ったビリアラの顔には笑顔、瞳には復讐の炎が燃えていた。
「冒険者達が動くみたいですね」
映す鏡を見ると回復を終えた冒険者達が第四階層に上がるための階段を上がるところが映し出されていた。
「次はレキか」
ボヤいたあとにすさまじく不安になった。
でも多分渡した物を使えば大丈夫だろう。
……祈るしかないか
残り冒険者 158/1000
「オレもやりすぎたと思ったけどビリアラのほうがやりすぎだと思うな!」
なぜか誇らしげにアルが言い放つが確かにその通りだ。あの勇者がいなければビリアラはあの圧倒的な制圧力で冒険者達を一人残らず殺さずに身動きをとれない状態に追い込むことがてきたのは火を見るよりも明らかだし。
「いい意味でも悪い意味でもあったね。勇者の参戦は」
「ですね」
「「? どういうこと?」」
わたしの発言に対し、アトラは同意、アル、マーテは首を傾げながら疑問で返す。
さて、どう説明しようか。
「勇者という存在が第三階層で勝利をもたらした、という事にこそ意味があるのです」
鈴を鳴らしたような声の方に視線を向けるとユールが本を手に持ちこちらに歩いてくるところだった。
「どうして?」
「なんで?」
この二人には考えるということを教えなくちゃいけない気がするな。
そう考えながらもわたしはユールが手にした本に視線を送る。
「それに決めたの?」
「ええ、一度やって見たかったんですの」
うっとりとした表情で手にした本を抱きしめるようにするユーリ。この姫大丈夫だろうか。
なにかまずいものを彼女に渡したような気がするが大丈夫と信じたい。
「ユーリ、どうして勇者が勝つことに意味があるの?」
とことことマーテがユーリに力よりメイド服の裾を掴み、自分より背の高いユーリを上目遣いで見つめながら尋ねた。可愛すぎる。
「あっはぁぁぁぁ!」
その姿を真近で見たユーリは奇声を上げながら仰け反り、身体を震わし、体の力が抜けたのか床に崩れ落ちた。マーテの愛らしさにやられたか。鼻血がドバドバと流れてるし。床が汚れるからやめてほしい。
「失礼しました」
心配そうに見つめるマーテがポケットから取り出しユーリにおずおずと渡す。ユーリがティッシュを受け取り鼻に詰める姿は彼女が美人なためになかなかに滑稽だ。
では、とユーリは軽く咳払いをする。
「勇者とは希望の象徴。第二階層ではアルに徹底的に蹂躙されましたがそれはあくまで冒険者達です」
ユーリが行なっているのは現状の説明だ。第三者から聞いた方が客観的に見れるし考えることもできるからわたしは先を促す。
「勇者は第二階層で絶望的な力の差を感じている冒険者達に勝利という夢を見させるにはかっこうの存在です。だからこそ冒険者達は勇者とともに第三階層に進んでいます。ここまでがいい点と言えるでしょう」
「ん? じゃ、逆に悪い点ってなんだ?」
腕を組みながらユーリの話を聞いていたアルが尋ねた。
「悪い点は勇者の力が予想より強かったということです」
ユーリの言葉を遮るように目の前の魔法陣が光り、ビリアラが布切れと化したメイド服を抑えながら現れる。
その目に悔恨の色が濃くでていた。
「レクレ様、負けてしまいました」
膝を付き震えるような声でビリアラは告げる。
「うん、残念だと思うよ。でもあの魔法すごいね! わたしの考えた紙魔法はあんなことできるなんて考えてなかったよ」
ちょいちょいと手招きをするとおずおずといった様子でビリアラが近づいてくる。
ゴミ捨て魔法だったしね。いやぁ、使う人次第であそこまで化けるとは思いもしなかった。
近くに来たビリアラの頭を撫でると彼女は白い頬を僅かに赤く染める。
「でもあの魔法使っても倒せなかったし」
「ビリアラは負けたことにはなりません。むしろ一番目標を達成していると言えるでしょう」
ビリアラの言葉を遮りユーリが言う。
「なんで? ビリアラ負けたじゃん」
わけがわからないといった顔でアルはユーリを見ていた。対してマーテはなんとなくわかったようだ。いいのか次女よ。末っ子に負けてるぞ。
「第一から第三階層までの役割はあくまで制限時間内に数を削り戻る。これが目的なのですからビリアラが負けたというのは間違いです」
ユーリの説明を聞きアルはようやくわかったのか耳がピコピコと動いていた。
それにしてもユーリは説明が上手だ。あとで姉妹の先生役にするように言いつけよう。知識があるとないとではかなり違うからね。
「ビリアラの使う紙魔法に必要な物は私が見ている限りでは魔力もそうですが一番は制御力と想像力かと思います」
ビリアラが静かに首を縦に振る。
確かにあの魔法は魔力よりも紙を操り制御する力と紙を幾つも使い形状を変え武器を想像する力が一番重視されるのかもしれない。
「想像し、形成し、創造する。あの魔法の強みでもあり弱みでもあります。通常の魔法は詠唱し発動、この流れです。まぁ、魔王さまは詠唱を面倒くさがって魔力にものを言わせて発動していますが」
詠唱なしでできるんだしいいじゃないか。誰もが楽をしたいに決まってるんだし。
「詠唱式の魔法は詠唱をすることによって魔法が発動。これは詠唱の意味を知らなくても魔力があり詠唱を行えば発動するものです。ですが、紙魔法は違います。紙を操り、頭の中で武器を想像し、形状を変化さす。敵から離れている時なら楽にするとこができます。一番最初に抜け駆けしようとした盗賊の動きを止めた時のように」
確かに最初の一撃は盗賊の機動力を完全に奪い窒息による気絶という流れは完璧だっしね。
「でも、接近戦となると話は別です。近接戦は言わば勇者の得意分野。そんな勇者の攻撃をいなしながら紙魔法で反撃というのはすでに神業に等しい所業です」
ビリアラはやってたけどね。かなり追い込まれたけど。
「はい、一対一ならば問題がなかったでしょう。しかし、冒険者達の介入のせいで戦局は変わりました」
確かに一対一ならば攻め勝てたかもしれない。
「勇者と戦いながら冒険者達も止めるというのはなかなかにつらそうだね」
そんなわたしの言葉にその場にいる全員がなんとも言えない表情を浮かべていた。
え、なに?
「ご主人、普通なら辛そうでは済まないです。むしろ無理ですよ」
「魔王さまは自分が規格外という自覚をもう少し持た方がいいと思います」
ほんと散々な言われようだよ。
一応君たちの主なんですけどね。そこを忘れてない?
「冒険者の介入により今まで集中し、制御していたものができなくなりスマートな戦いではなくなりました。そして今まで出ていなかった重傷者がでました」
「死んではないけどね」
そう勇者の参戦での悪い点、それが手加減ができなくなるとうことである。
マーテ、アルの使ったものならば怪我をすることはあっても死ぬことはないだろう。だが、紙魔法は制御を誤れば容易く人を殺すことができる。
「そういうことだよ。ビリアラ。今後もその魔法を使い続けるなら戦い方に注意しなければいけないよ」
「はい、今度は必ず勝ちます。そして」
ビリアラはスッと立ち上がる。
「あの勇者は必ず私がこの魔法で私が受けた屈辱を同じように返し泣かします」
そう言い放ったビリアラの顔には笑顔、瞳には復讐の炎が燃えていた。
「冒険者達が動くみたいですね」
映す鏡を見ると回復を終えた冒険者達が第四階層に上がるための階段を上がるところが映し出されていた。
「次はレキか」
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