魔王さまは自由がほしい
ファンファンニール劇場
〈殲滅天使パリリン〉の先見班が転送後、見たのはおそらくは魔王城の一角、そしてフロアの半分を埋め尽くしている白い骨のモンスター、スケルトンだった。さらには一段上のフロアには明らかに上位モンスターである輩も確認。
『本部、上位のモンスターがいます』
『了解、こちらからの転移終了後に魔法を叩き込み続ける。警戒しながら散開せよ』
『了解』
先遣隊は命令どおりに警戒しながら散開するがスケルトンはおろか上位モンスターたちすら身動きをとらなかった。
その間にも続々と〈殲滅天使パリリン〉の面々が転移されてきており手にしている武器には発動を待つだけとなっている魔法が灯されていた。
「攻撃開始!」
〈殲滅天使パリリン〉の一軍が戦場に姿を現すと共に戦闘開始の号令が下される。
瞬間、振り下ろされた武器から次々と魔法が解き放たれ光と共にフロアに破壊の爪が振り下ろされる。
途切れることなく魔法は放たれ続け、ただ、呆然と立ち尽くしていたスケルトンたちを粉砕すべく牙をむく。
スケルトンたちも攻撃されていることに何百体かが吹き飛ばされているさまを見て気づいたのかあたふたと逃げ回る。
しかし〈殲滅天使パリリン〉はそんなスケルトンにも容赦なく攻撃を続け、さらには上位のモンスターたちにも魔法を向ける。
「半分はスケルトンにもう半分は上に向かい攻撃!」
照準が合わされ、色とりどりの魔法が放たれた瞬間、金色のスケルトンが一歩前に出たように見えた。
(この圧倒的魔法量の前には何をしても無駄!)
号令を出しながら〈殲滅天使パリリン〉の総指揮官であるニックネーム、レッドは笑う。
今まで一軍、二軍が共に出撃したことは少ないがその少ない同時出撃時に行う連続魔法攻撃を食らって消耗しなかったモンスターは見たことがなかったからだ。
今もなお続く連続魔法攻撃はひたすらにフロアを揺らし続け、動いているのは数体ののスケルトンだけというのが現状だ。
やがて動いていたスケルトンも過剰な魔法を浴びせられ骨をばら撒きながら倒れる羽目となった。
「魔法斉射止め、警戒しながら距離を詰めなさい」
レッドの声で〈殲滅天使パリリン〉の面々は武器を構えながら前進する。
もうもうと煙を上げる上のフロアを警戒しながら。
「いやぁ、最近の正義の味方とは名乗りを上げずに戦うのが主流なのかな?」
どこかふざけたような口調で声が響く。
だれもが驚き武器を握る手に力が入った。
黒い煙の中から金の腕が姿を現し、うっとおしげに腕を振るう。ただそれだけで立ち込めていた煙は霧散し、何事もなかったかのように黒い球体に覆われた上位モンスターと思われるやつらが姿を表した。
いや、ただ一人子供のようなモンスターだけがメイド服を着た奴に抱きついていた。
「ああ、警戒しなくていいよ。まだこちらは名乗りを当ていないんだから。まだね」
言葉の端々にかなりの魔力を感じ、〈殲滅天使パリリン〉は動きを止めるしかなかったのだった。
◇◇
「HAHAHA、血気盛んではないか。出会い頭に魔法を叩き込んでくるとは」
愉快そうに笑いながらファンファンニールは自身が使った魔法である黒幕の使用をやめた。黒幕は闇属性以外の下位、中位魔法を完全に遮断する防御魔法である。そしてファンファンニールの保有する唯一の防御魔法でもある。
「ファンファンニール、もし上位魔法が放たれていたらどうするつもりだったんですか」
後ろでグスグスと泣く魔王ソロティスを抱きしめながらマリアベルジュが睨みつけていた。それは言葉にしてはいないがコルデリア、ワインも同様であった。
「その場合は遺憾だが、マリアベルジュ。君がなんとかしただろう?」
「それは無論ですが」
いかにも不服といった表情をしたマリアベルジュを無視し、ファンファンニールは続ける。
「それに上位魔法が怖いのであれば早めに魔王さまに挨拶をしていただき後ろに下がってもらった方がいいのではないかね?」
「それもそうですね。さぁ、魔王様」
「こ、こわい、魔法、こわい」
完全に萎縮し切った魔王ソロティスをなんとか立たせ、〈殲滅天使パリリン〉の見える所へ誘導していく。
「魔王様、お目当ての〈殲滅天使パリリン〉ですよ」
「え、本当⁉︎」
怯えていた姿が嘘のようにパッと顔に笑顔を咲かせながら下を見下ろすソロティス。
「うわぁ! 本当だ! レッドとブルーもいるよ! あとでサイン貰えるかなぁ」
下のフロアにズラーと展開している〈殲滅天使パリリン〉を見て興奮したような声を上げる。
そんなソロティスを後ろで見守るマリアベルジュは微笑むと共に〈殲滅天使パリリン〉のサインを入手する算段を考え始めていた。同じようにソロティスの呟きを聞いたコルデリア、ワイン、ファンファンニールも同様の考えを持ったようだった。
「魔王様、そろそろ挨拶をして見せ場をファンファンニールに譲りましょう」
「あ、そうだね。ごめんね、ファンファンニール」
真摯に詫びてくるソロティスにファンファンニールは軽く頭を下げることで応える。
ソロティスはさほど気にした様子はなく自分の服のポケットをゴソゴソと漁っていた。
やがて目当ての物を見つけたのかパッと顔を輝かせた。
「ファンファンニール、僕を飛ばせることできる?」
「楽勝です」
金の指でピースサインを作ると杖で軽く床を叩く。先ほどと同じように黒い魔法陣がソロティスの足元で輝き、ソロティスを飛翔させる。
ふらふらとしながらも〈殲滅天使パリリン〉を見下ろす所まで高度を上げると手にしていた紙を広げ、軽く咳払いをする。
「こんにちは、この魔王城の主、二代目魔王ソロティスと申します。この度は我が魔王城に来ていただき恐悦至極でございます。今回は〈殲滅天使パリリン〉の皆様をおもてなしするために試行錯誤をしておりますのでどうぞごゆるりとお楽しみください」
とても丁寧な挨拶だった。
ここが魔王城ではなかったら人間の王族と間違えられてもおかしくないほどである。
そんなソロティスを見ながら六死天一同は涙を流しながら拍手をしていた。「あのぼっちゃまがちゃんと挨拶を」やら「よく泣いてたソロティス様が」やら「これが子供が成長していく感動という物なのかい? 僕の目からも涙が」やら『(≧ω≦)bグッジョブ』と最後に顔文字を書いたワインはマリアベルジュとコルデリアの両名から紅鎧に蹴りを叩き込まれ吹き飛ばされていた。
その光景をただ呆然と見つめる〈殲滅天使パリリン〉達を放置してソロティスは下降を開始。
ゆっくりと着地したソロティスはそのまま歩き後ろの出口に消えて行き、コルデリア、マリアベルジュも後に続くが立ち止まる。
「ファンファンニール、キルルが帰ってくるまでには仕上げるように」
「善処するよ」
    カタカタと笑うファンファンニールを軽く睨みながらもマリアベルジュは魔王に続きフロアを後にした。
そしてその出口を遮るようにファンファンニールは立つとばっとマントをはためかせる。
「魔王様の言葉通り、歓待の準備はしてある。ゆるりとしていいよ」
「それは貴様が一人で我らを相手にするということか?」
〈殲滅天使パリリン〉の一人が怒気を込めてファンファンニールに問いかける。それに対してファンニールは黄金の指を振りながら否定した。
「残念。そうではない。僕一人で相手をする? 君たちじゃ五分持たない」
「舐めるな!」
雄叫びとともに放たれた光の魔法をファンファンニールはつまらなさそうに腕を振るうことで自身に触れる間際で骨の掌で受け止める。
「なぁ!」
予想外の結果だったのか焦りの表情が浮かぶ。
光の魔法はいまだ放出されているが、ファンファンニールの腕を貫くことができずにいた。
やがて魔法が終わりかけるとファンファンニールはそれを握りつぶし、周囲には光の燐が花びらのごとく舞い散って行った。
「とまぁ、下位魔法では僕に傷をつけるのは無理なんだが?」
軽く手を振りながらつまらなそうに呟いた。
「だから相手は彼らがすることになっている」
一本だけ立てた指を眼下のバラバラになっているスケルトンの残骸に向ける。
「ああ、先ほどのように簡単に勝てるとは思わないことだ。さっきはまだ補助魔法を使っていなかったをだからね。闇の歌」
ファンファンニールが魔法名を告げた瞬間、彼を中心に黒い魔力が広がる。それは倒れているスケルトン、そして警戒している〈殲滅天使パリリン〉一同まで届くほどの波動だった。
しかし、〈殲滅天使パリリン〉にはなにも変化は現れない。変化が現れたのはスケルトン達だった。
砕け、周囲をこれでもかと言わんばかりに散らばっていた骨が震える。
歓喜に、狂気に、そしてなによりも、襲えることに。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ
カタではなくガタ。
擬音が追加された震えを体現した骨達は次々と組み合わさり、時には手足が反対というミスチョイスをしながらも再びスケルトンとして骨を震わし、魔王城のアルバイトとしてフロアに現れたのだった。
「僕のオリジナル魔法闇の歌。これは死者というか死霊系の下位モンスターを復活させる魔法でね。まぁ、対価はあるんだが」
ガタガタと揺れ、しかし、さっきよりも躍動感あふれるスケルトンを見ながらファンファンニールは続ける。
「対価は僕の美声なわけだが…… では」
コホンと咳払いしたファンファンニールは頭蓋の杖をマイクに見たて歌い出した。
「ス、ス、スケルトン〜
みんな知ってるスケルトン〜
犬も大好きスケルトン〜
カルシウムも豊富さスケルトン〜
スクラム組んだらム・テ・キ♫」
なぜか歌と同時にスケルトン達が肩を組みながら踊り出すというかなり奇妙な光景が展開されていた。
そして残念なことにファンファンニールの歌は微妙にずれていた。その微妙さがなんとも言えない不快さを醸し出しているのだがそれを歌っている本人、そしてそれで復活しているスケルトン達は全く気付かない。
やがて曲は佳境に入って行っているのかスケルトン達の盛り上がりも最高潮まてきていた。〈殲滅天使パリリン〉をそっちのけで。
「イェェェェェェェェ!」
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ
やがて歌声が止み、かいてもいない汗を拭う仕草を見せるファンファンニール。
そしてそんなファンファンニールを神のごとく崇拝したような視線を送る目玉のないスケルトン達。
さらにはどう行動すればいいかわからない〈殲滅天使パリリン〉。
「さて、対価は払った」
落ち着いたような声が響くとスケルトン達がくるりと反転。〈殲滅天使パリリン〉達へ何もないはずの眼孔を向ける。
「そして次に始まるのは、宴だぁぁぁぁぁぁぁ!」
『オオオオオオオオオオオ!』
今まで喋らなかったスケルトン達が雄叫びを上げ青白い鬼火を眼孔に灯し、いつの間にか手にした武器を掲げ、ファンファンニールの言葉に背中を押されるかのように突撃を開始したのであった。
『本部、上位のモンスターがいます』
『了解、こちらからの転移終了後に魔法を叩き込み続ける。警戒しながら散開せよ』
『了解』
先遣隊は命令どおりに警戒しながら散開するがスケルトンはおろか上位モンスターたちすら身動きをとらなかった。
その間にも続々と〈殲滅天使パリリン〉の面々が転移されてきており手にしている武器には発動を待つだけとなっている魔法が灯されていた。
「攻撃開始!」
〈殲滅天使パリリン〉の一軍が戦場に姿を現すと共に戦闘開始の号令が下される。
瞬間、振り下ろされた武器から次々と魔法が解き放たれ光と共にフロアに破壊の爪が振り下ろされる。
途切れることなく魔法は放たれ続け、ただ、呆然と立ち尽くしていたスケルトンたちを粉砕すべく牙をむく。
スケルトンたちも攻撃されていることに何百体かが吹き飛ばされているさまを見て気づいたのかあたふたと逃げ回る。
しかし〈殲滅天使パリリン〉はそんなスケルトンにも容赦なく攻撃を続け、さらには上位のモンスターたちにも魔法を向ける。
「半分はスケルトンにもう半分は上に向かい攻撃!」
照準が合わされ、色とりどりの魔法が放たれた瞬間、金色のスケルトンが一歩前に出たように見えた。
(この圧倒的魔法量の前には何をしても無駄!)
号令を出しながら〈殲滅天使パリリン〉の総指揮官であるニックネーム、レッドは笑う。
今まで一軍、二軍が共に出撃したことは少ないがその少ない同時出撃時に行う連続魔法攻撃を食らって消耗しなかったモンスターは見たことがなかったからだ。
今もなお続く連続魔法攻撃はひたすらにフロアを揺らし続け、動いているのは数体ののスケルトンだけというのが現状だ。
やがて動いていたスケルトンも過剰な魔法を浴びせられ骨をばら撒きながら倒れる羽目となった。
「魔法斉射止め、警戒しながら距離を詰めなさい」
レッドの声で〈殲滅天使パリリン〉の面々は武器を構えながら前進する。
もうもうと煙を上げる上のフロアを警戒しながら。
「いやぁ、最近の正義の味方とは名乗りを上げずに戦うのが主流なのかな?」
どこかふざけたような口調で声が響く。
だれもが驚き武器を握る手に力が入った。
黒い煙の中から金の腕が姿を現し、うっとおしげに腕を振るう。ただそれだけで立ち込めていた煙は霧散し、何事もなかったかのように黒い球体に覆われた上位モンスターと思われるやつらが姿を表した。
いや、ただ一人子供のようなモンスターだけがメイド服を着た奴に抱きついていた。
「ああ、警戒しなくていいよ。まだこちらは名乗りを当ていないんだから。まだね」
言葉の端々にかなりの魔力を感じ、〈殲滅天使パリリン〉は動きを止めるしかなかったのだった。
◇◇
「HAHAHA、血気盛んではないか。出会い頭に魔法を叩き込んでくるとは」
愉快そうに笑いながらファンファンニールは自身が使った魔法である黒幕の使用をやめた。黒幕は闇属性以外の下位、中位魔法を完全に遮断する防御魔法である。そしてファンファンニールの保有する唯一の防御魔法でもある。
「ファンファンニール、もし上位魔法が放たれていたらどうするつもりだったんですか」
後ろでグスグスと泣く魔王ソロティスを抱きしめながらマリアベルジュが睨みつけていた。それは言葉にしてはいないがコルデリア、ワインも同様であった。
「その場合は遺憾だが、マリアベルジュ。君がなんとかしただろう?」
「それは無論ですが」
いかにも不服といった表情をしたマリアベルジュを無視し、ファンファンニールは続ける。
「それに上位魔法が怖いのであれば早めに魔王さまに挨拶をしていただき後ろに下がってもらった方がいいのではないかね?」
「それもそうですね。さぁ、魔王様」
「こ、こわい、魔法、こわい」
完全に萎縮し切った魔王ソロティスをなんとか立たせ、〈殲滅天使パリリン〉の見える所へ誘導していく。
「魔王様、お目当ての〈殲滅天使パリリン〉ですよ」
「え、本当⁉︎」
怯えていた姿が嘘のようにパッと顔に笑顔を咲かせながら下を見下ろすソロティス。
「うわぁ! 本当だ! レッドとブルーもいるよ! あとでサイン貰えるかなぁ」
下のフロアにズラーと展開している〈殲滅天使パリリン〉を見て興奮したような声を上げる。
そんなソロティスを後ろで見守るマリアベルジュは微笑むと共に〈殲滅天使パリリン〉のサインを入手する算段を考え始めていた。同じようにソロティスの呟きを聞いたコルデリア、ワイン、ファンファンニールも同様の考えを持ったようだった。
「魔王様、そろそろ挨拶をして見せ場をファンファンニールに譲りましょう」
「あ、そうだね。ごめんね、ファンファンニール」
真摯に詫びてくるソロティスにファンファンニールは軽く頭を下げることで応える。
ソロティスはさほど気にした様子はなく自分の服のポケットをゴソゴソと漁っていた。
やがて目当ての物を見つけたのかパッと顔を輝かせた。
「ファンファンニール、僕を飛ばせることできる?」
「楽勝です」
金の指でピースサインを作ると杖で軽く床を叩く。先ほどと同じように黒い魔法陣がソロティスの足元で輝き、ソロティスを飛翔させる。
ふらふらとしながらも〈殲滅天使パリリン〉を見下ろす所まで高度を上げると手にしていた紙を広げ、軽く咳払いをする。
「こんにちは、この魔王城の主、二代目魔王ソロティスと申します。この度は我が魔王城に来ていただき恐悦至極でございます。今回は〈殲滅天使パリリン〉の皆様をおもてなしするために試行錯誤をしておりますのでどうぞごゆるりとお楽しみください」
とても丁寧な挨拶だった。
ここが魔王城ではなかったら人間の王族と間違えられてもおかしくないほどである。
そんなソロティスを見ながら六死天一同は涙を流しながら拍手をしていた。「あのぼっちゃまがちゃんと挨拶を」やら「よく泣いてたソロティス様が」やら「これが子供が成長していく感動という物なのかい? 僕の目からも涙が」やら『(≧ω≦)bグッジョブ』と最後に顔文字を書いたワインはマリアベルジュとコルデリアの両名から紅鎧に蹴りを叩き込まれ吹き飛ばされていた。
その光景をただ呆然と見つめる〈殲滅天使パリリン〉達を放置してソロティスは下降を開始。
ゆっくりと着地したソロティスはそのまま歩き後ろの出口に消えて行き、コルデリア、マリアベルジュも後に続くが立ち止まる。
「ファンファンニール、キルルが帰ってくるまでには仕上げるように」
「善処するよ」
    カタカタと笑うファンファンニールを軽く睨みながらもマリアベルジュは魔王に続きフロアを後にした。
そしてその出口を遮るようにファンファンニールは立つとばっとマントをはためかせる。
「魔王様の言葉通り、歓待の準備はしてある。ゆるりとしていいよ」
「それは貴様が一人で我らを相手にするということか?」
〈殲滅天使パリリン〉の一人が怒気を込めてファンファンニールに問いかける。それに対してファンニールは黄金の指を振りながら否定した。
「残念。そうではない。僕一人で相手をする? 君たちじゃ五分持たない」
「舐めるな!」
雄叫びとともに放たれた光の魔法をファンファンニールはつまらなさそうに腕を振るうことで自身に触れる間際で骨の掌で受け止める。
「なぁ!」
予想外の結果だったのか焦りの表情が浮かぶ。
光の魔法はいまだ放出されているが、ファンファンニールの腕を貫くことができずにいた。
やがて魔法が終わりかけるとファンファンニールはそれを握りつぶし、周囲には光の燐が花びらのごとく舞い散って行った。
「とまぁ、下位魔法では僕に傷をつけるのは無理なんだが?」
軽く手を振りながらつまらなそうに呟いた。
「だから相手は彼らがすることになっている」
一本だけ立てた指を眼下のバラバラになっているスケルトンの残骸に向ける。
「ああ、先ほどのように簡単に勝てるとは思わないことだ。さっきはまだ補助魔法を使っていなかったをだからね。闇の歌」
ファンファンニールが魔法名を告げた瞬間、彼を中心に黒い魔力が広がる。それは倒れているスケルトン、そして警戒している〈殲滅天使パリリン〉一同まで届くほどの波動だった。
しかし、〈殲滅天使パリリン〉にはなにも変化は現れない。変化が現れたのはスケルトン達だった。
砕け、周囲をこれでもかと言わんばかりに散らばっていた骨が震える。
歓喜に、狂気に、そしてなによりも、襲えることに。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ
カタではなくガタ。
擬音が追加された震えを体現した骨達は次々と組み合わさり、時には手足が反対というミスチョイスをしながらも再びスケルトンとして骨を震わし、魔王城のアルバイトとしてフロアに現れたのだった。
「僕のオリジナル魔法闇の歌。これは死者というか死霊系の下位モンスターを復活させる魔法でね。まぁ、対価はあるんだが」
ガタガタと揺れ、しかし、さっきよりも躍動感あふれるスケルトンを見ながらファンファンニールは続ける。
「対価は僕の美声なわけだが…… では」
コホンと咳払いしたファンファンニールは頭蓋の杖をマイクに見たて歌い出した。
「ス、ス、スケルトン〜
みんな知ってるスケルトン〜
犬も大好きスケルトン〜
カルシウムも豊富さスケルトン〜
スクラム組んだらム・テ・キ♫」
なぜか歌と同時にスケルトン達が肩を組みながら踊り出すというかなり奇妙な光景が展開されていた。
そして残念なことにファンファンニールの歌は微妙にずれていた。その微妙さがなんとも言えない不快さを醸し出しているのだがそれを歌っている本人、そしてそれで復活しているスケルトン達は全く気付かない。
やがて曲は佳境に入って行っているのかスケルトン達の盛り上がりも最高潮まてきていた。〈殲滅天使パリリン〉をそっちのけで。
「イェェェェェェェェ!」
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ
やがて歌声が止み、かいてもいない汗を拭う仕草を見せるファンファンニール。
そしてそんなファンファンニールを神のごとく崇拝したような視線を送る目玉のないスケルトン達。
さらにはどう行動すればいいかわからない〈殲滅天使パリリン〉。
「さて、対価は払った」
落ち着いたような声が響くとスケルトン達がくるりと反転。〈殲滅天使パリリン〉達へ何もないはずの眼孔を向ける。
「そして次に始まるのは、宴だぁぁぁぁぁぁぁ!」
『オオオオオオオオオオオ!』
今まで喋らなかったスケルトン達が雄叫びを上げ青白い鬼火を眼孔に灯し、いつの間にか手にした武器を掲げ、ファンファンニールの言葉に背中を押されるかのように突撃を開始したのであった。
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