浮遊図書館の魔王様

るーるー

第四十五話 ビリアラ秘策(自称)あります ①

「さあ、第三階層に到着しましたよ〜」


 扉を開け、全く罠を警戒せずにアリオンはフロアの中に入る。遅れてフランク、フォルトと他の冒険者達が警戒しながら中に入った。


「なんでそんなに警戒してるんですか〜?」


 先に入ったアリオンが振り返り疑問を口に出す。


「一階層は一歩目が落とし穴だったんだ」


 思い出したのかフランクを含めた他の冒険者達も苦々しい表情を浮かべている。


「? 落ちる前に飛べばいいじゃないですか?」


 当たり前のように軽々とアリオンは告げる。
 それができるのはお前ら勇者くらいだ!っと口には出さずに飲み込む。
 勇者というのは本当に人間の規格を超えてるから一緒にしないでほしいものだ。
 ため息をつき周囲を警戒しながら観察する。
 壁には一面本棚が埋められており幾つもの本が並べられている。ただ、並べ方は綺麗ではなく雑だ。
 視線の先には第一、第二と同じようにメイド服を着た獣人の少女が控えていた。
 幸せそうにお菓子を食べながら。
 床座った獣人の周りにはお菓子の食べカスやお菓子を入れていただろう袋が散乱していた。


「む」


 見られていることに気づいた獣人は慌てて散らばったゴミを片付け、袋に放り込むとトゥ!っという掛け声とともにゴミ袋を部屋の隅に向かい放り投げた。
 放り投げた際にゴミ袋が破け部屋の端がゴミだらけになっり少女が冷や汗を流したが首を振り、フランク達に向き直った。


「第三階層担当 ビリアラ。好きなことは食べること。本を読むこと」


 淡々とした自己紹介。
 そう告げると横に積まれている本をポンと叩き、一番上の本を手に取った。
 どうやらゴミが散らかったことについてはなかったことにするらしい。


「第三階層のルールは階段に到達すること。到達した人には攻撃しないしことも約束」


 指をおりながらルールを説明するビリアラ、それを無視し一人の冒険者が階段に向かい走り出した。


「説明中に行ったらいけないなんてルールはないだろ!」


 男は冒険者の中でも敏捷性に長けた盗賊であるため一気にフロアの半分を走り切りビリアラの横を通り抜けた。
 ビリアラはそれをただ目で追うだけで何もしようとしなかった。
 いや、手に持っていた本を一枚だけ破り、残りを頭上に放り投げた。本は放物線を描き盗賊の頭上でばらけた。いくつもの紙が宙を舞う。


「はん! 苦し紛れだな」


 一瞬ヒヤリとした盗賊ではあるが疾走するスピードを緩めることなく階段まであと少しというところまで来ていた。


「いえ、これでいいです」


 ビリアラが呟く。ただそれだけでばらけた紙が幾つも集まり剣のような形状に変わる。


「なっ!」


 フランクが驚きの声をあげるが盗賊にはその声は届かない。
 次の瞬間、稲妻のような速度を持って紙の剣が盗賊の足の甲を刺し貫いた。


「がぁ⁉︎」


 踏み出そうとした足を紙の剣で床に縫いとめられたため盗賊の動きは止まるしかなかった。
 足を貫かれた激痛により額に脂汗をかきながら恐る恐るといった様子で盗賊はビリアラを振り返る。
 振り返った先には不機嫌そうな顔をしたビリアラの姿があった。


「最後のルール、このフロアで気絶した者は失格」


 そう宣言すると手元に一枚だけ残していた紙を盗賊に向け投げる。
 紙はゆらゆらと揺れながら明らかに不自然な動きを見せ、盗賊の口と鼻をに張り付くと呼吸をできないようにすり。


「んーん!」


 膝をつき盗賊が爪を立て必死に外そうとするが紙は全く外れる気配がなく、顔に引っ掻き傷が増えていくだけだった。
 体を動かすたびに足に刺さった紙の剣で肉をえぐられ血が飛び散る
 やがて抵抗が少なくなり、床に倒れ動かなくなると顔に張り付いていた紙と紙の剣がふわふわと浮き上がると剣の形状ではなくただの紙へと戻りビリアラの周辺に浮遊する。


「安心、死んでない。気絶しただけ」


 言葉少なく現状を説明するビリアラ。冒険者達が警戒するには十分だった。


「では、私の尊敬するレクレ様の紙の魔法ペーパークラフト堪能して」


 そう宣言し、砂時計を床に置くとビリアラの横に積まれていた数冊の本が幾つもの紙となり彼女のの周囲を旋回し始める。


 残り冒険者479/1000

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