エルフさんが通ります

るーるー

肉をえぐった時にこっそりと

「シネェェェェ!」


 地面を砕き、足を打ち付けるようにして私に向かいかけてくるヴィツー。その顔は怒り一色に染められていて私を殺すことしか考えていないようでしたを。
 言葉など出さずに先ほどしたように高速で背後に回り拳で殴りつければ今の私なら容易く殺せるでしょうに。それができないほどに傷を負っているのか、それともそんなことを考える余裕すらないほどに怒り狂っているのか。どちらかはわかりませんが私も動くのが限界です。


「決着をつけます!」


 腰の魔法のカバンマジックバックへと手を入れ目当ての物、正真正銘最後の魔石を取り出します。
 キラキラと輝く蒼い魔石を手で遊びながら迫り来るヴィツーを眺めます。動く力はこちらにはあまりありません。だから、向こうから来てくれることは非常にありがたい。


「くーちゃん、身体強化に使っている魔力を一時的に足だけに全て集めてください。次に声をかけた時には……」
『わかった!』


 私の指示に返事をしてくれたくーちゃんに微笑みすでにかなりの距離を詰めてきたヴィツーへと魔石を握りさらに魔ノ華マノハナを握り切っ先をヴィツーへと向けます。切っ先を向けられたことでヴィツーの体が僅かに強張っています。先ほど瞳を貫かれたことを思い出しているんでしょう。しかし、それでも突進はやめません。むしろ加速し三本の腕を振り下ろしてきます。
 その腕を見つめながら私は足に集中された魔力を信じ跳躍。三本の腕は空を舞う私を捉えることなく虚空を薙ぎます。


「くーちゃん!」
『はい!』


 空で体を捻りくーちゃんへと合図の声を出します。その声に応えるようかな足に集められていた魔力が霧散。続きその魔力は私の握る魔ノ華マノハナへと凝縮され黒い刀身が靄を纏いながら黒く輝きます。
 拳を振り切った姿勢のヴィツーの肩に向かい魔力が凝縮された魔ノ華マノハナを袈裟斬りに放ちます。魔ノ華マノハナの斬撃は削り取るようにしてヴィツーの腕を三本切り落とし大量の血を溢れさします。音を立てて落ちる三本の腕を信じられないものを見るような瞳で見ていたヴィツーを置き去りに私は着地、衝撃で体が悲鳴をあげますがまだ倒れれないので歯を食いしばりさらに大地を蹴ります。


「くーちゃん!」


 さらにくーちゃんに合図を送り再び足にだけ魔力を集めヴィツーの血が溢れ肉が見える肩へと飛びます。魔ノ華マノハナを前方に放り投げ、残った私自身の魔力を纏った拳を握りしめ今までヴィツーが私にそうしてきたように全力で拳を振りかぶり、今度は私が血が溢れる断面へと拳を叩きつけます。


「ぎがぁぁぁぁぉ⁉︎」


 柔らかくかつ不快な感触手に、耳障りな悲鳴を耳で聞きながら血に塗れた手を引き抜き、地面に着地し、足元に落ちているヴィツーの腕を一本拾い、痛みで暴れながら振るわれる拳をヴィツーの腕で受け止め、痛みで声が上がりそうになるのを歯を食いしばり耐え、魔ノ華マノハナが突き刺さる方へと下がります。


「きさまぁぁぁ!」


 憤怒の色に染まったヴィツーは二本の腕で止血するようにしながらこちらを睨みつけてきます。非常に好都合・・・・・・です。


「だからレパートリーが少ないと」


 ため息をつきながらヴィツーの腕をを杖にするようにして立ち上がります。


『リリカ、どうするの⁉︎ もう手がないんじゃ。もう魔力をないよ⁉︎』


 慌てた様子でくーちゃんが頭の周りを飛び回ります。焦る気持ち話はわかりますがね。


「最悪、くーちゃんは飛んで逃げたらいいんではないですか?」
『リリカ死んじゃうじゃない!』
「そ、そうですね」


 すごい剣幕で詰め寄られました。そんな怒らなくてもいいと思うんですが。


「魔力が尽きたなら貴様は嬲り殺しだぁ」


 自分の優位を再確認したのかヴィツーは笑みを深めます。
 右腕三本なくしても向こうにはまだ凶器とも言える太い腕があと三本もありますからね。その自信はわかりますよ。当たったら強化されてない私は挽き肉になりますからね。
 そんなヴィツーに向かい私は指差します。いえ、正確に指をさしたのはヴィツーの肩なわけですが。


「ところで私が切り裂いたあなたの肩なんですが」
「こんなもの時間が経てば生えてくる」


 私に斬られたことがよほど嫌だったのか眉をひそめ不機嫌そうにしています。しかし、生えてくるんですか。魔族すごい。


「生えてくるまで生きてたらいいですね」


 にっこりと私は笑う。私が笑みを浮かべると同じタイミングでぴしりと夜の静寂の中、音が響く。
 それは断続的に続き、ヴィツーがその音の正体に気づいた。


「なっ! 貴様! 何をした⁉︎」


 ヴィツーの血が流れていた断面とそれを抑えていた腕二本がが氷の彫刻へと変わっていました。しかも腕を覆った氷はその範囲を徐々に広げており、ぴしりという音は範囲が広がる際の氷が鳴らす音のようでした。


「いや〜 これ効かななかったらどうしようかなぁ〜 って不安でしたよ」
「何をしたと聞いている!」


 ヴィツーが怒鳴り、動いたことにより氷の塊と化していた腕の一本がひび割れ音を立てて剥がれるように落ち、地面にぶつかり砕け散り氷の破片となりそこいら中に散らばりました。


「何をしたかという聞かれると魔石を埋めたとしか言えませんね」


 すでに私の目論見は半分以上うまくいっているからこそ私は笑みを浮かべます。


「さっき殴って肉をえぐった時にこっそりとね?」


 私が喋っている間もヴィツーの体は氷で覆われていき、彼には余裕がなくなり変わりに苦悶の表情を浮かべ始めます。


「使った魔石は氷って言わずともわかりますよね。さてと」


 私はわざわざ拾ったヴィツーの筋肉の塊である腕を持ち上げ見えるように掲げます。


「あなたの腕は非常に硬いですよねぇ。私の武器でもなかなか傷がいかないほどに」


 ヴィツーの腕を片手で掴み軽く素振りをします。片手のためかあまり鋭くはありませんが風を切る余裕いな音が鳴ります。ですが振るたびに体の至る所が痛みますがそこは我慢するしかありません。


「ではこの固〜いあなたの腕でちょっとした高さから落ちただけでも砕けてしまうあなたを殴ったらどうなるんでしょうね?」
「な⁉︎」


 死の宣告を告げるかのように私はわざと足音を鳴らすようにしてこおりの塊になりつつあるヴィツーに歩み寄っていくのでした。


『悪役だよね?』


 聞こえませんねー。

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