浮遊図書館の魔王様
第三十五話 スイッチ入りました
ファンガルム皇国にレクレが宣戦布告して一週間。
ファンガルム側はめまぐるしく動いていたと言えるだろう。冒険者に幾つものクエストを出し、王都に留まるように仕向けたり物資の搬入などで王都は未だかつてないほどに活気がでていた。
ただ、活気がでているのはあくまで王都の城下町であり王城は戦々恐々としていた。
その理由の一つに浮遊図書館が一切の動きを見せないことにあった。姫殿下を人質になんらかの交渉がくるかと考えられていたがそれらもなにもなかったからだ。
ファンガルム側が用意した軍勢は二万。前回浮遊図書館に挑んだ者たちも流石に命が惜しいということもありそれだけしか集まらなかったのだ。
結果、常に厳戒態勢を敷いていファンガルム軍はいつ浮遊図書館が動き出すかわからないという状態にすでに精神的に疲れ切っていたのだ。
そして何より一番に精神的に疲れ倒れたのはカドラトだった。なんかいろいろ疲れきったらしい。
そんなカドラトの命令をうけ浮遊図書館に唯一といっていいパイプ役のベアトリスが浮遊図書館との交渉役に選ばれたのだった。
「で、お主は何を考えておるんじゃ?」
相変わらずそこいら中に本が積み重ねられた謁見の間というわたしの私室でベアトリスはアトラの入れた紅茶を飲みながら訪ねて来た。
少し、視線を逸らすとファスがマーテ達とお菓子を食べていた。わたしも堅苦しい話よりあっちがよかったよ
「わたしの読書する時間を手に入れるためにはこれが一番いいと思ったのよ」
わたしは視線を本に戻し読むのを止めずに答える。今いい所なんだから。
「いや、それはわかっとるんじゃが、最終的な妥協点とかその辺は考えておるのか?」
「全く」
「そんな考えなしで宣戦布告をしたのか⁉︎」
ベアトリスが持っていたカップを放り投げ驚愕の表情を浮かべる。
わたしは飛んできたカップを避け嫌そうな顔をベアトリスに向ける。
「火傷したらどうするの⁉︎」
「たわけ! 今や国家が火傷で済まんレベルじゃ! というか!」
バン! とテーブルを叩きベアトリスら立ち上がりビシッとわたしの後ろを指差す。
「なんで殿下がメイド服着てさも当たり前のような顔をして立っとるんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
肩でゼイゼイと息をしながらベアトリスが叫ぶ。
彼女もなかなかの苦労人だね。
「ベアトリス、知ってたかい?」
「……なにがじゃ?」
「働かざるもの食うべからず!」
「おぬしがいぅなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あら、ベアトリス。わたしもこの服は気に入っているのよ?」
「殿下まで⁉︎」
再びの絶叫。これ以上からかうのはまずいかな。
考えてた問題だからちょうどよかった。押し付けよう。
「正直な話、最近まともに本が読めてないから読む時間がほしいから色々問題を解決するためには国を手に入れるのが手っ取り早いという結論になったのよ。それに後ろにいるレキの鬱憤が溜まってるから軽くガス抜き程度に戦闘をしましょうと思いついただけだよ」
「さすがわ魔王さまですわ。凡人の遥か斜めをいく発想ですわ!」
わたしの考えにユールが天啓を得たように興奮しながら肯定する。
「いろいろ考えた結果、力見せつけたほうがが早いんじゃないかと……」
わたしの力は見せたから他の子達もお披露目しよう。
この図書館はわたしだけの力ではないということを。
こうすればレキのストレスもたまらないし、外の世界を見たいというユールの要望も叶い、わたしも本を読む時間ができる。
まさに誰も損をしない幸せな計画!
「いや、わっちら皇国側が全く幸せじゃないんじゃが……」
ベアトリスが頭を抱えながら呻くようにいう。
文句ばっかりだな皇国側。
「ならこうしよう」
びっと指を一本立てにやりと笑ながらわたしはいう。
「攻城戦です」
「攻城戦? ここに対してか?」
「うん、ベアトリスはここ、謁見の間に転移してもらってばかりだったからでわからないだろうけどここは第五階層になんだ」
ルールは簡単だ。
各階層に一人づつ配置し、こちらに攻め込んで来た敵を倒す。
皇国側は第五階層にいるユールの体に触れば勝ち。
わたしは攻撃、防御、回避をせずに王座に座って待つ。
皇国側が動かせる人員は最大千人とする。
「このルールでどう?」
「魔王さまは戦闘に参加しないと?」
ベアトリスが疑うような視線をこちらに向けてくるけどひどく心外だ。
「しないよ。浮遊図書館側は各階層には戦闘する者は一人だけ。また、こちら側は階層を越えて動くのを禁止にしとくよ」
「まあ、確かにそれなら」
しぶしぶといった感じに了承をするベアトリス。
何が納得いかないんだろ?
「いや、以前魔王様にやられたことを覚えているものなら結果は火を見るより明らかじゃからのう」
「どういうこと?」
「報酬が少ないから皆やる気がないんじゃよ」
なるほど、皇国は金欠なわけか。あんまり抵抗がないとレキが余計にフラストレーション溜まりそうだしな〜。
「ならこっちからも報酬をだすよ」
「なんじゃと?」
「こっちから出すのはまだ公開されてない魔法と魔導書でどう? あと殿下」
未知の魔法と魔導書だけでも下手らしたら国が建てられるような金額で取り引きされるしね。
「ほ、本気で言っとるのか⁉︎」
「あたりまえです。先行投資ですよ。先行投資」
これも快適な読書をするためなんだ。いくらでも積んでやる。
「殿下はいらぬが他は魅力的じゃのう」
「ベアトリス⁉︎」
ベアトリスの発言にユールが食いつくがベアトリスは無視を決め込む。殿下、哀れな子。
「しかし、レクレ様、すこし賭け金を上げすぎでは?」
レキがすこし不安そうな表情を浮かべる。今更なにを言ってるんだか。
「わたしは君たち四姉妹を信頼しているからね。必ずや勝利を約束してくれると信じてるよ」
わたしはニコっと笑いながらレキにそう告げると顔を一瞬で真っ赤にし顔を背けた。え、なんで顔を赤らめたの?
「わ、私たちは必ず勝利いたします! ええ、皇国を廃都と化しても勝利して見せましょう!」
「う、うん、頼もしいよ」
いつになく気合が入るレキにわたしは若干ひいた。
どうしよ、へんなスイッチ入れちゃったかも。
その様子を見てベアトリスはゲラゲラとお腹を抱えて笑い倒していた。
三日後、わたしが提案したルールを皇国側が了承し、一週間後に戦争? を行うことが決定されたのだった。
ファンガルム側はめまぐるしく動いていたと言えるだろう。冒険者に幾つものクエストを出し、王都に留まるように仕向けたり物資の搬入などで王都は未だかつてないほどに活気がでていた。
ただ、活気がでているのはあくまで王都の城下町であり王城は戦々恐々としていた。
その理由の一つに浮遊図書館が一切の動きを見せないことにあった。姫殿下を人質になんらかの交渉がくるかと考えられていたがそれらもなにもなかったからだ。
ファンガルム側が用意した軍勢は二万。前回浮遊図書館に挑んだ者たちも流石に命が惜しいということもありそれだけしか集まらなかったのだ。
結果、常に厳戒態勢を敷いていファンガルム軍はいつ浮遊図書館が動き出すかわからないという状態にすでに精神的に疲れ切っていたのだ。
そして何より一番に精神的に疲れ倒れたのはカドラトだった。なんかいろいろ疲れきったらしい。
そんなカドラトの命令をうけ浮遊図書館に唯一といっていいパイプ役のベアトリスが浮遊図書館との交渉役に選ばれたのだった。
「で、お主は何を考えておるんじゃ?」
相変わらずそこいら中に本が積み重ねられた謁見の間というわたしの私室でベアトリスはアトラの入れた紅茶を飲みながら訪ねて来た。
少し、視線を逸らすとファスがマーテ達とお菓子を食べていた。わたしも堅苦しい話よりあっちがよかったよ
「わたしの読書する時間を手に入れるためにはこれが一番いいと思ったのよ」
わたしは視線を本に戻し読むのを止めずに答える。今いい所なんだから。
「いや、それはわかっとるんじゃが、最終的な妥協点とかその辺は考えておるのか?」
「全く」
「そんな考えなしで宣戦布告をしたのか⁉︎」
ベアトリスが持っていたカップを放り投げ驚愕の表情を浮かべる。
わたしは飛んできたカップを避け嫌そうな顔をベアトリスに向ける。
「火傷したらどうするの⁉︎」
「たわけ! 今や国家が火傷で済まんレベルじゃ! というか!」
バン! とテーブルを叩きベアトリスら立ち上がりビシッとわたしの後ろを指差す。
「なんで殿下がメイド服着てさも当たり前のような顔をして立っとるんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
肩でゼイゼイと息をしながらベアトリスが叫ぶ。
彼女もなかなかの苦労人だね。
「ベアトリス、知ってたかい?」
「……なにがじゃ?」
「働かざるもの食うべからず!」
「おぬしがいぅなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あら、ベアトリス。わたしもこの服は気に入っているのよ?」
「殿下まで⁉︎」
再びの絶叫。これ以上からかうのはまずいかな。
考えてた問題だからちょうどよかった。押し付けよう。
「正直な話、最近まともに本が読めてないから読む時間がほしいから色々問題を解決するためには国を手に入れるのが手っ取り早いという結論になったのよ。それに後ろにいるレキの鬱憤が溜まってるから軽くガス抜き程度に戦闘をしましょうと思いついただけだよ」
「さすがわ魔王さまですわ。凡人の遥か斜めをいく発想ですわ!」
わたしの考えにユールが天啓を得たように興奮しながら肯定する。
「いろいろ考えた結果、力見せつけたほうがが早いんじゃないかと……」
わたしの力は見せたから他の子達もお披露目しよう。
この図書館はわたしだけの力ではないということを。
こうすればレキのストレスもたまらないし、外の世界を見たいというユールの要望も叶い、わたしも本を読む時間ができる。
まさに誰も損をしない幸せな計画!
「いや、わっちら皇国側が全く幸せじゃないんじゃが……」
ベアトリスが頭を抱えながら呻くようにいう。
文句ばっかりだな皇国側。
「ならこうしよう」
びっと指を一本立てにやりと笑ながらわたしはいう。
「攻城戦です」
「攻城戦? ここに対してか?」
「うん、ベアトリスはここ、謁見の間に転移してもらってばかりだったからでわからないだろうけどここは第五階層になんだ」
ルールは簡単だ。
各階層に一人づつ配置し、こちらに攻め込んで来た敵を倒す。
皇国側は第五階層にいるユールの体に触れば勝ち。
わたしは攻撃、防御、回避をせずに王座に座って待つ。
皇国側が動かせる人員は最大千人とする。
「このルールでどう?」
「魔王さまは戦闘に参加しないと?」
ベアトリスが疑うような視線をこちらに向けてくるけどひどく心外だ。
「しないよ。浮遊図書館側は各階層には戦闘する者は一人だけ。また、こちら側は階層を越えて動くのを禁止にしとくよ」
「まあ、確かにそれなら」
しぶしぶといった感じに了承をするベアトリス。
何が納得いかないんだろ?
「いや、以前魔王様にやられたことを覚えているものなら結果は火を見るより明らかじゃからのう」
「どういうこと?」
「報酬が少ないから皆やる気がないんじゃよ」
なるほど、皇国は金欠なわけか。あんまり抵抗がないとレキが余計にフラストレーション溜まりそうだしな〜。
「ならこっちからも報酬をだすよ」
「なんじゃと?」
「こっちから出すのはまだ公開されてない魔法と魔導書でどう? あと殿下」
未知の魔法と魔導書だけでも下手らしたら国が建てられるような金額で取り引きされるしね。
「ほ、本気で言っとるのか⁉︎」
「あたりまえです。先行投資ですよ。先行投資」
これも快適な読書をするためなんだ。いくらでも積んでやる。
「殿下はいらぬが他は魅力的じゃのう」
「ベアトリス⁉︎」
ベアトリスの発言にユールが食いつくがベアトリスは無視を決め込む。殿下、哀れな子。
「しかし、レクレ様、すこし賭け金を上げすぎでは?」
レキがすこし不安そうな表情を浮かべる。今更なにを言ってるんだか。
「わたしは君たち四姉妹を信頼しているからね。必ずや勝利を約束してくれると信じてるよ」
わたしはニコっと笑いながらレキにそう告げると顔を一瞬で真っ赤にし顔を背けた。え、なんで顔を赤らめたの?
「わ、私たちは必ず勝利いたします! ええ、皇国を廃都と化しても勝利して見せましょう!」
「う、うん、頼もしいよ」
いつになく気合が入るレキにわたしは若干ひいた。
どうしよ、へんなスイッチ入れちゃったかも。
その様子を見てベアトリスはゲラゲラとお腹を抱えて笑い倒していた。
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