浮遊図書館の魔王様

るーるー

第六話 いただきました

 真っ白な空間。そこにわたしは一人立っていた。


「ここ、どこ?」


 確かに自分は部屋のベッドの上で空白の書に浮かんだ文字を読んでいたはずなのに。


「夢かな?」


 そう言いながらもわたしの頭はそれを否定している。レクレ・フィンブルノが本を読んでいる途中で寝るなどあり得ないと。


「アトラもいない。可能性があるならあの魔道書かな」


 あれがなんらかの魔導書であるのはまちがいない。問題は、


「どういうタイプの魔導書かなんだよねー」


 リーニャが勧めてきたからには悪意のある魔導書ではないとは思うけど、リーニャの意思と魔導書の意思とは別物だからな〜。
 そんなことを考えながら左右を見渡すがなにも見えずただただ白い空間が広がるだけだった。方向感覚が狂うね。


「はぁ〜これどうするの」


 ため息をつき、後ろを確認しようと振り返る。


「やぁ」


 振り返った先にはテーブルと椅子が二脚あり、一脚にはすで銀の髮の男の子が足をぶらぶらさしながら座っていた。


「だれかな?」


 わたしは用心しながら話しかける。


「え〜さっきまでお話してたじゃないか〜」
「魔導書の人格?」


 ぱっと見は女の子に見えなくもない容姿だね。わたしの好みではないけど。


「そういう言われ方は嫌だな〜 僕は一つの人格だよ? 人権侵害じゃないかな?」




 そう言って顔を上げわたしを見つめてきた。人権侵害なんて言葉知ってるのか〜頭いいな〜


「魔導書に人権があるかどうかは知らないけど、ここ、どこ?」
「ここは僕、白の魔導書の中だよ」


 とりあえず座りなよ、と男の子は自分の前の空いてる席に手を向ける。
 今更じたばたしても仕方ないのでわたしは男の子前の椅子に腰を降ろした。


「白の魔導書、だから周りは白いの?」


 わたしがそう聞くと男の子はキョトンとした顔をし、心底楽しそうに笑った。


「ふふふ、いや、シロたがら白いというわけじゃないよ。単純に貯蓄されてる魔力がすくないだけだからね。余計なものを作らなかっただけだよ」
「魔導書が魔力を貯蓄しているの?」
「一応、魔導の書だからね。それっぽいでしょ?」


 イタズラをした子供のように男の子は笑う。まぁ、見た目は子供なんだけど。


「あなた、名前は?」
「これは失礼。僕は白の魔導書のシロと言います。未来の魔王様」


 シロは胸に手を当て軽く腰を降り貴族のように礼をしてきた。仕草がいちいち芝居かかって見える。
 でも、なにより気にかかるのは、


「未来の魔王様?」
「うん、この白の魔導書を読む資格は魔王になると宣言した者だけなんだ」


 なるほど、確かにそれならリーニャが読めなくてわたしが読めた謎が解ける。リーニャは間違ってもそんなこと言うタイプじゃないしね。


「でも、なんで魔王なの?」


 別に魔王じゃなくても国王とかでもいいと思うけどね。


「レクレ、僕はね。退屈が嫌いなんだ。退屈なのが耐えられないんだよ」
「それで」


 なんとなく、先が読めたけど一応先を促す。


「君の思うとおり、確かに国王でもよかったんだけどね。国を治め始めると変化がなくなるんだよ」


 それはそうだろう。国ができてしばらくは変化の連続だろうが国の方針が決まるとそうそう変化なんて起こらないだろう。暴君でもない限り。


「そこで思ったんだ。魔王ならどうだろうって。魔王なら自分の欲望のままに動くだろうし。魔王が動くと世界が動く。こんなに退屈しないことはないんじゃないんだろうか!ってね」
「……まぁ、確かに」


 確かに魔王と呼ばれる存在は大半が自分の欲望に忠実に生きているような気もしないわけではない。
 つまり、シロは、


「魔王になりたいと言った人に力を与えて世界が混乱するのを見て楽しみたいということね」
「その通りさ! なにも変わらない世界なんてつまらないでしょ?」


 シロはこれから先に来るだろう混沌とした世界をたのしむかのように、クスクスと笑い声を響かせる。


「だからさ、君が、レクレが魔王になると宣言した時はとても嬉しかったよ。退屈がなくなるかもしれないんだから」
「わたしがシロの望む魔王になるとは限らないと思うけど?」
「それはそれだよ。まぁ、少なくとも魔王を名乗ったら混沌とするだろうし」
「それもそうね」


 この魔導書は退屈だからこそ魔王を求めてるわけか。
 最悪の愉快犯だ。


「だから僕が楽しめるのであればいくらでも力を貸さずけるよ? ただ、限度はあるけどね」
「具体的には?」
「君の願いによるよ」


 願いか、まぁ授けると言ったからには貰っておこう。


「じゃぁ、床が抜けない図書館をお願いします」
「普通の図書館じゃなくて?」
「床が抜けないが重要だよ?」


 今の寮は一階だが学園に入った時は二階だった。入学して三ヶ月で本の重みに耐えきれず床が抜けたんだ。


「ふむふむ、まぁ、ちょっとアレンジを加えて図書館は作るよ。他には」
「そうだな〜食事を取らなくといい体とかかな」


 四日間本を読み続けて倒れたのをおもいだす。


「なんか、願いしょぼいね」
「本関係以外はどうでもいいしね」


 シロなんだかがっかりしているようだけどわたしには関係ないからね。


「はぁ、まあいいよ。君の願いは図書館と食事を取らなくてもいい体。この二つかな?」
「そうだね。床がぬけないのは重要だからね」


 床が抜け、本の濁流に飲まれて重傷をおった人もいるしね。


「あまりに能力的につまらないから僕からもいろいろつけたしとくよ」


 久々に力を使い機会だし、と小さな声でつぶやくシロ。
 なんだ余計なものをたされそうだな。


「よし、じゃぁ、準備ができたら呼びにいかせるよ。それまでは平穏な毎日を過ごすといいよ」
「期待せずに待ってるよ」


 わたしは苦笑いを浮かべながら答えた。
 するとシロは楽しそうに笑いながら、


「僕も楽しむけど君も楽しんでくれると嬉しいよ」


 と年相応の笑顔をみた瞬間、わたしの意識はまた途切れた。

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