エルフさんが通ります

るーるー

だだだだぁだったたたららまじじずはゆゆよゆらすのやめぇぇましょうぅぅぅ

「それにしても寂れてませんか? この宿屋」


 受付を済まし乗れるゴンドラを確認した私は先ほどから思っていた感想を述べます。
 さっきはたまたまかと思いましたが有名と言われている割にはお客が少なすぎる気がします。あとよく見ると宿屋の内装も所々に綻びのようなものが目に付きます。


「ゼィハの話では一番人気の宿だったはずでは?」
「そのはずなんですけどね」


 じろりと音が鳴るような視線をw足しから受けてゼィハが居心地が悪そうに頭をかきながら言葉を返します。


「私がこの街に来たときはこの宿は凄く賑わっていたんですけどね」
「でもそれってかなり前のは話ですよね?」
「はい、ですがここまで廃れるようなことはないと思うんですけどね? あの爺も五年前まではこの宿の経営にも口は出していたでしょうし」


 そうなると五年でなにかあったのかもしれませんね。


「しいて変わったところを上げるのなら」
「あげるなら?」
「集まる精霊の数が増えてますね。以前あたしがここに来た時より遥かに多いです」
「ということはなにか精霊が楽しめるものができたんですかね」


 精霊は楽しいことが大好きです。歌であれ遊びであれ楽しいという感情に惹かれてやってくるのが大概です。必然的に楽しい感情が集まる場所に精霊はあつまるわけなんですよね。そしてもう一つ精霊が集まる理由として考えられるのは精霊の大好きな魔力、通称精霊光を放出するということなんですよね。これに該当するのが大精霊なわけなんですが、こちらは原理がよくわかってないらしいんですが大精霊はこれを無意識に放っているみたいなんですよ。あの迷惑な大精霊イフリュートも同様に精霊の好むような魔力を出していたのですが本人が面倒な大精霊だったのであまり集まらなかったようですがね。


「となると」
「ですね」


 私とゼィハが振り返ったのはカウンターにいる受付ちゃんです。先ほどよりも数が増えた精霊にまとわりつかれていました。そんな彼女を視ながら私は視ることができるように瞳に魔力を通します。エルフの瞳は魔力を通すと魔力や精霊光が見えるようにできるのです。資質によるので私の場合はかなりの魔力を使うのですが。
すると先ほどまでは視えなかった薄く蒼い魔力の流れが視ることができ、その魔力に惹かれるように精霊たちが集まっていることがよくわかります。
そこである程度予想通りのものが視えたので瞳を元に戻します。魔力や精霊光を意識してみるようにするのは疲れるんですよねぇ。
そしてカウンターでなにやらメモを取っている受付さんに声をかけることにします。


「もしかして、あなたがこの宿屋の受付についてから売上落ちてません?」
「ちょ! リリカさん? もっとこう包んで包んで!」


 なぜか慌てたようにして私の肩を掴んできたゼィハですが私が「痛いですよ?」とやんわりと言いながら睨みつけると離してくれました。やはり話し合いはだいじですよね。


「で、どうなんです?」
「え、ええ、わたしに変わってから売上落ちてるんですよ」


 落ち込んだように、と言っても精霊に覆われている彼女の顔がわかりませんから落ち込んでるというのは想像ですが、そんな感じに見えます。


「それって精霊関連で文句がきてませんか?」
「な、なんでそんなことまで⁉︎」


 多分、驚いてるんですよねぇ。精霊のせいで表情は全くわかりませんが。となると気づいていないんでしょうね。


「あなたが受付に立ってから多分ですが精霊がすごく集まってるでしょう?」
「そ、そうです!」


 カウンターから乗り出すように、おそらくは顔を近づけてきます。しかし、精霊に覆われているため私の目に入るのは「ちゅーもく?」「にんきものー」「はずかしはずかし」などと適当に言う精霊たちだけです。


「多分ですがあなたの体から精霊光が漏れてるからだと思います」
「精霊光ですか?」


 周囲の精霊たちと共に首を傾げているということは知らないんでしょうね。


「簡単に言うと精霊がよってくる魔力です。それがどうもあなたの体から出てるみたいなんです。だから精霊が集まるんですよ。それでなんですがあなたはその精霊光が垂れ流しですよ? だらだらです」
「た、垂れ流し……」
「ええ、貴重な魔力を垂れ流しです」


 ん? なんかショックを受けたみたいですね。よくわかりませんが。


「じ、実はお客さんからは精霊が多すぎてくつろげないとかお菓子や食事を食べられたとかいう苦情が……」
『てへぺろ』


 なぜか精霊たちは恥ずかしそうにしながら舌を出してきました。
 観光名物が観光客を追いはらうとか有害でしかないですね。精霊なのに。
 こういう精霊が成長するとあの腹ただしい大精霊イフリュートのようになるのかもしれませんね。


「とりあえずはあなたが精霊光を抑えれるようになればこの精霊たちが集まるということはなくなると思うんですが……」
「ぜひ! ぜひやってください!」


 すがるようにしてカウンターから身を乗り出し私の両肩を掴み揺さぶってきます。すごい切実です。


「だだだだぁだったたたららまじじずはゆゆよゆらすのやめぇぇましょうぅぅぅ」


 高速で揺さぶられるから気分が、うっぷ! 気持ち悪ぅ!


「あ、あのリリカさんの顔色がすごく悪くなってるので」


 ゼィハが止めるまで高速でシェイクされ続けた私は解放されるとぐったりとして膝をつくのでした。

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