魔王さまは自由がほしい
水の上を走るには気合が必要
ナシャル湖。
魔界の雑誌でも取り上げられるほどの知名度である巨大な湖である。
一説には精霊がいるなどと言われているが概ねには魔界に精霊はいないだろうという見解である。
「精霊楽しみだね!」
ソロティスがキラキラとした瞳で周囲にいる魔王軍の一同に微笑みかける。
魔王軍の面々も大体の者がナシャル湖には精霊がいないと思っているが魔王が黒と言えば白にするのが魔界の住人である。加えて魔王城にいるモンスター軍団のソロティスへの忠誠度は異常なまでに高い。
そのためか魔王軍のモンスター達は休暇用のレジャー用品ではなく精霊狩り用の道具を持っているものが大半である。
「ソーちゃん!今日は水上走りを練習するんだよ!」
いつの間にか桜はというと水着に浮き輪という遊ぶ気満々のスタイルである。
「え、僕は幸運を運ぶ精霊を探したいんだけど「そんなのいいから!」
ソロティスの言葉を遮り、桜はソロティスの腕を掴むと素足で地面をかち割りながら走り去っていった。
常軌を逸した速度で走り去った二人を他所に魔王軍の面々は各々休暇を開始する。
あるものはソロティスのために精霊を探しに行ったり、ある者は筋トレを開始したり、ある者はショッピングに出かけたりと様々である。
そんな中、いつもならすぐにソロティスについていくマリアベルジュであるが今はキルル、ファンファンニールと共に過ごしていた。
「珍しいね〜 マリアがまおーさまについていかないなんて」
「HAHAHAHA、ついに子離れかね?」
水中用のパーツに換装している途中のキルルとテカテカとした得体の知れないオイルを体に塗りまくっているファンファンニールの二人が笑う。
「子離れって…… 私はただ魔王様が遊んでいる間に精霊を捕まえて喜んでいただこうとしていただけです」
手に虫とり網を持ったマリアベルジュが頬を染める。そしてあらぬところに視線を向けると唐突にニヘラァと表情を緩ませる。どうやら精霊を見せた時のソロティスの笑顔を想像しているようだ。
「であれはなにかね?」
ファンファンニールが指差しながら疑問を告げる。
ベタベタと塗りたくったオイルはファンファンニールが上げた骨を伝い大半が落ち水溜りを作っていた。
「シュコーシュコー」
ファンファンニールが指指したのは怪しげな防護マスクにやたらと分厚い服を着込んだ一団である。
燦々と照りつけている黒い太陽の光の下でその一団は異様に目立ち、さらには威圧感を放っている。
「シュコーシュコー」
「いや、シュコーじゃないよ? コルデリア」
異様な一団の先頭に立つ者、コルデリア? らしい者にファンファンニールは話しかける。
すると防護マスクをつけたコルデリアが指をいろいろな形を素早く作り変えて何かを訴えてくる。
「いや、ハンドサインとかわからないから」
ファンファンニールが骨の手を振るとコルデリアは後ろを振り返り他の防護マスクの面々にハンドサインを駆使し、ハンドサインで指示を出していた。しばらくすると他の防護マスクの面々が素早く動き出していた。それを見届けるとコルデリアはファンファンニールに向き合うとどことなくがっかりしたような雰囲気を出していた。
「おい、まるで僕が悪いみたいな感じにするのはやめたまえよ」
コルデリアは仕方ないといった様子でワインがいつも使っているマジックボードを取り出すと文字を書き始める。
『ナシャル湖の日差しな吸血鬼であはり私様たちには辛すぎるのでこれを着ていますのよ』
「吸血鬼も大変だね。というかコルデリア、君意外と字がきれいだね」
『それほどではありませんわ!』
ちなみにファンファンニールの比較対象は桜である。彼女のは文字というか象形文字を彷彿とさせる奇妙な記号の羅列である。
「ふふーん。キルル換装終わったから遊びに行くよ!」
見た目は全く変わっていないキルルであるがすべてのパーツが耐水加工されている物に変えられているのだ。
「キルル、君はメイド服のまま泳ぐつもりなのかい?」
キルルの着ている服を見てファンファンニールは呆れたようにつぶやいた。キルルの着ているのは水着ではなくいつも魔王城で着ているメイド服であった。どう考えても泳ぐのには適していない服である。
しかし、キルルはファンファンニールの言葉を聞くとふふん、と軽く笑う。その笑みはどこか人を馬鹿にしているような笑顔であった。無論、この場にいる面々に人間などいないのだが。
「キルルの着ているメイド服は水着の生地で作られてる耐水服だよ!」
「そんなメイド服があるのか⁉︎」
ファンファンニールが驚きの声を上げ、逆にキルルは誇らしげに笑う。
「ドクターの技術進歩はとどまることを知らないのです!」
「我らが魔王軍の技術を支えているドクターには脱帽だがあえて言わしてもらう! その水着、意味があるのか⁉︎」
「あははははは!」
キルルはファンファンニールのそんな声など聞こえていないかのように桜同様に走り去っていった。
後にはオイルまみれのファンファンニール、だらしない表情を浮かべ、クネクネと体を動かすマリアベルジュ、さらに防護マスクを付け、日差しでぐったりとしているコルデリアだけが残った。
「ん? 僕が彼女たちの面倒を見るのかい?」
ファンファンニールの呟きには誰も答えずにスケルトンはがっくりっ肩を落とすのであった。
◇◇
「わあああああああああ!」
湖の上でソロティスの悲鳴が響き渡った。
というのもソロティスはすでに足もつかない湖の中心まで連れてこられており一人では帰れない状況であった。
そんな現状に連れてきた張本人である桜はというと、
「ははははは!」
楽しそうに笑い、水飛沫をあげながらソロティスを引きづり回してた。
桜の足は全く見えないほどに高速で動いており全く沈む様子すら見えない。そして桜が水上を走るたびにソロティスは水面に叩きつけられており、悲鳴が上がる。
「あぷ! 痛! 水にあたるだけなのなら痛!」
高速で動き回るためソロティスに当たる水面は地面のように堅い。人間が当たれば出血しそうなものであるが一応、魔王であるソロティス。傷一つなく悲鳴をあげていた。
「しかたないなぁ」
悲鳴をあげるソロティスに気づいた桜が引きづり回すのをやめ、引き上げるとお姫様抱っこに切り替えた。しかし、走るのは全くやめる気がない。
「違う! まずは走るのをやめて!」
「えー」
何か言いたげな顔をしながらも桜はソロティスの言葉を聞き入れ陸の方へと走りだす。
「というかなんで桜は沈まないの?
 普通は水の上なんて走れないんだよ?」
「簡単だよ? 右足が沈む前に左足で踏み込んで左足が沈む前に右足を踏み込ませたらいいんだよ!」
「非常識すぎる!」
ソロティスが絶叫している間に桜は陸地へとたどり着き、ソロティスはお姫様だっこから解放される。
「じゃ、ソーちゃん。走って」
「え⁉︎」
桜は当たり前のように湖の方を指差す。湖の上を引きずら水浸しになった服を絞っていたソロティスが驚きの声を上げ、桜を見る。
「いや、桜。僕は水上を走ることなんてできないよ?」
「キルルはやってるよ?」
ソロティスが湖の方を見るとメイド服を着たキルルが,水の上を滑るようにして移動していた。桜のように高速で足を動かしているわけでもなく浮いているのだ。
「あれはパーツでしょ! 僕にはそんなパーツないんだよ!」
ソロティスが怒鳴り指差すのはキルルの腰の部分についている魔力を放出するバーニアである。魔力を下に放つ反動でキルルは浮いているのだ。
「じゃ、ソーちゃんもあれで浮く?」
「……僕が魔力をまともに使えないの知ってるくせに」
ソロティスは魔法が苦手である。というか戦闘行為が苦手だ。魔力量自体は先代魔王に引けを取らないほどであるが魔法を使う才能が皆無なのだ。そのため簡単な魔法しか使えない魔王なのだ。
「体鍛えたら大丈夫だよ!」
「根性論じゃないか!」
ぎゃあぎゃあと喚いている二人をよそにキルルは上機嫌に新調された耐水加工パーツと魔力放出バーニアの具合を確かめるように湖上をホバリングしていた。急加速をしたり、魔力を大量に放出し空を飛んだりしていた。
「今回のドクターの作ったユニットは当たりだなぁ」
いつもよくわからないパーツを作り「ひひ! キルル。このパーツどうだい? 奥歯に仕込んでおいてピンチの時にボタンを押すと半径五キロは灰塵と化す自爆スイッチだよ! やはりロボ子には自爆のロマンがないとね!」などと抜かしてくるマッドなサイエンティストであるがたまにはいいものを作るとキルルは感心していた。
未だに喚いているソロティスと桜を微笑ましく湖上を浮かびながら見ていたキルルであったが足に違和感を覚える。
「ん?」
唐突にキルルの動きが止まる。といっても魔力放出バーニアには異常はなく浮いてはいるが進まない。そんな状態。
脚に違和感を覚えたキルルは怪訝な顔をしつつも自分の足の方に視線を向け、キルルにしては珍しく目を見開いて驚いた。足首を白い腕が掴んでいた。
「むむ?」
自分の足を掴む腕に気づいたキルルはバーニアからだす魔力の量を増やし引き剥がそうとし始める。が、かなりの魔力を注ぎ込んだにもかかわらず腕は微動だにせず、それどころかキルルを水中に引きずり込もうとし始めた。しかも明らかにばバーニアの出力より上の力でである。
「ぬぁ⁉︎」
徐々に湖に沈んでいく自分の足を見ながらキルルは足掻く。しかし、沈んでいくスピードは変わらない。
「くっ! system! 砲撃パッケージ! ネーム「未確認は攻撃して確認!」展開」
瞬く間にキルルの背後から幾つもの砲門が姿を現し、その全てがキルルの足を掴んでいる腕の本体がいるであろう水面へと向けられる。
「弾けろぉ!」
一切の躊躇いを感じさせない掛け声を上げ、すべての砲が火を噴き湖に叩き込まれた。
湖の水が叩き込まれた魔力弾により蒸発し、もうもうと煙を上げ始める。そんな中、キルルは自分の脚にまとわりついていた腕が消えたことを確認すると満足げな笑みを浮かべ、武装を解除した。
「なにすんだ! この馬鹿メイドがぁ!」
「なぁ⁉︎ センサーに反応しなかったのに⁉︎」
後ろから声をかけられたキルルが驚愕。
水面から何かが飛び出しキルルを掴むと一瞬にして湖の中に引きずり込んだ。
「ぎゃぁぁ! 耐水加工でもおぼれるんだよぇ!」
必死にバシャバシャと騒がしく水面を叩きつキルルは顔を水上に出し暴れるがそんなキルルを白い腕が掴み再び水の中に引きずり込みのを再開する。
キルルの顔が完全に見えなくなると小さな気泡が水面に見えたがそれもやがて見えなくなった。
キルルが湖上から姿を消したことにソロティスと桜が気づいたのは桜がキレて尻尾で薙ぎ払われたソロティスが水上を転がる一時間後のことであった。
魔界の雑誌でも取り上げられるほどの知名度である巨大な湖である。
一説には精霊がいるなどと言われているが概ねには魔界に精霊はいないだろうという見解である。
「精霊楽しみだね!」
ソロティスがキラキラとした瞳で周囲にいる魔王軍の一同に微笑みかける。
魔王軍の面々も大体の者がナシャル湖には精霊がいないと思っているが魔王が黒と言えば白にするのが魔界の住人である。加えて魔王城にいるモンスター軍団のソロティスへの忠誠度は異常なまでに高い。
そのためか魔王軍のモンスター達は休暇用のレジャー用品ではなく精霊狩り用の道具を持っているものが大半である。
「ソーちゃん!今日は水上走りを練習するんだよ!」
いつの間にか桜はというと水着に浮き輪という遊ぶ気満々のスタイルである。
「え、僕は幸運を運ぶ精霊を探したいんだけど「そんなのいいから!」
ソロティスの言葉を遮り、桜はソロティスの腕を掴むと素足で地面をかち割りながら走り去っていった。
常軌を逸した速度で走り去った二人を他所に魔王軍の面々は各々休暇を開始する。
あるものはソロティスのために精霊を探しに行ったり、ある者は筋トレを開始したり、ある者はショッピングに出かけたりと様々である。
そんな中、いつもならすぐにソロティスについていくマリアベルジュであるが今はキルル、ファンファンニールと共に過ごしていた。
「珍しいね〜 マリアがまおーさまについていかないなんて」
「HAHAHAHA、ついに子離れかね?」
水中用のパーツに換装している途中のキルルとテカテカとした得体の知れないオイルを体に塗りまくっているファンファンニールの二人が笑う。
「子離れって…… 私はただ魔王様が遊んでいる間に精霊を捕まえて喜んでいただこうとしていただけです」
手に虫とり網を持ったマリアベルジュが頬を染める。そしてあらぬところに視線を向けると唐突にニヘラァと表情を緩ませる。どうやら精霊を見せた時のソロティスの笑顔を想像しているようだ。
「であれはなにかね?」
ファンファンニールが指差しながら疑問を告げる。
ベタベタと塗りたくったオイルはファンファンニールが上げた骨を伝い大半が落ち水溜りを作っていた。
「シュコーシュコー」
ファンファンニールが指指したのは怪しげな防護マスクにやたらと分厚い服を着込んだ一団である。
燦々と照りつけている黒い太陽の光の下でその一団は異様に目立ち、さらには威圧感を放っている。
「シュコーシュコー」
「いや、シュコーじゃないよ? コルデリア」
異様な一団の先頭に立つ者、コルデリア? らしい者にファンファンニールは話しかける。
すると防護マスクをつけたコルデリアが指をいろいろな形を素早く作り変えて何かを訴えてくる。
「いや、ハンドサインとかわからないから」
ファンファンニールが骨の手を振るとコルデリアは後ろを振り返り他の防護マスクの面々にハンドサインを駆使し、ハンドサインで指示を出していた。しばらくすると他の防護マスクの面々が素早く動き出していた。それを見届けるとコルデリアはファンファンニールに向き合うとどことなくがっかりしたような雰囲気を出していた。
「おい、まるで僕が悪いみたいな感じにするのはやめたまえよ」
コルデリアは仕方ないといった様子でワインがいつも使っているマジックボードを取り出すと文字を書き始める。
『ナシャル湖の日差しな吸血鬼であはり私様たちには辛すぎるのでこれを着ていますのよ』
「吸血鬼も大変だね。というかコルデリア、君意外と字がきれいだね」
『それほどではありませんわ!』
ちなみにファンファンニールの比較対象は桜である。彼女のは文字というか象形文字を彷彿とさせる奇妙な記号の羅列である。
「ふふーん。キルル換装終わったから遊びに行くよ!」
見た目は全く変わっていないキルルであるがすべてのパーツが耐水加工されている物に変えられているのだ。
「キルル、君はメイド服のまま泳ぐつもりなのかい?」
キルルの着ている服を見てファンファンニールは呆れたようにつぶやいた。キルルの着ているのは水着ではなくいつも魔王城で着ているメイド服であった。どう考えても泳ぐのには適していない服である。
しかし、キルルはファンファンニールの言葉を聞くとふふん、と軽く笑う。その笑みはどこか人を馬鹿にしているような笑顔であった。無論、この場にいる面々に人間などいないのだが。
「キルルの着ているメイド服は水着の生地で作られてる耐水服だよ!」
「そんなメイド服があるのか⁉︎」
ファンファンニールが驚きの声を上げ、逆にキルルは誇らしげに笑う。
「ドクターの技術進歩はとどまることを知らないのです!」
「我らが魔王軍の技術を支えているドクターには脱帽だがあえて言わしてもらう! その水着、意味があるのか⁉︎」
「あははははは!」
キルルはファンファンニールのそんな声など聞こえていないかのように桜同様に走り去っていった。
後にはオイルまみれのファンファンニール、だらしない表情を浮かべ、クネクネと体を動かすマリアベルジュ、さらに防護マスクを付け、日差しでぐったりとしているコルデリアだけが残った。
「ん? 僕が彼女たちの面倒を見るのかい?」
ファンファンニールの呟きには誰も答えずにスケルトンはがっくりっ肩を落とすのであった。
◇◇
「わあああああああああ!」
湖の上でソロティスの悲鳴が響き渡った。
というのもソロティスはすでに足もつかない湖の中心まで連れてこられており一人では帰れない状況であった。
そんな現状に連れてきた張本人である桜はというと、
「ははははは!」
楽しそうに笑い、水飛沫をあげながらソロティスを引きづり回してた。
桜の足は全く見えないほどに高速で動いており全く沈む様子すら見えない。そして桜が水上を走るたびにソロティスは水面に叩きつけられており、悲鳴が上がる。
「あぷ! 痛! 水にあたるだけなのなら痛!」
高速で動き回るためソロティスに当たる水面は地面のように堅い。人間が当たれば出血しそうなものであるが一応、魔王であるソロティス。傷一つなく悲鳴をあげていた。
「しかたないなぁ」
悲鳴をあげるソロティスに気づいた桜が引きづり回すのをやめ、引き上げるとお姫様抱っこに切り替えた。しかし、走るのは全くやめる気がない。
「違う! まずは走るのをやめて!」
「えー」
何か言いたげな顔をしながらも桜はソロティスの言葉を聞き入れ陸の方へと走りだす。
「というかなんで桜は沈まないの?
 普通は水の上なんて走れないんだよ?」
「簡単だよ? 右足が沈む前に左足で踏み込んで左足が沈む前に右足を踏み込ませたらいいんだよ!」
「非常識すぎる!」
ソロティスが絶叫している間に桜は陸地へとたどり着き、ソロティスはお姫様だっこから解放される。
「じゃ、ソーちゃん。走って」
「え⁉︎」
桜は当たり前のように湖の方を指差す。湖の上を引きずら水浸しになった服を絞っていたソロティスが驚きの声を上げ、桜を見る。
「いや、桜。僕は水上を走ることなんてできないよ?」
「キルルはやってるよ?」
ソロティスが湖の方を見るとメイド服を着たキルルが,水の上を滑るようにして移動していた。桜のように高速で足を動かしているわけでもなく浮いているのだ。
「あれはパーツでしょ! 僕にはそんなパーツないんだよ!」
ソロティスが怒鳴り指差すのはキルルの腰の部分についている魔力を放出するバーニアである。魔力を下に放つ反動でキルルは浮いているのだ。
「じゃ、ソーちゃんもあれで浮く?」
「……僕が魔力をまともに使えないの知ってるくせに」
ソロティスは魔法が苦手である。というか戦闘行為が苦手だ。魔力量自体は先代魔王に引けを取らないほどであるが魔法を使う才能が皆無なのだ。そのため簡単な魔法しか使えない魔王なのだ。
「体鍛えたら大丈夫だよ!」
「根性論じゃないか!」
ぎゃあぎゃあと喚いている二人をよそにキルルは上機嫌に新調された耐水加工パーツと魔力放出バーニアの具合を確かめるように湖上をホバリングしていた。急加速をしたり、魔力を大量に放出し空を飛んだりしていた。
「今回のドクターの作ったユニットは当たりだなぁ」
いつもよくわからないパーツを作り「ひひ! キルル。このパーツどうだい? 奥歯に仕込んでおいてピンチの時にボタンを押すと半径五キロは灰塵と化す自爆スイッチだよ! やはりロボ子には自爆のロマンがないとね!」などと抜かしてくるマッドなサイエンティストであるがたまにはいいものを作るとキルルは感心していた。
未だに喚いているソロティスと桜を微笑ましく湖上を浮かびながら見ていたキルルであったが足に違和感を覚える。
「ん?」
唐突にキルルの動きが止まる。といっても魔力放出バーニアには異常はなく浮いてはいるが進まない。そんな状態。
脚に違和感を覚えたキルルは怪訝な顔をしつつも自分の足の方に視線を向け、キルルにしては珍しく目を見開いて驚いた。足首を白い腕が掴んでいた。
「むむ?」
自分の足を掴む腕に気づいたキルルはバーニアからだす魔力の量を増やし引き剥がそうとし始める。が、かなりの魔力を注ぎ込んだにもかかわらず腕は微動だにせず、それどころかキルルを水中に引きずり込もうとし始めた。しかも明らかにばバーニアの出力より上の力でである。
「ぬぁ⁉︎」
徐々に湖に沈んでいく自分の足を見ながらキルルは足掻く。しかし、沈んでいくスピードは変わらない。
「くっ! system! 砲撃パッケージ! ネーム「未確認は攻撃して確認!」展開」
瞬く間にキルルの背後から幾つもの砲門が姿を現し、その全てがキルルの足を掴んでいる腕の本体がいるであろう水面へと向けられる。
「弾けろぉ!」
一切の躊躇いを感じさせない掛け声を上げ、すべての砲が火を噴き湖に叩き込まれた。
湖の水が叩き込まれた魔力弾により蒸発し、もうもうと煙を上げ始める。そんな中、キルルは自分の脚にまとわりついていた腕が消えたことを確認すると満足げな笑みを浮かべ、武装を解除した。
「なにすんだ! この馬鹿メイドがぁ!」
「なぁ⁉︎ センサーに反応しなかったのに⁉︎」
後ろから声をかけられたキルルが驚愕。
水面から何かが飛び出しキルルを掴むと一瞬にして湖の中に引きずり込んだ。
「ぎゃぁぁ! 耐水加工でもおぼれるんだよぇ!」
必死にバシャバシャと騒がしく水面を叩きつキルルは顔を水上に出し暴れるがそんなキルルを白い腕が掴み再び水の中に引きずり込みのを再開する。
キルルの顔が完全に見えなくなると小さな気泡が水面に見えたがそれもやがて見えなくなった。
キルルが湖上から姿を消したことにソロティスと桜が気づいたのは桜がキレて尻尾で薙ぎ払われたソロティスが水上を転がる一時間後のことであった。
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