エルフさんが通ります

るーるー

できましたね。あっさりと

「Oooooo!」


 死んだはずのアーミラの生首が血を吐きながら絶叫しています。
 身体の方はというと今だに暴れるかのように動き回りそれは徐々に時間が経つと共に小さくなっていっています。しかし、生首の方はというとより一層喉が裂けるかのような奇声を発し続けています。


「ひひひゃゃへるらひだるさまえはわむはびぃ!」
「ちょっとリリカさん! なんなんですかあれは! 怖すぎるんですけど⁉︎」
「みんなが思ってることの代弁をありがとうございます」


 ゼィハが叫ぶまでもなくこの場にいる全員、遠巻きに見ているダークエルフ達も顔を引きつらせたり、青くしたりしながら巻き込まれないようにと言わんばかりに距離をとったりしてその場から姿を消していっていますからね。
 ダークエルフが避難しているうちにアーミラの死体にも変化が現れます。
 生首が奇声をあげ続けているのは変わらず身体のほうは暴れるのをやめています。しかし、身体は黒くてドロドロした液体へと変わり始めやがて完全に黒い水たまりへと変わってしまいました。


「ん? 失敗しましたか?」
「Nnnnooooo!」


「ゴブリンでもできるデュラハン作成講座」のくせに失敗したとなると私すごく恥ずかしいんですけど……
 いや、私が失敗したわけではなく私が得た知識が間違っていたという可能性もある得るわけですよね。
 しかし、そんな私の心配を嘲笑うかのように黒い水たまりから腕が飛び出てきます。


「おお!」
『「ひぃぃぃぃ⁉︎」』


 私とは違う声色がゼィハ達から響きますが興奮している私の耳はそれを小さな雑音としてしか捉えません。
 黒い水たまりから飛び出した腕が地面をしっかりと掴むとそこから這い上がるかのようにして姿を現します。
 そこに姿を現し立っていたのはアーミラの身体より遥かに巨大な首がない黒い鎧が直立不動で立っていました。


「できましたね。あっさりと」


 目の前に立つ黒い騎士・デュラハンをちょっとした物足りなさを感じながら見上げます。
 ふむ、しかしこのいい感じの禍々しさならば私が里から奪ってきたものの魔法のカバンマジックバックにしまったままになっている私が使えない武具の数々が陽に当たる日が来たようですね。


「ふふふ、これでおりじなりてぃ溢れるのを作りますよお!」
『ああ、リリカがなんだか危ない眼をしてる……』
「たまにああなりますよねリリカさん。大体がヤバイ物を作ってる時のようですけど」


 外野がうるさいですが私は魔法のカバンマジックバックから武具を次々と取り出して地面に放っていきます。取り出しているのは里から奪った装備ができないような呪いの武具ばかりです。以前ならいくつもの防御用の魔法を身に纏って掴んでいたんですが魔ノ華マノハナが紅くなってからはどうも呪いにも耐性のようなものができたようです。そのおかげで何の魔法も使うことなく掴む事ができるようになってます。


『お、』
「ん?」


 目の前のデュラハンの黒い鎧が小刻みに揺れています。


『オオオオオ!』
「なぁぁ!」


 いきなりガシャガシャと鎧を鳴らしながら両手を上げてきたので驚いて座り込んでしまいましたよ。


『こんな手では手では…… ゼィハたんの胸が揉めない!』
「ひぃ!」


 黒い鎧が手を震わしながら指先で何かを揉むような素振りをしているのを見て名指しで呼ばれたゼィハが体を震わしています。


「……おぉ、もしかして豚ですか?」


 この動いてる感じとしゃべっている内容。もしかしてアーミラなんでしょうか?
 『ゴブリンでもできるデュラハン作成講座』には死体の意識が残るとは書いてはいませんでしたが。


『お前、本当にエルフか⁉︎ 死者をデュラハンにするエルフなんぞ聞いた事ないぞ⁉︎ 死者への尊厳はないのか⁉︎』
「失敬な、どこからどう見ても美少女エルフですよ」


尊厳? あるんですか? 豚に?
 いや、それ以前によく考えたらデュラハンには目がなかったんでした。しかも声はどうやら鎧から聞こえているわけではないようですね。となると首の方でしょうか? アーミラの首はと……


「あ、ありましたありました」


 キョロキョロと周りを見渡してみると少し離れたところに転がるアーミラの首を発見します。
 体は鎧を着ているのとは違い顔には特に変化が起きていませんね。口汚く周りに暴言をはいているだけです。そんな生首アーミラに近づくと私はためらわず魔ノ華マノハナを突き刺します。


「あがぐっ」
「口汚く罵る口はこれですかね?」


 開いた口に滑り込まずようにして魔ノ華マノハナを突き刺したのですが血はながれませんでした。しかし、口に魔ノ華マノハナを差し込まれたアーミラは喋る事が出来なくなっています。


「いいことを教えて上げましょう。死んで物扱いされている死体なんてものにはですね、尊厳なんてものは微塵も存在しないんですよ」
『死者に普通に鞭打つよね』


死体なんですから何をしても問題ないと思いますが間違いなんでしょうか?


「さて、頭にも呪いを流し込んでいくとしましょう。そしたら自我なんてものは綺麗さっぱりなくなりますよね?」
『っ! っが!』


 声を上げようとしているアーミラをむ無視て私は魔ノ華マノハナの刃を通して呪いの魔力を流し込んでいきます。


『aaaaaaa!』


 悲鳴が周囲に響き渡りますが私は一切の慈悲なく魔力を注ぎ込み続け悲鳴が聞こえなくなった時には漆黒の兜と鎧を着込んだ騎士が私の前に跪いていました。

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