エルフさんが通ります

るーるー

圧倒する力を

「やあ、リリカ」


 突然、以前に聞いたことがある声が耳に入ります。
 声をかけられた方へと眼をやり私に話しかけてきた主を探すとそこにはニコニコとした褐色の少女が立っていました。


「アルガンテロア、でしたか?」
「そうそう! 覚えていてくれて嬉しいよ! でも親しみを込めてアルと呼んでくれると嬉しいな!」


 不気味です。
 アルガンテロア、アルとはまだ二度しかまともに会話をしたことがありません。ですがなんとなくですが嫌な予感しかしません。


「で、アル。すいませんが私は豚をハムにするという崇高なる使命があるのです。あなたと話をしている時間はないなです」
「時間ならあるよ」


 アルはまだニコニコとした笑みを崩さずに私を見ていました。そしてアルの背後の景色に見覚えがあることに気づきます。


「いつもの場所じゃない?」
「ぴんぽーん」


 何が愉快なのかわかりませんが楽しそうですねこいつは。
 今、私がアルに呼び出された? のは豚と戦っているダークエルフの里でした。いえ、もしかしたら呼び出されたというのも間違いなのかもしれません。
 なぜなら私の目の前にはニコニコと笑うアルとその横には警戒の眼差しを向けてくる豚ことアーミラの姿があるからです。


「時間を止めてるんですか?」
「そうだよ。せっかくリリカが力を求めてくれたんだからね!」


 アルがなんとなくテンションが高いように見えるのはそれでですか。
 しかし、私は納得と共に時間を止める魔法が実在したことに驚きます。昔話で聞いたことはありましたが実在するとは。


「さぁ、リリカ、力を求めた君は僕に一体どんな力を求めるんだい? イメージしたもねに魔の欠片が答え、君の新たなる力になるだろうさ」
「私が求める力……」


 アーミラと戦っている時に求めた力。それは私のやりたいことを、わがままを貫ける力です。


「他者を圧倒できる力を」


 ただそれだけを願い、手にしている魔ノ華マノハナへと眼をやります。
 感覚的に私が使っている魔の欠片はおそらく一つ分。魔ノ華マノハナを振るう際に確かに力などは上がっていましたがどう考えても欠片二つ分の力を使っているとは考えられません。


「それを全部引き出す」


 だからこそ使っていない魔の欠片の力を無理矢理に引き出します。
 すでに一つ分の力を引き出したことによりなんとなくですが力の使い方はわかりました。
 特別な力ではなくただ、魔力だけ・・・・を引きずり出す。


 認めるのも嫌な話ですが私ではまだアーミラには届かない・・・・
 付け焼き刃の技量では届かない。
 力だけが強くしてもまだ届かない
 この身で得た経験を駆使しても届かない。


 ならば、技量を圧倒する力で、経験すら霞むほどの魔力の力で、押し潰す。


「よこしなさい」


 魔ノ華マノハナを握る力が強くなります。それに答えるかのようにわずかに魔ノ華マノハナから溢れる黒い魔力の量が増えます。ですが、まだです。まだまだ足りない。


「もっとです」


 刃が震える。いえ、これは震えるというよりも脈打つ、心臓の音のような感覚でしょうか?


「もっと」


 さらに力を得るべく、私は魔ノ華マノハナを両手で掴み、感覚に任せて引きずり出しように魔力を吸い上げていきます。
 そして私の予想通りに魔ノ華マノハナは私へと魔力を流しこんできました。


 ただしそれは普通の魔力ではありませんでした。吸い込まれそうなまでに黒い魔力が魔ノ華マノハナから私へとひたすらに流し込まれ、


「さぁ、目覚めの開始だよ」


 楽しげなアルガンテロアの声がきこえてきます。そして確信します。あいつは絶対にが嗤っているだろうと。

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