浮遊図書館の魔王様
第二十九話 見学しました
「ん~いい作品だった」
わたしは読み終えた本をパタンっと閉じ軽く伸びをする。
続き物を持ってきてしまったため結構時間かかったな。
ゴソゴソとポケットから懐中時計を取り出し時間を見ると、
「うわぁ」
一時間どころか二時間ほど本を読んで過ごしていたようだ。
そろそろ掃除も終わってるだろ。そう考えたわたしは立ち上がり服についた汚れを落とし部屋に戻ろうとする。
「ん?」
歩き始めようとするとどうも金属がぶつかり合う音が断続的に続いている。
レキが剣の鍛錬をしているかと思ったけどよくよく考えたら彼女は部屋の掃除中だ。
興味をもったわたしは音の響くほうに向かって歩き出した。
音の発生源は以外にも近く図書館に入るための入り口だった。紅い色と翠の色が何度も交錯しては離れていた。
あれはアルとマーテかな?
さらに近づいて行くとマーテが剣を、アルは手甲のような物をまとい訓練をしているようだった。
ようだったというのが全く動きが見えないからだ。
姿が見えたと思った時にはすでに二人は違う場所にいるため、全く目で追えない。
それを離れたところから見ているファスがあれこれ指示を出してる。多分何かを教えているんだろう。あの人体術やばいから。
「獣人種はすごいな〜」
その気になられたら一瞬で殺されちゃうんじゃないんだろうか?
「授業をサボってばかりのお前よりよっぽど二人のほうが筋がいい」
わたしの独り言、聞き逃してくれませんかねぇ。
「あ、レクレさまだ」
「あ、魔王だ」
ファスの声でわたしに気付いたのか二人はトコトコとわたしにも見える速度で歩いてきた。
あんだけの動きをしてたのに二人とも汗一つかいてないし。どんだけハイスペックなんだ獣人種。
「ああ、ごめんね。なんか邪魔しちゃって」
しゃがみ視線を合わせわたしは二人の頭を撫でる。二人ともくすぐったそうに目を閉じた。
「ん? まだ遊んでたから大丈夫だよ」
「本気じゃないし」
あれで本気じゃないのか。本気出されたら見えないどころじゃなさそうだ。
「ん? レクレ様もやる?」
わたしが愕然としていたのを興味を持ったと勘違いしたのかマーテが剣をこちらに渡してくる。
いや、瞬殺されますよ。なんとか断らないと。
「いや、わたしは……」
「そうだな。レクレにも運動してもらおう」
「魔王さま、剣使えるの! ならやろう」
ファスは悪戯っ子みたいな表情を浮かべ、アルはキラキラした目でこちらを見てくる。
そんなキラキラした眼で見ないで。断りにくい。
思わずマーテの方を見ると同じように瞳を輝かし期待したような感じだ。
「はぁ、ちょっとだけだよ?」
こうなったらお姉ちゃんとしては負けられない。
わたしはマーテから剣を受け取るとアルから少し離れる。
マーテも少し離れ相変わらず瞳を輝かしている。
「……身体強化、心眼強化、防御強化」
ボソッと小さく自身の身体の強化と瞳の強化の魔法をかけ、念のためにアルに防御強化の魔法をかける。
万が一にも怪我をさすのはまずいし。
おーし、これなら一方的にやられることはないだろ。
「では、始め」
「よし、来い!」
ファスが宣誓すると共にわたしは剣を構えアルに告げる。
お姉ちゃんの大人気なさを見してあげよう。
アルはニカっと元気よく笑う。
「いくよ!」
わたしが身体に力を込めた刹那、アルと離れていた距離がゼロになる。
「え?」
あまりの一瞬の出来事で間抜けな声がでた。
そうしている間にもアルが拳を振りかぶり、
ゴゥっと言う音と共に腹部に拳を突き刺さり、わたしの体が軽く浮き上がる。
「げふぅ」
身体強化はしているからダメージはないが衝撃までは殺せないらしい。
呼吸しようにもイマイチうまくいかない。
口を大きく開け、再び呼吸しようとしていると視界いっぱいにアルの脚が迫ってきていた。
感覚が麻痺してるのかやたらとゆっくりと向かってくる蹴りを呆然と迎えながらわたしは考えた。
(ああ、拳を入れた後に跳んで遠心力を加えた回し蹴りを叩き込むまでが一連の技なのか)
納得すると同時に蹴りが顔面に叩き込まれ、重い音が辺りに響く。わたしはコマのようにクルクルと回り花畑に突っ込み、盛大に花を撒き散らしながら倒れた。少し遅れて剣もカランと音を立てて倒れた。
「えっとレクレ様?」
「……まおうさま?」
「弱」
マーテとアルの呆然としたような声、そしてファスの呆れるような声が聞こえる。おそらくこんなにあっさりと倒れるとは思ってなかったんだろう。
「げふぁ! ごふぅ」
ようやく呼吸ができた。鳩尾に拳が入ったから呼吸できなかった。死ぬかと思った。
ヨロヨロと立ち上がり、マーテとアルを見ると二人ともホッとしたような表情だ。
考えを改めよう。
この二人、近接で勝つのムリ。
「アル、もう一回やろうか? 今度はちゃんとやるよ」
「大丈夫?」
気遣わしな視線が痛い。
ただ、お姉ちゃんとして譲れないのです。
念に念を入れ、追加の魔法もかける。
「じゃ、いくよ!」
再びアルがこちらに向かい一本の槍のように突進してくる。
だが、そこに先ほどまでの爆発的なスピードはない。
さっきの動きで手加減してるんだろう。優しい子だ。
たけど、お姉ちゃんは容赦しないよ!
「捕らえろ、縛鎖」
ファスの必殺縛鎖。いつかファスを逆に捕まえてやろうと練習していた魔法を放つ。
紅い光に包まれた鎖、その数三本。
鎖を操りは左右上に分かれアルを捕らえるべく襲いかからす。
アルも鎖の危険さを察知したのかスピードをあげる。勘がいい。
だけど心眼強化の魔法にさらに魔力を注ぎ込んだわたしには見えるのだよ!
アルを迎撃すべく鎖に魔力を込め指示を出す。
右からの鎖、軽く屈んで躱された。姿勢を崩した状態に左から少し遅らして横薙ぎに放った鎖は獣人種の身体能力で軽々と跳躍で回避された。空中なら逃げ場がないとアル目掛け振り下ろした鎖はアッサリと掴まれ放り投げられ、なんの障害もなかったかのようにアルは着地し疾走を再開する。
くそぅ、操作が甘い。ファスみたいには上手く操れないし。
というかわたしがあっさり捕まった手をわたしより年下に軽々と回避されるなんて。お姉ちゃんとしてはなんて複雑な心境だろう。
だが手はまだある。
アルがあと一歩踏み出せば拳が届く距離に入った。今だ!
当たらないのであれば絶対に躱せない一撃を。
ファスがわたしにしたように時間差による最後の縛鎖を放つ。しかも今までとは比較にならない魔力を注ぎ込んで。
結果、とてつもない大きさの鎖が拳を振りかざすアルに迫った。
これは躱せまい! そう思ったわたしは勝利を確信し笑みを浮かべる。
しかし、アルは予想を超える。
振りかざした拳を横に放つことによりその遠心力で自分を回転させ、その回転の勢いで縛鎖を躱すということをやってのけた。
「どこまでデタラメなの!」
獣人種のデタラメさに絶叫しながらも距離を取ろうとするが回転を続け遠心力から放たれたアルの拳がわたしの横っ腹に叩き込まれる。
アルはにやっと勝利の笑みを浮かべるが、すぐに怪訝な顔に変わる。
「手応えがない?」
「念には念を入れといてよかった」
「っ!」
わたしの声を聞き、アルが驚いたような表情を浮かべ、離れようとするがわたしはすかさず手を伸ばし、アルの手を摑む。
「捕まえた。縛鎖」
唱えると紅い鎖がわたしの手を伝いアルの身体にまとわりつき動きを阻害。瞬く間に身体を鎖に巻きつかれアルは身動きがとれなくなった。
「わたしの勝ち」
なんとか抜け出ようともがいてるアルに向かいブイと勝利宣言をしたわたしだった。
わたしは読み終えた本をパタンっと閉じ軽く伸びをする。
続き物を持ってきてしまったため結構時間かかったな。
ゴソゴソとポケットから懐中時計を取り出し時間を見ると、
「うわぁ」
一時間どころか二時間ほど本を読んで過ごしていたようだ。
そろそろ掃除も終わってるだろ。そう考えたわたしは立ち上がり服についた汚れを落とし部屋に戻ろうとする。
「ん?」
歩き始めようとするとどうも金属がぶつかり合う音が断続的に続いている。
レキが剣の鍛錬をしているかと思ったけどよくよく考えたら彼女は部屋の掃除中だ。
興味をもったわたしは音の響くほうに向かって歩き出した。
音の発生源は以外にも近く図書館に入るための入り口だった。紅い色と翠の色が何度も交錯しては離れていた。
あれはアルとマーテかな?
さらに近づいて行くとマーテが剣を、アルは手甲のような物をまとい訓練をしているようだった。
ようだったというのが全く動きが見えないからだ。
姿が見えたと思った時にはすでに二人は違う場所にいるため、全く目で追えない。
それを離れたところから見ているファスがあれこれ指示を出してる。多分何かを教えているんだろう。あの人体術やばいから。
「獣人種はすごいな〜」
その気になられたら一瞬で殺されちゃうんじゃないんだろうか?
「授業をサボってばかりのお前よりよっぽど二人のほうが筋がいい」
わたしの独り言、聞き逃してくれませんかねぇ。
「あ、レクレさまだ」
「あ、魔王だ」
ファスの声でわたしに気付いたのか二人はトコトコとわたしにも見える速度で歩いてきた。
あんだけの動きをしてたのに二人とも汗一つかいてないし。どんだけハイスペックなんだ獣人種。
「ああ、ごめんね。なんか邪魔しちゃって」
しゃがみ視線を合わせわたしは二人の頭を撫でる。二人ともくすぐったそうに目を閉じた。
「ん? まだ遊んでたから大丈夫だよ」
「本気じゃないし」
あれで本気じゃないのか。本気出されたら見えないどころじゃなさそうだ。
「ん? レクレ様もやる?」
わたしが愕然としていたのを興味を持ったと勘違いしたのかマーテが剣をこちらに渡してくる。
いや、瞬殺されますよ。なんとか断らないと。
「いや、わたしは……」
「そうだな。レクレにも運動してもらおう」
「魔王さま、剣使えるの! ならやろう」
ファスは悪戯っ子みたいな表情を浮かべ、アルはキラキラした目でこちらを見てくる。
そんなキラキラした眼で見ないで。断りにくい。
思わずマーテの方を見ると同じように瞳を輝かし期待したような感じだ。
「はぁ、ちょっとだけだよ?」
こうなったらお姉ちゃんとしては負けられない。
わたしはマーテから剣を受け取るとアルから少し離れる。
マーテも少し離れ相変わらず瞳を輝かしている。
「……身体強化、心眼強化、防御強化」
ボソッと小さく自身の身体の強化と瞳の強化の魔法をかけ、念のためにアルに防御強化の魔法をかける。
万が一にも怪我をさすのはまずいし。
おーし、これなら一方的にやられることはないだろ。
「では、始め」
「よし、来い!」
ファスが宣誓すると共にわたしは剣を構えアルに告げる。
お姉ちゃんの大人気なさを見してあげよう。
アルはニカっと元気よく笑う。
「いくよ!」
わたしが身体に力を込めた刹那、アルと離れていた距離がゼロになる。
「え?」
あまりの一瞬の出来事で間抜けな声がでた。
そうしている間にもアルが拳を振りかぶり、
ゴゥっと言う音と共に腹部に拳を突き刺さり、わたしの体が軽く浮き上がる。
「げふぅ」
身体強化はしているからダメージはないが衝撃までは殺せないらしい。
呼吸しようにもイマイチうまくいかない。
口を大きく開け、再び呼吸しようとしていると視界いっぱいにアルの脚が迫ってきていた。
感覚が麻痺してるのかやたらとゆっくりと向かってくる蹴りを呆然と迎えながらわたしは考えた。
(ああ、拳を入れた後に跳んで遠心力を加えた回し蹴りを叩き込むまでが一連の技なのか)
納得すると同時に蹴りが顔面に叩き込まれ、重い音が辺りに響く。わたしはコマのようにクルクルと回り花畑に突っ込み、盛大に花を撒き散らしながら倒れた。少し遅れて剣もカランと音を立てて倒れた。
「えっとレクレ様?」
「……まおうさま?」
「弱」
マーテとアルの呆然としたような声、そしてファスの呆れるような声が聞こえる。おそらくこんなにあっさりと倒れるとは思ってなかったんだろう。
「げふぁ! ごふぅ」
ようやく呼吸ができた。鳩尾に拳が入ったから呼吸できなかった。死ぬかと思った。
ヨロヨロと立ち上がり、マーテとアルを見ると二人ともホッとしたような表情だ。
考えを改めよう。
この二人、近接で勝つのムリ。
「アル、もう一回やろうか? 今度はちゃんとやるよ」
「大丈夫?」
気遣わしな視線が痛い。
ただ、お姉ちゃんとして譲れないのです。
念に念を入れ、追加の魔法もかける。
「じゃ、いくよ!」
再びアルがこちらに向かい一本の槍のように突進してくる。
だが、そこに先ほどまでの爆発的なスピードはない。
さっきの動きで手加減してるんだろう。優しい子だ。
たけど、お姉ちゃんは容赦しないよ!
「捕らえろ、縛鎖」
ファスの必殺縛鎖。いつかファスを逆に捕まえてやろうと練習していた魔法を放つ。
紅い光に包まれた鎖、その数三本。
鎖を操りは左右上に分かれアルを捕らえるべく襲いかからす。
アルも鎖の危険さを察知したのかスピードをあげる。勘がいい。
だけど心眼強化の魔法にさらに魔力を注ぎ込んだわたしには見えるのだよ!
アルを迎撃すべく鎖に魔力を込め指示を出す。
右からの鎖、軽く屈んで躱された。姿勢を崩した状態に左から少し遅らして横薙ぎに放った鎖は獣人種の身体能力で軽々と跳躍で回避された。空中なら逃げ場がないとアル目掛け振り下ろした鎖はアッサリと掴まれ放り投げられ、なんの障害もなかったかのようにアルは着地し疾走を再開する。
くそぅ、操作が甘い。ファスみたいには上手く操れないし。
というかわたしがあっさり捕まった手をわたしより年下に軽々と回避されるなんて。お姉ちゃんとしてはなんて複雑な心境だろう。
だが手はまだある。
アルがあと一歩踏み出せば拳が届く距離に入った。今だ!
当たらないのであれば絶対に躱せない一撃を。
ファスがわたしにしたように時間差による最後の縛鎖を放つ。しかも今までとは比較にならない魔力を注ぎ込んで。
結果、とてつもない大きさの鎖が拳を振りかざすアルに迫った。
これは躱せまい! そう思ったわたしは勝利を確信し笑みを浮かべる。
しかし、アルは予想を超える。
振りかざした拳を横に放つことによりその遠心力で自分を回転させ、その回転の勢いで縛鎖を躱すということをやってのけた。
「どこまでデタラメなの!」
獣人種のデタラメさに絶叫しながらも距離を取ろうとするが回転を続け遠心力から放たれたアルの拳がわたしの横っ腹に叩き込まれる。
アルはにやっと勝利の笑みを浮かべるが、すぐに怪訝な顔に変わる。
「手応えがない?」
「念には念を入れといてよかった」
「っ!」
わたしの声を聞き、アルが驚いたような表情を浮かべ、離れようとするがわたしはすかさず手を伸ばし、アルの手を摑む。
「捕まえた。縛鎖」
唱えると紅い鎖がわたしの手を伝いアルの身体にまとわりつき動きを阻害。瞬く間に身体を鎖に巻きつかれアルは身動きがとれなくなった。
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