エルフさんが通ります

るーるー

奴は…… 死んだんでしょうね

 私が里で習った技術の一つに風の矢ウィンドアローという風魔法により貫通力を上げるのがあります。今でこそ使わなくなりましたがあれは一撃の威力を上げるためのものです。
 それを今の魔の欠片を完璧に使える私の状態で放てばどうなるのか。
 掌の上に魔力弾を生成。
 それにさらにイメージを加えていき真っ赤な矢へと変化さしていきます。


「風よ、回り捻れよ」


 言葉に魔力を乗せなくとも今の私なら同じ効果をくーちゃんの力を借りることなく使うことができるんでしょうがすでに癖のようなものです。
 真っ赤な矢が私の言葉と共に発動した魔法で唸りをあげるようにして高速で回転。
 空気を切り裂くような金切り音を上げています。ええ、周りの空気の流れをいじりまわすような暴風を撒き散らしながら。


「ああ、これやばいやつです」


 自分の手の中に出来上がった物を見て少しばかりの冷や汗をかきます。
 なんというか、すでに存在が不味い感じです。今まで放っていた魔力弾が遊びに見えるほどの威力を込めているのが風を巻き起こしている弓矢から放たれてます。


『なんかすごいね?』
「あ、きたんですか」


 羽根による魔力の掃射は止めぬままに続けている中、くーちゃんが興味を持ったかのように飛んでくると私の頭の上に座ります。


「ええ、問題はどうやってこれを使うかなんですよね」
『これ弓矢・・だよね?』


 そう弓矢なんですよねぇ?
 問題はこの弓湯をどうやって使うかということなんですよねえ。
 なにせ今の私、片腕ありませんから弓持てませんし。それに私と同化した退屈を塗りつぶす刺激カーニバルがきちんと変化してくれるかわかりませんしね。


「作ったはいいですが完全に意味のないものになりましたね」


 使えないものが残る手を見て思わず笑ってしまいます。射れない弓矢など武器にすらならないんですからね。


「しぃぃぃぃねぇぇぇえ!」
「あなたには心底驚きますよ」


 再び掃射を開始していましたが今回は容赦なく撃ち込んで行ったはずです。ですがベシュは眼を血走らせ、身体のいたる所、魔力弾を食らった傷から血を吹き出しながらも直進してきます。その姿に呆れただけです。


「チェストォォォォォォ!」


 何語かよくわからない雄叫びをあげながらベシュは 巨大を討つ剣ヴァングラミーを私へと振り下ろしてきます。
 ですが、速さをなくした攻撃など当たるはずもありません。ベシュが振り下ろしてきた 巨大を討つ剣ヴァングラミーは僅かに体を横に一歩ずらした私の眼前を通り、鏡のように磨かれたような大剣の刀身に私の姿が一瞬映り込みます。ですがそれは本当に刹那のことであり、 巨大を討つ剣ヴァングラミーの刃はそのまま吸い込まれるようにして床へと向かっていきます。


「あ、ばか、やめ!」


 私の制止は虚しくも空振り、 巨大を討つ剣ヴァングラミーは床へと激突。そして容赦なく床を打ち砕き、大量の瓦礫へと変えていきます。
 そう、私たちが立っているを。


『ねえ⁉︎ エルフって実は頭が悪いんじゃないの⁉︎』
「奇遇ですね! 私も最近そう考えるようになっできてます!」
『森の賢者は⁉︎』
「奴は…… 死んだんでしょうねぇ」


 落下している最中とは思えない会話です。対して横のベシュはというと自分でやった事だというのにうるさいくらいに悲鳴を上げています。


「うるさいです!」


 あまりのうるささに腹が立った私は手でどうしようか迷っていた真紅の弓矢を握り締めると大きく振りかぶるとそれを 巨大を討つ剣ヴァングラミーを握るベシュの腕へと振り下ろします。
 防御力の高いエルフの服を着ているにも関わらず、というか振り下ろされた弓矢が触れた瞬間にその部分がまるで耐えられないかのように吹き飛びベシュの腕に突き刺さります。


「あがぁ、」


 突き刺さった痛みから苦悶の声を上げ、顔をしかめたベシュでしたが自分の腕に刺さっている弓矢を見ると一瞬にして顔を強張らせ、落ちている最中だというのに 巨大を討つ剣ヴァングラミーを繰り出して着ます。


「しつこい!」


 咄嗟に羽根を 巨大を討つ剣ヴァングラミーと私の間に差し込んだ事で突き刺されるのは回避しましたが、衝撃で後ろに下がります。
 そのおかげと言うべき私はフィー姉さんが開けた穴まで移動したようで落下は継続されるようです。
 ベシュもどうやったかはわかりませんが空中で移動を行い、私を追ってきます。
 しかし、この落下している状況でも攻撃してくるベシュに狂気を感じて思わず体を震わしてしまいます。
 恐るべし執念です。
 その後も幾度となく 巨大を討つ剣ヴァングラミーを振るってくるベシュに私は羽根で応戦していきます、が、それも長くは続きませんでした。


『リリカ! 下! 下!』
「わかっています!」


 くーちゃんに言われるまでもなく一番下の床が迫っていることくらいわかっています。
 背中の羽根を大きく広げ、僅かに落下する速度が緩みます。さらにそこから羽根へと魔力を集中、そして一気に羽根から床へと向かい風の魔法を全力で、ついでに私より下に落ちているベシュの方へちゃんと調整して放ちます。


『わっぷ!』


 放たれた風の力で落下の速度がさらに緩やかになりましたが、風のあおりを受けたくーちゃんは悲鳴を上げます。
 しかし、私より下にいたベシュは暴力の拳と化した風の塊を避けることなどできるわけなく直撃。
 聞いていて不快になるような音を響かせながら落下速度をさらに上げていき、


 魔王城を大きく震えさしたのでした。

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