浮遊図書館の魔王様

るーるー

第三話 宣言してみました



 さて、卒業するにあたってなにか言わなければいけないわけだけど、なにを言えばいいのか。
 わたしは首を傾げながらハゲ校長の前に立つ。すでにハゲは青筋を立てていて、かなりイラついているようだ。


「あの、校長、なんでそんなにイラついてるんです?」


 不思議に思い周りに聞こえない程度の小声で話しかける。こういうところは気配りができる女です。


「ああ、映えある時計塔の卒業式に遅れてくるわ、学生服ではなく寝巻きのような服でくる馬鹿者がいたのでな」
「たいへんですね」


 声が増幅されなかったということはある程度声を出さないと増幅されない魔法なのか。
 わたし以外にもそんな人がいるとはこの学園も大概だな。


『貴様だ!馬鹿者が!』


 声の大きさが一定を超えたのか魔法で増幅された声が卒業式会場に響く。
 ハゲ校長がしまったという表情を浮かべている。対象にわたしは意地の悪い笑顔を浮かべニヤニヤしていただろう。


「今日で貴様の顔を見なくてすむと思うと清々する」


 ……仮にも教師が生徒に向かってそんなこと言っていいんだろうか。


「だが、まぁ、卒業までこぎつけたことは祝福しよう」
「それはどうも」


 めんどくさいなー。 早く帰って本を読みたいよ。
 そんな話をしていたら後ろから規則正しい足音が聞こえてきた。あれだね。足音にも性格ってでるよね。


「カハネル・リミテス参りました!」


 声が大きい。うるさい。
 後ろを振り向くと、そこには青と白を基調としたファンガルム魔法学園の制服に身を包んだ女生徒が姿勢正しく立っていた。
 カハネル・リミテス。流れるような長い髪は金、強い意思を秘めた瞳は紫の色をしていた。
 その紫の瞳でわたしを忌々しげに見ながらもカハネルはわたしの横に並ぶ。
 はて、わたしはなにか彼女にしたかな?考えてみるが全く覚えがない。


「うむ、ではカハネル・リミテス卒業主席」
「はい!」


 カハネルの凛とした返事が響く。


「レクレ・フィンブルノ卒業次席」
「はーい」


 わたしの間延びした返事も響く。


『両名は我が学園の主席、次席とし、卒業生代表としてここに立ってもらった。今後の抱負を全校生徒に聞かせて欲しい』


 うわぁ、だるいこといってますよ。このつるっぱげ。
 そんなものないわたしは顔をひきつらせる。しいていうならば本をひたすら読んで生活したいが、これは抱負ではなく願望だ。
 まずい、抱負がない。
 そんなわたしを見てニタァと気持ち悪い笑みをしているハゲ。
 よし、後で残りの髪を根絶やしな。


『では、カハネル・リミテスより今後の抱負を述べよ』
「はい!」


 わたしが悩んでいる横でカハネル堂々とした態度で全校生徒に向き直る。


「私はリミテス家の誇りとなるべく、魔法騎士団に入り、魔族の殲滅に貢献したいと思います」


 カハネルの声が講堂に響き、しばらくすると大きな拍手が巻き起こった。さすが優等生、言うことが違う。


『うむ、カハネル・リミテスの成績ならばすぐにでも魔法騎士団の要になれるであろう』


 ハゲがわたしに同じ目を向けてたとは思えないほど優しい目でカハネルを見ていた。
 まじで差別じゃなかな? これ。


『次に、ちっ、レクレ・フィンブルノ。 抱負を言いなさい』


 舌打ちまでしたよ。この人。
 こんなのが教育者だから教育現場は腐敗していくんだね。昨日読んだ本に書いてたよ。
 しかし、抱負か。本当になにもないな。
 わたしは先程のカハネル同様、全校生徒のほうに向く。
 散々考えた結果、


「えー、わたしの抱負は特にありません」


 うん、これだね。
 わたしは再びクルリとハゲ校長のほうに向き直ると、ハゲがタコみたいに赤くなってた。


「……校長、あんまり怒ると血圧上がるよ?」


 善意で校長に告げる。


『上げとるのはきさまだぁあぁぁ!』


 絶叫。うるさすぎる。周りの迷惑も考えてほしい。


『きさまは! 映えある卒業生次席として! なにも抱負を抱かずに卒業するというのか!』
「いや、だって、なりたいのややりたいことないですし」


 ハゲはどっと疲れたような、諦めたような表情を浮かべると、


『……なら、いっそ魔王でもなったらどうだ?』


 魔王! 魔の王と書いて魔王!いい響きだ。加えてわたしは本が好きだし、図書館の魔王とかどうだろ?
 図書館の魔王レクレ。
 悪くないかも気に入った。


「じゃ、それで」
『ふざけるなぁぁああ……?』


 怒鳴り、顔が真っ赤になっていた校長の目から急速に力が失われ、後ろにバタン!と大きな音を立て倒れた。
 血圧が上がりすぎたかな?


「こ、校長!」
「誰か、医療魔法使いを!」
「くそ、 レクレの相手をまともにするから!」


 なんだかさりげなく貶された気がするけど、ま、いっか。
 校長が倒れたことで講堂内はざわめき浮きだっている。
 これはチャンスじゃないか?
 わたしは再度全校生徒のほうに身体を向けると息を思いっきり吸い込み、


「わたし、レクレ・フィンブルノは図書館の魔王になることを抱負とします!」


 ざわめいている生徒一同に聞こえるよう大声で叫ぶ。ざわめきがまた大きくなったか気がするけどわたしは興味がない。
 そういえば校長はどうなった?
 後ろを振り返るとまだ医療魔法使いが来てないのか顔色が悪いハゲが先生方に囲まれた状態で大の字で倒れたままだった。
 わたしはため息をつきなかまら右手をハゲに向ける。


「傷を癒せ、ヒール」


 わたしの右手から赤い光が発せられる、その光がハゲを包み込む。しばらくすると光が消え、先程より多少血色のよくなったハゲになったようだ。


「一応、応急手当てみたいなものなんで医療魔法使いに見せてくださいね」


 ここで死なれても寝覚めが悪いし、わたしのせいにされたらたまらないしね。


「じゃ、校長も倒れたし挨拶も終わったのでわたしかえりますね」


 そう校長を介抱している先生方に言うとわたしは壇上から飛び降り入り口に向かい歩く。
 ファス監察官はため息を付きつつも止める気はないようだ。
 周りの生徒達は遠巻きにヒソヒソと言うだけで近づいてくる気はないようだ。


「まぁ、今さらなにをいわれてもなんとも思わないさ」


 じゃぁねーとわたしは手を振り講堂から出た。

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