浮遊図書館の魔王様

るーるー

第十二話 喚びました

山を吹き飛ばしてから二日後。


「こんなものでいいかな」


 紙に書いた簡易的な魔法陣を見てわたしは満足げに頷いた。


「レクレ様、なにしてるの?」


 魔法陣を見ていたわたしにビリアラが興味を持ったのか話しかけてきた。疑問に思っている時のマーテと同じように紅い毛色の尻尾が? の形をしていた。


「うん、わたしの相棒を呼ぼうと思ってね」
「相棒?」
「うん、相棒」


 この浮遊図書館には常識人が少なすぎる。小うるさい彼のことだから色々とやってくれるだろう。
 常識大事、チョー大事。


「じゃ、ちょっと離れてて」
「ん」


 ビリアラはテテテと小走りでわたしから離れるとちょこんと座り目をキラキラさしながら何が起こるか待ってるみたいだ。
 わたしは紙の魔法陣を床に起き、自身の指を薄っすらと血が滲むほど軽く噛み、魔法陣に垂らした。
 すると魔法陣がわたしの血と魔力に反応し、ボゥと薄く淡く輝く。


「よし、準備完了」


 魔法陣に手をかざし目を閉じる。


「我が血と魔力にて契約せしものよ。我が元に顕現せよ! アトラ!」


 契約召喚魔法。
 自身が契約を結んだ者を血と魔力のつながり《パス》を持った者を魔法陣を通すことによってこちらに呼び出す魔法である。
 先程まで淡く輝くだけだった魔法陣が一層輝きだし、魔法陣上に徐々に何かの形が作り出されていき光が唐突に消えると魔法陣の上には幾つもの魔法陣が画かれた赤い本が現れていた。


「やぁ、アトラ。呼び出すのが遅くなったね」
「……遅くなったね。じゃありません! ご主人、あなたがいない間に山が消えたんですよ⁉︎ 街中じゃ戦争が起こるんじゃないかって噂が流れるくらいの一大事なんですよ⁉︎ それなのにあなたは……なんです? その生温かい目は」


 ああ、アトラ。君のその常識的な反応。すごくいいよ。
 以前のわたしならうざがってただろうけど


「アトラ、常識って尊いんだよ?」
「……頭でも打ちましたか?」


 何気に失礼なことを言う魔導書だな。
 アトラはフワフワと浮き上がるとわたしの横の定位置に留まる。


「まあ、いろいろあったんだよ。こっちも」
「ここはどこなんです?」


 アトラはクルクルと回りながら周辺を見ているようだ。


「ここね。空の上の図書館なんだよ」
「なるほど、魔力でうかしてるわけですか。でしたらこの魔力密度もわかりますね」


 一言言うと二つ三つ理解してくれる有能な魔導書でよかったよ。


「本がしゃべってる!」


 興奮したような口調でビリアラが詰め寄ってきた。
 なんだ?魔導書に興味あるのかな。


「ご主人、彼女は?」
「ああ、メイド」
「見れば分ります」


 アトラがあきれ声でぼそりと言う。


「レクレ様、魔導書ってみんなしゃべるものなのか!」
「え、うーんどうだろ? わたしもアトラと白しかしらないからな」


 ビリオラの突然の大きな声にわたしは肩を震わせながらも答えた。


「ビリオラは魔導書に興味あるの?」
「ないよ! わたし、本嫌いだし! 喋る本が珍しいしおもし。ちょうだい」


 い、潔いいな。あげれるわけないけど。
 変わらずビリオラはキラキラした瞳でアトラを見上げていた。


「私はご主人の物ですからね。他の物に仕える気はないですよ」
「えー、ちょっとだけ!ちょっとだけ!」
「えーい、飛ぶな!捕まえようとするな!」


 ピョンピョンと飛び跳ねアトラを捕まえようとするビリオラ。なんだろう、この光景、見てて和む。
 でも、わたしがアトラを喚んだのはこんな和む光景を見たいためじゃないんだけどね。


「アトラ、前に作った魔法陣使うから準備しててへ」
「前と言いますとどれでしょう」


 アトラにはわたしが作ったオリジナルの魔法を書き込んでるからいつでもだせるから便利なんだよね。


「あれよ。集めるやつ」
「あの迷惑な魔法ですか? でもあれは魔力が足りなくて失敗してませんでしたか?」


 そう、今から使おうとしている魔法は以前なら魔力が足りなくて使えなかった魔法だけど今なら使えると思うんだよね。
 ほら、魔力総量上がってるし、それにこの図書館の魔力もあるからね。


「レクレ、魔王の仕事するのか!」


 様がついてないけとま、いっか。
 というか魔王の仕事ってなんだよ。と笑ながらわたしはビリオラの頭を撫でる。
 目をつむり気持ちよさそうにビリオラは尻尾を振る。


「まぁ、見方によったら魔王とはいかないけど完全に悪役なことをするよ」


 そういうとわたしはニタァと笑う。
 ビリオラ曰く、それは見る人が見れば魔王と呼ばれてもおかしくないほどの悪人の笑顔だったらしい。

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