魔王さまは自由がほしい

るーるー

六死天《グリメモワール》会議

 漆黒に包まれた空間。
 そう表現するしかない場所が魔王城にはある。
 そこは会議室であり、当然魔族にとっては大事な会議をする場である。それが何故漆黒に包まれているかというと、
 パッと光が落ち、一人分の姿が見えるほどの光量が落とされる。
 あらわになったのは女。それもテーブルに肘を置き、腕を組むという。いかにも『私は悩んでます』と言わんばかりのポーズをしていた。


「では、これより第十三回六死天グリメモワール会議を行います。今回は私様、コルデリアが進行します」


 コルデリアのその宣言と共に会議室に光が満ちる。
 いきなりの光量に眩しそうに目を細める者もいるほどだ。


「ねぇコルデリア、このわざわざ暗くして宣言してから明るくするのやめません? 目に悪いんですけど」
「シャラップ! スケルトンであるあなたに眼球はありません。ファンファンニール」


 コルデリアにファンファンニールと呼ばれたスケルトン、骨の化物はカタカタと揺れる。ただし、揺れるのはただの骨ではなく黄金の輝きを放つ骨だ。ファンファンニールは全身が黄金に輝くゴールドスケルトンなのだ。


「それは差別発言だよ。コルデリア。スケルトンだって目がある」
「私様からはあなたの目が見えませんし、後ろの椅子が見えてるんです!」


 コルデリアがバンバンと音を立ててテーブルを叩く。同時に真っ白な長い髪がゆらゆらと揺れる。


「それは目から鱗だね。しかし、コルデリア、君は怒りっぽい。僕の骨をお食べ。カルシウム不足だよ」
「どこに目がありますね! それと黄金が食べれるわけないでしょ!」
「HAHAHAHA、スケルトンジョークさ」


 ファンファンニールがカタカタと音を鳴らしながら楽しそうに笑うことに比例してコルデリアの形相が見るに堪えない物へと変貌している。


「そろそろ黙らねぇと殺すぞ……」
「おお、怖い。ふざけるのはやめるとしよう。ところで会議に参加するのは僕、コルデリア、それから……」


 ファンファンニールは言葉を区切るともう一人テーブルに座る人物へと目線をやる。
 椅子に座るのは鎧。それも真紅の鎧である。しかし、至るところに「魔王様LOVE」と書き込まれたなかなかに痛い鎧である。首からはボードをぶら下げているという何が何だかわからない鎧さんである。


「ワインだけかな?」


 ファンファンニールの問いかけに真紅の鎧ことクリムゾンが小さく首を横に振る。


「相変わらずあなたは喋りませんねぇ。少しは喋りませんか? フレンドリーに一緒にスケルトンジョークを語り合いませんか?」
 フルフル


 ファンファンニールの言葉に静かに首を振るワイン。だがファンファンニールは特に気に触った様子も泣くカラカラと骨を揺らし笑うだけだった。


「それは残念だ。して残りの三方、ああ、桜は今週の<人間の里を襲おう係>だったかな。キルルとマリアベルジェは?」
「キルルはこの間壊された体ですから新しい体をマリアベルジュと共に受け取りにいってますわ」


 さすがにキルルも頭だけでは移動することもできなかったためマリアベルジュに運んでもらったようだ。


「HAHAHAH、昨日の騒動かね? あれはなかなかに愉快だった」
「私様は全く愉快ではありませんでしたけどもね」


 かなり嫌そうな顔をしながらコルデリアは愉快そうに笑うファンファンニールの睨み付ける。


「まぁ、そう怒らないでくれたまえ。それに対等に喧嘩できる友というのは貴重なものだよ?」
「古臭いスケルトンは人間のようなことをいいますのね」
「HAHAHAH、そりゃ僕は人間の骨ガベースだからね」
「皮肉も通じませんのね」


 ため息を付いたコルデリアだったが別にファンファンニールを嫌っているわけではない。むしろどちらかというと好意のほうが強い、コルデリアは吸血鬼でファンファンニールはスケルトン、同じ死霊系のモンスターであるところも大きいのだが。


(そういえばワインも死霊系のモンスター、首なし騎士デュラハンだったかしら?)


 同じ六死天グリメモワールであるワインは他の六死天グリメモワールたちとは違い寡黙である。というより首なし騎士デュラハンであるにもかかわらず彼?は首を持っておらず鎧に引っ付けるようにして頭の部分をあるように見せているのだが。
 余談だがワインが首なし騎士デュラハンなのに首があるように見せているのは初めて魔王ソロティスに謁見した時、ワインは首なし騎士デュラハンらしく首を抱えて謁見したのだが、怖いものが嫌いなソロティスがワインを見て泣き喚いたためである。それ以降ワインは首を抱えることをやめ首をきっちりと鎧の上に載せて普通の鎧騎士のように振舞っている。


「どちらにしろ筆頭であるマリアベルジュが来ないと話は進みませんわ」
「あのいかにも自分が主催という風な演出は無駄な演出はなんだったのかね?」


 コルデリアはファンファンニールの言葉を無視し、自分の席に移動し座る。


「遅くなりました」
「おっそくなりましたぁぁぁ!」


 会議室に入るなり一礼して謝るマリアベルジェ、そして入ると同時にテンション高く飛び上がりクルクルと回転し、会議室のテーブルに着地しピースサインを満面の笑みを浮かべて立つキルル。
 それを見たコルデリアはイラっとした表情を浮かべてたがぐっと堪えた。しかし、マリアベルジュは違ったようだった。


「うるさいです」


 ただ事実を述べただけのマリアベルジェの言葉とともに会議室の空気が唸る。そして、次の瞬間にはテーブルに立っていたキルルの姿が消え失せ、そこにはモップが突き出されていた。
 続いて横の壁で轟音が鳴り、壁にはキルルの物らしき腕が瓦礫の山の中から飛び出ていた。
 ワインは無言、ファンファンニールに至っては「若いっていいねぇ、HAHAHAH」と笑うだけでコルデリアも「ざまぁ」と薄く口元を歪め笑うだけだった。


「さて会議を始めます」


 何事もなく会議を再開するマリアベルジュ。


「そう、始めよう!」


 ガラガラと瓦礫を押しのけながら全く傷が付いていないキルルはニコニコと笑いながら席に着いた。


「なんでキルルはあんなにテンションが高いのかしら?」
「大方、ドクターがまた余計なものを搭載したのでしょう」


 キルルの武器、身体のメンテ、調整を行っているのは魔王城開発部のドクターと呼ばれるマッドなサイエンティストだ。このドクターと呼ばれる人物は毎回余計なものを作り問題を起こすと有名なのである。




 詰まるとこれろ六死天グリメモワール会議は大体こんな感じで始まるのである。


「では定期報告から、各エリア異常はありませんか」
『特になし』


 異常があるということはこの魔王城に侵入者がいるということを表す。つまり異常がないということはなにも問題がないのだ。


「結構、次に勇者が六人誕生しました」
「ホホウ?」


 ファンファンニールが興味深そうに聞き返す。それに対し、マリアベルジュは軽く指を鳴らすと数枚の紙が風もないのにフワフワと天上から舞い降り、会議に出ている六死天グリメモワールのメンバーの前に置かれる。


「紙を見てもらえればわかりますが、五人はまだ赤子です。そして六人目は……」
「異世界からの召喚勇者ですわね。今はそれほど人類の脅威はないはずですわよね」


 勇者は世界に定期的に発生する存在である。それは魔王に対する戦力であると同時に他国に対する戦力でもある。


「ええ、せいぜい国同士の小競り合いで、我が魔族領ガルガンティアには関係のないことですね」
「え、じゃぁ、ほっとくの?」


 キルルが意外そうにかつ退屈そうに尋ねる。
 魔族領ガルガンティア。
 魔王城周辺に広がる広大な街のことである。余談ではあるが大きさは人間領一の大きさを誇る聖王国と同等の大きさである。


「赤子の勇者五人は放置でいいでしょう。異世界からの勇者はそうですね、キルル、どうせ新調されたパーツのチェックがまだでしょう?」
「出力が二十%上がったともっぱらの噂」


 なぜかいい表情、いわゆるドヤ顔をしてマリアベルジュを見てくるが当のマリアベルジュは相手にするのも面倒なのか無視をしていた。


「ならこの勇者が来た国を半壊さして来なさい。できれば農業地帯や産業生産地域を巻き込んでしばらくは身動きが取れないようにして。最悪王族だけは逃がしておいてください」


 さらっとマリアベルジュは国が滅びる寸前まで追い詰めることを宣言する。


「相変わらずやることがえげつないですわね。マリアベルジュ」
「戦略的と言ってほしいわ。コルデリア」
「HAHAHAH、キルル一人にやらせるのかね?」


 マリアベルジュにコルデリアが噛み付いたのを見かねてファンファンニールが口を挟む。


「いえ、キルル直属の人形兵団マリオネットコープスも連れて行かれます」
「過剰戦力ではないかね?」


 六死天グリメモワールにはそれぞれ直属の部隊を持つことを許されている。キルル直属の人形兵団マリオネットコープスもその一つである。


「勇者の力が未知数である今は過剰戦力でいいかと考えます」
「ふむ、確かに」
「じゃ、キルルすぐいこうか?」
「会議が終わってからにしなさい」


 今にも飛び出しそうなキルルを制止し、キルルは渋々といった様子で席に座る。
 それを確認したマリアベルジュは背後にそびえる巨大な異界モニターを稼働させる。


「では、これより会議の本題に入ります」


 マリアベルジェが会議室にいる全員を見渡し腕を組む。


「来週の日曜日、正義味方が襲撃して来ます」
『はぁ?』


 その場にいる六死天グリメモワールの全員が間の抜けた声を上げる中、紅騎士ワインだけが動揺したように音を立て揺れる。


「ワイン、なにか言いたいことでもあるのかい?」


 ファンファンニールに話しかけられたワインは震える手でペンを取り、首からかけたボードに文字を書き始めた。


『な、なんでもないよ((((;゜Д゜)))))))』


 震える文字、そして普段、それがしが一人称の堅苦しい感じの人がしかも顔文字まで使うようなこの状況。


(((絶対何かあったな!)))


 マリアベルジュ以外の全員が確信を持ってそう思った。

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