エルフさんが通ります

るーるー

死んでなかった!

「おお!」
『わー』


 ゼィハに連れられてやってきた宿、精霊邸を前に私とくーちゃんは感嘆の声を上げるしかありませんでした。
 その理由は宿の形にありました。


「木の中に宿を作ってるんですね」


 精霊邸は大きな大樹の中をくり抜き中に宿を作っているようでした。大樹のあちらこちらに窓のようなものが見受けられおそらくは部屋として使われているのでしょう。それにしても、


「すごい精霊の数ですね」


 何より眼を見張るのは大樹に誘われるようにやってくる精霊の数です。途切れることなくひたすらに大樹の頂上を目指しています。


『じゅんばーん』
『じゅんばんよー』
『ならんでならんでー』


 拙い言葉を操りながら精霊達が列を作って並んでいる姿は非常に微笑ましいものですね。しかし、てっぺんになにかあるんでしょうか?


「くーちゃんは並ばなくてもいいんですか?」
『ふぇ⁉︎』


 頭の上でうずうずしているのがわかるので声をかけてみるとかなり驚かれました。
 精霊達が並んでいる列を見てみると微精霊だけではなくくーちゃんのような小精霊、中位精霊達の姿も見えます。かれら? も立場に関係なく特に揉めることもなく並んでいます。


『べ、別に興味なんてないし』
「そうですか」


 チラチラと見ているから興味があるかと思ったんですがどうやら違うようですし当てが外れましたね。
 興味がないなら無理強いはよくありません。


「じゃ、ゼィハ。宿を取ってはやくゴンドラを間近で見に行きましょう!」
「めちゃくちゃ目がキラキラしてますね⁉︎」


 ゼィハを急かすように精霊邸へ向かいます。だってあの変な形をした船に早く乗りたいんですよ! なんか棒みたいなやつで漕いでますし気になるんですよ!


 ゼィハを引きずるようにして精霊邸の中に入るとかなりの広さに驚きました。ですが広さに対してあまりお客がいるように見えませんね。受付前らしき場所に何人かいるだけですし。


「なんだか人より精霊が多いですね」


 私の瞳には大樹の中を自由気ままに飛び回る精霊が見えています。それも十や二十ではなく一桁は違う百、二百といった数です。エルフの森でもここまで精霊が集まることはないでしょう。


「前が見えない」
「精霊が多すぎて視界を遮るほどとは」


 扉が開いて入ってきた私たちに興味を持ったのか結構な数の精霊たちが私たちを取り囲むようにして飛び回ります。


『きたきた?』
『おきゃく?おきゃく?』
『なんにんさんですか?』


 おそらくはここで働いている人たちの姿を見て覚えたらしい言葉を舌足らずに言いながら精霊が近づいてきます。


「あ、お客さまですね! こちらへどうぞー」


 今度はしっかりした喋り方をする精霊たなぁと考えながら声の方へと顔を向けるとそこには精霊ではなく手を振る受付の人らしき姿を確認しました。まぁ、精霊に埋もれていて顔が見えないんですが。
 受付に向かい歩いて行くと「ちょとっとどいて」「後で遊んであげるから」「ちょ! どこ触ってるの⁉︎」などと言って手で精霊を払っていました。あんなことを言ってるということは精霊がみえるひとなんでしょうね。払われた精霊は遊んでもらったと思っているのかきゃきゃと嬉しそうな声をあげています。見ていると和むような光景なんですが精霊が見えてない人からすればブツブツと独り言を繰り返し何もない空間を手で払うという怪しいことこの上ない言動を繰り返している人にしか見えないんですよね。


「ふう、お待たせしました。精霊邸にようこそ!」


 おそらくはにこやかな笑顔を浮かべた女性が目の前にいるはずです。おそらくとつけるのは相変わらず精霊たちが顔を見せないようにしているかのように受付の人の顔を覆っているからです。女性と判断したのはスカートを履いているのと声からですね。しかし、カウンターが高い! 背伸びしないと届きません。


「失礼、ここの店主はブルフィットではありませんでしたか?」


 私の足がプルプルと震えている中、ゼィハが受付に話しかけています。ちょうどいいです。ゼィハにやってもらうとしましょう。


「あ、ブルフィットはわたしの祖父です。お知り合いですか?」
「ええ、里から出た時にお世話になり……いえ、しまして。お元気ですか?」
「え? お世話したんですか? ですが申し訳ありません。祖父は五年ほど前に……」
「そうですか」


 少し悲しそうにするゼィハですが当たり前ですね。不老であるエルフやひわダークエルフと比べると人種の寿命は短いですからね。


「はい、五年前に突然「海賊王にワシはなる!」みたいなことを叫んで我が家の貯蓄の八割を持って旅立ちました」
「「死んでなかった⁉︎」」


 話の流れから結構なお年かと思ってましたが以外と若いのかもしれませんね。


「あの、ちなみにおじいさんはお幾つで?」
「家を出た時には確かに九十三歳くらいでしたかね」


 うん、普通に結構なお年のじじいでした。


「死んでないのならあたしから借りたお金をいづれ返してもらいないといけませんね」


 何やらゼィハが不気味に笑っています。しかし、まさかダークエルフにお金を借りる人種がいるとは驚きですよねぇ。

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