エルフさんが通ります

るーるー

どこに行きましょうか

「もー食べれませんでし」
「でし?」
『でし?』


 奇妙な声が聞こえたためくーちゃんと私は顔を見合わせます。
 廃墟と化している帝都でゼィハを探していると寝言のようなものが聞こえたためそちらを覗き込むとどこから取り出したくなるか気になるほどの大きさの抱き枕を抱きよだれを垂らしながら寝ているダークエルフの姿が目に入りました。
 なんというか幸せに浸りきったようなにやけ顏が見ていて腹がたちます。


「おら、起きろ黒エルフ」
『容赦なさすぎない?』


 その衝動を堪えるという選択肢は私にはありませんので容赦なく寝ているゼィハに向け想いを込めた蹴りを放ちます。
 寸分違わず抱き枕越しにゼィハの腹を蹴ると小さく悲鳴を上げながらゼィハが飛び起きました。


「はがぁ⁉︎ いた! なんですかなんなんすか!」


 慌てたようにゼィハが周囲を見渡します。そして私を見つけるときょとんとした瞳を向けてきます。


「リリカさん」
「なんです?」


 かばぁっと音を立てながら立ち上がるとゼィハは体のひねりだけで拳を繰り出し私の頭を狙ってきました。喰らうと痛そうなので一応拳を掴み防ぎます。


「なにするんですか、危ないでしょ」
「死ぬかと思いましたよ!」
「無傷じゃないですか」
「心が傷をおったんです!」


 なんだか今のゼィハは非常に面倒ですね。なんか里にいたバカップルみたいな反応してます。


「心に傷ができたんであれば塩でも塗りつけますか?」
「微塵も心配をしてくれないんですか⁉︎」


 抱き枕を抱えてよだれを流しながら夢を見ているような奴をどう心配したらいいのか逆に教えて欲しいくらいなんですが。


「傷なんて見当たりませんしいいでしょう? それより宿さがしますよ宿。」
「いや、こんな状況で開いてる宿屋があるとしたら狂気でしかありませんよ?」


 ゼィハの拳を離し、眠気が限界な私はゼィハに背中を向け歩きます。その後ろを渋々といった様子でゼィハが歩いてくる気配がしました。


「ところででしすね。ゼィハ、あなた観光ができるところに心当たりあります?」
「観光ですか? うーん」


 足を止め振り返りながら尋ねるとゼィハは腕を組むようにして悩んでいました。


「はぁ、観光が目的であるのであればこの大陸には水の都と呼ばれる美しい街がありますが」
「水が美味しいんですか?」


 そこまで水に品質は求めていないんですがね。お腹を壊さない程度のものにしていただきたい。


「水が美味しいだけで観光場所になるわけないでしょ!」


 なぜか怒られました。と言われても観光場所ってどんなのか私知らないんですよね。うちは木ばっかりでしたから。


「それなりに綺麗なものが揃っており、人が集まりやすく、そして作られて年月をある程度たった物が置かれているのが観光場所としてあげられます」


 ゼィハが説明してくれます。なるほどなるほど。


「つまりただの古くて年代物で価値があるかどうかもわからないが ガラクタが置いてあるところのことですね?」
「……観光したいという割には観光地をばかにするような発言をしますね?」


 馬鹿にはしていないんいんですがね。


「昔のものを大事にするのはいいんですが便利な物に変えていくのは非常に合理的だとおもうんですが? 使えないガラクタよりは数倍マシですよ?」
「歴史的遺物をガラクタ扱いですか」


 苦笑しながらゼィハが私を追い越します。そんなゼィハを追いかけるようなは私は馳け、くーちゃんは私の頭に座ります。


「そうなると水の都アックアは退屈かもしれませんね」
「ダークエルフの里は? そのアックアの方にあるんですか?」
「方角的には一緒ですね」


 少し頭をかしげながら考えるゼィハ。おそらくは頭の中の地図と位置を考えているのでしょう。私にはこの辺の地理の情報などは皆無ですからね。


「ならダークエルフ里に向かうついでに観光でもしましょう」
「壊すならアックアだけにしてくださいね? 里壊されたら困るんで」


 まるで私が行く先々で破壊を繰り返すような物言いですね。
 それにしてもゼィハの今の言い方ならば自分の里じゃなかったらいいみたいです。薄情な話ですね。ゼィハには平和という概念がないのでしょうか?


「では次の目的地はアックアですね。腹も膨れない芸術品を見に行くとしますか」


 内心をわからないように気軽に言います。水の街なんて呼ばれているからさぞ綺麗な街なんでしょう。ご飯が美味しいとなおのこと嬉しいんですが。


「まぁ、先に今日の宿がとれるかどうかが問題なんでしょうが」
『「あ……」』


 少しだけ上がっていたテンションはゼィハの心ない一言であっさりと低下しその憂さ晴らしをするかのようにこちらに襲いかかってくるアンデット共に苛立ちをぶつけるのでした。



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