エルフさんが通ります

るーるー

まさに悪魔です

「うーん」


くーちゃんとゼィハを置いて先に戦場を確認しようとした私でしたが隠れながら戦いを覗いていましたが唸るしかりませんでした。


「これはどういう状況なんでしょうか?」


私が当初予想していた戦いはシャチクとカズヤのパーティが戦っていると思っていたんですがぬ。


「なんなんでしょうか? あれ」


魔力により強化された私の目は以前とは比較にならないほど遠くを見ることができます。そんな超長距離からの私の視線の先には争うシャチクとカズヤの姿が目に入り、そこから少し離れた所に結界でも張っているのか優雅にお茶をしているフィー姉さん達の姿がありました。


その姿はもう目の前でカズヤが面白いほど吹き飛ばされているのが楽しくて仕方がないといった様子で腹を抱えて笑っています。
まさに悪魔です。
一方のカズヤといえば必死です。
それもそうでしょう。
カズヤが聖剣を振るい勇者ビームらしき魔力を放ちますがそれに対してシャチクが振るうのは呪われし武器二振り。それもバカみたいにでかい大剣が二振りです。その左右に手にした呪われし武器が振るわれるたびに勇者ビームと同じような魔力の塊、しかし、禍々しい魔力の塊が迸ります。
一発では勇者ビームに勝てないシャチクの魔力ですがそれを二つ同時に放つことによりカズヤの魔力を圧倒しています。


「しかし、カズヤもシャチクだけ・・なら勝てたでしょうね」


二発の魔力の塊をかろうじて避けたカズヤの背後からシャチクが放った二発分の魔力をはるかに上回る黒々とした魔力がカズヤをぶち抜きます。
普通の人間ならば消し飛ばされてもおかしくないような一撃でしたがさすがは勇者。魔力の塊が当たった瞬間に虹色の光が弾け、情けない悲鳴を上げながら吹き飛ばされてさらには転がりまわっています。


「あれがオリハルドラゴンなんでしょうかね?」


カズヤを背後から撃ったの煌めくような鉱石の塊でした。しかし、まるで生きているかのように滑らかに動くためそれが生き物であることがよくわかります。


『シャァァァァァァァァ!』


蒼く煌めく鉱石でできた翼を広げ、オリハルドラゴン? が咆哮をあげます。その姿は確かにドラゴンの中でも上位と呼ばれてもおかしくないほどの威厳に満ち溢れていました。


しかし、そんな威厳と威圧にまみれた咆哮ですら、


「ひぃぃひっひ! 見て見て! あのカズヤの間抜けな姿!」


我が姉には全く効果がなかったようです。
魔力で強化された私の耳が拾ったのは涙を浮かべながら大笑いしているフィー姉さんの声です。その横では無言で飲み物を口にしているヴァン。さらにその横で満面の笑みを浮かべながら肉に噛り付いているククの姿が見て取れます。


「おい! フィー! クク! ヴァン! お前ら仲間なら援護とかそういうのないのかよ!」


傷だらけになりながら立ち上がったカズヤはまだ笑い続けているフィー姉さんを指差しながらかなりキレているようです。


「だってカズヤが『あれくらい俺一人十分だぜ!』って言ったんでしょ〜?」
「バッカ! そんなの敵が一人だったからに決まってるだろが! 今の状況見ろよ! オリハルドラゴンまでいるんだぞ⁉︎ 特攻武器の聖剣持ってても死ぬわ!」
「だからククちゃんに最強補助魔法であるゴッドブレス掛けてもらってたでしょう?」


ほほう。さっきのオリハルドラゴンの明らかに一撃必殺じみた攻撃を耐えたのはあの大食らい神官の魔法の効果でしたか。


「あほか! そんなもん一発で消し飛んだわ! クク、もう一回ゴッドブレスを掛けてくれ!」


カズヤがククへと懇願していますね。そんなカズヤに気づいたのかククは肉を食べるのを止め、顔中を油まみれにしながら満面の笑みを浮かべ親指を立てます。


「えむぴーが足りない!」
「相変わらず一つの魔法に全魔力を込めるのやめろよぉぉぉぉ! お前後衛だろうが! 回復役だろうがぁぁぁぁ!」


……なんでしょうか。このカズヤたちのパーティを組んでるくせに全くの連携の取れなさは。
敵である私が思うのも間違いな気がするんですが……


こいつらこんなので大丈夫なんでしょうか?


「ヴァン! お前も主がピンチなんだぞ⁉︎ お前のなんたら流暗殺術とやらの極意を見せるチャンスだろ!」


ククが再び肉に噛り付くのに戻ったため悲鳴に近い声を上げながら今度はヴァンへと助けを求めています。その間にもオリハルドラゴンは咆哮を上げながら魔力を打ち出しカズヤを狙っていますがカズヤもそれを必死に避けています。その隙を狙うかのようにしてシャチクが呪われた武器を振るいさらにカズヤを追い込んで行きます。
そんなカズヤを飲み物を飲んでいたヴァンは冷めた目で見ていました。


「主、ヴァンの技は見られないようにして使うから効果がある。だから暗くないと使わない」
「いや、お前の主が今まさに超絶にピンチなんだが⁉︎」
「主ならいける」


なんとも無責任な応援をするヴァン。しかも全く手伝う気はなさそうです。それどころかカップにさらに飲み物を注いで寛ぎモードです。


「ほら〜 カズヤ〜 秘められた勇者の力を解放するなら今だよ〜」


目尻に涙を浮かべさらにはまだ腹を抱えているフィー姉さんがまた適当なことを言ってます。


「バカか⁉︎ その力を手に入れるためにこのオリハルドラゴンを狩りにきたんだろうが!」


カズヤが罵倒を返しますかフィー姉さんは楽しげにゲラゲラと笑うだけで助けようとはしません。


「ちきしょうがぁぁぁあ!」


孤立無援の勇者は悲鳴のような声を上げながらオリハルドラゴンとシャチクへと聖剣を振りかぶりながら突貫して行きます。


……あれ? これは放っておいても勇者死ぬんじゃないでしょうか?

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