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浮遊図書館の魔王様

るーるー

第二十四話 どうしようか考えました

「ふむ、とても困った」


 わたしは王座に座り結構悩んでいた。
 それも目の前に山積みになっている本に対してである。


「ご主人が本で悩むなんて珍しいですね」


 最近紅茶についての本を読んでから紅茶を入れるのが趣味になりつつあるアトラが紅茶を持って尋ねてきた。


「ただの本なら読めばいいんだけどね」


 わたしは紅茶の入ったカップを受け取り苦笑する。一口飲み、テーブルにすぐ置く。一応飲んでみたけど紅茶の味なんてわからん。


「また、魔導書ですか?」
「いやいや、これの表紙見てみなよ。あ、中見たらダメだよ? 一応プライバシーの侵害みたいなのあるから」


 そう言い、わたしは山積みになった本の一番上の本アトラに渡す。
 受け取ったアトラはタイトルを見て眉をしかめた。


「これは……」


 アトラに渡した本のタイトル、いや、本でさえないタイトルは、


「ダーリンとハニーの交換日記だと……」


 そう甘々な交換日記なのだ。
 いや、まだそれはマシなほうなんだよね。中にタイトル書いてないから普通に読んだら情事を細かく書いてあった本とかもあったから発狂しそうになったよ。


「ご主人は本を読むのは好き見たいですけど日記は別なんですか?」
「というか、読みたいのは本であって日記じゃないからね」


 プライバシーの侵害はよくない。非常によくない。
 自分で本を集めたのはまぁ、カウントにはいれないよ。


「そういえば、本収集ブックメディリィで集めた本の中に魔導書はいくつあったの?」
「昨日、マーテ様が持ってきた本のリストを私が確認した限りでは四冊でしたね」
「ということはやっぱり結界が張ってあるところには本収集ブックメディリィは意味がないということかな」
「なぜ、わかるのです?」
本収集ブックメディリィはあくまで集める魔法だからだよ」


 本収集ブックメディリィは集める魔法。
 つまり、本を動かし目的地まで移動さすというのがこの魔法の効果である。
 そのため、結界などで覆われている場合、本が目的地まで移動することができないと考えられるし。その場合は本収集ブックメディリィは不発ということになるんだろう。


「ま、今は魔導書よりもこの日記とかレシピとか裏帳簿だよ」
「街は大混乱ですからね」


 ビリアラとアルに街を見てきてもらったけどなかなかの騒ぎだったらしい。
 以前見に行ってもらった時は大した騒ぎにはならなかったけど。


「やっぱり、レシピと帳簿かな」
「おそらくは」


 本のリストを作ってもらったらエロ本はあるは日記はあるわ帳簿はあるわと本を読む前にいろいろとやらなくちゃいけないことが増えたんだよね。
 個人的にはいらないものでも、人、店によっては必要不可欠だろうし、結界で覆って守るなんてみんながみんなできるわけじゃないしね


「……エロ本はうちの教育上悪いから燃やすとしてだね」


 マーテ、アル、ビリアラには見せられないし。
 なによりあれは不要なものだし。


「レシピのほうはマーテ様が喜んで書き写してましたね」


 レシピを見たときのマーテの喜ようはすごかったからね。
 魔法でレシピをコピーしようとしたら「私の楽しみなんです」ってニコニコと言われたし。
 この図書館の食事というライフラインを握ってるマーテならではの楽しみなんだろうな。


「……レシピはマーテが書き写したら返さないと店も大変だしね」


 マーテは悲しむだろうけど。混乱が長く続くのもまずいし。


「あの時に来た貴族があんなバカなやつじゃなかったらな〜」


 あの時に来たのがもう少し頭の回る、せめて話が通じるような貴族だったならばここまで悩む必要はなかったんだけど。


「レシピや帳簿は返せばいいだけでは?」
「……魔法で集めたからね。どこから飛んで来たかわからないんだよ」


 理想的だったのは、貴族が来た時に交渉し、悪事の書いた書物、日記、レシピ、帳簿を完全に押し付け、こちらには本を一定数収めてもらうということだったんだけどな。


「すでに一度戦闘してしまいましたからね。向こうは戦争だと思ってるでしょうが」
「そこなんだよねー」


 先の戦闘で向こう側とこちら側の戦力は歴然と気づいてくれるだろうけど。


「黒腕で殴った人たちが転移したことは気づいてると信じたい」
「あれだけ大事になればわかると思いますが」


 黒腕で殴った人たちは強制転移魔法で王都に飛んでもらった。(転移場所は指定をしなかったがたまたま王都に飛ばされた)
 いきなり現れた彼らに王都の住民は驚いたようだ。
 しかし、同時にレキが悪事の書いた紙を複製し、マーテがレキに頼まれニコニコ笑いながら(きっと意味はわかってない)城下町の空中にばら撒いたため、貴族の悪事が発覚。
 すぐさま、王都の兵士が動き、見に覚えのある貴族は手に縄をかけられる羽目になっていた。


「一応、図書館が浮遊するだけの魔力は今朝方溜まりましたが?」
「向こうが完全に撤収するまでは保留かな。あ〜次に来る人は交渉ができる人がいいな〜」


 あんまり、期待はしてないけどね。貴族は馬鹿が多いみたいだし、いや、いっそ王族に絡んだほうが確実なんじゃ、


「レクレさまー」


 考え込んで下を見ていたため、視線を上げるとレキと相変わらず口元に食べカスがいっぱいついたビリアラがテテテテと音を立てながら小走りに走ってきた。


「ビリアラ、口元を拭きなさい。あとつまみ食いはほどほどにね。マーテに怒られるよ?」
「ん」


 前掛けでぐしぐしと口元を拭うビリアラ。レキが眉を潜めてるけど気づかないみたい。


 マーテの作る食事やお菓子は美味しいからわからないでもないけど。最近はレシピ見てるから余計に美味しいんだよね。


「レクレさま、なんか敵の動きがへん」
「変?」


 ビリアラに言われたため遠見の水晶を動かし、さらに映すマジックミラーに映し出す。
 映ったのは馬に乗った三人、それぞれが砂埃を気にするような頭をすっぽりと覆うフードを着込んでいた。
 そしてなによりも目立つのは先頭の馬に乗っている人物が振り回す白旗だ。


「ね? 変な動きしてるでしょ?」


 一般的には白旗は降伏、もしくは交渉の合図であるが、獣人種ではちがうんだろうか。


「ビリアラ、あの行動はだまし討ちです。こちらの油断を誘っています。戦闘の準備をしますよ」
「「まて⁉︎」」


 真顔でビリアラに指示をだすレキをわたしとアトラは慌てて止めた。
 止められたレキの顔には不満。


「レキ、今回は交渉がメインだと思うから短気はだめだよ?」
「わたしは大らかですよ?」


 うん、いつもはね。ただ戦闘がしたいのはすごくわかるからね?


「はぁ、ビリアラ、アルと一緒に転移魔法であの三人連れて来て」
「はーい」


 ため息を吐き出しながらビリアラに頼む。レキなら首だけ持って来そうだしね。
 ビリアラが元気に返事をし透明な本を台座から取り、謁見の間から来た時同様にテテテテと音を出しながら出て行った。


「まともな話ができるといいなー」


 そしてあわよくばいろいろと押し付けたい。
 そんなわたしのぼやきをアトラは苦笑、レキは不満の表情で受け止めていた。

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