浮遊図書館の魔王様
第三十四話 らしいことをしようとしました
「ふわーねむい」
持っていた本が読み終わりわたしは大きなあくびをする。
あれから大急ぎで瓦礫の山は撤去されたのだろう。綺麗になった大広間では予定通りに国王主催のパーティが行われている。
わたしはというと一応準備されたドレス(白薔薇をイメージしたやなんら言ってた)を着用し参加している。
「なんか暇だ」
「ひまー」
「……」
社会科見学でレキに呼んでもらった姉妹も退屈そうだ。(アトラは興味がないと留守番を買って出た)まあ、そうだろう。こういう場は基本的には情報交換や社交界デビューの場とて使われることが多いのだから当然かな。
「あなた達はもう少しメイドとしての自覚を持たないとダメね」
ため息をつきながらいうレキも退屈そうだ。
ピアノが奏でる美しい?(音楽のよさはわからない)旋律もただただ眠りを誘うだけだしね。
「じゃあ、みんなは好きに回ってきていいよ。あっちには美味しそうな食事もあったし」
子供にはまだ早かったかと後悔したので子供らしく遊んでもらおう。
すると効果は劇的だった。今までふにゃっとなっていた三人の耳がピン!と立ちこちらを見る眼がキラキラし始めたのだ。
「探検してくる!」
「レシピみたい!」
「ごはんー」
三人はまさしく風のような勢いで視界から消えた。やっぱり子供は元気が一番かな。
「迷惑だけはかけないようにね」
聞こえないとわかっていても一応言っておく。そして傍に立つレキを見上げる。
「レキも行ってきていいよ?」
「いえ、大丈夫ですよ」
にこやかな笑顔でレキは返す。レキの笑顔は落ち着くね。どこかの姫殿下と違って。
わたしも笑顔を返し二冊目の本を開く。
「楽しんでおるかね?」
……人の読書を邪魔する奴は地獄に落ちろ。
恨みを込めた目線を向けると見るからに高そうな服を着こみ銀髪の下には鋭い眼光をもった男性が騎士を二人従え立っていた
なんとなくユールと似た感じの面影が見える。
「いや、正直楽しくないです。人多いし」
心の底からの本音を言う。嘘ついても仕方ないし。
わたしの発言で周りが少しどよめき、温度が少し下がった気がする。
なせだ。本音を言って何が悪い。それになんか騎士のお二人は腰の剣に手をやってない? 怖い怖い。
「そうかね。退屈かね」
男はさして気分を害した様子もなく軽く笑う。
その笑い声で騎士の二人は剣から手を離し待機し、周りの空気も元に戻った感じだ。
「そちらに座ってもいいかね?」
「その前に名前を教えてもらっても?」
「これは失礼した。カドラト・ラ・ファンガルムだ」
やっぱりユールの家族か。
また厄介なことにならなければいいんだけど。そう考えているとカドラトはわたしの対面の席に腰を降ろす。
「こうしてパーティに来てくれただけでも私は嬉しいよ。図書館の魔王よ」
「来なけりゃよかったとわたし後悔してる」
最近は騒がしいのにも少し慣れたけどやっぱり人混みは嫌いだ。静かなほうがわたしの精神衛生上にとても優しい。
「だが、いつまでもそのままでいいわけではあるまい。こういう場に出るのも経験の一つだよ」
「父親みたいな物言いね」
「実際に手のかかる娘が一人いるのでね」
ああ、確かにユールが娘なら精神がゴリゴリと削られそうだ。
「説教じみたことは止めておこう」
「わたしも聞きたくないから助かります」
まぁ、されても欠片も守る気は無いんだが。話を聞かなくていいならそっちのほうがいいしね。
「魔王はこれからはどうするつもりだ?」
「別にどうもしないけど」
レキが持ってきた紅茶を受け取り国王の問いに答える。相変わらず匂いとかわからないな。
「国を侵略する気はないのかね?」
「あなたの娘にも言ったけど領地なんて必要ないし、運営する知識もないんだ。持ってても無駄でしょ? わたしとしては今まで通り本と食料を定期的に納品してくれればそれでいいんだよ」
「世界中の知識を集めるのが目的ということかね?」
「そこまでは求めてはいないよ。わたしはただ本に書かれた物語が読みたいだけなんだから。それが魔導書であれなんであれね」
わたしはただ本を読みたいだけなんだ。再び開いたままにしていた本に視線を戻す。どこまで読んだかな。
「その理屈が通用するのは現段階では我が国だけだぞ? 他の国はそう友好的には受け取らんじゃろ」
めんどくさい。本当にめんどくさい。
ため息を付きわたしは本に栞を挟み読むのを止める。ここじゃ落ちついて読めやしないしね。
「その時は本当に戦争をしましょう。以前のように人が死なないようなお遊戯の戦いではなく戦争を」
そう言い立ち上がったわたしを周りは好奇の目で見つめてくる。
「レクレさま! みて! お姫様! お姫様だよ」
「フワフワ! 服フワフワ!」
「ちょっと引っ張らないで!」
興奮したマーテとアルが引っ張るようにユールを連れてくる。引っ張られてるユールは戸惑ったような表情を浮かべていた。
そのユールの顔を見た時に閃いた。
わたしの本を読む時間を確実に手に入れ且つこの国を黙らす方法を。
「ユール」
「はい、なんですの?」
キョトンとした顔をしたユールに身体強化の魔法を使ったわたしは一瞬で距離を詰める。
あまりに早すぎて見えなかったのだろう。ユールはおろかアルもマーテも驚きの表情を浮かべている。
「君は浮遊図書館に来たいと言った気持ちはまだ変わらないかな?」
ニヤリという音が聞こえそうな笑顔を浮かべわたしはユールに尋ねる。
一瞬だけユールの瞳に恐怖が宿ったのが見えたがすぐに見えなくなり、さっきまで見せていた笑顔を浮かべる。
「ええ、私はこの退屈な皇国から抜け出したいですわ!」
「だったらたまには魔王らしく振舞おうか!」
わたしはユールを肩で担ぐとすぐさま後ろに跳躍。近衛騎士がすぐさま反応し剣を構えるがレキが追撃を許さない。
先程までカドラトと話をしていたテーブルにわたしは優雅に着地をすると全員に見えるように軽く礼をする。
「国王カドラト様のおっしゃる通り今のやり方が通用するのはこの国だけでしょう。ですから少し、ほんの少し魔王ぽいことをしましょう」
「な、なにをするつもりだ!」
「戦争ですよ。せ・ん・そ・う」
娘を人質にされ青白い顔をしたカドラトを見下し、わたしは意地の悪い笑みを浮かべる。
「それと魔王らしいこととしてちょっと姫殿下を攫おうかと思いまして。ほら、よく本にはあるでしょ? こういう状況」
「本と現実はちがうだろ!」
「うるさい」
イライラとした口調でわたしは返す。こうなったら徹底的だ。
「極論で言ってしまえば国を手に入れ、軍事力という戦争を止めるための抑止力を手に入れればいいと結論付ました。だから」
わたしは大きく息を吸い、
「わたし、浮遊図書館の主であり魔王であるレクレ・フィブルノはファンガルム皇国に対して宣戦布告をいたします!」
今度は大広間が怒声に包まれる。その怒声は壁がビリビリと振動するほどの大きさだ。
もう、やけだ。わたしは自分の時間を手に入れるために最大限に力を発揮してやる。
「レキ、アル、ビリアラ、マーテ、お出で!」
「「「はーい」」」
わたしの呼びかけに子供三人組は可笑いらしく返事をし、レキは剣を構えたままわたしの横に付く。
ビリアラだけは大皿を抱え、たくさんの食べ物を乗して満足そうな表情を浮かべていた。
「それでカドラト国王、また後日」
「父上、行って来ます!」
わたしとユールがカドラトに挨拶をし終わると同時に転移魔法を起動させ呆然としたままのカドラトを放置したまま浮遊図書館に帰ったのであった。
持っていた本が読み終わりわたしは大きなあくびをする。
あれから大急ぎで瓦礫の山は撤去されたのだろう。綺麗になった大広間では予定通りに国王主催のパーティが行われている。
わたしはというと一応準備されたドレス(白薔薇をイメージしたやなんら言ってた)を着用し参加している。
「なんか暇だ」
「ひまー」
「……」
社会科見学でレキに呼んでもらった姉妹も退屈そうだ。(アトラは興味がないと留守番を買って出た)まあ、そうだろう。こういう場は基本的には情報交換や社交界デビューの場とて使われることが多いのだから当然かな。
「あなた達はもう少しメイドとしての自覚を持たないとダメね」
ため息をつきながらいうレキも退屈そうだ。
ピアノが奏でる美しい?(音楽のよさはわからない)旋律もただただ眠りを誘うだけだしね。
「じゃあ、みんなは好きに回ってきていいよ。あっちには美味しそうな食事もあったし」
子供にはまだ早かったかと後悔したので子供らしく遊んでもらおう。
すると効果は劇的だった。今までふにゃっとなっていた三人の耳がピン!と立ちこちらを見る眼がキラキラし始めたのだ。
「探検してくる!」
「レシピみたい!」
「ごはんー」
三人はまさしく風のような勢いで視界から消えた。やっぱり子供は元気が一番かな。
「迷惑だけはかけないようにね」
聞こえないとわかっていても一応言っておく。そして傍に立つレキを見上げる。
「レキも行ってきていいよ?」
「いえ、大丈夫ですよ」
にこやかな笑顔でレキは返す。レキの笑顔は落ち着くね。どこかの姫殿下と違って。
わたしも笑顔を返し二冊目の本を開く。
「楽しんでおるかね?」
……人の読書を邪魔する奴は地獄に落ちろ。
恨みを込めた目線を向けると見るからに高そうな服を着こみ銀髪の下には鋭い眼光をもった男性が騎士を二人従え立っていた
なんとなくユールと似た感じの面影が見える。
「いや、正直楽しくないです。人多いし」
心の底からの本音を言う。嘘ついても仕方ないし。
わたしの発言で周りが少しどよめき、温度が少し下がった気がする。
なせだ。本音を言って何が悪い。それになんか騎士のお二人は腰の剣に手をやってない? 怖い怖い。
「そうかね。退屈かね」
男はさして気分を害した様子もなく軽く笑う。
その笑い声で騎士の二人は剣から手を離し待機し、周りの空気も元に戻った感じだ。
「そちらに座ってもいいかね?」
「その前に名前を教えてもらっても?」
「これは失礼した。カドラト・ラ・ファンガルムだ」
やっぱりユールの家族か。
また厄介なことにならなければいいんだけど。そう考えているとカドラトはわたしの対面の席に腰を降ろす。
「こうしてパーティに来てくれただけでも私は嬉しいよ。図書館の魔王よ」
「来なけりゃよかったとわたし後悔してる」
最近は騒がしいのにも少し慣れたけどやっぱり人混みは嫌いだ。静かなほうがわたしの精神衛生上にとても優しい。
「だが、いつまでもそのままでいいわけではあるまい。こういう場に出るのも経験の一つだよ」
「父親みたいな物言いね」
「実際に手のかかる娘が一人いるのでね」
ああ、確かにユールが娘なら精神がゴリゴリと削られそうだ。
「説教じみたことは止めておこう」
「わたしも聞きたくないから助かります」
まぁ、されても欠片も守る気は無いんだが。話を聞かなくていいならそっちのほうがいいしね。
「魔王はこれからはどうするつもりだ?」
「別にどうもしないけど」
レキが持ってきた紅茶を受け取り国王の問いに答える。相変わらず匂いとかわからないな。
「国を侵略する気はないのかね?」
「あなたの娘にも言ったけど領地なんて必要ないし、運営する知識もないんだ。持ってても無駄でしょ? わたしとしては今まで通り本と食料を定期的に納品してくれればそれでいいんだよ」
「世界中の知識を集めるのが目的ということかね?」
「そこまでは求めてはいないよ。わたしはただ本に書かれた物語が読みたいだけなんだから。それが魔導書であれなんであれね」
わたしはただ本を読みたいだけなんだ。再び開いたままにしていた本に視線を戻す。どこまで読んだかな。
「その理屈が通用するのは現段階では我が国だけだぞ? 他の国はそう友好的には受け取らんじゃろ」
めんどくさい。本当にめんどくさい。
ため息を付きわたしは本に栞を挟み読むのを止める。ここじゃ落ちついて読めやしないしね。
「その時は本当に戦争をしましょう。以前のように人が死なないようなお遊戯の戦いではなく戦争を」
そう言い立ち上がったわたしを周りは好奇の目で見つめてくる。
「レクレさま! みて! お姫様! お姫様だよ」
「フワフワ! 服フワフワ!」
「ちょっと引っ張らないで!」
興奮したマーテとアルが引っ張るようにユールを連れてくる。引っ張られてるユールは戸惑ったような表情を浮かべていた。
そのユールの顔を見た時に閃いた。
わたしの本を読む時間を確実に手に入れ且つこの国を黙らす方法を。
「ユール」
「はい、なんですの?」
キョトンとした顔をしたユールに身体強化の魔法を使ったわたしは一瞬で距離を詰める。
あまりに早すぎて見えなかったのだろう。ユールはおろかアルもマーテも驚きの表情を浮かべている。
「君は浮遊図書館に来たいと言った気持ちはまだ変わらないかな?」
ニヤリという音が聞こえそうな笑顔を浮かべわたしはユールに尋ねる。
一瞬だけユールの瞳に恐怖が宿ったのが見えたがすぐに見えなくなり、さっきまで見せていた笑顔を浮かべる。
「ええ、私はこの退屈な皇国から抜け出したいですわ!」
「だったらたまには魔王らしく振舞おうか!」
わたしはユールを肩で担ぐとすぐさま後ろに跳躍。近衛騎士がすぐさま反応し剣を構えるがレキが追撃を許さない。
先程までカドラトと話をしていたテーブルにわたしは優雅に着地をすると全員に見えるように軽く礼をする。
「国王カドラト様のおっしゃる通り今のやり方が通用するのはこの国だけでしょう。ですから少し、ほんの少し魔王ぽいことをしましょう」
「な、なにをするつもりだ!」
「戦争ですよ。せ・ん・そ・う」
娘を人質にされ青白い顔をしたカドラトを見下し、わたしは意地の悪い笑みを浮かべる。
「それと魔王らしいこととしてちょっと姫殿下を攫おうかと思いまして。ほら、よく本にはあるでしょ? こういう状況」
「本と現実はちがうだろ!」
「うるさい」
イライラとした口調でわたしは返す。こうなったら徹底的だ。
「極論で言ってしまえば国を手に入れ、軍事力という戦争を止めるための抑止力を手に入れればいいと結論付ました。だから」
わたしは大きく息を吸い、
「わたし、浮遊図書館の主であり魔王であるレクレ・フィブルノはファンガルム皇国に対して宣戦布告をいたします!」
今度は大広間が怒声に包まれる。その怒声は壁がビリビリと振動するほどの大きさだ。
もう、やけだ。わたしは自分の時間を手に入れるために最大限に力を発揮してやる。
「レキ、アル、ビリアラ、マーテ、お出で!」
「「「はーい」」」
わたしの呼びかけに子供三人組は可笑いらしく返事をし、レキは剣を構えたままわたしの横に付く。
ビリアラだけは大皿を抱え、たくさんの食べ物を乗して満足そうな表情を浮かべていた。
「それでカドラト国王、また後日」
「父上、行って来ます!」
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