エルフさんが通ります

るーるー

ほんと規格外ですよね

『鋼の魔弾』


 小さくそう呟くとメルルの頭上には先程修復したらしいいくつもの包丁や剣、槍といったものが現れ宙に浮かびます。さっきまで何もなかったんですが何処から出したんでしょう?


『掃射!』


 その言葉と共に腕を振り下ろすと宙に浮いていた刃物全てが身じろぎをするようにかすかに揺れると一瞬にして姿を消します。
 それを見て満足したかのように微笑むとメルルはなんでもなかったかのようにこちらを振り返ってきました。


『で、なんの話だっけ?』
「いや、今何したんです?」
『ん?』


 尋ねた私に対して何を言ってるのかわからないと言った様子で首を傾げてきます。いや、今あなたがやったことですよ!
 私の訴えるような視線に気づいたのかパンっと手とあわせます。


『大精霊としての力を使ってこの町に近づきそうだったモンスターの群れを一掃しただけだよ?』


 メルルが大したことでもないように言葉を告げ終わると同時に大きな音を立てながら大地が揺れます。あまりに大きな揺れだったために私も周りの人たちも立っていることができずに地面に座り込みました。
 まるで何かが勢いよく地面にたたきつけられているような大きな揺れは数分間は続きましたが何故か周りの人々に恐怖や、怯えといった表情は見られませんでした。
 日常的なことなんですね。こんなのが日常的にあるという街も異様ですが。


「一掃ですか」
『はい、オーガの群れが三百ほどでしたので頑張りました!』


 オーガが三百とか普通の街なら壊滅するクラスらしいんですがなんですがね。それを『頑張った』で済ますなんて
 大精霊、本当に規位外の存在ですよ。イフリュートもそうでしたが大精霊達はいまいち自分の力を理解してない節がありますね。


 しかし、『鋼の魔弾』と言いましたか。おそらくは鋼の大精霊の力なんでしょうが、一瞬して鋼の武器を作り上げ打ち出す、もしくは鋼の物を自在に操るといった力でしょうか。言葉にすれば簡単ですがそう易々とできるものではないんですがね。
 武器を打ち出す。これは全てを弓矢にオールボゥを使えば銀矢へと変換することができます。ですが複数の武器を同時に打ち出し、さらにはその狙いを正確につけれるかというと首を捻ります。なにより私の少ない魔力ではさして飛ばせる気がしませんし。


「練習したらできるんでしょうか?」


 練習とかはあんまりやりたくないものですがあの技は使えます。なにより弓というのは昔から数を集めて初めて複数の敵と戦うことができるんですから。しかし、メルルが使ったあの技はオークの大群を一方的に叩き潰したわけです。


 あれこそ私が求める理想の戦い方と言えるでしょう。


「それでなんのようだったんですか?」
『え?』


 こちらにニコニコと笑いながら来ていたようですから何か用事でもあるのかと思ったのですが違うようですね。
 なにかを悩むようにして立ち止まっていたメルルですが思い出したかのように手を叩きます。


『ああ! そうそう! あなた達に私の加護を付けようかと思って!』
「加護ですか?」
『ほんと⁉︎』


 私が疑問系で聞き返したのに対してくーちゃんの食いつき方が意外でした。加護とはそこまですごいものなんでしょうか?


「加護ってどういったものなんでしょう?」
『加護とはその大精霊の力の一端を一時的に使える力のことだよ。ぼくの、鋼の大精霊の加護ならば鉱物に関するものだよ』
『精霊にとって大精霊さまの加護を受けることができるなんてすごいことなんだよ!』


 くーちゃん、どれだけ興奮しているんですか。やたらと唾を飛ばすのはやめてほしいんですが。
 しかし、鉱物に関する加護ですか。
 どういったものかは興味が湧きます。


『加護の内容はね、自分の望む形をした鉱物を少しの間だけ作ることができる力だよ』
「え、微妙」


 しまった。思ったことがつい口から出てしまいました。
 しかし、口から出た言葉は変えることなんて無理なのでメルルの方を見ると目にわかるほどにしょんぼりとしていました。


『ええ、ぼくまだ大精霊なりたてだから大した加護が与えられないんだよね。うん、しょぼいのはぼくもわかってるんだけどさ』


 結構マイナス思考になりやすいようですね。


「くーちゃんも同じ加護なんですか?」
『ん? ああ、違うよ。精霊にとって与えるのは加護というか位なんだ』
「位?」


 私の疑問に答えることなくメルルは素早く指を宙に踊らせると指先に集めた魔力でなにやら魔法陣らしき物を描いていきます。


『大精霊メルルの名に置いて精霊に加護を』


 唱えるように言うと魔法陣がじんわりと光を放ちくーちゃんの前へと移動します。


『汝、我が加護を受けるのであれば右腕を前に』
『謹んで加護をお受けいたします』


 深深とくーちゃんが頭を下げ右腕を光輝く魔法陣の中へと入れると魔法陣の光がくーちゃんへと移動していきます。その光がくーちゃんをしばらくの間包み込むとくーちゃんの背中の小さな羽が少しばかり大きくなり左右一枚づつだった羽が二枚づつへと変わっていました。


『精霊への加護は昇位を意味するんだよ?』
『中位精霊にパワーアップしました!』


 目の前にはあっという間に昇位し、低位精霊から中位精霊になったくーちゃんがブイサインしてきたのでした。

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