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浮遊図書館の魔王様

るーるー

第八話 ふみふみふみふみふみしました

「いやー、新刊あってよかった」
「一冊だけで助かりました」


 わたしはニコニコしながら寮の門を潜る。
 新刊! ああ、なんて素晴らしい響き! 
 早く読みたい。部屋に戻ったらすぐにベッドに寝転がって読みたい。三回は読み直したい。
 読書家としては当たり前。
 そう考えながら寮の受付を通り過ぎた。


「あ、レクレちゃん。ちょうどいいわ」
「はい?」


 く、邪魔しないで寮母さん。わたしには本を読むという崇高な使命があるのよ。


「また、本? ほどほどにね。校長からの連絡で寮の退所期限は一週間ってことらしいよ」


 退所期限! しまった部屋を探しに外に行ったの忘れてた。
 アトラが睨んでる気がするが新刊の魔力に勝てなかったんだから仕方ない。


「あと、あなたにお客さんが来てるわよ」
「お客?」


 わたしは首を傾げた。わたしを訪ねてくる人物に全くといっていいほど心当たりが浮かばないからだ。
 両親はすでにに他界してるし、学園内外で友達いないし。
 あ、ソーニャは友達かな?


「人違いじゃないですか?」


 わたしは訝しげに寮母さんに聞き返す。


「いや、それはないよ。寮の前でオロオロしてたから何かようかと声をかけたらレクレ・フィンブルノ様はいますか?って聞かれたからね」


 家名まで言ってくるということは人違いという線は消えたけど、


「誰だろ?」
「ご主人に恨みを持ってる人じゃないですか?」


 あり得そうで怖い。人に褒められる行為はさほどないが逆は数えきれないほどあるし。


「翠色の長い髪をしてメイド服みたいなやつを着てたけど、心当たりはないかい?」


 だめだ。知らない人だ。アトラを見るも反応を示さないということは会ったことがないということだろう。


「まぁ、会ってみます」


 なんとなく嫌な予感がするが部屋にいるなら会うしかないし。さっきまでの読書欲よりも今は危険と頭の中で警告がなっているし。


「ご主人、もしかしてというか多分……」
「言わないで」


 わかってます。ええわかってますとも。おそらく最後の願い。図書館関係なんだろうということはよくわかってます。
 どんよりとした表情でトボトボと歩くわたしを周りの人はギョッとした目で見ると素早く道を開けてくれた。今はありがた迷惑だ。
 そうこうしているうちに部屋の前まで来てしまった。


「はぁ、覚悟決めるしかないか」


 そう言いながらも恐る恐るわたしは壊れたままの扉から自分の部屋を覗き込んだ。
 部屋の中は相変わらず床一面が本だらけだいつもならそこにはないものがいた。


「な!」


 わたしは驚愕の声を上げ、ピコピコと揺れるものを凝視し、


「ケモミミだぁぁぁぁ!」


 飛びついた。
 そして耳も摘み揉みしだいだ。


「にゃぁんなのぉぉぉ⁉︎」


 なにか聞こえたが気にしない。
 ふみふみふみふみふふみふみふみ。
 ああ、柔らかい。本で読んだことあって興味はあったけどこれはいい物だ。
 ふみふみふみふみふふみふみふみ。


「ご主人!」


 ゴスっと鈍い音が頭からなり地味に痛い。
 わたしが揉むのを辞めるとケモミミはピューと勢いよく部屋の隅まで行ってしまった。


「人の嫌がることをするのはよくないよ? ご主人」
「そうだね。反省するよ」


 ケモミミという人類のいや、世界の秘宝を見たせいで我を忘れてしまったようだ。ケモミミ、なんて恐ろしい。


「お前、レクレ・フィンブルノ?」


 呼ばれて改めて部屋の隅に逃げたケモミミを見ると翠の耳がピコピコと動き、尻尾をピーンと伸ばし、金色の眼が睨むようにこちらを警戒していた。


「うん、わたしがレクレだよ」
「人間、怖い、レクレ、特に怖い」


 親しみを込めて答えてみたが意味がなかったようだ。
 後ろでアトラが「第一印象最悪ですからね」などと言っていて耳が痛い。
 ああ、神様、全てはケモミミがいけないんです。


「でも、ねえからは伝言頼まれてるし連れていかないで雷おとされるのもいやだし」


 なにやら葛藤してるな。ねえ、って誰だ?
 しばらく、考えていたケモミミは諦めたかのようにため息を付き、着ているメイド服から蒼い石を取り出した。
 離れてるのにピリピリと魔力を感じる。


「それ、蒼水晶⁉︎、古代魔導具アーティファクトじゃない!」


 古代魔導具アーティファクト、はるか昔、今よりも魔法が発達していた時に作られた魔導具である。古代魔導具アーティファクトはそれ一つで国を建てられるほどの値段で取引されており、なおかつ国を滅ぼせるだけの力を持つものもあると言う。


「そ、そうなのか? ねえにレクレ連れて来る時に使えって言われたらか」


 ねえ、一体何者?
 そんな疑問が頭に浮かぶ。


「あ、そういえば君の名前は?」


 名前聞いてなかった。


「オレはアル。アルシャット」
「アル、女の子がそんなオレなんて言っちゃだめだよ?」


 せっかく素材はいいんだから。
 そう言うとアルは照れた様子で、


「う、うるさいな! 早くねえのとこ行くぞ!」


 アルは蒼水晶を掲げる。


「転移! 浮遊図書館!」


 そう告げるとともに眩い光が蒼水晶より発せられ、周辺の景色な歪んだ。
 空間がねじ曲がるように歪み続ける
 おお、これが転移の感覚か! と感動していたわたしだったが途中、


「やっぱり魔導書関係だった」


 とガックリと首を落としたのであった。

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